自称クズ、聖人やってます ~ざまぁみろ。絶望さえも奪ってやったぞ~   作:杞憂谷

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第3話

エプロンを着け、俺は考えていた。

 

何から片付けようか。問題は山積みだ。

 

「なぁ、おっさん。ここにある花たち、移動してもいいよなぁ?ククク……。まさか口答えしないだろ?」

 

「あ、あぁ。僕は特に拘りは無いから」

 

「おっさん、花に愛情とかねぇのかよ」

 

「それなりにあるとは思っている。ただ、先代から成り行きで継いだ店であることも事実だ」

 

言いなりの傀儡めがよ。そういう奴が馬鹿を見るんだよ。ここは好きにさせて貰う。

 

俺は店主から借りた鎌を手に、店を出る。

 

「あ、キミ!マサトくん……。だっけ?どこへ?」

 

「ククク、この店の問題に気づいてないのかい?まぁ見てなって」

 

店先のプランターからはみ出た蔓は伸び、店の表面を覆っている。

 

こんなんじゃ、花屋じゃねぇだろ。もはや植物園じゃねぇか。

 

俺は壁にへばりついた緑を刈り取っていく。

 

店主はその光景を不安そうに見守っている。

 

「あ、あの。私にも手伝えることはありませんか!?」

 

アリスもどこか不安げな様子だ。

 

「あぁ?手伝いてぇのか?まずはエプロン着てこい。客からしたらお前、店員か客かわかりづれぇんだよ」

 

「えと、エプロンですね?わかりました!」

 

アリスは足早に店の奥へと姿を消した。

 

「おい、おっさん。不安そうな顔してんじゃねぇよ。店主がそんなんじゃ客が来るわけねぇだろ。適当に店の中でニコニコしとけばいいんだよ」

 

「な!?そ、そうだよな。わかったよ。ここは君に従おう」

 

意志の弱い軟弱者め、もうお前の店はこの俺が支配してんだ。

 

俺は店頭の邪魔な緑を全てそぎ落とした。

 

そこへエプロンを着たアリスがやってくる。

 

「着替えてきました!マサトさん、私に何かできる事ありますか?」

 

「そうだな……。店の前に花を並べようと思う。君は店の中で、綺麗だと思う花を5,6種類くらい選んで。俺は、少しここを掃除するから10分くらい待て」

 

「わ、わかりました!」

 

アリスはそのまま店の中へ入っていった。愚かだな、お前みてぇな華憐な女は何もせず花でも選んどけ。他に何もするんじゃねぇ。

 

俺は生い茂る蔦を刈り取り、地面に落ちた葉っぱや蔓をかき集め、一か所にまとめる。

 

植物だからって容赦はしない。お前らは生贄になるんだよ。

 

俺はまとめた残骸をプランターにパラパラとバラ撒いていく。

 

俺は店内に戻る。

 

「おい、アリス。花は選んだか?」

 

「あ、はい。この赤い花と、紫のこれ、あと黄色い、この花と……」

 

ふぅん、なかなかセンスあるじゃねぇか。まぁ口にしないけどな。誰が褒めてやるかよ。

 

「あっそ、どうでもいいけどさ」

 

俺は一言吐き捨てる、しゃがみ込みアリスが選んだ、赤い花が植えられた植木鉢を抱きかかえ、店先に出す。

 

ここからは拷問だ。太陽の灼熱の光に身を焦がせ。

 

どうだ?自分が選んだ花が、苦痛に晒される気分は。俺はそう思い、振り返る。

 

アリスが重そうに植木鉢を抱え、よたよたとしていた。

 

「おい、アリス。勝手な事をするな。誰が植木鉢を持てと言った?」

 

俺は咄嗟に、アリスが抱きかかえている植木鉢を奪うように抱える。

 

「あ、えっと、その、店先に並べると思っていたので運ぼうと……」

 

「ククク……。確かにお前の推理は正しい。でも、こんな重い物、お前は持つな。俺が運ぶから」

 

危なかったぜ。

 

俺は支配する側。

 

こいつが重い物持ってムキムキになったら、俺はこいつに勝てなくなる。反乱を防ぐには、弱者は弱者でいさせる方がいい。

 

「ふふっ、ありがとうございます!マサトさんって、紳士的なんですね?」

 

「フハハハ!思い上がるなよ。牙を抜くのは、早ければ早いほどいい」

 

「牙…?」

 

「あ、いや、茨っていったんだよ。茨だよ茨。牙とか一言も言ってねぇよ」

 

「あ!確かに、茨は刺さると痛いですからね」

 

あぶねー、俺の意図がバレるところだった。鈍いやつで助かった。

 

俺はアリスが選んだ、赤、紫、黄色等のあざやかな花々をグラデーションをつけて店先に並べる。

 

よし、これで一つ問題が片付いた。

 

「わぁー!すごい綺麗ですね!これだと確かにお花屋さんって感じがします!」

 

アリスは店先の花を眺めながら、嬉しそうにしている。

 

「ククク……。こうやって鮮やかな花の色で、この店の前を通る人たちに分からせてやるのさ」

 

所詮、お前らの人生なんてモノクロで彩りの無い人生だってな……!

 

「なるほどー!勉強になります!」

 

これで準備は整った。

 

「アリスとおっさんは店の中で笑顔で待っとけ、余計な事はするなよ?」

 

「お、おう」

 

「わかりました!」

 

俺はエプロンを締め直し、店先に立つ。

 

俺はもう無敵だ……。絶望レベルが見えているからな。

 

花なんて、ただの嗜好品、人生に不自由のない人間を狙えばいい。逆に、極端に高いやつでも面白そうだ。

 

俺は、頭上に絶望レベル0と書かれた、足取りの速い、身なりの整った中年男性に声をかける。

 

「ねぇねぇ!お兄さん!きれいなお召し物で!少しいいですか?」

 

「は、はぁ。なんでしょうか?」

 

「花、いらない?」

 

「花……?」

 

男性は少し困惑した様子で答える。

 

「そう、これ見てよ。綺麗でしょ?あんまり花とかちゃんと見た事ないでしょ?」

 

俺は並べられた花を指す。

 

「まぁ、綺麗だとは思うが」

 

「奥さんだか、恋人とかいるでしょ?女性はお花、好きだよ。買っていかない?」

 

「うーむ……」

 

腕を組み、渋る男性に畳みかける。

 

隙を見せたなじじい。これがお前の運命の尽きってやつなんだよ。

 

「たまには花、買ってみてもいいんじゃない?きっと喜ぶよ」

 

男性は組んだ腕を解く。もう一押しか?

 

「お兄さん、花には"花言葉"ってのがあるんだけど、知ってる?」

 

「いや、知らないな。なんだい?それは」

 

男性は真剣な眼差しで俺を見る。

 

「例えばこの赤い花、"愛情"を意味するんだ。今、お兄さんが思い浮かべてる相手、きっと最愛の人間だろ?」

 

「ま、まぁ。妻だから、そうなるな」

 

男性は恥ずかしそうに、一際小さなトーンで話す。思わず可笑しくて笑いが零れる。

 

「フハハハ!んじゃ、お買い上げという事で。見繕うよ、着いて来て」

 

男性は、参ったな。と言わんばかりに頭をかく。

 

そんな男性を後目に、俺は店へはいる。

 

「アリス?おっさん?どっちでもいいけど店先の赤い花3本、包んじゃって」

 

「はい!」と返事をしたアリスが店から出ていく。

 

男性は戸惑う。

 

「3本…?それも何か意図が?」

 

「まぁまぁ、見繕ってって言ったでしょ?」

 

「そ、そうだな。じゃあ頂こうか」

 

アリスが3本の赤い花を包装紙に包んで男性に渡す。

 

「はい!どうぞ!銅貨6枚になります!」

 

「あ、あぁ」

 

男性はポケットから銅貨を取り出し、アリスに渡す。

 

銅貨と引き換えに、アリスは3本の赤い花を男性に渡す。

 

男性は花を大事そうに抱え、店を出ていく。

 

「「ありがとうございました!」」

 

俺とアリスと店主の声が重なる。

 

じじいめ、照れくさい事になるぞ。バラ3本の意味は「愛しています」だ。

 

無知は罪なんだよ。その身で思い知れ。

 

どうなろうと俺の知ったこっちゃないけどな。

 

「いやぁ、凄いねマサトくん、たった数分でお客さんを捕まえてくるとは」

 

「私もびっくりしましたよ!マサトさん!」

 

店主の言葉に便乗するようにアリスが目を輝かせる。

 

「ククク……。客なんて、きれいな花でも見せて適当な事言って騙せばいいのさ」

 

「だ、騙す!?」

 

アリスが目を見開いて驚く。

 

花を買っていったじじい、花が萎れたら夫婦共々、悲しむだろうよ。絶望したらまた来い。

 

両手で上がりそうになる口角を抑える。

 

「んじゃ、俺もっと客引き込んでくるから」

 

「わかりました!頑張ってください!」とアリスが元気に答える。

 

それにしても、この親子、絶望レベルが大幅に下がっていやがったな。娘は12、父親は17。

 

ちょろいもんだ。

 

そんな事を考えながら、俺は店を出て、次の獲物を狙う。

 

「ククク……。お姉さん、きれいだね。そんなお姉さんにピッタリな、お花あるよ」

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