コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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こわ……聖騎士の覚悟こわ……

 魔族。人類にとっての、不倶戴天の敵。未だ一枚岩にはなれない人類の国家群といえども、それだけは変わらない共通認識だ。だけど、その敵に対してどう対処するのかというのは国によって異なる。強力な兵器を配備した軍隊で対処するのか、金銭を用いて冒険者に依頼するのか。

 

 我らがレンゲル神聖王国では、その役目を教会保有の戦力である聖騎士が担う。即ち、人間同士の争いを国の軍が、魔族関連の事件を聖騎士が担当する分担方式だ。

 

 そして、聖騎士というのは教会が面倒を見ている子供たちの中から選ばれし者が叙任され、戦うための『炉』を埋め込まれることで誕生する。

 

 私……カトルと妹トリアもそうだった。同じ孤児院で育った同年代の子供の中で、聖騎士に選ばれたのは私とトリアだけ。とても、誇らしかった。これで、孤児院のみんなを守れる。教会に恩返しができる。記憶はないけど、孤児院のみんなは魔族のせいで両親を失ってると聞いていたから、敵討ちだってできるって。……トリアの方は単に私と一緒に戦えることが嬉しかったみたいだけど。

 

 そういえば、もうずっと孤児院のみんなに会っていない。同じ時期に巣立ったはずのみんなや、トリアよりずっと小さかった弟妹たち、神父様も、元気にしているだろうか。最後に一度くらい、会っておきたかったなぁ。

 

 ……最後?

 

 そうだ……私は。トリアと内地の任務に赴いて。潜んでいた高位の魔族と戦闘になって。トリアや民を守るために限界を超えて『炉』を使って。それで……それで……!

 

「…………っ!」

 

 自分の置かれた理解の及ばない現状に思い当たって、私は飛び起きた。反射的に、自分の身体を触って確かめる。……生きている。私は確かに、あの時死の淵の向こう側に足を踏み入れたというのに。

 

「……ここ、どこ……?」

 

 理由は未だ分からないけれど、ひとまず生きているのに越したことはない。そうなれば、次はこの場所についてだ。見たところ、この場所はまるで貴族の令嬢が生活するような寝室だ。その、聖騎士になって多少は質が良くなったはずの自室のものより遙かに上等なベッドに、下着姿で寝かされていた。

 

 ……監視の目はないように見える。装備はなくなっているけれど、今なら脱出は不可能じゃない、とも思う。一方で、ここが何処かも分からないのであれば無計画に行動すべきではない、とも。

 

 いずれにせよ、いつでも臨戦態勢に入れるようにしておかなければと感覚を確かめようとして……肝心なことに気づいた。

 

「『炉』が、感じられない……」

 

 聖騎士が戦うための原動力、『炉』。自分の中にあったそれが、感じられない。原因は分からないけれど、おそらくは『炉』を限界以上に使用したことで死ぬはずだった私が生きていることと無関係ではないんだろう。そう考えれば納得はできるけど、単純に困る。今の私は無力だ。

 

 ならばと、情報収集のためにベッドから立ち上がり部屋を物色することにする。絢爛さはないけれど、調度品はいずれも質が良さそうだ……なんていう冷静な思考は、部屋のある一点を目にした瞬間に吹き飛んだ。

 

「……なに……これ……」

 

 それは、鏡。

 

 当然、そこに映っているのは私自身のはずで。なのに。

 

「…………魔族……?」

 

 鏡に映った女には、角があった。肌は浅黒く、髪は色が抜けたかのように白い。極めつきに、瞳には魔を示す朱が燦然と輝いている。典型的な、魔族の特徴だった。

 

「う、嘘……なんで……」

 

 おぼつかない足取りで、鏡に向かって歩く。やがて伸ばした手が鏡に触れるまで、鏡像は自分と同じ動き、表情を崩すことはなかった。

 

「こんな……こんなの、悪い、夢で……」

 

 夢ならば、こんな不浄な夢からすぐにでも覚めなければならない。現実ならば……聖騎士の使命に則れば、魔族は……。

 

「っ……!」

 

 死ぬしかない。だから、やりきる自信はなくとも、それを全うしようと自らの首を手で締め上げようとして──

 

「……こら。せっかく拾った命だろう?」

 

 身体が止まる。気づけば、私は後ろから抱きつかれていた。それだけのはずなのに、身体を動かすことができない。そして……振り返れなくとも、鏡にはあの得体の知れない少女が映っていた。

 

 

 ……あっぶな。覗きしてたら急に自殺しようとしたんですけど。そんなに魔族が嫌ですか? やっぱ信仰に篤い人ってこわいわー。

 

 ともかく、自害は阻止したのでここからはお話タイムだ。見ての通り、今この子は魔族になっていて、俺の救命兼反転は無事成功したわけだが……そう、中身はもとのままなのだ。つまり、俺にとっての呼吸や食事に等しい行為『人を闇落ちさせて元仲間と苦しみながら戦わせる』を達成するためには、ここからマニュアルで心を闇に落とす必要がある。くっ……俺だってこんなことしたくないのに……! 泣ける。この身体涙出ないけど。

 

「あなたは……っ!」

 

 現れた俺を睨む姉様(仮)ちゃん。すごい形相である。

 

「……酷いな。恩着せがましいかもしれないけれど、ボクは一応命の恩人なんだよ?」

 

 そうだ! 打算しかなかったとはいえ人助けして睨まれるのは良い気しないぞ! あ、ちなみにこの口調は俺がキャラ付けを頑張っているわけではなく、勝手にこうなっているやつだ。キャラが崩れるような言動はできないんだよねー。

 

「命の……」

「うん。ボクがいなければ死んでいた……その自覚くらいはあるんだろう?」

「っ……!」

 

 本当に、あの時の姉様(仮)ちゃんは危なかった。ぶっちゃけマジで間に合わなくなるところだったのだ。あ、言っておくけど姉様(仮)ちゃんと妹ちゃんがピンチに陥った件に俺は一切関わっていない。断じてマッチポンプではありません。それは俺のポリシーに反する。え? そうなる前に介入して助けることはできただろって? 黙れ。

 

「じゃあ、この身体もあなたが……!」

「そうだけど、まずは落ち着いて自己紹介でもどうかな?」

「……あなたに名乗る名前などありません」

 

 ひどい。助けてあげたのに。泣ける。という俺の心情とは裏腹に、鏡に映る魔神スティーア(俺)の顔は微笑を浮かべ、やらしい手つきで姉様ちゃん(仮)の頬を撫でる。

 

「高潔だね。ますます好きになっちゃうな」

「何を……!」

 

 くっころ顔で懸命に睨む下着姿の姉様(仮)ちゃんと、なんかやらしい雰囲気を醸し出しながらそれに絡みつく人外美少女(俺)。結果、鏡の中はなかなかえっちな絵面になっている。というか魔神スティーアさん(俺)、中身童貞のしていい顔じゃないっすよそれ(他人事)。

 

 って、そんなことはどうでもよくて、今は姉様(仮)ちゃんの警戒心を和らげなければ。

 

「じゃあ、こうしようか。キミがボクの質問に一つ答えてくれたら、代わりにボクもキミの質問に答えよう。……キミの名前は?」

「……カトル、といいます」

 

 おっけ、カトルちゃんね。短い間に情報収集を優先する判断を下したのか、思い通りに乗ってきてくれたようだ。さてさて、そっちは何を聞いてくるのかな? 俺の正体か、自分の身体に何が起こったのかとか、まぁそのどっちかかなー、なんて思っていると。

 

「これで一つ。さて、キミは何を聞きたい?」

「……あの子は……トリアは……無事ですか?」

「! ……無事さ。ボクは彼女を必要以上に傷つけていないし、キミたちが守った民に介抱されるところまで見届けた」

 

 だってキミと戦わせなきゃいけないし。死んだら困る。にしても、まず心配することが自分よりも妹……トリアちゃんのことか。これは、なんともまぁ。

 

 ──美味しそうだなぁ。

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