コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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でも魔神だとマシな方なんだよな……

 既に家屋は灰となり、燃えさかる炎は燻るだけになっていた。

 

 辺りには血が、死体が、弄ばれたもの、無慈悲に葬られたもの、問わず焼かれて転がっていた。

 

「っ……」

 

 凄惨な光景に、カトルが顔を顰める。グロすぎてキツい……というよりは、やはり自責の念で苦しんでいるのだろう。聖騎士、こういうのは慣れるものだろうし。

 

 俺は……特に慣れてはいないはずだ。なのに気持ち悪くなったりしないのは、それが魔神に搭載されていない人間の生理機能だからで、心の方だって記憶に根ざしたかつての『俺』の残滓でしかなくて……うん、やめよう。もう考えてもしょうがないことだ。

 

「こっちだね」

「これは……」

 

 滅んだ村を歩いているのは弔いをするためではなく、一人突っ込んでいったヤキメを探すため。戦いの気配は既にしなかったが、ヤキメがどこに行ったのかは分かった。

 

 焼かれていない、新鮮な魔族の血が所々見て取れたからだ。これを辿っていけば、その先にヤキメはいる。そのまま進もうとする俺だったが、カトルが足を止めた。

 

「スティーア様、これは一体……」

 

 カトルが引っかかっている要因は考えずとも分かった。血痕が、普通に戦ってできるような形ではない。大量出血したまま引き摺ってできたような血だまりがそこにはあった。まぁどうせヤキメのおもちゃ遊びの痕跡だろうが、目につく場所に分かりやすい物証があったので提示してやる。

 

「ボクの言った通り、一方的だったようだね」

「足……!? 魔族の……」

 

 茂みには、あのイキリ魔族の足らしきものが投げ捨ててあった。よく見たら囓り後がある。味見したなあいつ。

 

 この場で行われたのが、戦闘とはとても呼べないものであることを薄々理解し始めたカトルを連れて、ヤキメのもとへ向かう。血痕は、まだ原型を留めている大きな建物……集会場のような場所へと続いていた。

 

 こじ開けられた形跡のある扉をくぐると、そこにはヤキメがいた。

 

「あったあった」

 

 涙に塗れた生首を抱きながら、無遠慮に魔族の死体に手を突っ込み、何かを引き抜くヤキメ。見れば、それは背骨だった。ヤキメは尋常じゃない握力でそれを握り潰すと、嫌な音を立てて粉状になっていくそれを口に流し込んでいく。

 

「何をしているのかな?」

「うん? あぁ、心臓に一番近い骨髄。魔族の男はここが一番美味いからねぇ。スティーアはんも食う?」

「ボクらにとって、そういう食事は無意味のはずだけど」

「でも愉しいやろ? うちは美食も酒もやるよ?」

 

 それはてめぇの『目的』が愉しいと腹も膨れるらくちん仕様だからだろうが……! と俺が内心ぶち切れていると、背後から震えるような声が漏れる。

 

「ヤキメ様……? いったい、なにを……」

 

 はっ! マズい……どうせこんなことだろうと思っていたから猟奇的光景を前にして普通に会話してしまった……! カトルの目を考えて一緒にドン引きしておくんだった……!

 

「なにって、遊んでたんよ?」

「遊び……?」

「まずな? 適当に相手して、自分のどこに誇りを持ってるか見極めるんよ。この坊主は足が自慢そうやったから、認識する間もなく切り落としてやったわ。したら、目に見えて取り乱すやろ? 今度はじっくり痛めつけて、もう走れないことを理解させるんや。それで泣き出したのは最高やったなぁ。そんでな? 絶望しきった坊主をここまで引き摺ってきたんよ。ここ、坊主も随分楽しんどったみたいでなぁ。人間の変死体が山ほど置いてあってん。で、どれと同じ死に方が良い? って選ばせてみたんよ。そしたら即死の死体を指さしてなぁ。うち、もう笑ってしもうて……無視してなぶり殺しにしたわ。坊主、最後まで悪かっただの間違っていただの抜かしてなぁ……笑えるやろ? だって、なぁ? うちに謝ったってしゃあないやろ」

「…………っ」

 

 嬉々として凄惨な所業を語るヤキメに、カトルは絶句する。そりゃそうだ。

 

「因果応報を為してやった、ということかな?」

「ふふ、因果応報。うちそれ好きやねん。基本はただの幻想なのに、時々こうして現実になって……過去に原因を押しつけて泣きわめく。その後悔を見るのが堪らんくてなぁ」

 

 ……まぁ、本当に因果応報なんてものがあったら真っ先にお前に報いが来るだろうしな。と、非常に説得力のあるヤキメの因果応報幻想論に納得していると、圧倒されていたカトルが口を開く。

 

「い……いくら魔族といえども……そのような弱い者虐めは……」

「弱い者虐め? ふふ、カトルちゃん、本気で言うとんの?」

「っ……」

 

 口を挟んできたカトルに……ヤキメは、怒る様子はない。言葉とは裏腹に、声色と口調は優しいままだったが……カトルの目には、逆に不気味に見えていることだろう。

 

「この坊主が、弱い者だと思うん? この村をこうしたの、こいつやで?」

「それは……そう、ですが……」

「そもそも、うち弱いもん虐めなんてつまらんことせぇへんよ。虐めるなら強いもんに限るわ。初めて虐げられる側を味わう奴を見るの、最高に愉しいわ」

 

 お前が興味ないのは弱い者虐めじゃなくて弱者そのものだろうが、という俺のツッコミは口には出さない。それを良いことに、ヤキメは語り続ける。

 

「それで言うと、格上を寄ってたかって虐めるのもええなぁ。『殺戮』の時は最高やったわぁ」

「! 『殺戮』の魔神……」

「あれ、カトルちゃん知っとるん? そ、『殺戮』の魔神。普段いがみ合ってる奴らとの共闘。世界を守るための戦い。あれもあれでええ。理不尽を振りかざすのも好きやけど、正義の快楽に酔いしれるのも愉しかったわぁ」

「趣味が多くて羨ましいね(訳:結局なんでも良いんじゃねーか)」

「……」

 

 恍惚に浸るヤキメに、カトルは何も言えなくなってしまった。なんかちょっと悔しいので、俺の方からもレスバを仕掛けてみる。

 

「しかし、キミの理論で考えると……虐げてばかりのキミが虐げられる時に見せてくれる顔は、さぞ見物なんだろうね?」

「ふふ、誘ってるん? やだわぁ~、うち、スティーアはんならいつでもええよ♡って前から言っとるのに、伝わってなかったん?」

「……」

 

 ちょっと喧嘩の売り方間違えたわ。よし、なんとか俺を当事者の座から降ろそう。

 

「いや、ボクは特に興味がないけど……もし誰かによってキミが虐げられる立場になった時、キミはどう感じるんだろうか、という話さ」

 

 俺が殴り合いたいんじゃないんだよ~という方向修正をしつつ、聞いてみる。ヤキメみたいな奴を挫くことがまさにヤキメの趣味そのものなんだから、自分の番が来たときのことを考えていないとは言わせない。ヤキメは少しの間考える素振りをすると、やがて薄く笑って。

「そら……惚れてまうやろなぁ」

「……」

 

 なんだこいつ。

 

 すまんカトル、こいつとレスバは無理だ。俺まで黙らせられると、時間だとばかりにヤキメが立ち上がる。そして無造作に抱えていた魔族の生首を放り投げると、そのまま踏み潰して肉片に変えた。脳漿が飛び散り、カトルが後ずさる。

 

「さて……うちは生き残りでも探そか」

「っ! 生き残り……そうでした……!」

 

 ヤキメの言葉を聞いて、カトルの瞳に使命感が宿る。そういえばたしかに、俺たちは生き残りがいるかどうかちゃんと確かめていなかった。まぁ、可能性は低いだろうが。

 

「うちが行くから、カトルちゃんは休んどき」

「で、ですが……」

 

 飛び出そうとするカトルを、ヤキメは制止する。しかし、カトルはあまり引き下がりたくなさそうだ。当然である。ヤキメみたいなやつに任せたくはないのだろう。

 

「生き残りを見つけて……どうする気なのかな、ヤキメ」

 

 しょうがないので俺が代わりに聞きたいことを聞くと、ヤキメはあっけからんと答えた。

 

「そやなぁ……別に。ただ、もし子供が生き残ってたら……育てるわ」

「……すまない。ボクとしたことが、耳が遠くなったみたいだ」

「聞き間違いやないよ? 見込みのある子供を自分好みに育てるのもええ。その点、生き残りは最高や。力を求める強烈な動機、失うものがない強さ、癒えない孤独も運もある。文句なしや」

 

 た、たしかにサバイバーズギルト持ちのキャラは美味しいが……じゃない。ヤキメと同レベルの思考をするんじゃない俺。

 

「ほな、うちは行くけどスティーアはんとカトルちゃんは休んどってええからね」

「……ま、待ってください!」

 

 さっさと行こうとするヤキメを呼び止めたのは、カトルだった。

 

「もし……生き残りがいたとして……見込みがなかった場合は……」

「カトルちゃん、勘違いしとるかもしらんけど……うち、何も腕っ節だけを強さと思うとるわけじゃないよ?」

「え……」

「知恵、心の在り様、経験、技巧。殺し合いで測れない価値を、うちはちゃんと認めとる。カトルちゃんの高潔なところもええ。生き残りなら、何かしらは持っとるやろ」

 

 だからなんだと言えば特になんでもないのだが。ヤキメは、戦闘狂ではあるものの戦闘至上主義者というわけではない。全然危ない奴なので本当にだからなんだって話だが。ちょっと良いこと言った風なヤキメに、カトルは雰囲気で納得しかけていたが、いざ建物を出て行くヤキメに向かって慌てて口を開く。

 

「で、では! 生き残った人が……本当に、何の見所もなかったら……」

 

 その言葉に、振り返ったヤキメは……恐ろしく冷たい貌をしていて。

 

「そら……殺しておいた方が、世のため、本人のためやろ」

「っ!」

 

 聞き捨てならない言葉に、カトルは駆けだそうとするが。

 

「……ま、だからと言って殺しはせんから、安心しとき」

 

 次に出てきたその言葉に、勢いを挫かれた。

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