コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
神父様は、優しい人だった。いつも笑顔で、みんなの話を聞いてくれた。怪我をすれば手当てをしてくれて、悩みがあれば相談に乗ってくれた。私とトリアが聖騎士に選ばれた時、誰よりも喜んでくれた人。
その人が、なぜここにいるのか。
「神父様……どうして、こんなところに……」
縋るような声が出た。何かの間違いであってほしかった。あるいは何か……何か事情があるんじゃないかと。子供達の遺体を素通りして私の方へ向かってきたのも、きっと何か事情が……。
「それは、もちろん私がこの施設の主任だからですが」
その言葉で、僅かな希望は砕け散った。
「……主任」
「ええ。もう二十年以上、この研究施設の運営に携わっています。全く……殉職したと聞いていたのですがね」
神父様の声は、孤児院で聞いたあの優しい響きとは違っていた。冷たく、事務的で、まるで道具を見るような。
「生きていたのは良いとして……なんですか、その姿は。汚らわしい」
「っ……」
隠す気のない侮蔑の感情が突き刺さる。あの優しい神父様のこんな顔は、見たくなかった。だけど、それはまだいいのだ。傷つかないわけではないけれど、納得ができる。魔族は敵で、滅ぼすべき悪だから、憎悪を向けられるのは当たり前だから。
そうじゃない。問題はそんなことじゃない。
「神父様……これは、一体……」
私は奥の部屋を指差し、持っていた資料を放り投げる。間違いなく私がここで秘密を知ったことを認識したはずの神父様は、そのはずなのに反応が薄い。
「あの子たちは……! 何のために、こんな……」
「ああ、それですか」
神父様は、まるで天気の話でもするかのように答えた。
「彼らは役目を果たしただけですよ」
「役目……?」
「ええ。教会が孤児を集めて保護しているのは、聖騎士を……『炉』に適合する者を見つけ出すため。そして適合できなかった者は、こうして『炉』の燃料となる。それが、最初から定められた役目なのです」
言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「待って、待ってください……それじゃあ」
「一般市民の心臓を使うわけにはいかないでしょう? 孤児ならば、誰も文句を言いません。効率的です」
「こう、りつ……」
放たれた言葉を繰り返す。効率。命を消費する行為に用いる言葉とは、到底思えなかった。
「でも、神父様は……私たちを、家族だと……」
「家族?」
神父様は、不思議そうに首を傾げた。
「ああ、そう言いましたね。もちろん、それはもし聖騎士になった時のモチベーションを保つための方便です。愛情を持って接すれば、聖騎士になった時により強い使命感を持ってくれますから。あなたのように」
「方便……」
震える声が出た。
「じゃあ、あの日々は……孤児院での思い出は、全部……」
「全部、教育の一環ですよ。もちろん、私も仕事として真摯に取り組みました。あなたとトリアのような成功例も生まれたので、結果としては大成功でしたね」
仕事。成功例。
私たちが笑った日も、泣いた日も、全部。全部、そういう言葉で片付けられるものだったのか。
「そんな……そんなの……」
「カトル。貴方は何を動揺しているのですか」
神父様は、本当に不思議そうな顔をしていた。
「これは素晴らしいシステムなのですよ。身寄りもなく、路頭に迷うしかない孤児たちの中から聖騎士が生まれ、他の者たちもその礎となれる。人類のために尽くせる。これほど名誉なことはありません」
「名誉……」
私は奥の部屋を見た。冷たい台の上に並べられた、小さな身体たち。胸を切り開かれ、心臓を奪われた子供たち。
「……名誉、ですか」
「ええ、もちろん」
「心臓を奪われて、身体を切り刻まれて……あれが、あんなものが名誉だと、そう仰るのですか」
私の声が、少しずつ大きくなっていく。
「当然です。彼らは人類の守護者である聖騎士の力に……あなたたちの助けとなったのですから」
「違う……違います……!」
「何が違うのですか。むしろ、彼らは感謝するべきでしょう。今まで愛情を持って育ててきたのですから。食事も、寝床も、教育も、すべて教会が与えてきた。その恩に報いる機会を得られたのです」
「恩に、報いる……」
「私も感謝していますよ。人類のために犠牲となった彼らには」
神父様は、そう言って微笑んだ。あの日々の、優しい笑顔。でも、今はそれがおぞましく見える。
「貴方だって同じでしょう? カトル。貴方やトリアが聖騎士として魔族と戦えたのは、彼らの犠牲があったからです。二人が力を振るうたび、彼らの命が光となって敵を穿つ。素晴らしいことじゃないですか」
「やめて……」
「貴方に最初に埋め込まれた『炉』の初期燃料、覚えていますか? あれは貴方と同期だった──」
「やめてください……!」
頭を抱える。耳を塞ぎたい。でも、神父様の声は容赦なく続く。
「エリックとハナ、でしたね。二人とも良い子でした。貴方によく懐いていた。その二人の心臓が、貴方の『炉』の最初の──」
「やめろ……」
エリックの笑顔が浮かぶ。ハナの声が聞こえる。
「トリアの方は、確かセシルとアランでしたか。まあ、細かい記録は上に保管してありますが」
知っている名前が、次々と。
「その後も、貴方たちが教会本部を訪れるたびに補給していました。ええと、貴方が最後に来た時は──」
「やめてええええ!」
叫んだ。
叫びと共に、何かが弾けた。
意識する間もなく、身体が動いていた。腕を振り抜いていた。魔族の力が、制御できずに溢れ出していた。
轟音。衝撃。崩れていく天井。そして。
「──あ」
神父様の身体に、大きな穴が空いていた。
私の腕が、そこを貫いていた。
「あ……ああ……」
腕を引き抜く。神父様の身体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
殺した。私が、殺した。
加減の分からない魔族の力で。感情のままに。
「違う……私は……」
違う? 何が違うというのか。事実として、私はこの人を殺した。
「あぁ……」
神父様はとんでもない人間だった。家族に害を為す、敵だった。それでも、恨みきれてもいなかった。優しかった日々が、消えてくれないのだ。
「神父様……」
嘘だったと分かっていても。方便だったと言われても。あの記憶は、私の中に確かにある。どうすればいいのか、分からない。
恨みきれない。許せもしない。悲しいのと虚しいのだけは確かで。
もう、ぐちゃぐちゃだ。何も、分からない。
……天井が崩れる音が聞こえた。ここは地下深くではなかったのか、崩落した穴から陽の光が差し込む。
このまま、私も埋もれてしまえばいいのに。
──────────────そう思った時。
「……一体なにが……っ!?」
新しい声が聞こえた。
上から。崩れた穴から。
誰よりも愛しく、聞き覚えのある。
「っ、神父様!? 死んで……」
声の主が、地下を見下ろしている。倒れた神父様を見て、そして。
「え?」
私を、見た。
「トリ、ア……」
私の『最悪』は、終わっていなかった。こんな姿で。こんな場所で。こんな状況で。
トリアと再会するなんて。
私とトリアの視線が、穴を隔てて交わる。まるで、時が止まったようだった。やがてトリアの表情が、驚愕から混乱へ、そして信じられないという色へと変わっていく。その一つ一つが、胸に突き刺さる。
「姉様……なの?」
震える声。その声を聞いて、元々潤んでいた瞳から涙がこぼれ落ちるのを感じた。
「トリア……」
名前を呼ぶので精一杯だった。他に、何を言えばいい? 頭が真っ白になって、言葉が見つからない。
「なんで……姉様が、魔族に……?」
トリアの声が、さらに震える。
「姉様が……姉様が、神父様を……殺したの……?」
「……これは」
言葉が出ない。弁解も、説明も、何も。そうだ、と答えるべきか。違う、と否定するべきか。いや……事実として、私は確かに神父様を殺した。でも、それには理由があって──理由? それを話せというのか? トリアに、あの真実を。私と同じ思いをさせろと言うの?
「答えて、姉様……!」
トリアの叫びに、私は口を開きかけた。何を言おうとしたのかも、分からないまま。
「──よくやってくれたね」
その声に、私の言葉は止まった。
背後から。いや、違う。すぐ側から。
気づけば、私の左腕に白い腕が巻きついていた。後ろから抱きしめるように。そして、顔のすぐ側に、もう一つの顔がある。凍えきった私の心が、彼女の温度にどこか安心感を覚えていることを感じた。
「スティーア……」
私を送り出したはずの彼女は、そっと私の髪を掬い上げてキスをすると、私の名を呼んだ。
「ボクの、カトル」
囁くような声。だけど、その声は崩落の音を超えて、トリアの耳にも届いただろう。
自分のものだと。まるでそう誇示するような言い方。
「まじん、スティーア……ッ!」
トリアの声が、怒りに染まる。トリアの目には、スティーアが私を魔族に変えて教会を襲撃させたように見えているのだろう。
「姉様から離れろ……!」
一体どういうつもりなのか。そう尋ねることもできないまま、事態は動いた。
(和解されると困るのでヘイト稼いでるだけ)
……ふぅ(満足)(匿名解除)
満足してしまったのでここからは不定期です
ごめんねぇ。あと結構迷ってる問題のアンケート置いとくねぇ
カトルに自分の生態と目的を教えても
-
良い!
-
やだ!