コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
燃えさかる村。カトルにスピードを合わせたとはいえ、全力で急いだというのに、結論から言って、手遅れだった。魔族相手に、戦力のない村が持ちこたえるなどできるはずもなく行われたただの殺戮。そんなものに時間などかかるはずもなく、俺たちは間に合わなかった。
「そん、な……」
「……」
崩れ落ちるカトル。目の前の惨状は、自分が引き起こしたものだと、誰にも転嫁せず責任を感じている彼女らしい反応だ。そしてヤキメは嗤っている。こいつはいい。問題は、俺の表情が何一つ動かないこと。
この村で、何の罪もない村の人々が殺されたのはとても可哀想だ。それは理解している。理解しているだけで、魔神の心は微動だにせず、一抹の憐れみさえ抱いていない。その、『俺』との乖離が、とても気持ち悪い。
「ごめんなさい……でも、止まれないんです……私は、皆さんではなく、あの子たちの命を選ぶ……」
「……真面目な子やねぇ。知らんとこで勝手に死なはっただけやのに」
ヤキメは小声でそう言うが、そういう考え方ができないのがカトルだ。ハッキリ言って悪いのは魔族なのに、全部自分のせいだと背負い込む。俺はそういう性質につけこんでいる側なので指摘できないのがこう、非常に申し訳ないんですけど。
「さて……本命には間に合うたみたいやねぇ」
足音。炎の中に、人影。生き残りでは、ない。
「カトル、立つんだ。警戒しなきゃ」
「っ! はい、スティーア様!」
余裕ぶった足取りで現れたのは、魔族。間違いなく、ここの住民を皆殺しにした輩だ。つまりは、魔族の精鋭。(カトルにとって)強敵だ。
「なんだぁ? 同族かぁ?」
一人目。何かを背負い、残虐な笑みを浮かべる男の魔族。
「わりぃな。もうここは終わりだ。手柄なら別の……あ? なんで人間なんて連れてんだ、てめぇ」
「……」
……はい? 魔族の言葉が意味不明すぎて、俺は思わずヤキメと顔を見合わせた。カトルは冷静さを失いかけてるから消去法で。するとヤキメは、無言で俺を指さす。俺……? あぁ、そういうことか! 今のパーティ構成だと、カトルは完全に魔族で、ヤキメは魔族よりの、スティーアは人間よりの見た目をしている。だからこの魔族は同族のチームがなぜか人間の美少女()を無傷で連れていると誤認したわけか。なるほどなぁ。
「……これをやったのは、あなたですか」
「あ? 見たら分かるだろ。つっても、邪魔な聖騎士を殺ったわけでもねぇから、自慢にはなんねぇが」
「心は、痛まないんですか」
カトルが、怒りに震える声色で、答えの分かりきった問いを投げかける。
「はぁ? なに言ってんだお前? 頭逝ってんのか?」
向こうからしてみれば、あまりに要領を得ない問いかけだっただろう。いよいよ怪しさに俺たちが敵じゃないかと気づきそうなその時、新たな声がかかった。
「貴様、何をしている」
「あぁ? なんか変な輩が出てきたンだよ。サボりじゃねーぞ」
二人目。一人目よりも、幾分か真面目そうな魔族。実力は一人目よりも上に見える。そしておそらく、こいつらは二人で全部。他はいなさそうだ。
「……貴様、何者だ。所属を言え」
二人目が、カトルに向かってそう問いかける。所属は俺、が正解なんだが、キレてるカトルがそんな答えを返すはずもなく。
「黙ってください。私を、お前たちと一緒にするな……!」
ついに、カトルは啖呵を切った。だが、それに対する魔族の反応は淡泊なモノで。
「……はぁ。つまり、アレか? 人間に同情なんかしておかしくなっちまってんのか? おいおい、同情するのはこっちだぜ。こんなに楽しいモンを楽しめないなんてよぉ!」
そう言って、一人目の魔族は背負っていた何かをこちらに向かって投げ捨てた。
それは──
「……嘘」
人間の子供、だったもの。生憎と、
「ハハ! 普段はガキを先に殺っちまうんだが、たまには逆も良いもんだ! 死体を必死に揺さぶるガキの姿ってのも、中々味があったぜぇ!」
「っ……! 許さない……!」
そうして、ついに戦いの火蓋が切られようとした、その時。
「あ、カトルちゃんちょっと待って?」
「は──ヤキメ、様?」
完全に蚊帳の外だったヤキメが水を差した。
「悪いんやけど、あの活きのええ方、もろうてええ?」
「それは、どういう……」
「要するに、自分も戦うからお喋りな方を担当させて欲しい、ということなんだろうけど……」
ヤキメも魔族と戦う。それ自体は予想の範疇というか既定路線というか、こいつはそれが目当てだったんだろうけど、意外なことが一つ。
「にしても、意外だね。浅薄なのはキミの好みではないと思っていたけれど」
「そら、ねぇ? 好みにも色々あるん、分かるやろ? 好みの漢、好みの娘、好みの戦士、好みの子供……好みの玩具」
「なるほどね」
となるとあの魔族くんの採用枠は玩具か。あーあ、かわいそ。もう普通には死ねないねぇ。
「……よく分かりませんが、相手は選びません。ヤキメ様も戦ってくださるなら、百人力です」
「おおきに」
なんて、身内で丸聞こえの会話していると。
「おいおい、意味不明だな! なんだ今の話はよ!」
完全に舐め腐ったヤキメの言葉を聞いていたイキリ魔族は怒り心頭である。だがそれも。
「もらうだなんだの、まるでてめぇが俺を──!?」
「ほな、坊主はうちと遊ぼか?」
「ガッ……!?」
今日、この時が人生最後だろう。魔族くんは、俺でもなんとか目で追えるレベルのスピードで眼前に移動したヤキメに景気づけに蹴り飛ばされ、炎の中へと消える。ヤキメもさっさとそれを追ってしまい、場には呆気にとられるカトルと二人目の魔族が残された。