「喪失 焼尽」の回に自分なりの原作に登場したらこうかなという能力値を書いてみたのでよければ見てください。
あの悲劇から数年経って私の肉体も成長しカルムさんと同じくらいの背丈になった。
それでも、同等になったのは大きさだけ。それは戒めないと。
あの頃から大きく変わった事はといえば彼が使っていた武器が私には何にも言わずに変わっていた事ぐらいだろうか。
後は、白夜・黒昼なんて仰々しい名前の発光、停電事件が起きてL社が折れてしまったなんて事が広まったことだろうか。こんな辺鄙な裏路地にまで届くのだから、余程の被害だったのだろう。ここは電力を使う事があまりなかった事が幸いだ。
「代表。そこの次元棚に新しく増えていた謎の四角い物体はなんなんです」
事務所にある木の机に肘を置き、頬杖をつきながら彼に話しかける。
「ああ、あれは新しく俺が買った武器だ」
「何故か共有部分の金が減ってたのそのせいですか」
せっかく工房の新製品を教えてあげようと思ったのに。二つセットだからちょうど良かったのにな。
一つ胸の内で悪態を吐きながら彼を見つめる。
「すまない。個人での金じゃほんの少し足らなかったんだ。後日しっかりと耳を揃えて返す」
代表は手で顔を覆いながら、私の隣を見て言った。
まあ、ほんの少ししか減っていなかったからそれは事実か。あれ、でも代表の資産って。
「すみません、代表の資産って裏路地の家が数軒立つくらいでしたよね。それで足りなかったんですか」
私が彼にそう詰め寄ると彼は椅子を半周させ私に対して背を向けた。空気を口から抜きながら。
この人露骨に顔を逸らしやがった。
「私あれが終わってからあなたとの約束で一つ目に無駄遣いするなって言われたんですけど。それ忘れたんですか」
ぼんやりと頭の中にある規律がこういう時にだけすらすらと出てくる事に大きくため息が溢れる。
「無駄遣いでは、ない、ないんだ。ただ高額だったんだ」
白髪混じりの頭から弁明が聞こえてくる。
いや、それは貴方が使い込んだ金の量を考えれば高額なのは明らかですけど。
「それは分かりました。でも、その前に何か一報入れてくれてもよかったじゃないですか」
「それはそうだ、だが、秘匿要件が多すぎてな。身内にも言ってはならない契約だったんだ」
一級のこの人が秘匿を迫られるのなら、それはそれは危険な綱渡りだったのだろう。これ以上首を突っ込むべきではないんだろうな。
「はあ、そういう事ならもう聞きません。私も我が身は可愛いですし」
「ああ、そうしてくれると嬉しい」
問答が終わり、彼も私も武器の整備や協会から提示された依頼を吟味しどれに赴くかを考える。
なりふり構わず依頼に飛びつく必要がなくなってから、自分がどれだけ幸運であるかを嫌でも思い知らされる。それはそれとして、私は自分の命題に対して素直にならないといけない。
武力を、どんな火花も刃も銃弾を跳ね除ける力を身につけないと。
自分の満足のいく依頼が見つからないまま、しばらくしていると机の上に用意していた飲み物が空になってしまった。
席を立って新しく水を汲みに行こうとした時に、代表のコップも空なことに気がついた。
「これ汲み直してきましょうか」そう尋ねると彼ははっとした様子でこちらに目を向け、コップをほんの少し自分の下へ引き寄せた。
軽い拒絶をされ、私の心に何かしらの悪感情が湧き出て来るのを嫌でも感じる。でも、不思議とそれに対して厭う気は起こらなかった。
あの人が私を脅威と見做したと、自分の格が少しだけ上がっているのかもしれないと感じる事ができたからだと思う。
心の中で下卑た笑みが浮かびそうになる。顔にまで出ないように気をつけて、倉庫へと向かった。
倉庫の中は、木箱や金属の箱など色々な形や色、素材でできた容器が仕切りによって分かれ配列されている。
私はその中から青黒い容器を選び、蓋を開ける。昔は重く感じていただろう箱が今はこんなにも軽く感じる。変わってしまった事に謎の懐古を身に染みた。
冷気が漏れ出してくる中から、ガラス瓶を取り出してコップへと注ぐ。足元に垂れる冷気が、気持ちいい。
冷気の量が少なくなってきたのか、段々と冷たさが引いてきた。
いけない、冷やすためのお金がもったいないのに。慌てて蓋を閉め、リビングへと踵を返した。
リビングに戻ると、代表がデスクにあるファイリングされた紙束の中から一枚の紙を私に対して差し出してきた。
「これは?」
私は戸惑いを押し出しながらその紙を受け取り、読み込み始める。レンナ・へーゲルンという人物が依頼主の様だ。しかし、護衛依頼というのに一切の殺害を禁じるという要項が書かれていることに違和感が生じる。
「見ればわかると思うが、依頼の要件だ。護衛の依頼それも、指の人間のだ」
え?この依頼者のレンナという人は指の人間なの?なんでわざわざ私達に依頼を出したんだ。
「顔に動揺がはっきりと写っているぞ。はあ、俺もよく分からん。確かに一度こいつとは会った事があるが、それだけだ。しかも俺の事務所じゃなく、リィンお前宛の依頼だ」
ため息を吐きながら、頭を抱えている代表を見るのは少し珍しい。いつもなら何も言わずに淡々とするだろうに。
しかし、代表の言葉と資料の内容のせいで私の中の困惑が一層増し、頭の中に疑問の渦が巻き起こっているのを感じる。どうして、こんな貧乏くじを引かなくちゃいけないだろう。しかも護衛依頼なんて一番つまらないし、報酬も割に合わないのに。実際これも拘束時間の割に額が少ない。でも、指の人間の依頼なんて断ったらどんな目に遭うか分からない。実際は一択の問いかけを押し付けられる事はあの時も感じた事だけど、不快極まりない。
「そもそも、代表が指と関わりがあるなんて聞いた事がありません」
「親指なんて、関わるだけ無駄だろう」
まあ、それは確かに。
礼儀がなんだとか言いながら、礼を相手に教えることなんてなく一方的に自分の裁量で人を害する邪道を真理に掲げている奴らなんて関わるだけ損だ。
「でも、行かないとダメですよね。中指程じゃないけど難癖つけてきそうですし」
自分で言っておいてだけど、本当に考えたくない。強さを見れることは嬉しいことだけれど、それに轢き潰されるなんて御免だ。
「ああ、すまない。行ってくれるか」
「もちろん。割には合わないかもですけど、糧にはなるでしょうし」
紙をペラペラと鳴らしながら、わざとらしく答える。本当はできるなら行きたくない。
でも、無駄なことなんてないと信じている私は、片っ端から糧を得に奔走しなけれなばならない。あの日の誓いを反故にしてはならないんだ。
依頼を受領することが決まったので、ハナの支部へその旨を伝えに来た。
あの時のことを思い出す。あの血吸い人に殺されたクレスさんのことを。私の両親のことを。そして、自分の中にある人を食うことに対する好感を。
白を基調としたコートに四卦という紋様を肩に付けた職員と会話をしながら、過去のことを思い巡らしていると見たことのある顔が視界の端に映った。
「彼女は裏路地23区の8番通りA-4の付近で当日はいるそうです。これが、虚偽であろうと私たちは一切の責任を取りませんのであしからず」
何度も聞いた決まり文句を聞き流し、見覚えのある顔の下へと足を進める。
「やあ、あの時ぶりかな?生きてたんだ」
あの時私に両親が血鬼を取り逃がしたからここに来たと言い放った、女の子だ。昔よりも、背丈は大きくなったいるけれど頬は少なからずこけ、生気が薄い様に感じられる。身につけている服や武器も見窄らしいし、どうやって生きてきたのだろうか。
そう思っているのはあちらも同じだろうか。
「ええ、何とか生きているわ。貴方の方こそよく生きてたわね。あんな風に自分で死にに行くような事をして」
「運が良かっただけだよ」
そう、運が良かっただけなのだ。たまたま強いフィクサーが知り合いに居て、たまたまその人たちが優しかった。たったそれだけの話なんだ。
「は、そう。上位フィクサーの娘は謙遜なんて技術を身につけているのね」
「あはは、別にここで貴方を殺したっていいんだよ?職員に止められるかもしれないけど」
そう言うと、彼女は目に見えて震え出した。あの時いた連れ合いが一人もいないことから察すると軒並み死んだのだろうか。その考えは流石に早計かな。
「冗談だよ。貴女を殺したところでなんの得なんてないんだから。でも、顔見知りだからって馬鹿な冗談はよした方が良いと思うよ」
「その通りね、いつ死ぬか分からないけど胸に刻んでおくわ」
そう言って私を通り過ぎ、受付へと足を進めていった。
私は彼女に見えないように手を振りながら出口へと歩いていった。
少し文体を柔らかめ?にしてみました。
面白ければお気に入り等してくだされば嬉しいです。自分の作品が何か触れたという事なので