古い屋敷の障子が、春風にそよぐ。
畳の上に座る三人の少女たち。中央に据えられた漆塗りの卓には、抹茶と和菓子が控えめに並び、甘い香りが漂う。外は穏やかな陽光が庭園を照らすが、屋内はどこか張り詰めた
空気――護衛任務の厳しさが忍び寄っていた。
アヤメはプラチナブロンドの髪を優雅に払い、紫の瞳を細めて微笑む。完璧な演技の笑顔。隣に座るナグサは、白い肌をさらに白く見せる羽織を纏い、無表情に銃を膝に置いている。
対面のユカリは、八重歯を覗かせて目を輝かせ、制服の裾を正す。
「なんか緊張感ある感じだから、敢えてぶち壊すけど、ユカリちゃんはどんな食べ物が好き?」
彼女はぱっと顔を上げ、明るく声を弾ませる。
「まあ! 身共の好きな食べ物ですの〜? それはもう、くれーぷですわ! あのふわふわの生地に、甘いくりーむがたっぷり……想像しただけで、幸せが溢れますの! アヤメ先輩も、きっとお好きですわよね? 一緒に食べたら、もっとおいしくなりますわ!」
ナグサの視線が、わずかに動く。彼女はアヤメをちらりと見上げ、クールに言葉を紡ぐ。
「……アヤメの好きなものは、私も知ってる。でも、ユカリの好みは新鮮だね。アヤメが喜ぶなら、私も食べてみるよ」
アヤメはくすりと笑う。
「ははは! くれーぷかぁ……甘くて優しい味、いいよねぇ。社会見学の前に食べにいく? 護衛任務としては面倒が増えるけど、ナグサはどう思う?」
ナグサは即答する。
「アヤメが言うなら、いいよ。……アヤメの指示があれば」
ユカリは手を叩いて喜ぶ。
「わあ、ナグサ先輩も一緒に! 身共、楽しみですの〜!」
話題は自然に移る。アヤメの紫瞳が、銃の話題を振る。彼女は自分の「百蓮」を指先で撫でながら、穏やかに尋ねる。
「なるほどねぇ……ユカリちゃんの銃、アリサカ38式だっけ? 伝統的な美しさがあるよね。好きな銃の話、聞かせてくれる? 私としては、みんなの武器を知れれば護衛するにしても強みになるかなって」
ユカリの目が輝く。
「はいですの! 身共のアリサカは、家の伝統ですわ。遠くの敵を、ぴたりと仕留める精密さ……それに、百花繚乱の華を散らすような弾幕! でも、好きなのはその歴史ですの。古いのに、現代の戦場で輝くんですわ! アヤメ先輩の百蓮も、素敵ですの〜。退魔の力は使えないのに、あんなに美しい……身共、憧れますわ!」
ナグサは自分のスナイパーライフルを膝に置き、静かに頷く。
「……アヤメの百蓮は完璧。アヤメのおかげで、私も活きる。ユカリの銃は、伝統的な強さと美しさがあるね」
アヤメは曖昧に微笑む。
「おぉ〜、伝統と現代の融合かぁ……ロマンあるね」
軽やかなアイスブレイクが、徐々に本題へ。
屋敷の外で、風が強まる。任務が、少女たちの背後に忍び寄る気配――反政府勢力の目が、すでにこの古い家を狙っているのかもしれない。
アヤメの声が、わずかに低くなる。笑顔は変わらないが、紫瞳に警戒の光が宿る。
「はいはい、そういう感じね……じゃあ、本題に入ろうかな。ユカリちゃんの社会科見学、どこに行きたい? 私としては、ユカリちゃんの希望を聞くのが、みんなのモチベーションになるかなって思うの。ナグサも、意見ある?」
ユカリは目を丸くし、興奮気味に身を乗り出す。
「社会科見学ですの!? 身共、ずっと夢見てましたわ! 百鬼夜行の歴史博物館がいいですの〜! 古い遺跡の情報や、伝説がいっぱい……そこなら、百花繚乱の誇りを学べて、みんなで勉強になりますわ! でも、危なくはないのでしょうか。身共、みんなと一緒に、楽しく学びたいですから」
ナグサの指が、銃の引き金に触れる。彼女はアヤメを見つめ、依存的に呟く。
「アヤメが決めるなら、博物館でいい。アヤメの作戦があれば、安全だよ……ユカリは私が守る」
「ふむふむ……博物館かぁ。歴史と学び、メリットが多いよねぇ。厳しい警戒が必要だけど、私としては最善かなって思う」
外の風が、障子を叩く。少女たちの会話は穏やかだが、背後で任務の闇が渦巻く。
社会科見学――それは、ただの学びの場ではない。反政府勢力の罠が、待ち受ける戦場となる予感。ユカリの明るい声が、屋敷に響く中、アヤメの笑顔は完璧に演技され、ナグサの視線はアヤメに縋る。
風が障子を鳴らす音が、一瞬だけ途切れた。
屋敷の外、庭園の竹林がざわめく。何者かが息を潜 め、少女たちの会話を盗み聴いているかのように。アヤメは抹茶碗を置き、指先で卓を軽く叩く。
「博物館の中でも百鬼夜行中央歴史博物館なら、警備は厚いけど、見学者も多い。混雑はカバーになるし、敵の奇襲も予測しやすい。私としては、そこが最善かなって思う」
ナグサは即座に膝のタブレットを開き、画面を指でなぞる。
「……最短ルートは、旧市街の地下道を通って。混雑を避けられる。でも、敵が待ち伏せる可能性は高い。アヤメの判断なら、地下道を使う。……私が先導するから」
ユカリは目を輝かせ、両手を握りしめる。
「地下道ですの!? 冒険みたいですわ! 身共、ワクワクしてきましたの〜! でも……危ないんですの? アヤメ先輩、ナグサ先輩がいれば、きっと大丈夫ですわ!」
アヤメの紫瞳が、わずかに細まる。笑顔は変わらないが、声の裏に冷たい刃が宿る。
「ははは! 冒険って、いい響きだよねぇ。ユカリちゃんの笑顔を守るためなら、どんな道でも通るよ。私としては、みんなで協力するのが最善かなって」
その瞬間――屋敷の奥、廊下の奥から、微かな金属音。
カチリ。
誰かが、銃の安全装置を外した音。ナグサの肩が震える。彼女は即座に立ち上がり、スナイパーライフルを構える。
「……敵だ。アヤメ、指示を」
アヤメはゆっくりと立ち、百蓮を腰から抜く。
「おぉ〜、早いねぇ。社会科見学の前に、お客様か。私としては、ユカリちゃんを安全な場所に移動させるのが最善かなって。ナグサ、廊下を。ユカリちゃん、私の後ろに」
ユカリのヘイローが、わずかに歪む。彼女はアリサカ38式を手に、笑う。
「敵ですの!? 身共、戦いますわ! ここで退いたら、先輩方に顔向けできませんの〜!」
廊下の奥から、影が動く。
黒いマスクの武装集団――反政府勢力の先遣隊。
「ターゲット確認。勘解由小路ユカリ、確保――いや、排除だ」
銃声が鳴る。ナグサのスナイパーライフルが、廊下の柱を貫く。敵の一人が倒れる。
「……アヤメの指示通り、頭を狙った。アヤメのおかげ」
アヤメは百蓮を構え、弾丸を浴びせる。精密かつ迅速――民間人の巻き添えは、ゼロ。
「はいはい、そういう感じね。ユカリちゃん、後ろに下がって。私たちは、前に出るよ」
ユカリはアリサカを肩に担ぎ、神秘を発動。
「華が咲きますわ!」
花びらのような弾幕が廊下を埋め尽くし、敵を混乱に陥れる。
「これですの! 身共の狙撃で、道を開きますわ!」
戦闘は一瞬で終わる。残った敵は、ナグサの正確無比な一撃で沈黙。だが、外の竹林が再びざわめく。
増援だ。アヤメは息を整え、紫瞳に決意を宿す。
「先遣隊か。博物館への道、すでに監視されてるかもね。私としては、ルート変更が最善か。ナグサ、裏口から旧市街の屋上へ。ユカリちゃん、私の背中に」
ナグサは頷き、ユカリの手を引く。
「……アヤメの作戦なら、成功する。私が道を確保する。ユカリ、ついてきて」
ユカリは目を輝かせる。
「はいですの! 身共、みんなと一緒なら、どこへでも行きますわ! 社会科見学、絶対に成功させますの〜!」
「元気だねぇ、ユカリちゃんは」
屋敷の裏口が開く。
外は、夕暮れの旧市街。
少女たちは、屋上へと駆け上がる。