コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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前日譚 超ウルトラハイパープレミ(無自覚)

「つまり、あなたには違う世界で人間として生きた記憶があって、気がついたら魔神に……いや、魔神の身体に入っていた……ってこと?」

「……その通りだ」

 

 ヒサナと名乗った魔神は本当に根気よく俺の話を聞いてくれた。取り乱す俺を落ち着かせて、話がまとまるように誘導してくれたのだ。おかげで、俺の方もちゃんと自分の状況を整理することができた。

 

 まず、『俺』は死んだ。その『俺』の、魂か意識か記憶か何かがこの身体に入り込んで、今こうして思考している主体となった。

 

 そして、その入り込んだ身体というのが……『愛憎』の魔神、スティーア。

 

 魔神がどういう存在なのかはともかく……俺にスティーアとして持っていたと思しき情報が流れ込んできたことや、口調など身体を完全には思い通りにできないことから『俺』そのものがスティーアに生まれ変わったのではない……というのが、今の俺の考え。

 

 こうやって身の上を他人に話すことすら口調のように矯正されていたら辛かったが、そうではなかったのが幸いだ。

 

 話を聞いてくれたヒサナは俺を見つめて何やら思案すると、やがて人好きする笑みを浮かべた。

 

「……うん。信じるよ」

「本当かい……?」

 

 俺のような前例は聞いたことがないらしいし、自分でも信じがたい話だったと思うのだが、ヒサナはあっさりと信じてくれた。なにか、彼女なりに信じるに値するものを感じたのだろうか。

 

「もちろん。スティーアちゃん……は魔神としての名前なんだよね。なんて呼べば良いかな?」

「あ……いや、スティーアで頼むよ」

 

 ヒサナに気を遣わせてしまって悪いのだが、俺は自分の元の名前を伝える気にはなれなかった。今の状態で、元の名前を呼ばれた方が違和感を覚える……そんな気がしたのだ。

 

「そっか。じゃあ……とりあえず、移動しながらお話の続きをしよっか。ね?」

「あ、あぁ……」

 

 ヒサナの先導で、道なき道を進みつつ会話をする。彼女は進むべき方向が分かっているようで、その足取りに迷いはない。

 

 道すがら、俺は彼女に魔神というものについて改めてレクチャーしてもらっていた。

 

「魔神はね、みんな『冠』と、それを基にした『目的』と『権能』を持っているの」

「冠……目的と、権能……」

「中でも一番大事なのが、目的。スティーアちゃん、自分の目的は分かる?」

「……」

 

 なんだろうか。『冠』は分かる。流れ込んできた情報のなかにあった、『愛憎』がそれだ。けれども、目的やら権能やらについては流れてきた情報の中に含まれていなかった。目的や権能は、冠に基づいているらしいけども……。愛憎、愛憎ってなんだ……?

 

「愛憎……愛憎、か……」

 

 生憎と、ここには辞書なんかない。でも言葉の感じからして、愛と憎しみが入り交じる感じだよな……? ううむ……ぶっちゃけ他人にそんな強い感情を抱いたことがないから、どんな感情なのか分からん。想像してみるしか……いや、他人の感情をサンプリングする手段は他にもある。そう、創作だ。大切なことは全部マンガが教えてくれたってやつだ。

 

 今こそ、大して深くもないオタク歴を振り返るとき……! 愛と憎しみ……相反する二つの感情……矛盾……あ。

 

 脳裏に、いつか前世で観たアニメの光景が浮かんでくる。一人が闇に堕ち、道を違えてしまった親友同士。戦いは宿命だとしても、その絆はなくなったわけではない。それどころか、対立してその絆はより特別なものになり、思い出は軛、呪縛、執着へと姿を変える。これこそ、愛憎ってやつなんじゃないだろうか。

 

「……『闇落ちした元仲間と泣きながら戦う場面を見る』……」

「えっ?」

 

 口にしてみて、妙に胸にすとんと落ちる感覚があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいな……? 俺の呟きを聞いたヒサナは何やら予想外だったらしく、困惑の表情を浮かべる。

 

「ちょ、ちょっと思ってたのと違うかも……あ、で、でも冠をどう目的に解釈するかは魔神それぞれだもんね! わたしも失恋には一家言あるもん」

 

 失恋。そうだ、彼女は自分を『失恋』の魔神だと名乗っていた。

 

「目的と言うからには……キミは、誰かを失恋に導くことがそうなのかい?」

「あはは、そんなことしないよ~」

 

 俺の推測を、ヒサナは笑って否定する。そして彼女はくるりと身を翻すと、やけに真面目な顔で正面から俺の眼を見つめた。

 

「成就する恋があるから、失恋には価値があるんだよ」

「そういう……ものか」

 

 やっべぇ……恋愛どころか告ったこともねぇから分かんねぇ……。分かんないが、そう語るヒサナの瞳は数多の恋愛を見てきたような深みがあるような気がするので、そうなのかもしれない。失恋すらなかった俺の人生はいったい……。

 

「でも、スティーアちゃんはわたしみたいにはいかないかもしれないなぁ……」

「……?」

「わたしやスティーアちゃんみたいな魔神はね。ターゲットの人間に予め接触しておかないと糧にできないの。その分、長持ちはするんだけど……わたしはね、失恋しそうな子を見つけてそれとなく接触するだけで良いの。だけど……」

 

 俺は……『闇落ちした元仲間と泣きながら戦う場面を見る』というのがそのまま目的とやらだったならば。

 

「そう簡単に、条件を満たす人間が見つかる『目的』じゃない……」

「うん。だから、スティーアちゃんが誘導していかないと達成が難しいかもしれない」

「ボクが……」

 

 自分の『目的』のために、闇落ちを誘導する……? それは必然的に、他人を唆し、争わせるということで……それは、良くないだろう。仕組まれた闇落ち展開というのは好みじゃないし、そんなポジションに立ちたくなどない。

 

「……大丈夫? 顔色悪いよ」

「……もし、『目的』を達成できなければ……」

「消滅、しちゃうね。それがわたしたちだから」

 

 ──消滅、つまり死──

 

 ……イヤだ。俺は死にたくない。じゃあ、やるしかないのか。純粋な人間を闇に堕とし、親しい相手と決別させておきながら、それを何食わぬ顔で鑑賞するような存在になるしか……いや、違う。なにか、考えればあるはずだ。俺が『目的』を達成できて、人を不幸にしない方法が……。

 

「……スティーアちゃん!」

「ヒサナ……?」

 

 視界が揺らぎ、倒れ込みそうになる俺の手を、またしても彼女が握ってくれる。

 

「安心して。『目的』を達成しないままでも、一年くらいは時間があると思う。だから、それまでにどうしたらいいか、一緒に考えよう? この世界のこと、勉強しながらさ」

 

 そう言って、ヒサナは俺の手を引いて歩き出す。俺が何を悩んでいるのか、聞かないままに。俺を助けることなど、当然のことのように。連れられて踏み出す足取りは、一人で当てもなく彷徨っていた時よりもずっと軽くて、何も解決していないというのに……なんだか光明が差したような気がしたのだった。

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