青い炎は、眠る英雄を照らす。   作:杞憂谷

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第四話 『咆哮』

酒と煙の匂いが染みついた空気の中、笑い声と罵声が交錯する。深夜が近づくにつれ、酒場の喧噪は狂騒に変わっていた。

 

その喧騒の真ん中、私たちは向かい合って杯を交わしていた。

 

「そんでねー!五年前くらいに幼馴染と一緒にこの街に出てきたんだよー!」

 

嬉々として話し続けるアリエッタ。

 

アリエッタからは色々なことを聞いた。

 

旨い飯屋、稼げる素材、顔の広い冒険者の噂――街の“生きた地図”が彼女の口から次々こぼれる。

 

「そうだそうだ!逆に何か聞きたいことないのー?」

 

アリエッタに問われる。聞きたいこと……ねぇ……

 

「そういえば、私が今日殴り飛ばしたあの大男っていつもあんな感じなの?」

 

「いや、んんーあんまりわからないなぁ……。集会所にいるときはあんな感じじゃないかなー!あの人、Gランク冒険者だから街の色んなところで雑用してるのはよく見るねー!」

 

「あぁ、そういうことね」

 

クレープ屋で働いてたのもそのGランクのクエストとやらの一環か。

 

点と点が繋がったようで少しスッキリする。

 

そんなとき、後ろで酒を飲みながら語り合ってる二人の男たちの会話が耳に入って来る。

 

「山の上のモンスター、あれ誰が討伐すんだろうなー?」

 

「いやー、当分は無理じゃないか?ルティネ王国のSランク冒険者が山の上に行ったっきり帰ってこないとか」

 

「ひえー……少なくともこの街の冒険者には無理だろうなぁ、騎士団長クラスならいけんのかねぇ?」

 

「さぁなー、考えるだけ無駄だろうよ」

 

Sランク冒険者でも倒せないモンスターが山の上にいるのか。物騒な話だ。

 

ふとアリエッタに疑問を投げかける。

 

「ねぇアリエッタ、Sランク冒険者ってどれくらい強いの?」

 

「そりゃ強いなんてレベルじゃないよ!私らCランク冒険者が二百人とか束になっても勝てないって、みんな冗談みたいに言うかなー!」

 

まじか……そんなに強いの?私の剣術なら少しくらいは通用するかな、なんて……自惚れてた自分が恥ずかしい。

 

「Bランクすら夢のまた夢なのかなぁ……」

 

「そうだねー!やっぱりランクを一個上げるって相当なもんだよ!特にBから先はほんと大変だよ!私なんてもう三年くらいCランクだもん!」

 

「そういうもんかぁ……」

 

自分の強さがちっぽけに感じてなんだか情けなくなる。

 

「メティちゃんクエストまだ一回もやったことないでしょ?心細いだろうし一緒に行こうよ!」

 

自信喪失してる私にとってその提案はありがたかった。

 

「ほんと?実はCランクでやっていけるか自信なくてさー……士官学校では訓練ばっかりでモンスターと戦ったことなんて数えるほどしかないからさ、良ければ一緒に行って欲しいな」

 

「もちろんだよ!行こう行こう!どれいくのー?目星ついてる?」

 

「うん、この切り株モンスター退治とかかなぁ」

 

ギルドから持ち出したクエスト書を広げる。

 

「あーそれね!いいんじゃないかな!数多いだけで大したことないよ!」

 

「ならよかった」

 

誰かが一緒に行ってくれるってこんなに心強いもんなんだな。

 

明日は自分の力を信じて、アリエッタに見せつけるくらい活躍しよう。

 

次の日の朝、ギルドでクエストを受注した私たちはバレンテ王国王都ミレスの北、バネット村へ来ていた。

 

「いやー、ほんと助かるよ、あのモンスター達のせいでキノコも取れなくて……うちの村はキノコでなんとか成り立ってるからさ。でも気をつけてね、最近そのクエスト受けた人、帰ってこなかったからさ」

 

これからそのクエストとやらを遂行するつもりなのになんてこと言うんだこの人は。

 

依頼主の無神経さに思うことはあるが言葉には出さないようにする。

 

「忠告ありがとうございますー!気をつけますねー!んじゃメティちゃんいこうか!」

 

「うん、油断せずいこうね」

 

森に入ってすぐ、抉れた樹皮と大地の凹みが続いていた。蹄のような跡――嫌な予感が、首筋にまとわりつく。

 

バネットの森に入って三十分ほど歩いただろうか。

 

「あーあれあれ!あそこの切り株みたいなのだね!ツルで攻撃してくるから気をつけて!」

 

私は剣を抜き構える。カタカタとゆっくり蠢く切り株に近づく。

 

一呼吸置いて上部を切りつける。

 

ガキッと音を立てて剣が跳ねる。

 

「うわっ、硬い!」

 

その瞬間こちらに気づいた切り株モンスターがツルを伸ばしてくる、そこまで早くない。

 

剣で薙ぎ払い今度は剣に魔力を込める、剣は燃え上がり、そのまま一振り。

 

ガッ、と切り株モンスターにめり込み亀裂ができる。

 

切り株モンスターは燃え上がり数秒すると動かなくなった。

 

「おおー!メティちゃんすごーい!火属性なんだね!私も同じ火属性だよ!負けてられないなー!」

 

アリエッタはガントレットに拳を通す。

 

アリエッタは拳に魔力を込める。すると火が灯る、次の瞬間アリエッタは踏み込むと、物凄い速さで切り株モンスターに接近し、上から地面を叩くかのように殴りつける。

 

「ハァッ!」

 

すさまじい打撃音が鳴り響き切り株モンスターが真っ二つに割れる。

 

「すごい……。一撃で……」

 

手に握る剣に力が漲る、体の芯が熱くなるのを感じる。

 

私は更に、魔力の出力を高める。剣が燃え盛る。

 

そして走り出し、切り株モンスター目掛けて剣を振り下ろす。

 

破裂するような大きな音を立てて切り株モンスターは真っ二つに切れる。

 

「やった……!」

 

「おおおお!今のすごいね!この調子でどんどんいこう!」

 

たかが切り株のモンスターだが、実践でモンスターを一撃で倒せたことが嬉しかった。

 

訓練してきた甲斐があったというもんだ。

 

そこからは呼吸が合った。

 

火の刃が割り、火拳が砕く。汗と樹液の匂いの中、切り株は雪崩のように数を減らし、気づけば二人で五十体ほど倒しただろうか。腕は鉛、喉は砂。

 

「ふぅ……。こんなもんにしとく?あとは素材を拾ってって感じだよね?」

 

「そうだねー!それにしても捗ったね!後ろから切り株来てるの気づかなかったときカバーしてくれてありがとね!」

 

「うん、アリエッタも三十体くらい倒してくれたし、たくさん頑張ってくれてありがとう」

 

二人で息を合わせてやったからこそ早く安全にクエストを終えることができた。

 

「私あっちの素材取って来るねー!」

 

「はーい」

 

アリエッタと手分けして切り株モンスターから素材を採取することにした。

 

なんとか無事にCランクのクエストを終えることが出来そうで自信が湧いた。

 

そのときだった。

 

グォォォォオオオオ!

 

地面が揺れたかと思うくらいの咆哮と共にドドドドドとけたたましい足音が近づいてくる。

 

「ねぇ!アリエッタ!今の音何!?」

 

遠くにいるアリエッタに駆け寄りながら問いかける。

 

「わからない!けど、あれ……?……あああああ!ミノタウロスだああああ!」

 

アリエッタの顔が青ざめる、彼女の視線の先にいたのは

 

体長三メートルほどで頭にツノを生やした赤黒い体毛に牛のような頭のモンスター。手には大きな斧を持っている。

 

こちらに物凄い速さで走ってきている。

 

「どうすんのあれ!逃げたほうがいい!?」

 

「いや!あれはもう逃げられないかも!戦うしかない!メティ気をつけて!あいつBランクモンスターだから相当強いよ!」

 

既にミノタウロスは斧を振りかぶっていた。

 

身体が勝手に動いていた。私はアリエッタを体で弾き飛ばし、ミノタウロスの斧を剣で受ける。

 

鈍い金属音がつんざく、私は五メートルほど弾き飛ばされ、木に衝突する。

 

視界の右側が赤くなる。どうやら頭を強くぶつけ、その箇所から出血し、目に入ったようだ。

 

隙ができたミノタウロスにアリエッタは渾身の拳を繰り出す。ミノタウロスの右頬にぶち当たる。

 

ミノタウロスはよろける。効いてる!行ける!

 

私は立ち上がり全力でミノタウロス目掛けて走る。

 

こちらに気づいたミノタウロスは斧を振り上げる。あれはまともに防御してはダメだ。

 

振り下ろされた斧を受け流すように払う。剣はミシッと音を立てるが、斧は地面に突き刺さる。

 

「アリエッタ!今!」

 

アリエッタの拳がミノタウロスの脇腹に刺さる。苦悶に顔を歪めるミノタウロスは斧を持たずに暴れる。

 

ミノタウロスは巨岩のような拳でアリエッタを殴りつける。紙一重でガードできたようだがバキィっと鈍い音が鳴り、アリエッタは弾き飛ばされ、地面へと転がる。

 

これで終わりだ牛野郎……!私は高く跳躍し剣をミノタウロスの喉に突き立てる。

 

ブシュッと、ミノタウロスの喉元から突き立てた剣はミノタウロスの首の後ろに突き抜ける。

 

ミノタウロスは苦しそうにもがきながら倒れて、ピクリとも動かなくなった。

 

やった……終わった……。けれど、出血しすぎたのか視界が霞む。立っているのが辛く、しゃがみ込む。

 

アリエッタも生きているようだがギリギリだろう。地面に倒れ込んでいる。立ち上がる気力はないみたいだ。

 

よかった、私たち、生き残った。Bランクモンスターを倒したんだ!

 

静寂が訪れる。葉擦れすら聞こえない、森の中。

 

絶望は唐突だった。

 

グォォォォオオオ!

 

轟く咆哮がすぐそばで聞こえた。

 

ミノタウロスはもう一体、来ていた。

 

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