コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
「できた……!」
「うん、すごいすごい! 頑張ったね、スティーアちゃん」
またもヒサナの奢りで部屋を借りた俺は、絶賛ヒサナ様に魔法のご教授をしていただいていた。完全におんぶに抱っこである。ちなみに今は、ヒサナが紙面にささっと書いた魔方陣に俺が促されるがまま魔力を流し、よく分からんが火の玉が出てきたところだ。おお、伝統のファイアーボール……! って、よく考えたら「できた」って感覚全然ないな。
「……いや、すごいのはこれを書いたキミの方だと思うけど」
「いやいや、術式の発動だって結構コツがいるんだよ?」
「……それも魔神の身体の感覚に任せたらなんとかなってしまったという感覚なのだが……」
「……えっと、じゃあ本題に移ろっか」
「そこは否定してくれないんだね……」
結局のところ、俺はこの忌むべき魔神の身体にキャリーされてるってことか……それでも褒めて伸ばしてくれるヒサナ、好きだ……いや、そういう意味じゃなくて。今も二人並んで机に向かっていて、めっちゃ近くて良い匂いするが、そういうのはない。
「この魔方陣を見て。今のは、ただその場に火の玉を出すだけの魔法なんだけど……真ん中の部分が属性を規定しているの。これがないと、他の属性の魔力でも無理矢理術式を起動できちゃって、予期しない動作が起こっちゃうから」
「属性……? ということはつまり、僕の魔力は火か、それに類するもの……?」
「あ、わたしたち魔神はみんな万能属性だから、属性の縛りを気にする必要はないよ。属性規定がないと、万能属性の魔力が適した属性の魔力に変換されないから、そこは注意しないとダメだけど……」
「あ、そうかい……」
結局チートなのか、この身体……いや、クソ体質を押しつけられているんだから、これくらいのスペックはむしろもらえて当然なのでは……? うん、そう考えたらそんな気がしてきた。
「それで、その周りの部分。ここが魔力をその場に滞留させる役割で、こっちが単純に魔力を活性化させてる部分。掌の上に滞留させた火の魔力を、その場で活性化させるっていうシンプルなプロセスが、今の魔法の正体だね」
「なるほど……ただ単に活性化させているだけだから、ここまで単純な構造なのか」
たしかに、ヒサナが紙にさらっと書いた術式は、素人目に見ても非常に単純な紋様に見えた。こんなんで魔法が成立するのかと思ったが、それがたった三つの部分で構成されているからというのは、納得できる話だ。
「その通り! ほんとの燃焼を再現することもできるけど、難しいしあんまり意義もないから、まずはこの『活性化』をマスターするのが王道だよ」
「ほう……」
ふーん……さてはこれ面白いな? 夢が広がっていく……もっと術式を構成する要素を知りたい……魔神のこととか忘れて没頭したい……という俺の現実逃避気味な思いを見透かしたのか、ヒサナは丸三日ほど俺の勉強に付き合ってくれた。女神か? 女(魔)神だったわ……。
☆
そんなこんなで、俺がフリーハンドで綺麗な円を描くのに苦戦している時だった。雑談の一環で、俺がなんとなく気になったことをヒサナに尋ねたのだ。
「気になったのだけれど。他の魔神はどのような者がいるのかな?」
「え? うーん……」
俺の問いに、ヒサナは困ったような笑みを浮かべた。
「……スティーアちゃんは、他の魔神なんて気にしなくていいと思うな」
「……そうかい?」
まるで言い聞かせるような、妹をエロから遠ざける姉のような声色でやんわりと言及を拒否するヒサナに、俺は引き下がるしかなかった……ので、話題を少しずらしてみる。
「そもそも、魔神はどれくらいいるんだい? 案外、人間社会に混じって大量にいたり……」
「あー……スティーアちゃんにはまだ説明してなかったね」
「ん?」
「この世界に存在する魔神の数はね、
……常に一定? それはどういう……というか、そんなことがありえるのだろうか。
「魔神が新しく誕生する時は、決まって別のどこかで魔神が死んだとき。だから、世界に存在する魔神の数はずっと変わらないんだ」
「……じゃあ、ボクのときも」
「うん。どこかで魔神が死んだんだと思う」
なるほど……つまり殲滅は不可能と。知れば知るほど不思議厄介生物だが、そういうものだと納得するしかないか。
「……となると、実際何体存在しているんだ? やはり魔神らしく、72柱……?」
「どこからその数字が出てきたのか分かんないけど……案外それくらいかも? 100はいないと思うなぁ」
ふむ……ヒサナでも正確な数は分かっていないのか。単純にヒサナにとって興味のない事柄だったのか、秘匿されているのか、単純に数えるのが不可能に近いのか。
「やはり気になるね、魔神……」
「……」
ヒサナは複雑そうな表情を浮かべるが、それでもやはり同じ魔神という存在を気になってしまう。人の精神や活動を餌にする怪物……とはいえ、俺ほど酷い『目的』を持っている奴は少ないだろうし、なにより。
「あのね、スティーアちゃんには他の魔神なんて……」
「ヒサナのように素敵な魔神も、どこかにいるかもしれないしね」
「! スティーアちゃん……」
……ん? なんだ今の。言葉が意訳されるのはいつものことだが、なんかキザっぽくなったんだが……?
「……私だって、所詮は……」
「ヒサナ?」
「……ううん、なんでもないよ。スティーアちゃんがそこまで言うなら、そうだなぁ」
一瞬だけ暗い顔をしたヒサナは、すぐにいつもの調子を取り戻すと、今度は何やら難しい顔で考え始める。
「あの子なら、まぁ……まだ……うん、うん!」
「あの、ヒサナ?」
「スティーアちゃん!」
よく分からないが意を決したらしいヒサナは、俺の肩をがしっと掴んで正面から俺の眼を見つめた。
「実はね……この街にも一人、知り合いの魔神がいるの」
「そうだったのかい?」
「うん。だから、スティーアちゃんが会いたいって言うなら、明日にでも行ってみよっか」
「ふむ……いいね」
サンプルが少ないというのはこの世界の人間に関してもそうなのだが、それでも一応人間というのは前世で慣れ親しんだ存在である。それに比べて、俺は魔神という存在に対する解像度が低すぎる。一人でも魔神という存在について知っておくのは有意義である……はずだ。ヒサナの提案は願ってもないもので、俺は快諾するのだった。
当のヒサナは、やっぱり少し浮かない顔をしているようだったが。