イラート間道をしばらく北上し続けていると、ちゃんと村に着くことが出来た。これはいかにも田舎って感じだ。
「果物がいっぱいだ。甘い匂いがするね」
「酒の匂いもな。果樹園でもやってるんじゃないか」
「……ここの酒、飲んでみてぇな。美味そうな匂いだ」
俺って結構酒好きなんだよね。今度来た時に飲もうかな?
……おっと、誰かが来た。見た目からして村長か?
「おやまぁ、こんな村にお客さんとは珍しい」
「おばあさん、村の人?」
「村長をやっとります」
よし、俺、正解。やっぱり
………鬱だ。果てしなくごめんなさい。
「ニ・アケリアへ行くには、この道であっているか?」
「ニ・アケリアとは、またずいぶん懐かしい名を」
鬱状態になった俺に誰も気が付くことはなく、会話は進んでいく。
今の俺はどんななのかって? orz←になってる。だ~れも気付いてくれないってのはさ、かなり寂しいもんだよ。
「どういう意味?」
「忘れられた村の名じゃ。今ではあるかどうかもわからん。子供の頃に、キジル海漠の先にあると聞きましたが……」
「キジル海漠?」
「………大きな滝のことだ。ニ・アケリアに行くまでには、半端なく起伏の激しい岩場を通り抜ける必要がある。確かそうでしたよね、村長さん?」
「おお、その通りですじゃ」
俺、何とか鬱から復帰。まだ厳しいけど頑張れる。
「え? 何でゼニスが知ってるの?」
「前に一度、ニ・アケリアの近くに行ったことがある。その時に俺も通ったからだ。この村には来たことなかったけどな。とにかく、あそこを通るなら少しは休む必要があると思うぞ? かなり厳しい場所だ」
「ふむ。経験者がそう言うのであれば、そうなのだろうな」
「村には宿がないですからの。私の家に空き部屋があるので、使ってくださっても構いませんぞ」
「おばあさん。ありがとうございます」
ということで、今夜は村長さんの家に泊まることが決まった。だがまだ寝る時間ではないので、俺は一人で村を探索していた。
……すぐに飽きて、家に行くことになったけど。
翌朝、目が覚めて外に出ると、ジュードがミラと何かを話していた。聞き耳を立てると、
だがしばらくすると、村の入口付近が妙に騒がしくなった。何かと思って見てみると、なんとラ・シュガルの兵士がいた。もう追って来たらしい。
って、あれ? 知っている大男に似ている後ろ姿が………あ、やべぇ。ジャオだ。
「どうやら、これ以上のんびりしてるわけにもいかなそうだ」
いつの間にかジュードとミラのところへアルヴィンがいて、そう言った。俺もすぐに、三人のところへ向かう。
「やっぱり僕たちを追って来たんだよね……」
「さてな。国外捜査には早すぎる気もするけど」
「尋ねるわけにもいかないからな。どちらにしても見つかる前に出よう」
「ああ。村の西に出口があった。キジル海漠はあっちだろうな」
「出口が分かってるなら、さっさと出るぞ」
そこで俺たちは会話を止め、駆けだした。俺は今非常に焦っている。なので、村から早く出たい。ジャオに見つかる前に、早く。
村の西に着くとジュードが少し遅れてきたが、ちゃんと追いついてきた。何かしていたのだろうか? そして出口から出ようと思うが、そこで問題が発生した。兵士が既に待ち伏せしていたのだ。くそったれ、ジャオに見つかるじゃねぇかよ!
「もう兵士がいる」
「どうするよ?」
「強行突破だ」
「その案、賛成」
アルヴィンの質問にミラが即答し、俺も賛成する。何回も言ってるけどさ、早くここから出たいんだよ! ハリー! ハリー! ポッター!
……ごめんなさい。
「うん。僕もこれ以上集まる前に抜けちゃった方がいいと思う」
「短い作戦会議だこと」
それで俺たちは突撃しようとするが、後ろから声が聞こえた。
「あ、あの……」
「女の子?」
そう、話しかけてきたのは女の子だった。
「え、えと………なにしてる……んですか?」
「ふむ。邪魔な兵士をどうするか、考えていたところだ」
「……直球だね」
「さすがはミラ嬢」
ミラの言葉にジュードが少し呆れ、俺が称賛する。普通は言えねぇよ、そんなふうには。
「あの人たち、邪魔……なんですね」
彼女は何とも思わなかったのか、腕の中のぬいぐるみを見やる。するとそのぬいぐるみは目を見開き、突然動き出した。俺を含め、全員が驚く。知ってても怖いよこれ。何せ、無機物が突然動くんだもの。
「うわ! なんだこれ! ひぃ!」
「これは……」
そのぬいぐるみは兵士の頭上をフワフワと浮かび、兵士はそれに恐怖する。まあ、怖がってしまう気持ちは分かる。俺でも、何も知らなかったらビビる自信がある。
それを見たアルヴィンが意味深に呟くが、俺以外には聞こえなかったようだ。アルヴィンはあれを知ってるのかね?
「どうなってるの? ぬいぐるみが??」
見た目はただの……否、ちょっと怖いぬいぐるみが勝手に動くことに、ジュードは驚いている。ジュードだけでなく、ミラも驚いているだろう。
……それはそうと、近くに黄色い服を着た、横にも縦にもデカい巨漢がいる。とか言って現実逃避している場合じゃないか。はあ、ジャオが来ちまった。
「ここで何をしておる……っ!? お前さん、まさか……」
そこまでジャオは言ったが、俺は口元に人差し指を持っていく。黙って欲しいときによくつかう仕草だ。俺以外にもこれを使う人はいるはず。
ジャオはそれに目で頷き、顔を女の子の方へ向けた。
「こら、娘っ子。小屋を出てはならんというに。ラ・シュガルもんめ、勝手な真似を」
エリーゼに注意してから、兵士を見てそちらへ走って行った。その圧倒的な強さで兵士をハンマーで殴り倒している。今日の見張り役、かなり哀れだ。
そして先程の女の子は、その間に村の広場へ行ってしまった。
「娘っ子は、どこへ行った?」
「あの娘なら、広場へ行ったぞ」
「なに? い、いかん! お前たちよそ者だな。ならとっとと行ってしまえ」
エリーゼが広場に行ったことを伝えるとジャオは一瞬焦り、俺以外を見ながら、さっさと行けと乱暴に言ってから走り去った。
……一瞬俺のことを見た気がしたが……気のせいだろ。うん、気のせいだと思いたい。
「よくわかんないけど、手間省けたみたいだな」
「なら、早く出よう」
ジュードの提案にみんなが頷き、急ぎ足で村から出る。それにしても……結局ジャオの奴に見つかっちまったよ。後がめんどくさいっ!
「なあゼニス、あのおっさんと知り合いなわけ? おたくを見て驚いてたけど」
「知り合い……まあ、一応知り合いだな」
ハ・ミルを出ると、そこはガリー間道という道だった。進んでいるときにアルヴィンに聞かれたのでそう答えた。
この間道はそこまで長い道ではなく、起伏も乏しいので歩くのに全く問題ない道だった。あと今までより多少魔物が強い気がするが、俺には関係ない。ジュードやミラに戦わせているからな。俺はそれを傍観中。
「ね、ねえ。少しはゼニスも戦ってくれない?」
「何を言うか。俺は今も必死に戦っているぞ! ……睡魔と」
「ゼニスは何回寝れば気が済むのだ?」
「一日中寝ることができれば満足」
「おい、おたくは一応医者だろ。健康に悪いことしていいのか?」
「む? 一日中寝るのは健康に悪いのか? 寝る子は育つと聞いたが」
「えっとね、ミラ。それは赤ちゃんのことで、そもそも人間は………」
「ちょっと待て。一応って何だ、一応って。俺は立派な医者だ」
「……へぇ。立派な医者、ねぇ」
ジュードがミラに何か色々教え始めたけど、ああそうでしたね、常識に疎いんでしたね、このマクスウェル嬢は。それにしてもいやほんと、最近マジで眠いんだって。
そしてアルヴィン、貴様は失礼だな。何だその目は。
そんな会話も入れつつ、間道を東から西へ渡っていく。そして到着したのが、一面水だらけの岩場、キバル海漠。ここを超えれば、今の所の目的地、ニ・アケリアだ。幸い、ラ・シュガルの連中もここまでは追って来ていない。
「村の人たちに、悪いことしちゃったね……よくしてくれたのに」
「ラ・シュガル兵が来てるんだ。逃げるが勝ちってな」
「どうするか決めたのは、彼らだ」
「僕らを守ってくれたのかもしれないんだし、そんな言い方しなくても……」
これを言うのも何回目か分からんが、言わせてもらおう。ジュードはお節介だなぁ。
最近稀に見る、本当に優しい心の持ち主なんだろうけど、これが原因で医学院では陰口叩かれてたしなぁ。また間接的に注意しとくか。
「ジュード、今更言っても遅い。もう過ぎたことだし、気になるなら戻ればいい」
「ふむ、それもいいだろう。短い付き合いだったが、色々感謝している」
「どうしてそうなの?」
「……もっと感傷的になって欲しいのか?」
ミラのその言い方に、ジュードは気になったらしい。まあミラも悪いとまではいかないけど、ちょっとな……。
ミラはミラで、精霊の主としての使命がある。だからこそ、人間の言葉にもあるが感傷に浸っている暇はない、ということらしい。
「……使命があるから?」
「そうだな」
「やるべきことのためには感傷的になっちゃいけないの?」
「人は感傷的になっても、なすべきことをなせるものなのか?」
「わからないよ。そんなの……やってみないと……」
わからないと答えるジュードに、ミラは優しく微笑んだ。
「なら、やってみたらどうだ? 君のなすべきことを、そのままの君で。それなら答えが出るかもしれない」
そこまで言うと、ミラは後ろを向き、周囲を見渡し始めた。
「僕のなすべきこと……」
「マクスウェル様のようになる必要はないだろうさ。普通、ああはなれないって」
「俺も、アルヴィンの言葉に同意するよ。俺だってミラ嬢のようにはとてもなれん」
俺達の言葉に、ジュードは少し考える仕草をする。
「ねえ、二人にはなすべきことってある?」
「……さて、な。あるって言ったら余計迷うだろ。ジュード君」
「え?」
「そうそう。お前のことだから、僕も決めなきゃ~って悩むだろ。な、アルヴィン?」
「ああ、全くだ。そんな姿が目に浮かぶよ」
「…………」
俺とアルヴィンの軽口に、ジュードが睨んできた。怖い怖い。
「んで、どうすんの? 村に戻る?」
「……ううん」
「んじゃ、行こうぜ」
アルヴィンの問いに、ミラを見ながらしばらくジュードは黙った。だが答えは決まったらしく否定の言葉を口にする。決心を固めたようだ。ほんと、気持ちの切り替えが早い。
それにこんな流れを見てると、アルヴィンが良い兄貴分に見えてくるから面白い。実際には腹の中で何を考えているのか知らんがね。
……まあ、俺も人のことはいえないけどな。