コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
ヒサナに手を引かれ、俺たちはやがて森を抜けて街道へと出た。
「ここを右に進むと港町で、左に行くと魔法が盛んな学術都市に着くんだけど……スティーアちゃんはどっちに行きたい?」
「魔法……!」
その言葉を聞いて、俺は思わずその言葉を繰り返していた。そうか、魔法。完全な異世界っぽいし、そういうのがあったっておかしくないのか。ううむ……それにはさすがに大きな興味を抱かざるを得ない……という俺の内心を見透かしたのか、ヒサナは笑う。
「スティーアちゃん、魔法に興味あるの?」
「あ、あぁ……ボクが生きていた世界には、なかったものだから」
「あ、この世界の人間じゃなかったんだ~。どんなところだったのか、色々聞かせてほしいなぁ」
俺の意思をくみ取って、俺のことに興味を示してくれる美少女。もし俺が前世のままの男だったら、初恋になっちゃっていてもおかしくないが、今の俺は特にドキリとかはしていなかった。それが良かったのか惜しかったのかは置いておくとして……ふと、気になったことを口にする。
「……それは構わないが……今までボクのような前例はなかったんだろう? なのになぜキミは、ボクが人間だったという話を簡単に信じてくれるんだい?」
自分でも、今の状況には信じがたいものがある。それなのに、目の前の彼女はあっさりと俺の話を信用してくれて、こうして親切をしてくれている。後者に関してはヒサナが特別優しいのだとしても、自分でも信憑性があるとは言えない話を信用してくれた理由は気になっていたのだ。
「それはね~……うーん、色々あるんだけど……」
考える素振りを見せながら、チラリとこちらを観察するヒサナは、丁度の良いものを見つけたとばかりに笑った。
「例えば……自分の『目的』に疑問を持ったり、嫌になる魔神なんて普通はいないから、とかかな」
「そう……なのかい?」
「うん。って、これだけじゃ普通の魔神じゃないってことが分かるだけで、中身が人間だってことまで信じる理由にはなってないね……うーん……」
改めて俺を信用した理由を言語化しようとするヒサナだったが、俺としては話に出てきた自分の目的を嫌になる魔神などいないという話の方が気になったので、話題をヒサナ自身のことに転換してみる。
「ヒサナは……キミも、自分の目的には肯定的なのかい?」
「……あ」
俺の問いに、ヒサナは考える仕草をやめて指をさしてくる。その急転換っぷりに、俺は思わず身構えた。
「スティーアちゃん、それ聞いちゃう~? 聞いちゃうかぁ~」
「……すまない。キミが言いたくないことだったのであれば……」
「いやいや! 聞いちゃったからには聞いてもらうよ! 長くなるかもだけど、覚悟してね」
「あ、あぁ……」
ここで聞いたのが良かったのか、悪かったのか。学術都市へ向かう道中、俺はヒサナに失恋トークを聞かされることになったのだった。
「まずね、魔神は生きるために目的を達成するんじゃなくて、目的のために生きてるんだよ。スティーアちゃんは、多分逆に感じてるでしょ?」
「なる……ほど?」
「わたしもね、失恋が大好き。もちろん、恋のお話は全部好きだけど、特に」
「……」
「だってね、失恋した人間の心ってさ、主人公なんだよ」
「そう…………なのかい?」
「でも、成就しなかった恋なんて、客観的には世界のどこかでいつも起きているありふれたことでしかなくて、それでも自分の人生を少しでもドラマチックなものだと思い込もうと一人相撲してるのが、もう、ほんっとうにかわいいんだよ……!」
「なるほど」
「元から自分のものじゃなかった相手の心を、失ったとかって思い上がってるところも大好き! 相手にとっては、世界にとってはなんでもない存在や出来事のくせして、まるで悲劇の主演みたいな顔をするの! もう、そのギャップが最高で……!」
「興味深い解釈だね」
「それでね? そのギャップを忘れて、相手の心を無視した独りよがりなことをし始めたらもう〜〜〜っ! 好きだとかなんとか言ってた相手の幸せを踏み躙るんだよ!? それって、もう自分の中にしかいない想い人っぽいなにかに恋してるみたいで、もうかわいすぎるよ〜!」
「そうなんだ」
大体三時間くらいこんな調子で熱弁されて、俺は引いた。
「……いや、悪いね。ボクは人間だった頃に恋の一つもせず死んだ身だから、キミの話はよく……」
「え!?」
俺が率直によく分からなかった旨を話して軽く謝ろうとすると、ヒサナは衝撃に固まった。
「す、スティーアちゃん、せっかく人間に生まれたのに、恋しないで死んじゃったの……?」
「そうだが……」
俺が肯定すると、バッと勢いよくヒサナに抱きしめられる。
「そんな……スティーアちゃん、かわいそう……」
「その点に関して同情されるのは本意ではないね……」
余計なお世話なんだが???
……これからは、軽率に童貞COするのやめよ……。