キジル海漠は今までに見かけない魔物だらけだった。ほとんどが水に棲む魔物で、攻撃方法も水の精霊術や泡飛ばし。もしくは体当たりくらいだ。
しかもキジル海漠は特殊な霊勢下にあるので地形も奇異であり、槍のような岩が地面から生えている。そのせいなのか段差が激しく、進むのが一苦労。
それでもめげずに奥へ進んでいくと、大きな滝のある場所まで到達した。
「もうすぐニ・アケリアか~。どんなところなんだろう? いいところなの?」
「うむ。私は気に入っている。瞑想すると力が研ぎ澄まされる気がする。落ち着けるところだ」
「へぇ~」
ジュードとミラの会話を、俺はその後ろで聞いていた。ニ・アケリアは俺も行ったことのない場所なので、結構楽しみにしている。
と、そこでアルヴィンが両手を上げてこう言った。
「ちょっと休憩。岩場歩きで足痛ぇ」
「到着してから、休めばいいだろう?」
「そう言うなって。ニ・アケリアは逃げやしないさ。な? 休もうぜ?」
「あ、うん。じゃあ、そうしようか」
ジュードの肩にアルヴィンが手を置いて、休むように催促する。ジュードは『ノー』と言えないリーゼ・マクシア人(?)なので、それに賛成した。よって休むことになったが、俺は特にすることがなかった。なので適当な岩を椅子代わりにして座り、海中を泳ぐ魚を見ていた。これが結構癒される。
……魚と言っても魔物もいるが。目がギョロギョロしてキモいのは即殺す。
「う……ぐあ!」
……今聞こえたのはなんだ? 誰かの呻き声にも聞こえたけど。
あ、俺以外にも聞こえたらしい。ジュードとアルヴィンが奥へと走ってる。
「なんか、面倒事が起きそう……」
もはやほとんど覚えていない原作知識を思い起こそうとするが、一向に思い出せない。でも俺一人だけ行かないのはあまりにもおかしいので、とりあえず行ってみることに。
そして後悔した。
そこにいたのは、ジュードとアルヴィンとミラ。それはいいが、ミラは一人離れた岩場で、捕縛用の精霊術によって捕まっている。それが問題点だ。
そして何より、ミラを捕まえている人物がさらに問題だ。少なくとも、俺にとっては。
「……はあ」
ここで思い出す原作。どうせなら、もう少し早く思い出したかった。そうすればここに来なかったのに。と、思わず溜息をついてしまう。
ミラを捕まえていたのは、猫耳に猫の尻尾を持ち、メガネを掛けてイケナイ系の服を着ている抜群ボディの持ち主、プレザ。
先ほどのジャオ同様、見つかりたくなかった人物の一人である。なので見つかる前に離れようとしたが、そうは問屋がおろさなかった。
「あ、ゼニス!」
俺の溜息をジュードに聞かれたらしい。大声で名前を呼ばれた。どうやら、おろさなかったのは問屋ではなくジュードのようだ。
ついでに殺意が湧いたのは秘密だ。俺よ、クールになれ! be kool! あ、間違えた。 be cool!
「なっ……ゼニス様!?」
そしてプレザにも呼ばれる俺。しかも『様』が付属されている。そのせいで三人の連れから驚きの目で見られている。ははは。俺、終わった。
「ゼニス!? あの人を知ってるの!?」
「あ~、まあ知ってる。あと、お前とは久しぶりだな。……何やってんだ?」
ジュードの質問に答え、プレザを見て話を変える。
しかしあれだな。美女が美女の服を
「……マクスウェルの隠した『カギ』を探しているのですが、ゼニス様は何かご存じないでしょうか?」
『カギ』。それはおそらく『クルスニクの槍』の『カギ』のことだろう。だが俺は現実に見てない。だから実際には知らない。
……しかし、クルスニクの槍と鍵か。まったくもって面白いネーミングだよ。
「すまんが知らない。それと今俺はこいつらの仲間だから助ける義務があるんだが……お前とは戦えないしなぁ」
そこまで言った俺は、プレザの方からジュードたちを見てこう伝える。
「というわけで、今回俺はどちらの味方にもなれない。ミラ嬢には本当に悪いが、あいつは俺の知り合いでね。とても戦えん」
「な、ゼニス!?」
「……わかりました」
戦う意思なし。そういう意味を込めて、俺は両手を上げて後退する。ジュードは非難めいた口調で俺の名を呼び、プレザはどこか諦めたように了承した。
ジュードにミラ、本当にすまん。
それにしてもプレザ、見ない内に綺麗になったな。ここしばらくは手紙のやり取りしかしてなかったけど、久しぶりに見たこともあって綺麗感が増した気がする。というか今更だけど、猫耳にメガネはマニアックだと思うのは俺だけか? 似合ってるし美人だから文句ないけど。
「アルヴィン、そのまま聞いて」
ふと耳を澄ますと、ジュードが小さな声でアルヴィンに話しかけていた。ミラは捕まって動けなく、彼らもそのせいで動けない。下手に動いたらミラがどうなるかわからないからだ。とはいえ俺がいるので、プレザもやり過ぎはしないだろう。
そしてどうやらジュードは、この状況を打破する案を思いついたらしい。アルヴィンにしか聞こえない程度の声量で話している。それを聞いたアルヴィンは、銃をプレザに向ける。
「あら? この娘は見殺し? ひどいヒト」
銃を構えたアルヴィンを見て、プレザは焦ることなくそう言った。そしてアルヴィンは銃をプレザから少し離れた岩場へと向きを変え、撃った。
一体何をして……っ!? 岩が動いた? あれは擬態した魔物か!?
「え?」
「くそっ!」
プレザにも岩が微動するのが見えたのか、そこを注視する。俺は次に何が起きるのか分かったので、急いで水中に飛び込んだ。
岩に擬態していた巨大魔物、グレーターデモッシュは俺の予想通り、プレザに向かって突撃した。その衝撃で彼女は岩の下にある水場へと吹き飛ばされる……はずだった。俺がいなければ。
「よっと。大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です……」
吹き飛んでことに変わりはないが、プレザが水に当たる直前に俺が水中から飛び出し、俗に言うお姫様抱っこでキャッチしたのだ。そして俺はそのまま少し離れた場所まで行き、プレザを降ろした。心成しか、顔が赤い。お姫様抱っこはやり過ぎたか?
ちなみにミラは、グレーターデモッシュが擬態を解いたことに驚いたプレザが捕縛から離してしまったので無事だ。
「申し訳ありません。私の不注意のせいで……」
「気にしなくてもいい。あれは俺でも気付くのに遅れたほどだからな」
俺が軽く励ますと、プレザは軽く笑った。だがすぐに真剣な表情になり、聞いてきた。
「ゼニス様、なぜマクスウェルやあの男……アルと一緒に? それと、今までどこにいらしていたのですか?」
アルとはアルヴィンのことだろう。前の任務で一緒にいたらしいから、それで親しくなった……んだっけ? そん時に何か他にもあった気もするが……思い出せん。
「それはまた今度教える。どうせならあいつらがいる時に、一度に伝えた方がいいだろ。何回も同じことを言うのは面倒だ」
「そうですか。相変わらず、お変わりありませんね。その『面倒だ』という口癖……。了解です。では、一時退くとします」
「そうしてくれ。俺はまだ、
クスリと笑いながら俺の癖を指摘し、プレザは去って行った。おそらく、あいつらの所へ行くのだろう。俺も後で顔を出しておくか。
そしてジュードたちがいる場所に行くと、未だに勝負がつかないようであった。とはいえ俺がプレザと話していたのは一分にも満たないので、むしろ終わっていたらおかしい。
「お前の背後、がら空きだぞヤドカリ野郎。獅吼旋破!」
ジュードたちと戦っているせいで俺に背を向けているヤドカリに、回転斬りから獅子の形をした闘気を放つ。所謂不意打ちだ。
これがゲームならレベル差やステータスの差もあって即死級のダメージなんだろうが、これは現実。大ダメージは与えられたものの、そんな簡単に勝てるわけがない。
小さい魔物ならまだしも、こんなギガントモンスターが相手じゃ一撃で倒すのは無理だ。遊び心や手加減もあったしな。
「ゼニス! どこに行ってたの!?」
「今はそれより戦うことに集中しろ!」
「わ、わかった!」
俺に質問してくるジュードに、注意という話題転換をして再び向き合わせる。言い訳を考えてる最中なので、今聞かれると困るわけだ。さて、
「んじゃ後はいつも通り、君らで頑張ってくれたまえ」
「結局それか! お前も元は傭兵だっていうなら手伝え!」
アルヴィンの怒鳴り声を無視し、近くの岩に座る。なんせ俺のモットーは『やられたらやり返す』であるがゆえに。つまり、俺は滅多な事では自分からは攻撃しない!
……はい、嘘です。単に雑魚が相手では戦う気が起きないだけです。すみません。
でも『やられたらやり返す』は本当。攻撃されたら容赦はしない。どっかの某仮面の男も言ってるだろ? 『撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ』ってさ。
というわけで、
「ふんっ!」
目前に迫った触手をぶった斬る。あのヤドカリ、さっきの仕返しのつもりか俺にも攻撃してきた。俺を捕まえようとしたのか、触手を伸ばしてくる。なので反撃として、向かってきた触手を切断した。ついでにちょっと本気出してやる。
「俺にも攻撃したことを、後悔するんだな。ほれ、シャドウエッジ!」
これは俺の得意とする精霊術の1つだ。闇属性の刃を地面から生み出して、垂直に突き上げる、下級精霊術。それのより、巨体が軽く地面から離れて……
「続けて喰らえ、ブラッディクロス!」
闇の刃だけでなく、加えて同じ闇属性の十字架が奴を襲う。それでもこの巨大ヤドカリはまだ生きているので、連撃を放つ。今度も精霊術で。
「黄泉へと誘う魔狼の咆哮……」
闇属性の精霊術の中でも、最上位に入る上級術。他にも使えるが、まだ使わない。
というより、もったいない。いやこの術もやり過ぎだけどね。
「響き渡れ! ブラッディハウリング!」
地面に魔法陣が描かれて、そこから闇の波動とも言うべきものが立ち昇る。黒い波動に飲み込まれたグレーターデモッシュは、やはり大ダメージを受けたようで、この精霊術によって事切れた。
「すごい……」
ジュード、ミラ、アルヴィンは今の連続攻撃に驚いているようだった。
あと説明しておくけど、俺は精霊術より接近戦の方が得意です。今日は精霊術の気分だったから、こうしたってわけ。
「しっかし、魔物が岩に擬態してたのか。よく気づいたな」
アルヴィンのその言葉を聞いて、ミラは思い出したかのようにジュードに詰め寄った。
「魔物があの女でなく、真っ直ぐお前たちに向かうとは考えなかったのか?」
「それでもよかったんだ。そうすれば、アルヴィンがあの人の死角に入れる位置だったからね」
「すごいな。あの一瞬でそこまで……」
「大したものだ。誰にでもできることではないな」
「僕にしかできないこと……」
ミラの言葉に、ジュードは拳を握りしめた。誰にでもできることではないという言葉が、余程嬉しかったのだろう。
「ありがとう、ジュード。アルヴィンとゼニスも」
微笑ながらの礼を言われ、ジュードは赤くなった。照れてるんだな、アレ。ずいぶんと初心なやつだ。
「そうだ、さっきの人は?」
「優等生。悪い奴まで気にしてたら、日暮れるぞ。ほら、行こうぜ」
「でも、ゼニスの知り合いみたいだったし……ねえ、何でゼニス様って呼ばれてたの?」
ジュードの疑問に、他の二人も俺を見た。まあミラにとって、プレザは自分を襲った人物だ。何で俺があいつに様付けで呼ばれているのか、それくらいなら教えてもいいか。
「十年くらい前……もっと前か? とにかく結構前に、あいつの命を助けたんだ。とある理由で死にそうになってたんでな。そのあとしばらくの間、俺の部下として行動してたんだよ。たぶんその名残だろう。最近は会ってなかったし」
「ふむ。それでは、今はどこに所属しているか知っているか? 何者かの指示を受けたようなのだが」
「……見当は付く。だが確信がないから言えない。傭兵だったころの癖だから、そこは勘弁してほしい」
「そうか……わかった。確信を得たら教えて欲しい」
「……了解だ」
そうは言ったが、実際は知っている。確信を持って、あいつが誰の下にいるのか教えられる。でもそれは、今言うべきことではない。というか俺の立場上、言えない。
そしてそこから移動して、もう少しでニ・アケリアに着くというところで、ジュードがアルヴィンに質問した。
「ねえ、アルヴィンもさっきの人と知り合いだったの?」
「あー、あれね。なんか向こうは知ってたみたいだけど、俺は……」
「傭兵とは、恨みを買う商売のようだな」
「そ。アルヴィンはどうだか知らないが、俺はいつ仕返しされるかヒヤヒヤしてるよ」
「ゼニスなら返り討ちにしちゃいそうだけど……でも、キレイな人だったね」
「ああいうのが好み? ジュード君は年上好みか」
「よくわからないけど、そうなのかも」
アルヴィンがジュードの発言に対してからかうが、意外なことに肯定した。でもプレザが綺麗だということについては同意するが、あの露出の多い服はいただけないと思ったのは俺だけではないはずだ。
というか何で誰もそこに突っ込まないんだよ!? ゲーム補正か!?
……ちなみに俺はああいうの、大好きです。だって、男だもの。