僕のヒーローアカデミア 偽りの福音   作:ペプシ飲みたいマン

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読んでくださっている皆さん、ありがとうございます!
評価や感想、本当に励みになっています。

前回、量産機の姿を新しい形として出したところ、
意外だったという声をいくつかいただきました。
たしかに映画やスパロボでは敵の印象が強いので、意外と思う方も多いですよね。
自分は子どもの頃は正直トラウマでした……。

そんな量産機を“日常の象徴”として描く今回の展開、
驚きつつも楽しんでいただけたら幸いです。


第九話 心のかたち

 量産機の姿になれるようになってから、数日が経った。

 孤児院の隣に広がる森──地主の方が「子どもたちの遊び場に」と無償で貸してくれている場所。

 そこは僕にとって、いまや“特訓場”でもあった。

 

 朝の霧が残る木立の中を、白い影が駆け抜ける。

 枝を避け、岩を跳び越え、根の張る地面を蹴るたび、風が背を押す。

 それが自分の体とは信じられないほど、軽やかで速い。

 

 エヴァの姿になって、改めて思う。

 この体の“凄さ”を。

 前世でも、ここまで自由に、思い通りに体を動かせたことはなかったはずだ。

 筋肉ではない、もっと深い部分。

 全身を“意志”が走るような感覚。

 動こうと思えば、動く。止まろうと思えば、止まる。

 それが、ただ“自然”なのだ。

 

 数日間の訓練で、いくつかのことがわかってきた。

 

 エヴァの姿は確かに強力だが、体力の消耗が激しい。

 全身が熱を帯び、やがて鉛のように重くなる。

 けれど、力尽きたからといって変身が解けるわけではない。

 活動限界を迎えても、姿は維持されたまま──ただ、体が動かなくなるだけだ。

 

 初めてその状態になったときは焦った。

 意識ははっきりしているのに、その場から一切動けないのだ。

 だが、今ではその仕組みも理解できている。

 エネルギーが切れても、形は維持される。

 ならば──この体に“慣れる”ことこそが、次の一歩だ。

 

 ここ数日、量産機の姿で過ごす時間を増やしている。

 活動限界も、少しずつではあるが伸びてきた気がする。

 この世界の空気、この重力、音、匂い。

 それらを“この体”で感じる時間が、僕を確かに強くしてくれる。

 

 動けなくなるまで森を走り、限界を迎え、夜には元の姿へ戻る。

 そして翌朝、また変わる。

 

 動けなくなるだけで、姿を固定できると知ってからは。

 誰も見ていない時間、僕はずっと量産機のままでいた。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 ある日。

 いつものように森の中を走り回り、木々の間を抜けていたときだった。

 

 風の流れに、かすかな気配が混じった。

 ──誰か、来る。

 

 僕はすぐに姿を解き、素体のまま木陰に身を潜めた。

 その直後、木々の隙間から小さな影が現れる。

 

「──ふくいん君!」

 

 トガちゃんだった。

 息を弾ませながらも、僕を見つけるとぱっと笑顔を見せる。

 

「……トガちゃん? どうしてここに?」

 

 驚いて問うと、彼女は手を後ろで組みながら少しうつむいた。

 

「最近、ふくいん君……みんなと遊ばないし。孤児院に着いたらすぐどっか行っちゃうから。

 気になって、探しに来ちゃいました」

 

「そうだったのか……ごめん」

 

「謝らないでください。

 わたしがちょっと、寂しかっただけですから」

 

 その言い方が、胸の奥にまっすぐ刺さる。

 思わず顔をそむけながら、苦笑いが漏れた。

 

「……それは僕に効くな。降参だよ」

 

 そう言うと、トガちゃんはくすっと笑い、肩を揺らした。

 

「ふふ、じゃあ許します」

 

 笑顔のまま、彼女は僕の隣まで歩み寄る。

 その目がふと、僕の背後──踏み固められた地面や、削れた木の幹に向いた。

 

「ねえ、ふくいん君。ここで何してたんですか?」

 

「……特訓をしてたんだ」

 

「特訓?裸で??」

 

 小首を傾げるトガちゃんに、僕は少し息を整えて言葉を続ける。

 

「この前の……ヴィランに襲われた時のこと、覚えてるだろ? 

 あの時、僕はみんなを守れたけど、それは偶然だった。

 もし、もう少し状況が違っていたら……誰かが死んでたかもしれない。

 “力があるのに使いこなせない”なんて、そんな理由で誰かを失うのは嫌なんだ。

 だから、後悔しないために……力をつけようと思った」

 

 森の風が、静かに二人の間を通り抜けた。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 わたしには、好きなものがあります。

 

 それは、“血”です。

 前は、それしかありませんでした。

 血の色、におい、味。

 それを見ていると、胸がドキドキして……“生きてる”って感じられるから。

 

 でも、最近はそれだけじゃなくなりました。

 

 それ以外にも“好きなもの”が増えました。

 

 それは、全部──ふくいん君がくれたものです。

 

 わたしの“普通”を、怖がらないで受け入れてくれた。

 笑った顔を「綺麗だ」って言ってくれた。

 パパとママに「普通じゃない」って言われたわたしに、

 “普通でいていい場所”をくれた人。

 

 ふくいん君といると、胸の奥がぽかぽかして、

 血を見たときのドキドキとは違う“あったかい”感じがするんです。

 それが、なんなのかは、まだよくわかりません。

 でも、きっと……幸せっていうんだと思います。

 

 あの日、みんなでごはんを食べた帰り道。

 ヴィランが出てきて、怖くて動けなかったとき、

 ふくいん君は、わたしの前に立ってくれました。

 “助ける”じゃなくて、“守る”ために。

 

 大人でもできないことを、彼はやってのけた。

 

 そして今、彼はまたみんなを守るために特訓をしている。

 誰かに命令されたわけでもなくて、

 お金がもらえるわけでもないのに。

 

 ふくいん君はヒーローじゃない。

 でも、わたしの目には、世界でいちばんかっこいいヒーローに見えました。

 

 そんな彼に、わたしは……なにができるんだろう。

 

 ふくいん君は、わたしを助けてくれた。

 笑わせてくれた。

 居場所をくれた。

 ずっと、もらってばかりのわたし。

 守られてばかりのわたし。

 

 ──このままで、いいのかな? 

 

 胸の奥が、ぎゅっと苦しくなる。

 いや、ダメだ。

 ぜったいダメ。

 

 ここでなにもしないのは、なんか違う気がする。

 応援するだけ? それも違う。

 

 たぶん……ふくいん君に必要なのは、

 “隣に立つ人”だ。

 

 なんでも一人でがんばっちゃう彼の、

 すぐ横にいられる人。

 

 それに

 わたし自身、あの場所にいたい。

 彼のとなりに。

 

 気づいたときには、口が自然に動いていた。

 

「……わたしも、手伝いたい。一緒に、特訓したいです」

 

 言った瞬間、胸の奥が少し軽くなった。

 その小さな勇気が、ほんの少しだけ自分を変えた気がした。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

「……わたしも、手伝いたい。一緒に特訓したいです」

 

 その言葉に、思わず瞬きをする。

 

「……どうして?」

 

 静かに問いかけると、トガちゃんは少しうつむいて、

 でも、しっかりと顔を上げて僕を見た。

 

 彼女の瞳は、真っすぐで、まるで決意の炎のように光っていた。

 

「ふくいん君は、いつもみんなを守ってる。

 でも……ふくいん君を守る人がいません。

 だから、ふくいん君がみんなを守るなら、わたしは、ふくいん君を守りたいです」

 

 言葉に迷いはなかった。

 小さな体で、それでもまっすぐに僕を見上げるその姿に、

 胸の奥が静かに熱くなる。

 

 守られるなんて、考えたこともなかった。

 でもその言葉が、なぜだか嬉しかった。

 

「……ありがとう、トガちゃん」

 

 自然と、そんな言葉がこぼれた。

 

 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

 まるで朝の光をそのまま閉じ込めたみたいな笑顔だった。

 

 僕は少しだけ目を細め、静かに頷く。

 

「じゃあ危なくない範囲で、一緒にやってみようか」

 

「はいっ!」

 

 トガちゃんは勢いよく返事をして、靴のつま先をトンと合わせた。

 その目はキラキラと輝いていて、どこかワクワクしているようにも見えた。

 

「まずは、走るところから始めよう。

 体を動かすのが基本だからね」

 

「了解です、先生!」

 

 子どものノリで敬礼をするトガちゃんに、思わず苦笑する。

 

「じゃあ、森の入り口から向こうの岩まで競争しようか」

「ふふん、負けませんよ!」

 

 僕が軽く構えると、彼女も地面を蹴る準備をした。

 風が一瞬止まる。

 

「──よーい、スタート!」

 

 二人の足音が、森の中を駆け抜けた。

 木漏れ日が地面に散り、土の匂いが鼻をくすぐる。

 僕はペースを落としながら、彼女の隣を走る。

 

「はぁ、はぁ……ふくいん君、はやっ……!」

「無理しなくていいよ、トガちゃん。楽しく続けるのが一番だから」

 

「うん……でも、がんばる!」

 

 そう言ってもう一歩を踏み出す彼女の姿に、

 なぜだか心が少しだけ軽くなる。

 

 あのヴィラン事件のあと、どこか張り詰めていた心の糸が、

 今、ゆっくりとほどけていくような気がした。

 

 誰かと一緒に前へ進む。

 ただそれだけで、こんなにも救われるものなんだな、と。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 トガちゃんと一緒に特訓するようになって、いくらかの時間が経った。

 最初にしたことは、僕の“今の姿”──量産機の形を彼女に見せることだった。

 その姿を説明しておけば、一緒のときでも個性の特訓ができると思ったからだ。

 

「じゃあ、見せるね」

 

 僕はゆっくりと深呼吸をし、意識を集中させる。

 体の内側にある光が広がり、皮膚が硬質化していく。

 光が収まったとき、そこにいたのは──白い装甲に包まれた、量産機の姿の僕。

 

「これが、今の“僕”だよ。

 体を動かすだけじゃなくて、この姿のまま動く練習をしてるんだ」

 

 そう説明した途端、トガちゃんは黙り込んだ。

 俯いた肩が小刻みに震えている。

 

「……トガちゃん?」

 

 恐る恐る声をかけると、彼女は顔を上げ、目を輝かせて言った。

 

「カァイイですっ!!」

 

「……は?」

 

 僕は思わず固まった。

 トガちゃんは首をかしげながら、不思議そうに僕を見る。

 

「どしてそんなに驚くんですか?」

 

「いや……“ウナギみたい”とか言われると思ってたから」

 

 そう言うと、彼女は少しだけ頬を膨らませた。

 

「ウナギって……そんなこと言いません! それに、戸惑ってるふくいん君もカァイイですよ」

 

「お、おぉう……」

 

 完全に押されて、思わず後ずさる。

 トガちゃんは楽しそうに笑いながら、くるりとその場で回った。

 

「これからも、その姿でいるんですか?」

 

「うん。特訓のためにも、この姿に慣れておこうと思ってる。

 普段から“この体”を使いこなせれば、いざという時に迷わないからね」

 

 トガちゃんは両手を合わせ、ぱっと笑顔になった。

 

「じゃあ、カァイイモードのふくいん君といられるのは、わたし嬉しいです!」

 

 僕は苦笑しながら頭をかいた。

 

(このリアクションは……エヴァがない世界だから、なんだろうな)

 

 それからの日々、僕らは森で特訓を続けた。

 内容は、遊びの延長線のようなものだった。

 森の不安定な足場を走り回り、追いかけっこや捕まえっこで、

 避ける、逃げる、飛ぶ──そんな動きを体に叩き込む。

 

 二人で特訓をすることで、

 一人では気づけなかった体の感覚や、動きの癖もわかってきた。

 そして何より──この“体”が少しずつ、自分のものになっていく実感があった。

 

 僕は枝の上に立ち、風を感じながら小さく呟いた。

 

「……もう少しだ」

 

 トガちゃんが下から笑顔で手を振る。

 その姿を見て、胸の奥の光がまた、少しだけ強くなった気がした。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 ある日、僕らはいつもの森の奥で新しい特訓を始めた。

 今日は量産機の姿のまま、“A.T.フィールド”の展開テストだ。

 

「トガちゃん、君は木の陰から石を投げてくれる?」

 

「いいけど、どうして?」

 

「咄嗟の攻撃に反応できるようにしたいんだ。

 誰かを守るためには、攻撃を“見てから”じゃ遅い。

 体が勝手に動くようにならないとね」

 

 トガちゃんはうなずき、森の中に軽く身を隠した。

 木漏れ日が揺れる。風の音。

 その静けさの中、彼女の小さな声が響く。

 

「いくよー!」

 

 次の瞬間、石が唸りを上げて飛んできた。

 反射的に左腕を上げる。

 オレンジ色の光が瞬き、A.T.フィールドが展開。

 石が“カンッ”と弾かれて地面に転がった。

 

「うん、いい感じ。じゃあ、今度は角度を変えて!」

 

「了解っ!」

 

 トガちゃんは木の間を縫うように動きながら、次々と石を投げる。

 僕はそれに合わせてフィールドを張り替え、

 飛んでくる方向を感知し、反応の精度を上げていく。

 

 けれど、これは僕の訓練だけじゃない。

 彼女のための練習でもある。

 

 もし、トガちゃんが“個性”を使ってヴィランと戦う時。

 そのとき彼女が必要なのは、真正面からの力比べじゃない。

 不意打ちで敵の血を奪い、変身して撹乱する勇気と、

 もし失敗しても、即座に逃げ切る反射の速さだ。

 

 だからこの訓練は、彼女に“ヒット&アウェイ”を体で覚えてもらう意味もあった。

 

「すごい! ふくいん君、ぜんぶ弾いてる!」

 

 トガちゃんが笑う。息を切らしながら、それでも楽しそうだった。

 

「トガちゃんも悪くない。動きが速くなってきたね」

 

「えへへ、ふくいん君が相手だから、がんばれちゃうんです」

 

 その言葉に、胸の奥がふっと熱くなる。

 僕は笑って、構えを取り直した。

 

「よし、もう少しだけ続けよう。次はこっちからも動くよ」

 

 風が再び森を駆け抜け、

 白と赤の影が木々の間を交差していく。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 特訓を続けていた、ある日のことだった。

 僕は量産機の姿のまま、A.T.フィールドの出力テストをしていた。

 

 光の層が空間に展開され、森の木漏れ日を反射してゆらめく。

 その出力を微調整していたその瞬間──。

 

「──っ!」

 

 指先から火花のような痛みが走った。

 誤って出力を上げすぎたらしい。

 硬質化した指の隙間から、じわりと赤い血が滲む。

 

 僕はすぐにフィールドを解除した。

 

「ふくいん君!? だ、大丈夫ですか!?」

 

 トガちゃんが慌てて駆け寄ってくる。

 

「ああ……平気。ちょっと出力を上げすぎただけだよ」

 

 僕は笑って見せる。

 指先から血が一滴、光を反射しながら落ちた。

 

 その瞬間、トガちゃんの体がぴくりと震えた。

 彼女の瞳孔がわずかに開き、心臓の音が聞こえるほど鼓動が高鳴る。

 

 そして次の瞬間──。

 

「……っ!?」

 

 トガちゃんは僕の反応が追いつくよりも早く動いた。

 白い指先を掴み、舌先で血を舐め取る。

 

「トガちゃん!?」

 

 思わず声が裏返る。

 

「ダメだよ、バッチいから、メッ!」

 

 僕が軽く怒ると、トガちゃんは少しだけ頬を赤くして言い訳した。

 

「だ、だって……ばい菌が入るといけないから、です!」

 

「そういうことにしておこうか。次からは、やめようね」

 

「……ごめんなさい」

 

 小さく肩をすぼめるトガちゃんの頭を、僕は優しく撫でた。

 

「大丈夫。今日はちょっと休もう。出力の確認もできたしね」

 

 そう言って笑うと、トガちゃんもようやく安心したように笑い返した。

 

 その日、僕らはそこで特訓を切り上げることにした。

 森の中を並んで歩く帰り道、トガちゃんはずっと無言だった。

 その表情の奥にある想いに、僕は気づかなかった。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 ふくいん君と特訓するようになってから、前よりも一緒にいる時間が増えた。

 森の中を走って、笑って、転んで──気がつくと、毎日があっという間に過ぎていく。

 

 わたしはそのことに、胸がいっぱいになるような幸せを感じていた。

 ふくいん君と過ごす時間は、わたしにとって何より大切な宝物だった。

 

 ……そんなある日のこと。

 

 特訓の途中で、ふくいん君が指をケガしてしまった。

 装甲の隙間から、赤い血がすっと流れた。

 

 その瞬間

 心臓が、ドクン、と痛いくらい鳴った。

 

 どうしてか分からない。

 でも、目の前がぐにゃりと歪んで、体が勝手に動いた。

 

 気づいたときには、わたしはふくいん君のそばにいて──

 彼の指先に舌を伸ばしていた。

 

 口の中に広がる鉄の味。

 それなのに、あたたかくて、優しい味がした。

 

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 幸せなような、くるしいような……そんな気持ちが一気に押し寄せた。

 

 そのとき。

 

「トガちゃん、ダメだよ。汚いから……メッ!」

 

 ハッとして顔を上げた。

 ふくいん君が、少し困ったように笑っていた。

 

「ば、ばい菌が入るといけないから、ですっ!」

 

 口から出た言葉は、自分でもびっくりするくらい早かった。

 嫌われたくなくて、ただそれだけで、とっさに言い訳をした。

 

 ふくいん君は少し驚いたあと、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。

 

「そっか。ありがとう。でも、次からはやめようね」

 

 そう言って、わたしの頭をぽんと撫でてくれた。

 

 その優しさに、胸がぎゅっと締めつけられた。

 

 その日の特訓はそれで終わった。

 家に帰っても、わたしの胸の高鳴りは止まらなかった。

 心臓の音が耳の奥で鳴り続けて、息が苦しいくらいだった。

 

 ──わたし、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。

 

 ベッドに寝転びながら、何度も自分に問いかけた。

 そして、気づいてしまった。

 

 わたし、大好きな人の血を飲んじゃったんだ。

 だから、こんなに幸せで、こんなに苦しいんだ──。

 

 その気持ちに戸惑いながら、

 わたしは必死に他のことを考えようとした。

 

 けれど、頭の中にはずっと、ふくいん君の笑顔と、あの味が残っていた。

 

 気づいたら、心臓の音がまだ鳴り止んでいなかった。

 落ち着こう、落ち着こうって、何度も深呼吸をしてみた。

 でも、ふくいん君のことを思い出すたびに胸が熱くなる。

 

 ──他のこと、考えよう。

 

 そう思って、わたしは個性のことを思い出した。

 最近、ふくいん君と特訓してて、変身に対する考え方が変わってきた。

 もしかしたら、今ならちゃんと変身できるかもしれない。

 

 ……でも、本人に黙ってやるのはダメ、だよね。

 わかってる。でも、でも──好きな人になることを、止められなかった。

 

「……念のために、服を脱いでっと」

 

 言い訳できるように、お風呂場で試すことにした。

 誰にも見られない場所なら、平気だと思ったから。

 

 湯気の立ちこめる中で、目を閉じる。

 頭の中に浮かべるのは、ふくいん君。

 

 ──やさしい声。

 ──あたたかい手。

 ──わたしを見るときの、やわらかい眼差し。

 ──そして、血の味。

 

 その全部を思い出した瞬間、体の奥が熱くなった。

 何かが、ゆっくりと形を変えていく。

 

 髪が肌に触れる感触が違う。

 手のひらが、わたしのものじゃないみたいに白い。

 胸の奥がトクトク鳴って、息が詰まる。

 

 ドキドキしながら、鏡を見る。

 

 そこに映っていたのは──ふくいん君の素顔じゃなかった。

 紫色と白のあの姿でもない。

 

 

 

 

 鏡の中のわたしは、知らない女の子だった。

 水色の髪。

 赤い瞳。

 透き通るような白い肌。

 冷たい、人形みたいな顔。

 

 わたしは思わず声を漏らした。

 

「……あなたは、誰?」

 

 鏡の中のその子は、静かに首をかしげて──まるで、わたしの心を映すように佇んでいた。




新世 福音(しんせい ふくいん)プロフィール ※第九話時点

年齢: 8歳
所属: 小学校2年生
個性名: 人造人間
身長: 約192cm(変身時)/185cm(素体時)


能力概要

感情の高まりに応じて“エヴァンゲリオン形態”へと変身。

現在確認されている形態は以下の二種。
初号機形態:高出力・短時間戦闘特化。ATフィールドが目視可能。
量産機形態:持続性重視の安定形態。

 ただし、いまだ完全に慣れてはいない。
 姿の維持自体はできるが、活動限界を超えると一定時間動けなくなるため、現在も特訓中。

 日常生活では依然として包帯姿で過ごしており、人前では個性の姿を隠している。


トガ ヒミコとの関係
 小学校1年生の時に出会い、それ以来の友人。
 お互い同い年である。
 “普通”でいられない彼女を受け入れ、彼女の笑顔を守ることを誓っている。




新しい姿を得たため、今回は主人公・新世福音の現時点でのプロフィールを掲載しました。
時系列的には、原作『僕のヒーローアカデミア』開始まであと約7年ほどあります。
正直がばがばな部分があると思いますので、設定やデータを順次更新していく予定です。
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