アヤメとナグサの青春崩壊   作:あばなたらたやた

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二話:勘解由小路ユカリ護衛①

 

任務名:勘解由小路ユカリ護衛任務

クライアント:非公開

 

任務概要::ユカリの社会科見学における護衛任務。対象は反政府勢力からの脅威に晒されており、今回の社会科見学は警戒が手薄になるため、襲撃の可能性が極めて高い。

 

任務詳細:: 護衛対象: ユカリ

 

任務内容:ユカリの社会科見学中、反政府勢力による攻撃から対象を保護する。アヤメおよびナグサはユカリに随伴し、敵の動向を監視しつつ、即座に対応可能な態勢を維持せよ。

 

敵勢力:反政府勢力(詳細不明)。武装集団の可能性が高く、奇襲戦術が予想される。

 

作戦エリア::社会科見学の移動経路および目的地(詳細は別途提供)。

 

注意事項:ユカリの安全を最優先とすること。

 

民間人の巻き添えを避けるため、攻撃は精密かつ迅速に行う。 反政府勢力の動向をリアルタイムで監視し、敵の増援や奇襲に備える。

 

報酬::任務成功時、クライアントより高額報酬および追加契約の可能性。

リスク評価::敵の戦力規模不明。極めて危険な任務と判断。覚悟を以て臨め。

 

 

 

 百花繚乱紛争調停委員会の執務室は、埃と古い紙の匂いで淀んでいた。窓から差し込む午後の陽射しは、埃の粒子を浮き立たせ、床に散らばった書類の山を淡く照らす。

 七稜アヤメはソファに深く沈み、足を机に乗せ、靴底の泥を落とした。背もたれに凭れ、首を捻る。肩が軋む音がした。

 ナグサは壁に凭れ、タブレットを片手に立っている。

 指先は画面をスクロールし続け、瞳は書類の文字を追う。机の上では、書類の束が崩れかけていた。

アヤメは一枚を抜き取り、鼻で笑った。

 

「ほー、勘解由小路ユカリちゃんかぁ。百鬼夜行の中等部三年生で、名家のお嬢様……って、また面倒くさそうなのが来たじゃん?」

 

 口は笑っている。歯が白く光る。だが、胸の奥では別の声が響く。どうせまた、自分たちにすがるだけの弱虫だろう。

 守る価値があるのか。自分は笑って誤魔化すだけだ。ナグサの視線が、書類に落ちる。カップを机に置く。音が鋭く響く。

 陶器が机を叩く音が、静寂を裂いた。

「面倒くさい、って……アヤメ、任務の前なのにやる気ゼロなんだ」

 

 声は低く、抑揚がない。

 ナグサの指はタブレットを握りしめる。爪が画面に食い込む。アヤメは書類を振り回した。紙が風を切り、埃が舞う。

 

「勘解由小路――ってことは、超絶可愛いお嬢様キャラ確定でしょ。八重歯萌えの鼻歌お嬢様! 絶対、『アヤメ先輩、かっこいいですの~!』とか言ってくるタイプ!」

 声は弾む。だが、胸の奥では嘲りが渦巻く。

 いい子?

 どうせ依存するだけの甘ったれだ。

 自分は笑って誤魔化す。

 自分はただ笑う。嫉妬が胸を抉る。ナグサの手が止まった。指が震える。瞳が書類に落ちる。

 

「……私より可愛いって意味?」

 

 声は静かだ。だが、耳に刺さる。

 アヤメは爆笑した。腹を抱え、ソファが軋む。

 

「違う違う! ナグサは超絶可愛い! ユカリちゃんは普通に可愛い後輩枠でいいじゃん! 鼻歌歌うらしいし……絶対、私たちのファンだよ!」

 

  胸の奥では別の声が響く。

 憧れられるなんて。

 自分はただ笑う。

 ナグサが呆れた。

 ため息が漏れる。

 タブレットを閉じる。

 

「……八重歯って、どこに書いてあるの?」

 アヤメは書類を指差した。

 指先が震える。

 笑顔は張り付く。

 

「ここ、ここ! ――絶対いい子! ファン決定!」

 

 胸の奥では嘲りが膨らむ。

 いい子? どうせすぐ泣く甘えた子供だ。

 ナグサが立ち上がった。

 靴音が響く。

 

「まあ、護衛対象が可愛くても、仕事は仕事。……でも、依存されすぎないように気をつけてね。アヤメは優しいからすぐ人に依存されるから」

 ナグサの声は冷たい。だが、瞳は揺れている。

 アヤメはニヤリと笑った。

 

「ナグサの豆腐メンタルがバレたら、ファンのみんなが失望しちゃうもんね」

 ナグサが固まり、肩が震える。

 瞳が伏せられる。

 

「アヤメは静かに……出発しよう。遅刻したら、また私が謝る羽目になるから」

 

 アヤメは立ち上がり、肩を叩いた。

 ナグサの肩が硬い。

 笑顔は張り付く。

 

「はいはい~! 副委員長様のご命令だ!」

 

 扉が閉まる。廊下に笑い声が響く。だが、アヤメの胸の奥では別の感情が絡まる。

 自分は最低だ。

 ナグサの弱さを突くなんて。

 嫉妬と苛立ちが、七稜アヤメの胸を抉る。

 自己嫌悪が膨らむ。護衛対象を守れるのか。自分はただ笑うしかできない。車内でアヤメはハンドルを握った。

 指が白くなる。

 アクセルを踏むとエンジン音が響く。ナグサは助手席でタブレットをスクロールする。

 画面の光が顔を照らす。

 

「でさ、勘解由小路家って……百鬼夜行の古株じゃん? 祭儀とか行事とか、キヴォトス中の顔役が集まるやつ全部仕切ってるって話でしょ?」

 声は弾む。だが、胸の奥では別の声が響く。

 由緒正しい? 面倒なタイプだ。

 ナグサがタブレットをスクロールする。

 指が止まる。

 

「……うん。千年以上続いてるって記録もあるわ。百鬼夜行連合学院の創設にも関わった一族……由緒正しすぎて逆に胡散臭いレベル」

 

 声は低く、抑揚がない。

 アヤメは笑った。

 ハンドルを叩く。

 

「胡散臭いって、ナグサ辛辣たね! でもさ、ユカリちゃんが跡継ぎってことは……将来の百鬼夜行のトップってこと?」

 

 ナグサが眉を寄せた。

 タブレットを閉じる。

 

「……そうなるはず。だけど、特別な巫女を排出してきた一族でもあるから、百鬼夜行自治区を支える均衡の要――巫女として生贄とされる運命を背負う者。生き辛そう」

 

 声は静かだ。だが、耳に刺さる。

 アヤメはハンドルを握りしめる。

 指が白くなる。

 

「それはまた。つまり、いろいろいな意味でユカリちゃんは……百鬼夜行の未来を背負ってるってこと?」

 

 ナグサが静かに言った。

 

「……そう。命を狙われてるってことは、家の中にも敵がいる可能性が高い。内輪揉め。最悪のパターンだね」

 

 アヤメはアクセルを踏み、エンジン音が大きくなる。

 

「大丈夫、任せて。自分たちの可愛い後輩、絶対守る!」

 

 ナグサが微笑んだ。

 唇が動く。

 

「……アヤメが本気なら、私も……全力でやる」

 

 車は門をくぐる。アヤメは笑顔を張り付ける。ナグサは強い。それこそアヤメより数百倍は強い。しかも人望もある。自分は使い勝手の良い駒として『みんな』に利用される反面、ナグサは本当の意味で慕われている。

 憎らしい。

 七稜アヤメは、自分の性格の悪さと無能さを噛み締める。   

 

 突然、夜空が赤く染まった。

 遠く、勘解由小路邸の方角。

 轟音が車を揺らす。

 窓ガラスが震える。

 地面が振動する。

 アヤメはブレーキを踏んだ。

 タイヤが軋む。

 車が止まる。

 

「……なにこれ。爆発?」

 

 声は弾む。だが、瞳が鋭くなる。

 ナグサがタブレットを睨む。

 画面の光が顔を照らす。

 

「……屋敷の東棟。襲撃されてる」

 

 声は低く、抑揚がない。アヤメはシートベルトを外し百蓮を掴む。銃身がすらりと光る。

 

「戦闘モード、オン! ――って、ナグサ、スナイパー持った?」

 

 ナグサは既にライフルを構える。

 弾倉を確かめ、金属音が響く。

 

「……持ってる。弾倉確認済み」

 

 アヤメはニヤリと笑った。

 

「さすが副委員長!軽くボコって、ユカリちゃん救出といこう!」

 

 ナグサがスコープを覗く。瞳に冷たい光が宿る。

「……軽く、ね。敵は最低でも十人。ロボットも交じっている。アヤメ、私はどうしたら良い?」

 

  アヤメは車のドアを開けて飛び出す。靴音が響く。

 

「援護頼むよ〜。十人くらい楽勝、楽勝」

 

 ナグサが車から降り、そのまま跳躍して屋根に登る。靴底が軋む。

 

「……了解。アヤメが突っ込むなら、私が後ろで援護するね」

 

 爆発の煙が夜空に立ち上る。

 炎が赤く燃える。二人は走り出した。

 互いの口は軽い。態度も軽い。笑顔は張り付く。だが、胸の奥では別の声が響く。

 守らなければ。笑うしかできない自分でも、今はそれだけだ。

 嫉妬も嘲笑も消える。

 残るのは、ただ一つの感情。

 守らなければ。

 七稜アヤメは、百蓮を握りしめる。

 ナグサは、スコープを覗き、敵対勢力の者達に向けて弾丸を発射した。

 

 

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