コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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前日譚 一国目

「スティーアちゃん。そろそろここを出よっか」

 

 『リユニの妖精』との出会いから三日ほどが経ったくらいのその時、ヒサナは俺にそう言った。

 

 『循環』の魔神めぐるは、悪い奴では……邪悪な存在ではなかった。だがそれは、相互理解が困難な存在であることと全く矛盾しない、魔神というものがどういう存在なのかを学ぶ最高のモデルケースだった。

 

 自分も、ヒサナもそうなのか──そんな問いを振り切るように魔法の勉強を……受験の時にこれくらいやっとけよと思ってしまうほどに勉強に没頭していた矢先に、ヒサナはそう提案してきたのだ。

 

「出るって……この宿を、かい?」

「ううん、この街だよ。魔法の教材は手に入ったし……元々、私がスティーアちゃんにこの世界を教えてあげるって約束だったでしょ? リユニにずっと留まってても仕方がないよ」

「それはその通りだね……」

 

 たしかに、最近俺はずっとこの部屋に引きこもってたわけだし、ここに留まっている理由もない。ヒサナが俺に付き合ってくれているうちに、もっと色んなことを知っておくべきだろう。

 

「承知したよ。それで、次はどこに連れて行ってくれるのかな?」

「そうだねぇ……ここからだと、まずはグレイブ帝国かな?」

 

 その日のうちに俺たちは荷物をまとめて、学術都市リユニを後にするのだった。

 

 

 グレイブ帝国。人間の国では最大の、歴史ある大国……らしい。今から俺たちが入るのはその辺境の地方都市とのことだが、生憎とリユニ以外の街を知らない俺にとっては話を聞いても違いがよく分からない。

 

 その印象は実際に検問をすり抜けて街に入っても変わらず、同じファンタジー世界の街並みだなぁとしか思えなかった。……強いて言えば、雰囲気が違うか? なんというかこう……道行く人々の顔色が険しい。あくまでリユニと比較して、柄の悪い印象だ。

 

「さて……無事に入れたけど、どれくらい滞在しよっか。スティーアちゃんがこの世界のことを知る、っていう名目だから、スティーアちゃんが満足するまで居てもいいんだけど……」

「それだとキリがなくなりそうだ。区切りはヒサナに任せるよ」

「わかった。それじゃあ、三日くらいにしよっか」

 

 慣れた足取りで通りを歩くヒサナに、雛鳥のようについていく俺。ヒサナは驚くほど物知りだし、この街も初めてじゃなさそうだ。……長年(色恋沙汰を求めて)世界中を放浪しているみたいだし、そのたまものか。なんて考えていると、視界の端に見慣れないものが映った。

 

「あれは……」

「スティーアちゃん? ……あぁ」

 

 檻に入れられ、まるで獣のように運ばれる鎖に繋がれた……人。あんなものはリユニでは見たことがない。ないというのに……行き交う人々は、特に気にする素振りもない。つまりはこの地において、あれは日常の光景ということ。

 

「奴隷だね」

「……やはりか」

 

 大して顔色を変えないままのヒサナから、半ば予期していた答えが飛び出した。

 

「リユニでは見たことがなかったが……奴隷制があるのかな?」

「帝国はね。そうだなぁ……まず、人間の国の話からしよっか」

「興味深いね」

 

 俺の手を取って突然進路を変えたヒサナは、そのことには触れずに人間の国について教えてくれるらしい。実は今まで聞けていなかったことなので、ありがたく拝聴することにする。

「今、世界は人間と魔族で二分されていて……人間の側は、主に三つの大国が支配しているんだ。帝国、王国、共和国だね」

 

 三つの大国……そのうちの一つが、今いる帝国か。となると……あれ?

 

「リユニは?」

「リユニは都市国家だから。その三つには入らない、独立した小国だね。学術都市って呼ばれてるけど、独立してるからこそ色んな場所から才能が集まるし、魔法の最先端だからこそ独立を保てる、結構珍しい場所なんだよ」

「なるほど」

 

 リユニ、かなり雰囲気の良い街だったけど、あれを標準に考えない方が良いってことか。

 

「それでね、中でも帝国は一番歴史と伝統があって、だからこそ大国の中で唯一昔ながらの奴隷制が残ってる、みたいな感じかな」

「未だに残っているのが帝国だけ、なのか」

 

 時代遅れだと断言するには俺に知識がなさすぎるが、聞く限りだとついつい旧態依然だとか野蛮だとかの悪い言葉が頭に浮かんできてしまう話だ。

 

「……ついた。スティーアちゃんはどう思う?」

「ここは……」

 

 ヒサナに手を引かれ、路地を抜けて辿り着いたのは……先ほど見たような檻が並べられ、その中の人々が瞳に虚無や絶望を浮かべていた。

 

「奴隷市場?」

「半分正解かな。ここは市場に出す前の置き場所。市場はこっち。ついてきて」

 

 そう言ってヒサナは、跳んだ。魔神のスペックに物を言わせた跳躍で、建物の上へと登っていく。つい前世の感覚で物を見てしまって、いやついて行けるわけないじゃんと一瞬思ってしまうが、今は俺も魔神。足に力を入れてジャンプしてみると、むしろ跳びすぎてしまった。制御できない自由落下に(やったことないけど)バンジーみたいな気分を味わいながら着地する。

 

「だ、大丈夫? スティーアちゃん」

「……運動に関しても練習が必要かな」

 

 よく考えたら、自分の身体能力を把握できていないのは危険である。今度意識的に訓練しないとなぁ、なんて思いつつ、ヒサナに先導されて到着したのは三階建ての建物の上。すぐそばの広場がよく見渡せる場所だった。

 

 そこでは今まさに、奴隷の競りが大々的に行われていた。台に立たされた奴隷が衆目にさらされ、好き勝手に値をつけられ売られていく。この場所……この国において、奴隷はアングラなものではないという、強い裏付けになる光景。

 

「……スティーアちゃんは、どう思う?」

 

 隣にいるヒサナから、探るような声色で問いかけられる。その表情からは……彼女がどんな答えを求めているのか、わからない。なので、ここは正直に思ったことを言うしかない。

 

「率直に言って、気分の良いものではないね」

「それはどうして?」

「ボクの価値観に……いや、ボクの育った世界観に反する行為だから。突き詰めれば、それだけだね」

 

 あそこに集まっている人間たちを、軽蔑せずにはいられない。だがそれは、俺が現代日本の価値観を持ち込んでいるからだ。もちろん『俺』というものが培われたのが現代日本な以上、価値基準がそこになるのは当たり前のこと。けれど向こうからしてみれば、縁もゆかりもない異世界の価値観を押しつけられているわけで……あぁいや、帝国以外は奴隷ないんだっけ?

 

「……いや、どっちにしてもか」

「スティーアちゃん?」

 

 中身は違うが、現実として今の俺は魔神。飲食は不要で寝る必要もなければ魔力は万能。そんな存在が人間に上から説教しても、なんというか説得力がないだろう。

 

「とにかく、ただ不快なだけさ。特に何をしようという気にはならないかな。彼らの生活を維持するためには、必要なものなのかもしれないし」

 

 昔の地球における奴隷の役割は、現代では機械が担っていると思っている。技術が発達したから、人間の代わりに機械を奴隷にして回すことができるようになっただけ、みたいな。要するに、代替手段が確立するまでは現実的に脱却など無理だろう、と俺は思う。あ、リユニでは魔法の普及でそれを達成していたのか……? だとすると、奴隷解放の波はすぐそこまで迫っているのかもしれないが……俺には関係のない話だ。

 

「……そっか。良かった~、今すぐこの場をめちゃくちゃにしたいって言われたら、ちょっと困っちゃうから」

「ちょっと、なのか」

 

 それはつまりできなくはないということか……? なんて笑いながら言うヒサナに少し戦慄する。だが、結局ヒサナの問いの意図というか、求めている答えが分からないままだ。少し、聞き返してみるか。

 

「キミの方は、どうなのかな? この場所やこの文化に、何か思うところが?」

「え、わたし? うーん、えっと……身分の差が理由の失恋も、それはそれで味がするかなー、って……」

「あぁ、そう……」

 

 あ、そこはブレないんだ……。

 

 




ヒサナの趣味
・NTR……△(特に関心がない)
 ヒサナの失恋の定義にNTRが当てはまらない。そもそも一度成立した、つまり愛に昇華した恋に興味がないので、それが壊れたとて別に……。でも既婚を理由に恋を諦めたりする展開や、BSSは大好き。
・ハーレムエンド……×
「どっちか選んでよ!(怒)」



・死別……??
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