俺の告白を聞いたクリスねーちゃんはしばらくフリーズしていたが、数秒で再起動を果たしてその重い口を開いた。
「………………えっ?」
「一目見た時から惹かれてました! どうか結婚を前提にお付き合いをお願いします!」
クリスねーちゃんが素っ頓狂な返事をしたのでさらに言葉を続けるが、気配を通して伝わってくる感情は『喜び』ではなく『困惑』だった。
「えっと……つまりルカは私の事が好き……ということですか?」
「好きです。大好きです!」
「それは……その……ありがとうございます。しかし……」
クリスねーちゃんは俺の言葉を聞いてお礼を述べた後、何やら考え込んでしまった。
「……気持ちはとても嬉しいのですが」
しばらく黙った後、クリスねーちゃんの口から出てきたのはお断りの定型文だった。
「私とルカでは年齢差が大きすぎます。同い年……いえ、あと5年早くルカが生まれてきてくれていたなら……」
「歳の差なんて関係ないよ!」
「ありますよ。今私とルカが付き合えば……」
クリスねーちゃんはそこで一度言葉を区切り、俺から視線を逸らした。
「私はショタコンだと言われるでしょう」
「ショタ……」
「ええ。ルカは明日で13歳、私は現在23歳ですからね。今はショタコンだと言われて数年後ルカが成人した後は『若い燕を捕まえた』と言われるでしょう」
そんな……俺のせいでクリスねーちゃんが悪く言われるようになるなんて……
いや、でも逆に悪く言うやつを俺がぶっ飛ばしたらたら問題は無いのでは無かろうか?
「クリスねーちゃん、俺……」
「それに、ルカはこの森に住んでいて私以外だとメリダ様以外の女性との接点が無いでしょう? 将来的にこの森を出て街に行けば私以外にもたくさんの女性が居ます」
「いや……あの……」
「ですので……そうですね、あと5年しても他に好きな女性が出来ず気持ちが変わらなかったならもう一度言ってください。その時にはキチンと考えますので」
「……はい」
「ふふ……気持ちはとても嬉しかったですよ。私もルカの事は気に入っています」
クリスねーちゃんはそう言って俯く俺の頭を撫でてくれた。
「では私は護衛に戻ります。ルカもあまり遅くならないように」
「……はぁい」
ディスおじさんの護衛に戻るクリスねーちゃんの背を見送り、クリスねーちゃんの姿が見えなくなった瞬間俺は全身の力が抜けてその場に崩れ落ちた。
「あ……あぁ……」
ポロポロと涙が零れ、頬を伝って地面に落ちる。
どうやら俺は……振られてしまったようだ。
「う……ひぐぅ……」
涙を拭う気にもなれずにしばらくそのまま泣いていると、庭の奥の森から人が近付いてくる気配を感じた。
「ル、ルカ兄!?」
「シッ! バカ、声出すな!」
やはりというかなんというか、近付いてきていたのはシンとジークのようだ。
2人は俺がへたり混んで泣いているのを見て状況を察したのか声を潜め気配を消そうとしているが、既に補足されているのだから無意味な行為だ。
まぁ……補足してるけど対応する気は無いから気付かれてるとは思わないだろうけどね。
「ど、どうしよう……!?」
「だから騒ぐなって! シンはなんでルカがああなってるのか心当たりはあんのか?」
「えっと……」
2人は俺に気付かれないようにと小声で会話をしているが、丸聞こえである。
前世の記憶が戻ったあの日から毎日欠かさずに気の鍛錬を積んできた俺の五感の鋭さを舐めないでいただきたい。
なんなら第六感的な感覚も持ってるし。
「なんだよ、俺には言えないようなことなのか?」
「ルカ兄の名誉的に俺の口からはちょっと……」
「なるほど察した。シン、ルカの対応は俺がしておくからお前は部屋に戻ってろ」
「えっ? でも……」
「いいから」
そう言ってジークはシンを部屋に戻らせようとする。
シンは遅疑逡巡していたが、俺とジークを交互に見た後この場を離れていった。おそらく部屋に戻ったのだろう。
「さて……」
ジークはしばらくそのまま動かなかったが、シンの気配が家の中に入ったところで小さく声を漏らしてこちらへと足を進めてきた。
「おーいルカ、どうしたんだよ」
白々しい。なんて白々しい男なのだろうか。
俺が泣いている姿を見てシンから理由を聞いて「察した」と言っていた癖に「どうしたんだ」なんてどこまで白々しい男なんだ。
前回は右ストレートで放った《
「おいルカ、無視すんな」
「うるせぇジーク、あっちいけよ」
「行かねぇよ。それで? もしかしてお前、クリスに告白して振られでもしたのか?」
「《
「うおっ!? 危ねぇ!!」
ジークが大股で近付きながらデリカシーの欠片もない発言をしたのでその隙だらけな股間に向けてアッパーカットを放ったのだが、すんでのところで感づいたジークに回避されてしまった。
「お前……それやめろって毎回言ってるだろ!?」
「うるさい。ジークがデリカシーの欠片もない発言をするからいけないんだ」
「デリカシーって……お前にはあんのかよ?」
あるよ。多分。これでも前世ではモテモテだったんだから。
まぁ国でもトップクラスに歴史があって大きな会社の跡取り候補って立場上ホイホイとお付き合いをするわけにはいかなかったから交際経験は無いんだけどね。一応年に一回くらいしか顔を合わせない歳下の許嫁はいたけども。
「ジークよりはあると思う」
「そうかよ。まぁそもそも男同士でデリカシーが必要なのかっつー話だけどな」
「必要でしょ。親しき仲にも礼儀ありだよ。まぁそもそも親しくないけど」
「ひでーな。俺はお前のこと弟みたいに思ってんだぜ?」
そう言ってジークは俺の隣に座ってガシガシと頭を撫でてくる。
「触んなよ」
「うっせ。大人しく撫でられとけ」
「むぅ……」
初めはジークにどうやって《
「なぁルカ」
「……なんだよ」
「失恋って辛いよな」
ジークはそう呟きながらも俺を撫でる手は止めない。
なんなのこいつ?
「ジークも失恋したことあるの?」
「いや、無いけど」
「じゃあお前に何がわかるの!?」
こいつ……前からイケメンだとは思っていたけど失恋したことが無いとか……
なんでそれを失恋したばかりの俺に言うの? もしかして喧嘩売られてるのかな?
「怒るなよ。俺が何を言いたいかっていうとこの世には女なんて星の数ほどいるんだからたかだか一回の失恋で落ち込むなってことだよ」
「話繋がってねーよ」
「しゃーねーだろ、俺の周りに失恋した奴なんか今まで居たことねーんだからよ」
「ジークの周りってイケメンしか居ないの? 喧嘩売ってるの?」
「ちげーよ。ていうか客観的に見てお前やシンも大概イケメンだからな?」
「そうなの?」
俺やシンの前世基準で見れば今の俺やシンは結構なイケメンだと思ってたけど、この世界の美醜感覚がわかんないから世間一般から見てどうなのかはわからなかったんだよね。
じいちゃんやばあちゃんは俺たちのことを「可愛い」と言ってくれるけど、それは身内びいきも多分に含まれているからだろうし。
「街に行ったらモテると思うぞ」
「別に好きな人以外にモテてもしょうがないよ」
「バカ、自分のことを好きになってくれた女のことを好きになればいいんだよ。それなら失恋する事も無いだろ?」
「なんか違うような……」
「違わねーだろ。とりあえず言い寄ってくる女の子と付き合ってみて好きになれそうじゃなかったら別れればいいんだし」
「ジークさいてー」
「はっはっは! 今はわからなくてもそのうちわかる日が来るさ」
それは……あんまりわかりたくはないかな。
俺は女性に対して不義理なことはしたくはない。
「わかりたくない……」
「そうか。ルカがそう思うならそれでいいさ。それよりもう涙は止まったか?」
「えっ?」
言われて、気が付いた。
つい先程まで止めどなく流れていた涙がいつの間にか止まっていることに。
「……あれ?」
「涙は止まってもまだ目は赤いし鼻水でぐちゃぐちゃだな。水出してやるから顔洗え」
そう言ってジークが何やら早口で呟くと俺の目の前に直径30cm程の水球が出現した。
「……ありがと」
「おう、これぐらい気にすんな」
ジークが出してくれた水球に顔を突っ込んでゴシゴシすると、今まであった悲しい気持ちも一緒に洗い流せた気分になった。
「なんかさっぱりした」
「ならもう大丈夫だな。じゃあ家の中に戻るか?」
「うん」
そうして俺は気分を切り替え、ジークと並んでクリスねーちゃんの待つ家へと戻っていった。