世界を救えなかった勇者が帰還しました。   作:めんたいこ

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世界を救えなかった勇者が帰還しました。

 

 魔王との戦いで勇者が必ず勝つなんてことは、物語の中だけの都合のいい話。

 結果を決めるのは実力で、現実を創るのは常に勝者だ。

 

 

 その勇者は魔王に負けた。

 

 

「アリス、ポポロ、クレス、メンタロ、アーゴ、ケルニ、マルクス、エドヴェ、カラ、メリアーノ、モモノス、ケンラ、ステラゼ、マッケンサー、ミスド、オニギリ、ヨコハマ、インドア、ニートス、ケンケンジャー、ウルトラダイナミックマッコリ……以下略…………クソ、なんでだ、どうしてだ!!!???」

 

 魔王城天守閣、(エン)()

 そこにある巨大な玉座には魔王(ぜつぼう)が不敵に鎮座している。

 

 傷だらけの俺の隣に、何十人もの仲間たちの死体がところ狭しと転がっていた。

 

 世界最強の剣豪がいた。すべてを知り尽くした賢者がいた。呪いを使って戦う異端がいた。あらゆる対象を魅了する魔眼持ちがいた。すべてを焼き尽くす煉獄の魔術師。炎帝。火炎の子。太陽の申し子。炎の精霊の現身の権化(グレート・サラマンダー)……以下略……がいた。

 

 しかし、そんな世界中から集めた最強の仲間たちは今や誰一人生きていない。

 

「ニンゲンよ、オマエたちはこのホシにとってユウガイ。デリートをウケイレヨ」

 

 クソ、カタコトでわけ分かんねえこと言いやがって……

 

「ワレワレのエーテルコズミックカースドウイルスをウケイレヨ」

 

 エーテルコズミックカースドウイルス……だと……?

 

 なんだそれ。

 

 けど、こいつの強さは本物だ。

 それにこいつを倒さないとこの世界の人間が全滅すると女神も言ってた。

 エーテルコズミックカースドウイルスを発動させるわけにはいかない。発動させるって動詞であってるか分からんけど。

 

 だけど、俺の用意した作戦は全て意味を成さなかった。

 最強の仲間を300人も集めて、城の外に回復系の能力持ちを500人待機させて入れ替わりで魔王城に突撃させる作戦だったのに、一周で全滅したし。

 身体能力が上がる代わりに、めちゃくちゃな中毒性がある薬草(毒草)も全員に食わせたのに。

 装備したら外れなくなる代わりにチート級の性能を持つ武器防具を全員に持たせたのに。

 

 他にも魔王城全体を弱体化の結界で覆ったし、魔王城の地下に穴掘って爆薬仕掛けて地盤沈下させたし、1カ月くらいかけて魔王城の近くの川を毒で汚染したし、魔族の集落襲いまくって人質大量に確保して、十字架に張り付けて降伏を促した。

 

 だが、全部意味がなかった。

 

「デリートをウケイレヨ」

 

 そもそもこいつなんなんだ?

 生き物って感じがねぇし、魔王って魔物の王じゃねぇのか?

 王なのにこんな知性ない感じでいいのか?

 

「デリートをウケイレヨ」

 

 壊れたゲーム機かテメェは。

 

「クソ……」

 

 影を纏ったような不定形の姿の中、二つ赤い光を放つ瞳で魔王は俺を見つめる。

 

 こんなことになったのも全部俺をこの世界に召喚した女神のせいだ。

 最初はちょっと嬉しかったよ。世界救っちゃいますか(キリ)とか思ってたよ。俺またなんかやっちゃいました? っていつ言おっかなとか思ってたよ!?

 

 でもさ、この難易度はどうかと思うんだよ!?

 

 それに普通異世界から来た勇者とかって、強い力持ってたりするんじゃないの?

 けど、女神が「私も魔王の影響でかなり弱体化していて今はこれが限界なの」とか言って渡して来たのは……

 

「こうなりゃヤケだ! 〝なんでも召喚〟!」

 

 これは俺の世界から俺の知ってるものならどんなものでも呼び出すことができる異能だ。

 けど、なんでも召喚には色々と欠陥がある。

 

 

 まず、呼び出すものの体積は俺の体積以下のものに限定される。(まだ強い)

 次に、一日一つまでしか召喚できない。(使い方次第ではまぁ)

 そして、呼び出したものは10秒で消える。(死ねクソ女神!)

 

 

 俺だって色々と考えたさ。

 病原菌を召喚してみたり。(回復魔法強すぎw)

 ライフルを呼び出したり。(身体強化硬すぎ笑)

 爆弾投げ込んでみたり。(魔力障壁で無傷で草)

 もういいスマホゲームしよ。(10秒ッッッ!)

 

 ホント、役に立たねぇ。

 それでも『女神に召喚された勇者』という立場を使い、時にこの世界にはない知識を使ったり、時に恋心を利用したりして、世界中から猛者を集めた。

 魔法や魔王、この世界独自の知識についても調べまくった。

 

 できる限りの準備をして、そして挑んだつもりだ。

 

 なのに――

 

「オラオラオラァ!」

 

 ライフルを撃ちまくること10秒。

 薬莢や銃弾ごと、俺の召喚したライフルは消失する。

 

「クソが……」

「デリート、デリート、デリート」

「三回言うな」

 

 俺の抵抗など意味はなく、魔王の眼から放たれた赤い光線は俺の心臓を貫いた。

 

 

 ◆

 

 

 真っ白な空間に一人の女が立っている。

 露出度の高い服装。天女のような羽衣。黄金の髪と白い肌。

 

 ――そして、ガリガリの身体。

 

「女神……メルナか」

「久しぶりね。あなたを召喚したのは5年前だったかしら?」

「そうだね。俺はよく覚えてるよ。あんたは俺に、魔王を倒せたら報酬として結婚してあげるとか言ってたっけ?」

「本当に、よく覚えているわね……」

「普通に疑問なんだけどさ、なんでそれが報酬になると思ったの? ゾンビみたいにガリガリで、幽霊みたいな顔色で、杖付いた方がいいんじゃないかってくらいの猫背でさ」

「だって魔王の影響があまりにも強くて、力を奪われてたんだもん。私だって本当は」

「本気でダイエットすればかわいいもんとか言ってるデブみたいだな」

「女性にそういうことを言うものではないわ」

 

 ッチ……

 

「勝手に連れてきたお前がそれ言う? いや悪い。実際俺も最初は浮かれてたしな……」

「いえ……あなたの言う通りよ」

「あの魔王なんなんだよ……強すぎだぜ」

「元々は普通の魔王だったのよ」

 

 普通の魔王ってなんだよ。まぁいいや。

 

「けど、宇宙人が来たのよ」

 

 来たのよ……じゃねぇよ、何言ってんだこいつ。

 

「それに異世界の幽霊とか妖怪とかが現れたのよ。あと地底人の科学技術が暴走したのよ。あと未知の魔力性病原菌が発生したのよ。それが全部魔王という器に入って、融合した結果生まれたのがアレよ。神に干渉する力すら手に入れた、おそらくあらゆる並行世界で最強の魔王【デリート】」

 

 あれ自分の名前だったんだ……

 え、じゃああいつ自分の名前何回も言ってたってこと?

 めっちゃキモくね?

 

「だからあなたを責めはしないわ……あなたはできる限りのことをしてくれた……」

「……悪いと思ってるよ。世界を救ってやれなかったことも。仲間を薬漬け&呪い漬けのバーサーカーにしたことも……」

「改めて聞くとやってることヤバいわね」

「あと、あんたの贅肉を取り戻せなかったことも」

「贅肉って言うな」

「俺は死んだんだろ? もう天国にでも地獄にでも送ってくれ」

「ごめんなさい。魔王を倒さないと元の世界に戻れないと言ったけど、それはあなたにやる気になってもらうための嘘なの」

「は?」

「問題なくあなたは元の世界の元に時間に戻れるわ」

「ちょっと待て……」

 

 じゃあ、俺だけ生き残るってことか?

 

「魔王を倒せなかったってことは世界は滅びるんだろ。この世界の連中はみんな死んじまうんだろ?」

「えぇ、エーテルコズミッキュカースドウイルスによってこの世界の動植物は完全に死滅し、この星は死の惑星となるわ」

 

 ちょっと噛んだなこの女神。

 

「そうか……俺さ、みんなを救いたいって気持ちだけは本当だったんだぜ……」

「知ってるわ。あなたは頑張ってくれた」

「最初は褒められたかっただけだったけどさ、この世界で出会った色んな人たちのことさ、死んで欲しくないって本気で思ってたんだ……」

 

 だからこそ、なんでもやった。

 時には情を殺して、非人道的なこともした。

 どれだけ責められたとしても、みんなの命が救われるならそれでよかったから。

 

「ごめん……本当にごめんな……弱くてごめん……」

「もう謝らないで。あなたはできる限りのことをしてくれたわ」

 

 そう言って女神は膝をついた俺の頭を抱き寄せ、自分の胸に埋めさせた。

 

「めっちゃ貧乳……」

「さっさと帰れ!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「いらっしゃしゃせいー」

 

 コンビニだった……

 元の世界に戻って来ていた。

 

 てか、めっちゃウンコ漏れそう。

 そうだ、たしかトイレ借りようとしてたんだ。

 

「ふぅ、スッキリ」

 

 てか、戻ってきたんだな。

 あいつら、全員死んじまったのか……?

 流石にそれが俺のせいだとは思わない。けど、俺が救えなかったことは事実……

 

「はぁ……」

 

 なんか、コンビニでトイレだけ借りて何も買わないと悪い気がするよな……

 カップラーメンでも買うか。めちゃめちゃ味が恋しい。

 

「ありやっちゅごぜやしちゃー」

 

 あの店員活舌悪すぎだろ。

 

 そんなことを考えながらコンビニから外に出た瞬間、「ピカッ」と空が光った。

 その次の瞬間、ゴロゴロゴロ~~という音が耳に入ってくる。

 

 なんだ、雷?

 めっちゃ晴天だけど……

 まぁいいや、帰ろ。

 

 そういや夏休み始まったばっかりだったな。

 なにして遊ぶかな~

 

「ただいまー」

「おかえりー」

 

 適当な挨拶をするとリビングから適当な返事が返ってくる。

 妹の優愛(ゆあ)のものだ。高校生の俺が夏休みってことは、当然中学生の妹も夏休みなわけで、家にいるのも当然だな。

 

「妹~」

「妹のこと妹って呼ぶ兄いないわよ、お兄ちゃん」

「兄をお兄ちゃんって呼び方してくれる妹もファンタジーらしいぞ。宿題やった?」

「うっさい。やってない。お兄ちゃんもでしょ」

「まぁそうだけど」

 

 リビングのソファに寝転がった妹は、なにやらニュースを見ているようだった。

 

「お前がニュース見てるなんて珍しいな」

「それがさ、いま日本結構ヤバいことになってるっぽいよ?」

「ん?」

 

『現在総理官邸では総理を人質に一人の少女が立て籠っています。目撃者によればその少女は素手でありながら火炎放射のようなものやウォータジェットのようなものを使いボディガードを次々と倒し、正面から侵入したようです。更に総理官邸は現在透明な壁のようなものに囲まれており、警察や自衛隊の重火器なども全く通っていない様子です。うがっ!』

 

 現地からそう実況していたニュースキャスターが、白目を剥いて倒れる。

 そして現れたセーラー服を着た黒髪の少女だった。

 堂々とした立ち居振る舞いで、少女はカメラに向けて言った。

 

『私は異世界から帰還した勇者です。まず私は総理大臣の家にお邪魔しているだけで、危害を加えるつもりはありません。見ていただければわかる通り、私には通常の人間とは違う力があり、おそらくそれは国家を転覆させるのに足る能力です。そんな私が普通の暮らしをできるとは思いません。ですのでこうして直談判に来させていただいた次第です』

 

 異世界から帰還した……勇者?

 俺と同じ……

 ちょっとまて、まだ力が残ってるのか?

 

 つーか、俺との能力の差ヤバくね?

 

『私の願いは自由です。私、もしくは他にもいるかもしれない異世界から帰還者を実験動物にしたり、非道な扱いを行わないでいただきたい。一人の人間として尊重された生活を望みます。話し合いにはもうしばらくかかると思いますし、総理に聞くと自分の一存では決められないとのことなので、政治家の皆さまの色よい返事をお待ちしております。それと私と志を同じくしてくれる帰還者が他にもいましたら官邸にこられてください。世界を救った勇者ならあの程度の結界簡単に突破できるでしょう? ッチュ』

 

 少女が投げキッスをすると同時に、映像は途切れる。

 

 バサッ、とカップラーメンと煮卵が入ったコンビニ袋を床に落ちた。

 手に力が入らなかった。

 

「お兄ちゃん?」

「ちょっと、俺寝るわ。カップラーメン食っていいぞ」

「肌荒れそうだから要らない……ってちょっと……」

 

 俺は逃げるように二階の自分の部屋に入った。

 

 扉を背に考える。

 俺以外の勇者?

 同時に帰還した?

 もしかしてあの雷も他の勇者が?

 

 他にもいるのか?

 いったい何人?

 

「何が起こってんだよ……」

 

 そうして、俺は自分の机を見た。

 そこには見知らぬメモと指輪のようなものが置かれていた。

 

 

「勇者――宮城優一(みやぎゆういち)

 

 伝え忘れていたことがあったからこういう形で連絡するわ。

 勇者として異世界で召喚された勇者はあなた以外にもいるわ。その数はあなたを含めて99人。

 そして、帰還者は異世界で手に入れた異能を使うことができるの。

 

 でも、あなたが帰還者だってバレることは基本的にないだろうし、平穏に生きるのも私の与えた力を使ってちょっといい思いをするのも自由よ。

 

 だからここからは私からのお願い、っていうか我儘。

 あなたは魔王討伐に失敗した。でも、あなた以外の99人は魔王討伐に成功した本当の勇者よ。

 だから私の世界を救える他の勇者を見つけて欲しいの。

 メモと一緒に置いておいた指輪は私の世界のあなたが魔王討伐失敗した時間に跳ぶことができる魔道具よ。それをあの魔王を討ち滅ぼせる真の勇者に渡して欲しい。

 

 ごめんなさい。色々、本当にごめんなさい。

 勝手にあなたを召喚して、クソザコ能力しか与えられず、そのクセ他の勇者に縋ろうとする私を、あなたが許してくれるのなら……お願いします」

 

 

 そうかよ……そういうことかよ……

 

「バカかよあの女神……」

 

 あんな不幸しかないような異世界に、誰かを送れって?

 

 

「そんなの、探すに決まってんだろ……」

 

 

 足りなくて、負けたけど……俺はやっぱり、あの人たちを救いたい!

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