コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
魔法使いには過激派がいる。
予め仕組んだ術式に魔力を流して発動するなど、誰でもできる。なんなら、ペーペーの素人ですら他人に術式を刻んでもらえさえすれば仕組みを理解せずとも魔法を使える。
そんな奴らを、魔法使いと呼ぶべきではない。
詠唱によってマニュアルで魔法を組み立てられてこそ本当の魔法使いなのだ、と。
「
少年が詠唱を叫ぶと、その頭上にマグマの矢が顕れる。時間差、追尾、軌道変化と、単純に向かってくるだけではない嫌らしい攻撃が俺たちを襲う。
強い……が、カトルの方が上だ。上なのだが……今のカトルはメンタルが良くない。聖騎士でない人間を敵に回す覚悟はできていなかったのか、または自責の念が迷いを増幅させているのか……とにかく、カトルは反撃に転じられそうもない。
となれば、俺がなんとかするしかない。勝利条件は説得するか、無力化するか。殺害は論外。そしてこの少年のためにも、なるべく早く終わらせねばならない。そう、ヤキメが戻ってくる前にね!
「! スティーア様……」
「ここはボクに任せておくんだ」
庇うようにカトルの前に立ち、少年の魔法を脳筋雑魔力放出で吹き飛ばす。
「なっ……!?」
かわいそうに。こういう飛ばすタイプの魔法って、どれだけ精緻でも編まれた魔力の十倍くらいの魔力に晒されると霧散しちゃうんだよね。そして魔力量で魔神に勝てる人間などいないのであった。
「……にしても、良い魔法だね。少年」
「へ……? そ、そりゃ当たり前だ! 俺の魔法は先生の直伝だからな!」
「ほう、先生。ボクでも見たことがないスタイルだったが、威力の追求という観点で見れば芸術的だ。良い先生を持ったようだね」
「わ、分かるのか? まぁ、先生はすげーからな!」
攻撃の手を止めて、鼻が高そうにする少年。ちょろい。大丈夫かこいつ。先生とやらのことが大好きなのは微笑ましいが、戦闘中にそんな調子でもし俺が悪い魔神だったらどうするんだ。
……まぁ、結果的に緊張も解れてきたし、この分だと説得の方向でも良さそうだ。一度普通に説得してみよう。
「って、いくら話の分かる奴でも、お前ら
「待ってくれ。それは誤解だ。よく見てくれ、ボクは魔族じゃないだろう? ボクらは逆に、ここを襲った魔族を倒した立場さ」
「なに……? 本当か?」
「あぁ。ボクらは誓ってここの住人をこの手にかけたりはしていない。そうだね、カトル?」
「あ……は、はい」
「向こうにまだ仕留めた魔族の死体が残っているはずだ。確認しに行っても良い」
俺がそう弁明すると、少年は魔力を収めて何やら考え始める。それが終わったかと思えば、少年は清々しいほど綺麗に頭を下げた。
「……早とちりして、悪かった!」
「あ、あぁ……分かってくれて嬉しいよ」
普通に説得成功して、めちゃくちゃちゃんと謝られた。……ハッキリ言って、これは予想外だ。なぜなら、今のカトルが魔族だから。普通の人間であれば、魔族を連れている俺の言葉など信用しないはず。だからこそ、説得の目は薄いと考えていたのに。
……この少年、何かある。
「……ボクはスティーア。彼女はカトル。キミの名前は?」
「俺はベント。よろしくな!」
「ベント。敢えてハッキリ聞くけど、なぜボクの言葉を信用できたのかな? 魔族とまじ……人間のコンビなんて、怪しいだろう?」
ベントというらしい少年に疑問をぶつけてみれば、彼はあまりに真っ直ぐな瞳で俺を見返してきた。
「魔族にも良い奴はいるし、話せば分かることもある。人間と同じ……って、これは先生の受け売りだけど……とにかく、俺はそのことをちゃんと分かってるってだけだ!」
「……!」
「なるほどね」
ベントの言葉に、カトルが衝撃をうけたような反応をしているのを視界の端に捉える。……劇物だな、今のカトルにその言葉は。っていうかこのガキ、“光”すぎるだろ。こんな世界でどうやって育てばこうなるんですかね……?
「……変だと思うか?」
「いや、素晴らしい考えさ。誇りにするといい」
「! 分かってくれるのか! 姉ちゃん、すげー話が分かるな!」
今まで自分の考えに賛同してくれる人間がろくにいなかったのだろう、いとも簡単に好感度が上がっていく音がする。それは良いのだが、ベントがどうしてそう考えるようになったのかが気になる。
「ベント。キミはなぜ──」
「何をしているのですか、ベント」
危機。冷や汗。……冷や汗? 魔神の俺が? 人間じゃないんだぞ……?
「あ、先生!」
ナニカが現れた。魔神に危機感を抱かせるほどのナニカが。そのナニカに向かって、ベントが親しげに駆け出す。
「スティーア様……?」
俺の様子がおかしいことを察してか、心配そうにするカトル。差がありすぎて……カトルには、分からないのか。
ベントが先生と呼ぶ存在。ベントを評した時のような『おぉ、結構強いじゃん(上から目線)』とは違う、魔神の領域に到達している強者。そんな存在の方をいざ見てみると、そこには魔族のような、人間のような、あるいはどちらでもないような美女がいた。
「勝手に飛び出すなと、いつも言っているでしょう」
「え? あー……その、それよりここを襲ってた魔族は、もうあの人たちが倒したそうです!」
「……彼らが……」
美女と、視線が交差する。そして、その眼が細められる。
「……亜神、ですか」
「っ……」
戦るのか……? その威圧感に、思わず構えを取ってしまう。落ち着いてみれば、勝ち目がない相手ではない。ただ俺が、絶対に勝てる戦いしかしたくない臆病者なだけ。とにかく、最低でも逃げ道を……と考えていると、美女は俺から視線を外した。
「まぁ、いいでしょう。行きますよ、ベント」
「えぇ!? もう!?」
「やるべきことはもう終わっていたのでしょう? 次に行きますよ」
「いやでも……最後! これだけ! ……スティーアさん!」
ベントがわがままを言って美女を引き留めたかと思えば、いきなりこちらに声をかけてくる。
「なに、かな……?」
「紹介する! この人は俺の先生で、イステル先生って言うんだ!」
「なるほどね……」
そりゃ、こんなのに師事してたら強くもなるわなと思いつつ、さっさと行ってくれないかなーとか考えていたのだが……ベントの次の言葉で、すべてのが吹き飛ぶような感覚を覚えるのだった。
「そして……なんと!
「──」
は……? 人間と魔族の、共生……? そんなの……!
「……こら、ベント。そのようなことは、余人に話すことではありません」
「え、でも先生、スティーアさんは話が分かるんだって!」
「ですから彼女は……いえ」
──ムリだ。
「──素晴らしい」
相反するようで矛盾しない二つの言葉が、口と内心で同時に響く。俺の呟きが聞こえたのか、イステルは怪訝そうな眼を向けてくる。
「本当に……本当にキミは、人間と魔族の共生を目指しているのかい……?」
「……笑わないのですか?」
俺の言葉が意外だったのか、イステルが聞き返してくる。
「それはキミの覚悟次第だ。なぜ、それだけの力を得てもなお、夢物語を追い求めているのかい……?」
「逆ですね。困難であるからこそ、私はここにまで至る必要があった」
その瞳と言葉は、表面上は冷たいようにも聞こえるだろう。だが、正面から捉えた俺には分かる。彼女は本物だ。その根底に熱がある。地に足がついているのに、その地が果てしない理想で形作られているような。
それを理解した瞬間、イステルの……いや、イステルとベントに対する認識が塗り変わる。
その美しい理想が敗れた時、彼らはどうなってしまうのか。そう考えるだけで疼きが止まらない、垂涎もののご馳走。
御せない相手をターゲットに定めるなんて、リスクが高すぎるというのに、俺は自分を抑えることができない。
「あの、スティーア様……?」
すまない、カトル。少し寄り道をすることになるかもしれない。
「──イステル殿。ボクは魔神スティーア。キミの理想に酷く感銘を受けた。是非、手伝わせてくれないだろうか──」
嘘はない。その絶望的に困難な理想に、ボクは全力で手を貸そう。こんな地獄の中でその理想が実現する姿を、『俺』は見てみたい。だが、夢破れたその時は……世に人に愚者に絶望するキミを、魔神スティーアが再び手を差し伸べるだろう。
第一部完!
……えー、ここで悪いお知らせなんですが、こっから先のプロットがないです
Qあんなに色々匂わせる描写してたのに?
Aはい。設定だけはぼんやりとあるので。
まぁはっきり言って、この作品は一通りトリアをいぢめ抜いて役割を全うしたと言いますか、みんな八話(姉妹再会その1)と十四話(その2)で大分満足しちゃったんじゃないですか?私もです。
あの最大風速を超えるようなプロットが組めていないのです。
でも今度は姉様が曇る番?みんな待ってる?
でもぉ……良い感じの再会その3も構想できてなくてぇ……
そういうわけなので、次回からは最低限の義理として散々匂わされたあのメインヒロイン()との過去編をお送りします。
よろしくお願いします。