「ここにこう飾って、それでこうやって大阪の方を向くように……」
最近、暁が変だ。いや変なのは今に始まった事じゃないけれど。
「……よし! これでいいな!」
「これでいいなじゃないの!」
スパーンとハリセンで暁の頭をすっぱたいた。うん、今日もいい音がした。
「第一さ! 暁が買った分だけなら文句言わないけどさ! でも私が勝った分まで拘らないでくれる!?」
「ま、まぁ京楓が拘らないっていうならいいんだけどさ……俺としては京楓にも吉兆が向いてほしくて」
「はぁ……そりゃ暁が私のこと考えてくれてるのは百も承知だけどさ……」
うん、やっぱりいつもの暁だった。自分がやりたいようにやって、その意見を押し通して、だけどなんだかんだ私の事も考えてくれてるいつもの暁だ。
とはいえ、勝手に私のものまで混ぜて欲しくないのは本当だけど。流石にそれは勝手に取り上げられたかのように思えちゃうし。
「それにしても、京楓がこうも目を輝かせるとはねぇ……」
「そ、それは、あれだけみんなが買ってくんだもん、たまにはブームに乗っかったっていいでしょ!?」
「でもそういうマスコット的なものをあまり京楓が買った覚えはなかったよなーって」
「買わないってことはないし、そんなにはないからこそたまにはねって」
散々この地域で博覧会をやるぞと言って、その公式キャラクターが散々街中で見かけるようになって。
社会的にもごり押しムードな気が最初はしていたけれど。でも気付けばかわいいと思うようになってたし、私自身がこれいいなと思ったというのもあって。今ではしっかり身にも着けている。というかこの周辺みんなして付けている人ばっかりだし。
でも、やっぱり一番の理由としては。
「あと、やっぱりたまには暁とお揃いのもの欲しかったし……」
「あ、あぁ……うん、ありがと」
隣町でやってた博覧会自体も、最初の内はなんだこれという感も強かったのは本音だけど、暁に引っ張られながらも行ってみたら、確かに面白かった。暁の解説が暑苦しいながらも上手かったのも寄与してる。
暁からしてみれば、宝石を彫った仏像が一堂に会してる国が、小規模ながらも一番インパクトがあったみたいで。
やっぱり仏教系の諸々は、暁にとっても刺さるんだろうなぁ。私にはよくわからなかったのは正直なところだけど。わー宝石きれいーにしかどうしてもなれなくて。
私がよかったとなったのは……なんだろ、やっぱり企業系とかのかなぁ。テーマを前面に押し出してるパビリオンが好きだったと思う。
とまぁ、海外ない企業なり芸術なりと、博覧会についてはかなり二人して楽しんだとは思う。なんなら帰りの混雑で終電間に合わなかったから、どうせ翌日も行くならってことで飛び込みでブティックなホテルにも泊まっちゃったし。勿論盛り上がった。
で、ご多分に漏れず博覧会のマスコットキャラの虜になってしまった私たちは、バッグに付けるお揃いの小さめのと、部屋に置いておくようのぬいぐるみとを買い込んだわけだけど。
「でも! これは私のだから! 私が管理します!」
流石に、私が買ったものについてまであれこれ言われる筋合いはない。
確かに二人の物だと思うし、だから普通に置かれる分にはそれでいいとは思うけど。
これが、こう、暁の祭壇に並べられてるのを見ると、えも言えぬ感情に襲われる。そこは、暁の私物の場所だ。
「他の置くスペース……」
「だったら片付けて。全部とは言わないからその殆どを」
「はい……」
暁のシュンとした顔を見て、流石に言い過ぎたかなとはなった。でもこれだけ置かせてあげてるのは物欲がいつもはそんなにないからであって。そうじゃなかったらきっといつも喧嘩している。
まぁ、暁がいつもこうやって買ってくるから別にいいやとなる節もあるし、意外とそれでいてお金は浮いてるからたまの贅沢はちゃんと出来るし――。
あれ? 実は暁のお陰で節約ができてたってこと?
「……やっぱり置いてくれていいや」
「あれ、いいの?」
「ただ、あくまで隣同士。枠は別で。それでなら」
「えーっと、だったら……これでどうだ」
「うん。これならいいよ」
これなら、とは言ったけど、二体のぬいぐるみが隣同士で置かれてるから、寧ろ私にとってもいいなってなる配置だ。
寄り添うかのように置かれたぬいぐるみは、却って私と暁の関係を示してるかのようにも見えて――。
「……うへへ」
「え、そんな声が漏れるぐらいのこと?」
「おっと危ない」
「手遅れな気がするんだが……」
垂れかけた涎を拭ったところで、それはそうと。
「一応確認しておきたいんだけどさ、やっぱり信仰としてのマスコットみたいに考えることはあるの?」
「あぁ、うん、というかこのマスコット自体が、かな。だってこれ、生まれが水だっていうから」
「そここだわるんだ?」
「だからこそ、かな。西院で暮らしてる以上は、と思って」
「西院で水って……賽の河原とか?」
「そうそう。それもだけど、そもそもは――」
今では暗渠となっている旧天神川は。元々は天井川で、1935年の京都水害をきっかけに河川付け替えが行われて、丸太橋通り以南の付け変わった所は殆どが暗渠になった――とは暁から聞かされてはいることだけど。
「暁のことだから、賽の河原の元だろうからって、地蔵菩薩みたいな立ち位置をとか考えてるんじゃないの?」
「あっバレてら」
「何年暁と一緒にいたと思ってるのよ……」
生まれてからこの方ずっと西院にいる私よりも、生まれ自体は別の所である暁がこだわるのもおかしな話、かもしれない。でもそれは、地元外の人よりそうじゃない人の方が気に掛けるというのはよくあることだ。
それに、生きながらにして地獄かもしれないところを見てきた暁だからというのもあるはず。
「……でも、私だって、いたんだもんね、あそこに」
ぽんと、暁が置きたかっただろう位置にマスコットを置いてみる。正直私には風水の向きはどれがいいみたいなのは全然わからないけど、それでも確かに、暁の言う通り、この位置じゃないと駄目なんだろうという、そういう直感はあった。
「暁。今ここに飾ってるものってどれだけそのままにしておいてほしい?」
「あー、今の時期はこれとこれはなくてもいいかなぁ。何をどうしたいんだ?」
「別に捨てるとかするわけないじゃない。ただ。交代交代で置けばいいんじゃないかなってだけ」
「それなら……というか、いつも京楓には迷惑かけてるもんな、それくらいはしないとな」
そして据え置かれるは博覧会のマスコットが二体。寄り添って置かれた様は、なんとなく私たちのようだ。
やっぱり、こうでないと。出来ればずっと、こうやって置いていて欲しいな。
「水害でもなんでもさ。何かあっても、ちゃんと一緒にいてくれる?」
「勿論」
そして、今。かのマスコットは二体共暗渠の川の方向を向いている。
再び水害がないように、水から生まれた設定のマスコットは今日も京の街を見守っている。