自称クズ、聖人やってます ~ざまぁみろ。絶望さえも奪ってやったぞ~ 作:杞憂谷
エプロンを着け、俺は考えていた。
何から片付けようか。問題は山積みだ。
「なぁ、おっさん。ここにある花たち、移動してもいいよなぁ?ククク……。まさか口答えしないだろ?」
「あ、あぁ。僕は特に拘りは無いから」
「おっさん、花に愛情とかねぇのかよ」
「それなりにあるとは思っている。ただ、先代から成り行きで継いだ店であることも事実だ」
言いなりの傀儡めがよ。そういう奴が馬鹿を見るんだよ。ここは好きにさせて貰う。
俺は店主から借りた鎌を手に、店を出る。
「あ、キミ!マサトくん……。だっけ?どこへ?」
「ククク、この店の問題に気づいてないのかい?まぁ見てなって」
店先のプランターからはみ出た蔓は伸び、店の表面を覆っている。
こんなんじゃ、花屋じゃねぇだろ。もはや植物園じゃねぇか。
俺は壁にへばりついた緑を刈り取っていく。
店主はその光景を不安そうに見守っている。
「あ、あの。私にも手伝えることはありませんか!?」
アリスもどこか不安げな様子だ。
「あぁ?手伝いてぇのか?まずはエプロン着てこい。客からしたらお前、店員か客かわかりづれぇんだよ」
「えと、エプロンですね?わかりました!」
アリスは足早に店の奥へと姿を消した。
「おい、おっさん。不安そうな顔してんじゃねぇよ。店主がそんなんじゃ客が来るわけねぇだろ。適当に店の中でニコニコしとけばいいんだよ」
「な!?そ、そうだよな。わかったよ。ここは君に従おう」
意志の弱い軟弱者め、もうお前の店はこの俺が支配してんだ。
俺は店頭の邪魔な緑を全てそぎ落とした。
そこへエプロンを着たアリスがやってくる。
「着替えてきました!マサトさん、私に何かできる事ありますか?」
「そうだな……。店の前に花を並べようと思う。君は店の中で、綺麗だと思う花を5,6種類くらい選んで。俺は、少しここを掃除するから10分くらい待て」
「わ、わかりました!」
アリスはそのまま店の中へ入っていった。愚かだな、お前みてぇな華憐な女は何もせず花でも選んどけ。他に何もするんじゃねぇ。
俺は生い茂る蔦を刈り取り、地面に落ちた葉っぱや蔓をかき集め、一か所にまとめる。
植物だからって容赦はしない。お前らは生贄になるんだよ。
俺はまとめた残骸をプランターにパラパラとバラ撒いていく。
俺は店内に戻る。
「おい、アリス。花は選んだか?」
「あ、はい。この赤い花と、紫のこれ、あと黄色い、この花と……」
ふぅん、なかなかセンスあるじゃねぇか。まぁ口にしないけどな。誰が褒めてやるかよ。
「あっそ、どうでもいいけどさ」
俺は一言吐き捨てる、しゃがみ込みアリスが選んだ、赤い花が植えられた植木鉢を抱きかかえ、店先に出す。
ここからは拷問だ。太陽の灼熱の光に身を焦がせ。
どうだ?自分が選んだ花が、苦痛に晒される気分は。俺はそう思い、振り返る。
アリスが重そうに植木鉢を抱え、よたよたとしていた。
「おい、アリス。勝手な事をするな。誰が植木鉢を持てと言った?」
俺は咄嗟に、アリスが抱きかかえている植木鉢を奪うように抱える。
「あ、えっと、その、店先に並べると思っていたので運ぼうと……」
「ククク……。確かにお前の推理は正しい。でも、こんな重い物、お前は持つな。俺が運ぶから」
危なかったぜ。
俺は支配する側。
こいつが重い物持ってムキムキになったら、俺はこいつに勝てなくなる。反乱を防ぐには、弱者は弱者でいさせる方がいい。
「ふふっ、ありがとうございます!マサトさんって、紳士的なんですね?」
「フハハハ!思い上がるなよ。牙を抜くのは、早ければ早いほどいい」
「牙…?」
「あ、いや、茨っていったんだよ。茨だよ茨。牙とか一言も言ってねぇよ」
「あ!確かに、茨は刺さると痛いですからね」
あぶねー、俺の意図がバレるところだった。鈍いやつで助かった。
俺はアリスが選んだ、赤、紫、黄色等のあざやかな花々をグラデーションをつけて店先に並べる。
よし、これで一つ問題が片付いた。
「わぁー!すごい綺麗ですね!これだと確かにお花屋さんって感じがします!」
アリスは店先の花を眺めながら、嬉しそうにしている。
「ククク……。こうやって鮮やかな花の色で、この店の前を通る人たちに分からせてやるのさ」
所詮、お前らの人生なんてモノクロで彩りの無い人生だってな……!
「なるほどー!勉強になります!」
これで準備は整った。
「アリスとおっさんは店の中で笑顔で待っとけ、余計な事はするなよ?」
「お、おう」
「わかりました!」
俺はエプロンを締め直し、店先に立つ。
俺はもう無敵だ……。絶望レベルが見えているからな。
花なんて、ただの嗜好品、人生に不自由のない人間を狙えばいい。逆に、極端に高いやつでも面白そうだ。
俺は、頭上に絶望レベル0と書かれた、足取りの速い、身なりの整った中年男性に声をかける。
「ねぇねぇ!お兄さん!きれいなお召し物で!少しいいですか?」
「は、はぁ。なんでしょうか?」
「花、いらない?」
「花……?」
男性は少し困惑した様子で答える。
「そう、これ見てよ。綺麗でしょ?あんまり花とかちゃんと見た事ないでしょ?」
俺は並べられた花を指す。
「まぁ、綺麗だとは思うが」
「奥さんだか、恋人とかいるでしょ?女性はお花、好きだよ。買っていかない?」
「うーむ……」
腕を組み、渋る男性に畳みかける。
隙を見せたなじじい。これがお前の運命の尽きってやつなんだよ。
「たまには花、買ってみてもいいんじゃない?きっと喜ぶよ」
男性は組んだ腕を解く。もう一押しか?
「お兄さん、花には"花言葉"ってのがあるんだけど、知ってる?」
「いや、知らないな。なんだい?それは」
男性は真剣な眼差しで俺を見る。
「例えばこの赤い花、"愛情"を意味するんだ。今、お兄さんが思い浮かべてる相手、きっと最愛の人間だろ?」
「ま、まぁ。妻だから、そうなるな」
男性は恥ずかしそうに、一際小さなトーンで話す。思わず可笑しくて笑いが零れる。
「フハハハ!んじゃ、お買い上げという事で。見繕うよ、着いて来て」
男性は、参ったな。と言わんばかりに頭をかく。
そんな男性を後目に、俺は店へはいる。
「アリス?おっさん?どっちでもいいけど店先の赤い花3本、包んじゃって」
「はい!」と返事をしたアリスが店から出ていく。
男性は戸惑う。
「3本…?それも何か意図が?」
「まぁまぁ、見繕ってって言ったでしょ?」
「そ、そうだな。じゃあ頂こうか」
アリスが3本の赤い花を包装紙に包んで男性に渡す。
「はい!どうぞ!銅貨6枚になります!」
「あ、あぁ」
男性はポケットから銅貨を取り出し、アリスに渡す。
銅貨と引き換えに、アリスは3本の赤い花を男性に渡す。
男性は花を大事そうに抱え、店を出ていく。
「「ありがとうございました!」」
俺とアリスと店主の声が重なる。
じじいめ、照れくさい事になるぞ。バラ3本の意味は「愛しています」だ。
無知は罪なんだよ。その身で思い知れ。
どうなろうと俺の知ったこっちゃないけどな。
「いやぁ、凄いねマサトくん、たった数分でお客さんを捕まえてくるとは」
「私もびっくりしましたよ!マサトさん!」
店主の言葉に便乗するようにアリスが目を輝かせる。
「ククク……。客なんて、きれいな花でも見せて適当な事言って騙せばいいのさ」
「だ、騙す!?」
アリスが目を見開いて驚く。
花を買っていったじじい、花が萎れたら夫婦共々、悲しむだろうよ。絶望したらまた来い。
両手で上がりそうになる口角を抑える。
「んじゃ、俺もっと客引き込んでくるから」
「わかりました!頑張ってください!」とアリスが元気に答える。
それにしても、この親子、絶望レベルが大幅に下がっていやがったな。娘は12、父親は17。
ちょろいもんだ。
そんな事を考えながら、俺は店を出て、次の獲物を狙う。
「ククク……。お姉さん、きれいだね。そんなお姉さんにピッタリな、お花あるよ」