コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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トリアの姉様

 頭を冷やせと団長に追い出され、あたしは聖都の街を歩いていた。

 

 本部のある聖都。この場所をゆっくりと見て回れたのは、姉様と一緒に叙任式に出たあの日だけ。それ以降は任務で忙殺されて、観光どころか孤児院に里帰りする時間すらなかった。

 でも、そんな生活も苦ではなかった。姉様がいつだって隣にいたから。

 

 むしろ、良かったこともある。姉様は、みんなの姉様だった。人気者の姉様。孤児院ではいつも子供たちに囲まれていた。優しくて、強くて、誰からも慕われる姉様。

 

 でも、聖騎士になってからは違った。隣にいるのは、あたしだけ。

 

 姉様は、トリアだけの姉様になったのだ。

 

 それを……あいつが。

 

「魔神……スティーア」

 

 口にすると、怒りが込み上げてくる。絶対に許さない。必ず姉様を取り戻す。そう心に誓いながら歩いていると、広場に人だかりができているのに気づいた。

 

「あ……叙任式」

 

 どうやら、新しい聖騎士が生まれるらしい。式典を見つめる人々の顔は、皆祝福に満ちている。嫌でも、自分たちの叙任式と重ね合わせてしまう。

 

 ──あの日。

 

『緊張してる……?』

 

 式典の直前、姉様があたしに声をかけてくれた。

 

『うん……ちょっとだけ』

 

 正直に答えると、姉様は優しく微笑んだ。

 

『大丈夫。私たちなら、きっと』

 

 姉様の手が、あたしの手を握る。温かかった。

 

『これで……みんなを守れるわね、トリア』

『うん。あたしと姉様なら無敵だよ!』

 

 あたしは胸を張って答えた。本当に、そう思っていた。

 

 姉様と一緒なら、どんな敵だって倒せる。どんな困難だって乗り越えられる。

 

 ──だけど、それは儚い幻想だった。

 

 思い出に浸っていると、轟音が響いた。

 

「っ!?」

 

 この音は、教会本部の方向からだ。地面が揺れて、何かが崩れる音が聞こえた。

 

 ……なにか胸騒ぎがする。

 

 突然の非常事態に、周囲の人々は混乱している。式典を仕切っていた教会の人たちが避難誘導を始め、人の流れができはじめる。

 

 それに逆らうように、あたしは走っていた。音のした方へ。本部の方へ。嫌な予感を自覚していても、それでもなお、確かめなければならない。何が起きたのか。

 

 一番乗りだった。団長以外の聖騎士は出払っていたのか、現場に他の聖騎士はいない。

 

 轟音の発生源にあったのは、崩れた建物。立ち込める土煙。そして、地下へと続く穴。おそるおそる、あたしはその穴を覗き込む。

 

「っ、神父様!?」

 

 そこにいたのは、見覚えのある人だった。あたしや姉様の育ての親である孤児院の神父様。だが、その身体は血に染まり、身体には孔があった。明らかに死んでいる。

 

 なんで。いやそもそも、どうして神父様がここに。

 

「……え?」

 

 そして、その横には。

 

 魔族がいた。

 

 いや、違う。

 

 浅黒い肌、白い髪、朱い瞳、そして角。確かに魔族の特徴を持っているけれど。

 

 でも、その顔は。

 

「トリ、ア……」

 

 聞き覚えのある声。

 

「姉様……なの?」

 

 間違いない。あたしが姉様を見間違えるはずがない。あれは姉様だ。でも。

 

「なんで……姉様が、魔族に……?」

 

 分からない。なんで姉様が魔族なんかに。やっと会えたのに、なんで。

 

 ……いや、そもそも。なんで、姉様の側で神父様が死んでるの?

 

「姉様が……姉様が、神父様を……殺したの……?」

 

 聞きたくなかった。でも、聞かなければならなかった。

 

「……これは」

 

 姉様の口が、小さく開いたかと思えば、閉ざされる。姉様は苦しそうに顔をゆがめるだけで、答えてくれない。

 

「答えて、姉様……!」

 

 なんで。どうして何も言ってくれないの。それじゃあまるで、本当に姉様が神父様を……と、信じたくない真相が、頭をよぎる。

 

 その時だった。

 

「──よくやってくれたね」

 

 声が響いた。聞き覚えのある声。忘れもしない、憎い声。

 

「スティーア……」

 

 気づけば、姉様の側に……あたしがいるべき場所に、それは居座っていた。

 

 白い少女、魔神スティーア。

 

 姉様を奪った、あの女。

 

 そいつが、愛でるように姉様を撫でる。労うように、姉様の髪に唇を落とす。

 

 そして、言った。

 

「ボクの、カトル」

「まじん、スティーア……ッ!」

 

 その瞬間、あたしはすべてを理解した。

 

 あいつのせいだ。あいつが姉様を魔族に変えて、あいつが神父様を殺させたんだ。

 

 ……解放しなきゃ。

 

 姉様を、解き放ってあげなきゃ。あいつを殺して。

 

「姉様から離れろ……!」

 

 心に決めたが最後、行動は速かった。『炉』を稼働させる。力が満ちていく。光の刃を顕現させ、あたしはスティーアに向かって突撃した。

 

 魔神は、回避する素振りも見せない。

 

 勝った。

 

 そう思った。なのに。

 

「っ! 姉様、なんで……!」

 

 あたしの攻撃は、姉様によって阻まれた。それも、姉様によく似合うあの眩い光ではなく、魔族の力によって。

 

「トリアっ! やめて……(それ)を使わないで……!」

 

 姉様の声が、悲痛に響く。

 

 なんで。どうして姉様が邪魔をするの。

 

 そいつは、姉様に神父様を殺させたんだよ?

 

 それに、姉様の言ってる意味も分からない。使うなって、何を? 光を? なんで?

 

 そんな疑問を口にするより前に、忌々しい魔神が、姉様を抱きしめながら口を開いた。

 

「ありがとう。ボクを守ってくれたんだね、カトル」

 

 スティーアの声が、耳に突き刺さる。

 

「っ~~~!」

 

 おかしい。 守る? 姉様が、あいつを?

 

 そんなのおかしい。そのために、姉様が私を攻撃するなんて。

 

 そんなのおかしい。姉様が私よりあいつを優先するなんて、間違っている。

 

 許せない。

 

「スティーアァァ!」

 

 もう我慢ができなかった。なにがあろうと、あいつを殺す。そんな勢いで放った攻撃は……今度はあっさりと、魔神によって受け止められた。

 

「ぁ……」

 

 為す術もない。またしても、子供のようにあしらわれた。

 

「でも、遊びは終わりだ。帰ろうか、カトル」

「待って……!」

 

 スティーアと姉様の声が聞こえる。あたしは聞いていることしかできない。

 

 私は無力化され、地面に転がされた。

 

 またしても。またしても、あたしは姉様を守れない。

 

「ねえさま……なん、で……」

 

 視界が霞む。転移の魔法だろうか。姉様とスティーアの姿が、光に包まれて消えていく。

 

 あたしは手を伸ばした。

 

 届かない。届くはずもない。

 そして、あたしは意識を失った。

 




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