自称クズ、聖人やってます ~ざまぁみろ。絶望さえも奪ってやったぞ~ 作:杞憂谷
気づけば花屋には人がちらほら入ってくるようになっていた。
どうせ寂れていた店だ。人がたくさん押し寄せてパンクすれば面白い。もうすでに親子は忙しない様子だ。
あの親子の悲鳴が聞きたい。俺は微笑みながら、店を出ていく人々の嬉しそうな顔を見る。
客も客だ。彩りを求めて、楽しそうに花を一輪一輪丁寧に選んでいる姿が滑稽だ。
幸せそうにしやがって。どいつもこいつも幸せに囚われている。誰もその事に気づいちゃいない。幸せに囚われた豚共だ。
花屋の外で、道を歩く人を観察する。
もう日も落ちてきそうだ。そういえば花屋ってどんくらい店を開けるもんなんだ。なんて考えていた。
相変わらず人々の喧騒は、勢いを止めることは無い。
頭上に、絶望レベル13と表示された老紳士が目に留まり、話しかける。
「じいさん、何か悩んでるだろ。ククク……俺にはわかるよ」
老紳士はピクッと反応し、足を止める。
「ふむ……」
生い先の短いじじいにもなって、悩み事か。めでたいやつだ、もっと悩め。
「グヘヘヘ……。とりあえず、話すだけ話してみなよ。何があったんだい?」
「……ばあさんと喧嘩してな。」
「あー、理由は知らねぇけど、とりあえず花買えよ、んで花渡して謝ってこい。ククク……」
「花か……」
老紳士は俺の背後に並べられた花々へと視線を移し、考え込む。
「女の子の機嫌取るには花だ。ククク……。仲直りしたらいつもありがとうって言えよ」
恥ずかしい気持ちになりやがれじじいがよ。
「……わかった、花、買うよ」
老人を騙すのはチョロいぜ。じじいを辱め、ばばあを驚かせる。最高だ。
俺は店の中の人間を呼ぶ。
「おーい。お客様1名、花が欲しいってさ、選んでやれ」
店主が返事する間もなく、アリスが駆け寄って来る。
「わかりました!……どの花がいいかなぁ……」
じじいの絶望レベルが3まで落ちたな。どうだ?絶望すらさせて貰えない気持ちは……。
――
辺りが暗くなってどれくらい経ったかはわからないが、花屋は格子戸を閉じ、1日を終えた。
「マサトさん、ありがとうございます。あんな多くのお客さん、夢のようでした!」
「マサトくん、是非お礼をさせてくれないか?」
「ククク……。お礼?いらねぇよ。じゃあな」
俺は足早に花屋を去る。
恩を返さないと、って気持ち、人間なら誰しもあるもんな。
俺は悪党だから恩返しはさせない。勝手にモヤモヤしとけ。
アリスの「待って!」という言葉を振り切って、俺は走り出す。
気づけば倒れ込みそうになるぐらい、走り続けていた。
街の外れだろうか、人の気配はない。もちろん背後にも影はない。
息を整えるように俺は歩き出す。
あの親子、絶望レベル、どちらも10以下まで落ちてたな。
「ククク、絶望、奪われてやんの」
俺はケラケラ笑いながら、適当な石段に横になる。
夜空を見上げ、星を見る。
星の数だけ不幸がある。
明日はどんな不幸なやつらが見れるかな……。
「ククク……」
俺は不敵に笑い、目を瞑った。