ジュードとミラが研究所に侵入してしまってから、何分か経過した。大して経ってはいないと思う。
俺は自宅に戻り、愛用の武器を持ち出した。イル・ファンに来てからも鍛錬を欠かさず行い、町の外に出て魔物を狩ることも多々あったので、俺の腕は衰えていないはずだ。この武器は何年も使っているが、未だに刃毀れがない素晴らしいものだ。
どんな武器なのかというと、かなり大きな鎌。俗には大鎌と言われるものだ。
ついでに言えば、銘はシュヴァルツ。名の通り、漆黒という言葉が相応しい程の黒色だ。
その武器を持った俺は、急いで研究所の近くに戻る。するとタイミングよく、水の中から二つの人影が見えた。ジュードとミラだ。明らかに泳げないミラを、ジュードが担ぎながら泳いでいる。器用なやつだな……。
「ほらジュード、掴まれ」
「あ、ゼニス……ありがとう」
浮かんできたジュードに手を伸ばして助け出す。助けなくても大丈夫だっただろうけど、人一人抱えて水から出るのは大変だろう。
……ジュードのついでにミラも引き上げることにしよう。
「ほれ、そっちのあんたも」
「む、誰だか知らないがすまない。助かる」
「ミラ、泳げないんだね。大丈夫?」
「こほっ。ウンディーネのようにはいかないものだな」
「やっぱり、四大精霊の力が消えたんだ……ねぇ、これからどうするの? 精霊の力が無いと、あの装置はきっと壊せないよ」
「あいつらの力、か。ニ・アケリアに戻れば、あるいは……世話をかけたな、ジュード。ありがとう。君は家に帰るといい」
「あ……」
ジュードの質問には答えず、自己完結してから礼を言ってミラは立ち去った。
……俺、またしても会話に参加してない。
「……ジュード。四大精霊やら装置とかいろんな単語が出てきたが……一体何なんだ?」
その答えは知っているが、あえて知らないふりをする。
「あ、それは……」
ジュードは答えようかどうしようか迷ったみたいだが、事の顛末を教えてくれた。
教授が死んでしまったことや、それを見た直後に赤い服を着た銀髪の少女に殺されかけたこと。そしてミラがその少女から助けてくれたこと。等々だ。
しかし赤い服を着た銀髪の少女って、間違いなくアイツだよな? 行かなくてよかった。あいつとは敵対しているわけではないが、あれはある意味敵対関係よりも面倒な間柄だ。
話を聞き終わり、階段を上る。すると目の前に、兵士と対峙しているミラがいた。
「ミラ!」
「不用意だな、ジュード。無関係を装えばよいものを」
ミラが驚いてそう言うが、全くもってその通りだ。
「貴様らも仲間か!」
ほれ、兵士さんに仲間認定されちゃったよ。つか貴様らって、貴様”ら”って、俺もかよ? すんごいとばっちりを食ったんだけど。
そしてミラが兵士に向かって斬りつけるが、大振りすぎて簡単に避けられる。
「ちょ! ミラ、剣使ったことないの?」
「うむ。今までは四大の力に頼って振っていたからな。あいつらの力がないと、こうも違うとは……」
その言葉を聞き、ジュードが俯く。
「覚悟しろ!」
「もう!」
どうやら覚悟は決まったらしく、ジュードは兵士に立ち向かっていく。
……『もう!』と言いたいのはこっちだ。
兵士の装備品は槍と盾。対するジュードは拳で、ミラは不器用な剣。ジュードがもう少し成長すれば簡単に勝てるだろうが、少し苦戦している。鎧相手に拳はきついよなぁ。
「はぁ……恨みはないんだけど、悪いね。魔神剣!」
俺は三人の間に入っていき、持ってきていた大鎌を下から振って斬撃を放つ。
この技はテイルズシリーズの中で、最もメジャーだ。テイルズを一つでもやったことがあれば、誰でも知っていると思う。
……ん? 武器が大鎌なのに、なんで『魔神剣』なのかって?
まあそこは余り気にしないでほしい。他作品でも武器が斧、槍、杖なのに魔神剣を使ってる人がいるんだから。『改』とか『烈』とか『超』とか『殺』とかが付属されるけど。
それはともかく、俺の攻撃は見事に命中し、兵士を鎧ごと切り裂いた。切り裂かれた兵士は倒れたので、死なない内に精霊術で回復させておく。
「はぁ、はぁ。何やってるんだろう、僕は……」
「重ね重ねすまない。ジュード、助かった。それに君も」
「どういたしまして。あと俺の名前はゼニスだ。君、じゃない」
「そうか、私はミラ。ミラ=マクスウェルだ」
こんな簡単に名前を教えてもいいのだろうか。自分から精霊の主だと名乗るとは。まあ俺は知らない振りをするのだが。
「精霊の主と同じ名前とは珍しいな」
「同じ名前というより、本人だからな」
折角気を遣ってやったのに……。
「それよりもミラ、とにかく急いでイル・ファンを離れた方が良いと思うよ」
「そうしよう。ではな」
素っ気なくミラは出口に行こうとするが、ジュードがそこに注意する。
「街の入り口は、警備員がチェックしていることが多いんだ。海停の方が安全だと思うよ」
「む、そうか」
ミラは返事をするも、周囲を見てから首を傾げる。
「……海停、知らないんだね。こっち」
出た、ジュードのお節介。これはジュードの良い所なんだけど、これが原因で危険へ足を突っ込むことになるんだよね……これから。
「すまない、世話になる」
「ううん。助けてもらったお礼。海停まで送るよ。海停はここから街のちょうど反対側なんだ。まず中央広場へ向かおう」
二人はそう言って歩き出すのだが、またしても俺は蚊帳の外。泣いてもいいっすかね? 別に泣かないけどさ。取り敢えず二人についていくことにした。
「そう言えばゼニス、何でそんなものを持ってるの? さっきまで持ってなかったのに」
ジュードが言った「そんなもの」とは、俺の愛鎌・シュヴァルツのことだ。
「お前がミラ嬢を追って行ったのは見えててな。な~んか嫌な予感がしたから、家に帰って持ってきたんだ。その予感は見事的中したみたいだけどな」
……俺のミラへの呼び方は気にするな。単なる気分だ。
「ふむ。だがそのおかげで私とジュードは助かったのだ。改めて礼を言おう、ゼニス」
「僕からもありがとう、ゼニス」
「どういたしまして。にしても精霊の主ねぇ。そうは見えないけど、どうせ本当なんだろうな……」
「おや、君は信じるのか? ジュードは最初、疑っていたのだがな」
「ジュードから大体の話は聞いた。その時に四大精霊を使役してたって聞いたし、さっきクシャミして、『イフリートがいれば』って言ってたからな。服を乾かすだけで火の大精霊を、なんて言ってるのを聞いたし、俺が助けた時もウンディーネがどうのこうのって言ってただろ? ただの『大精霊がいれば』という願望にも聞こえるけど、それに加えてジュードの話を聞けば信じるしかないだろ」
それに、俺の場合は知識があるしな。ほとんど忘れたけど、重要な部分はさすがに忘れていない。
それからもしばらく走り、海停へと到着した。状況からして、船もあと少しで出港するようだ。そして海停を歩いて船へ行こうとした時、突然怒鳴られた。
「そこの3人、待て!」
「え……何!?」
またしても兵士だ。つーか何で俺も? 俺の横で驚いているジュードは、まだ分かる。研究所に侵入してしまったんだから。ミラもそれに同じ。でも俺は何で? さっきの兵士を倒したから?
「先生? タリム医学校のジュード先生? それにゼニス先生……」
「あなた……エデさん? 何がどうなってるんですか?」
向かってきた兵士の一人は、今日俺たちが診察したエデさんだった。唯一ヘルムを被ってないのですぐにわかった。
それと遠回しに何こっちを見てんだ野次馬共。見世物じゃねぇぞ。
「先生が要逮捕者だなんて……ジュード・マティス、逮捕状が出ている。そっちの女もだ。軍特法により応戦許可も出ている。抵抗しないでほしい。ゼニス先生、貴方は一緒にいるようですが、逮捕対象者ではありません。ですが一応、重要参考人としてこちらに来てはくれませんか?」
俺は違う? あ、研究所に入ってないからか? でも行くのは面倒だなぁ。
「ま、待ってください! た、確かに迷惑をかけるようなことはしたけど、それだけで重罪だなんて……!」
兵士はジュードのその言葉には耳を貸さず、武器を構えてくる。俺は無罪らしい。が、もし俺の立場がバレれば重罪なんだけどな。だから兵士の皆さんとは話したくない。
俺の立場って何なのかって? 今は秘密。いずれ分かると思う。
「問答無用ということのようだ」
「エデさんっ!」
「悪いが。それが俺の仕事だ」
仕事と私事はしっかりと分別する、ということか。
俺には分からないな……俺、本当の仕事をサボってイル・ファンで医者していたもの。本当の仕事が何かって? これも秘密。
……秘密だらけですみません。
「ジュード、私は捕まるわけにはいかない。すまないが抵抗するぞ」
「……抵抗意思を確認。応戦しろ!」
エデさんの言葉で、彼の部下がファイアボールを放った。ミラとジュードはそれを避け、その後ろにいた俺も避ける。その光景を目にして、一般市民はどんどん逃げて行った。
というかおい、俺は対象外だろ。もう少し気を付けろよ。
「さらばだジュードとゼニス。本当に迷惑をかけた」
船の汽笛が聞こえ、ミラがそちらへ走っていく。船が出港していくのが見えたらしい。もう行ってしまった。
「さあ、先生。抵抗したら、その分罪は重くなりますよ」
「僕は、僕はただ……」
抵抗する意思なしと見たのか、ジュードに詰め寄る兵士たち。だがあと少しで捕まるというところで、助けようと俺が動き……始めようとしたのだが、横から乱入者が現れた。
その乱入者は兵士を殴り倒していき、言葉を放った。
「軍はお硬いねぇ。女と子どもとプラス1相手に大人げないったら」
……ん? おい、プラス1ってまさか俺のことか?
「あ、あなたは……?」
「おっと。話はあとな。連れの美人が行っちまうよ?」
「でも、僕は……!」
「軍に逮捕状が出て、特法まで適用されている。つまりお前はSランク犯罪人扱いだ。このままだと極刑だぞ、ジュード」
「そっちの兄ちゃんの言う通りだ」
「そんな!」
今日は驚いてばっかだなジュード君。というかこれ以上の厄日はそうそうないだろう。
というか俺も今日は厄日か? 今のを見て周りの兵士が集まって来たし。
一緒に行かないと街を出る機会を逃すので、俺は二人と共に船に向かう。この街でやり過ごしたことなんて……一つを残してないからな!
先ほど乱入してきた男がジュードの腰を掴み、船に向かって勢いよく跳躍。あの脚力は素直に凄いと思う。俺も足に自信はあるが、跳躍力は特に鍛えてないのでそんなにない。今後から訓練するとしよう。
それでどうやって船に乗り込むのかだが……よし、こうするか。
とある方法で俺が船に着くと、さっきの乱入者が自己紹介をしていた。やはりというか、彼の名前はアルヴィンというらしい。
「こっちはミラ。それでこっちがゼニス」
「今紹介されたゼニスだ。よろしく、アルヴィン」
「よろしくな。そして……」
アルヴィンはジュードの肩に手を乗せ、優しくこう言った。
「がんばったな」
俯きながらも、ジュードは頷く。
ただの一般人がこんな目に合ったのだから、本当に頑張ったと俺も思う。
そしてその後の俺たちを待っていたのが、船長による長い尋問だった。ま、犯罪者かもしれない輩を、自分の船に乗せたくないよな。特にミラは身分を示す物がないので、かなり時間がかかった。アルヴィンは愚痴を言うが、俺はその辺納得している。
「ア・ジュール行きだなんて……外国だよ……」
そんな中、一人落ち込んでいる人物がいる。ジュードだ。
「見ろよ。イル・ファンの霊勢が終わるぞ」
アルヴィンそう言った直後、夜のようだった空は瞬く間に青空へ変わった。
これはイル・ファン周囲にある霊勢が夜域という特殊な霊勢であり、その領域を出たから青空になった、という理屈だ。
「にしても、医学生と医者だったとはね。ちょっと驚いたよ」
俺が医者だったら驚くのか? それ失礼じゃね?
「ねぇ、聞いていい? どうして助けてくれたの? あの状況じゃ、普通助けないよ」
「金になるから」
ジュードの問いに、アルヴィンは即答する。ここまで早い返答も珍しい。
「私たちを助けることが、なぜそうなるのだ?」
「あんたらみたいなのが軍に追われてるってことは、相当やばい境遇だ。そいつを助けたとなりゃ、金をせびれるだろ?」
「でも、僕、お金ほとんど持ってないよ」
「生憎、私もだ」
「そして俺もそうだ。九割方俺ん家にある」
俺は犯罪者扱いされてないから、押収されることもないだろうけど。でもまあ、それはイル・ファンで稼いだ金だ。俺の他の家には、もっとあるけどな。100万以上。
いや、そもそも助けられる必要が無かった俺は払う義務もないか。
「マジか……なら値打ちもんでもありゃ、それで引き受けるぜ?」
「ないよ。あんな状況だったんだ」
「高く取引されそうなものなどないだろうな」
「俺はこの武器くらいだが……これは駄目だ。とても手放せない」
これ以上に大切な物はないからな。命とかは別として。
「ねぇ、アルヴィンって何してる人? 軍人みたいだけど……ちょっと違う感じだしさ」
「ジュード。今の取引の仕方からして、アルヴィンはおそらく傭兵だ」
「お、ゼニス正解。金は頂くが、人助けをするすばらしい仕事」
「ふむ。それは感心なことだ」
ミラは感心するが……そう素晴らしいものじゃないと思うけどな。金次第で敵にも仲間にもなるわけだし。あぁ、別に傭兵やアルヴィンを否定してるわけじゃないからな?
「にしても、ゼニスは俺が何をしているのか、よくわかったな」
「そりゃ、俺も医者の前は傭兵だったからな」
「えっ!? そうなの!?」
「ああ。傭兵の時に得た医療知識を使って、医者になったんだ。場合によっちゃ、こっちの方が儲かるし。だからこんな武器も持ってるんだよ。当時使ってたからな」
「どうりでな……しかし、しゃあないか。ア・ジュールで仕事でも探すか」
「すまなかったな」
金がないことミラが謝り、しばらく沈黙が続く。そこで俺はもう喋ることはないと判断し、勝手に物置部屋を借りて寝ることにした。最近は忙しくてあまり寝れなかったから、船から降りるまで寝ようと思ったからだ。
――船を降りる少し前のチャット――
出演者:ゼニス・ジュード・ミラ・アルヴィン
ジ「そういえばさ、ゼニスはどうやって乗船したの?」
ミ「ふむ、それは私も気になっていた。ジュードとアルヴィンは飛び乗ったのを見たが、ゼニスは気が付いたら既にいたからな」
ゼ「俺はアルヴィンほどジャンプには自信がないんでね、違う方法を使ったんだよ」
ア「違う方法? どんなだ?」
ゼ「なに、ただ水上を走っただけだ」
ア「……すまん。もう一度言ってくれるか? どこをどうしたって?」
ゼ「水上を、海の上を走って船に追いついた。ただそれだけだ。海からジャンプした方が近かったからな。だがこれからはこういう時のために跳躍力も上げなくては……ちょっと練習してくる。時間になったら教えてくれ」
~ゼニス退場~
ア「……なあジュード君? 彼、本当に人間?」
ジ「た、たぶん」
ミ「どうやら私は人間を見誤っていたようだ。まさかそのようなことが可能とは……」
ジ「いや、普通はできないから、そんなの」