自称クズ、聖人やってます ~ざまぁみろ。絶望さえも奪ってやったぞ~   作:杞憂谷

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第6話

ゴブリンの傷口はパックリと開いているが、どうやら骨には届いていないようだ。

 

それにしても、ゴブリンの頭上には絶望レベルが表示されていない。魔物には表示されないようだ。

 

傷口からはじんわりと血が零れ落ち、地面を濡らす。

 

俺はシャツを脱ぎ、上半身裸になる。

 

シャツを乱雑に畳み、出来るだけ分厚くする。

 

その布を傷口の、特に損傷が酷い場所に押し付けて軽く体重をかける。

 

白い布に、赤い液体が染み入り、広がっていく。

 

「お、おい何やってんだよあんた!」

 

男は困惑したように声を荒げる。

 

「見てわかんないのか!?……懲らしめてんだよ!」

 

深い切り傷にはまず、厚い布での圧迫だ。傷口周りの血管を押し潰し、血液の流出を防ぐ事が大事だ。

 

どうだ?苦しいだろ……?もがき苦しむがいい……。

 

ゴブリンは今にも飛び出しそうな目で俺を見つめる。どこか怯えているような目をしている。だが抵抗はしないようだ。いや、出来ないのだろう。

 

クッソ、死ぬんじゃねぇぞ……。目の前で死なれたら面白くないからな。

 

人間に返り討ちにされた屈辱を少しでも長く味わってから死にやがれ。

 

「フハハハ!人間様に歯向かうからそうなるんだよ、矮小なゴブリンめ……」

 

「おい、お前まさか助けようとしてるんじゃ……」

 

男は不安そうに、少し引き気味で言った。

 

「あぁ?俺はクズだぞ……?そんな事するわけねぇじゃねぇかよ。ククク……」

 

男はあっけに取られているのか何も返してこない。

 

20分ほど、傷口を抑え続けたか。出血は未だ続いているが、少し落ち着いたようだ。

 

「ククク……。なぁあんた、斧を取ってくれないか?仕上げだ……」

 

「え?あ、あぁ……。結局殺すんだな」

 

男は俺が落とした斧を拾い上げ、ゆっくりと俺の方に歩き、斧を渡す。

 

俺は片手でゴブリンの背中に布を押し付けながら、斧を片手で持つ。

 

斧の刃でズボンに切り込みを入れる。斧を地面に置き、入れた切り込みからズボンの膝から下を引きちぎる。

 

これだけの長さがあれば十分だ……。

 

「ククク……。これで終わりだ……」

 

俺は器用に、引きちぎった布をゴブリンの胸側に滑らせる。

 

背中側で帯を結ぶように、傷口に当てた布ごときつく縛る。

 

グゲェ……とゴブリンの口から声が漏れ出る。

 

そのままうつ伏せで倒れているゴブリンを尻目に、斧を拾い立ち上がる。

 

「斧、汚してすまんかった。今はお金ないけど絶対弁償する」

 

俺は男に対し、深々と頭を下げる。

 

「あ、いや、洗えば大丈夫だし、いいよ……。手伝ってもらったし、それでチャラってことでいいじゃないか」

 

男はさっきとは打って変わって明るい口調で話す。

 

俺は頭を上げる。

 

「そうか、ありがとな」

 

「あんた、狂ってんだな……」

 

男は頭を掻きながら、どこか感心したような、複雑な表情を浮かべる。

 

「フハハハ!まぁな……。今日も我ながら恐ろしい事したぜ」

 

「なんでそんな事するんだ?そいつ、魔物だぞ。人間を襲うしさ」

 

「ククク……。人間を襲わせる為、って言ったらどうする……?」

 

俺はわざと大げさに肩を震わせて笑ってみせる。

 

「そうは思えないけどな。ただ、目の前の命を助けたかっただけじゃないのか?」

 

男は真正面から俺を見つめ、真剣な眼差しで問いかける。

 

「グフフフ……。面白い事言うんだな。俺はクズだ。ただ、瀕死のゴブリンを抑えつけて、布で縛っていじめただけなのさ……」

 

「はぁ……そうかい……。よし、木もだいぶ集まったし、運ぼう」

 

「あぁ。そうだな……」

 

やれることはやった。あのゴブリンがそのままくたばろうと俺には関係ない。

 

俺たちはその場から歩き去る。

 

まとめておいた木を拾い上げ、担ぎ、ゴブリンの方を振り返る。

 

ゴブリンの目からは涙が零れ落ちていた。

 

「ククク……。魔物さえも俺の邪悪さに泣き出すか……。どっちが魔物かわかんねぇな……グフッ」

 

バカな獣がよ……。元気になるまで地面にひれ伏してるがいいさ……。

 

再び街の方を向き、前を歩く男の背を追いかけて、俺は歩き出した。

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