じいちゃんが渾身のギャグ「常識教えるの忘れとった!」で場の空気を完全に破壊された俺たちのお誕生日おめでとうパーティーの日の翌日、俺たちは昨日あの場にいた全員でシンがよく魔法の練習場にしている荒野へとやって来た。
移動はシンが使える移動魔法《ゲート》で行ったのだが、俺とじいちゃんを除く全員が口をあんぐりと開けて固まっていた。
気持ちはわかる。魔法ってずるいよね。
俺が家からここまで来ようと思ったら全力で5分は走らないといけないんだから。
ちなみになぜこんな場所に来ているかというと、「これだけ世間知らずなら爺さんが育てた2人の実力がどんなことになっているのか確かめたい」とばあちゃんが発言し、全員が頷いたからである。
あの……シンは割と1人で訓練したり狩りをしていたからわかるんだけど、俺はよくクリスねーちゃんやミッシェルさんと一緒に訓練していたし、ジークが来ている時は荷物持ちの《異空間収納》係としてジークを狩りに連れて行っていたのだから俺の実力は周知の事実なんじゃないの?
「はぁ……転移魔法を使える時点で驚きなのに魔法の練習をする為にこんな荒野まで来ているなんて……ああ、もう何も見たくないね」
「そうは言いますがメリダ師、これは確認しておかなければ2人がどんなトラブルに巻き込まれるかわからないのですから……諦めて確認しましょう」
「そうだねぇ……ディセウムの言う通りだよ」
なんかばあちゃんとディスおじさんが遠い目をしているけど、それはシンに対してだよね?
俺の実力は知ってるもんね?
「さて、それでは始めようかのぅ」
「あのさじいちゃん、俺はどうすればいいの?」
とりあえずなんか『皆行くぞ!』って雰囲気だったからついてきたけど、俺は見てるだけでいいの?
「いや、ルカにも実力を披露してもらうぞぃ」
「でも皆俺の実力は知ってるよね? クリスねーちゃんとかミッシェルさんと戦ってるの見てるでしょ?」
「うむ。じゃが……『アレ』は見せておらんじゃろ?」
「あー……」
確かにココ最近身に付けた……というかたまたま偶然発覚した『アレ』はまだ皆にはお披露目していない。
確かに『アレ』はシンもじいちゃんも驚きすぎて腰を抜かすレベルだったので俺の実力のお披露目として『アレ』を見せるには今回のこの場は相応しいものだろう。
「じゃあシンの魔法のお披露目と一緒にやる?」
「そうじゃの。ルカの『アレ』もじゃがシンの方も面白い技術を身につけておるからそれも見せておきたいからの。2人とも、それで良いか?」
「「わかったー!」」
「では2人とも、準備せぃ」
「「はーい!」」
じいちゃんに促され俺とシンは皆から数十メートル離れた位置でこれまた数十メートル距離を開けて向かい合った。
そして剣を抜き、気の操作をして剣に多めの気を纏わせる。
「ルカ兄準備はー?」
「いつでもおっけー!」
「じゃあ……まずは火からでいい?」
「ばっちこい!」
俺がそう返事をすると、シンは一度頷いてから右手を前に出した。
そしてその差し出した右手の前に蒼白い炎が生成された。
「青白い……炎?」
「なんだあれ……初めて見たぞ……」
少し離れた場所からそんな囁きが聞こえてくるが、今は無視をして生成された炎に意識を向ける。
「行くよ!」
シンがそう言って炎の玉を発射すると同時に剣を振り上げ、良きタイミングを見計らってそのまままっすぐ振り下ろした。
「なッ……!?」
「マジかよ……」
「魔法を……斬った?」
俺の振り下ろした剣によって真っ二つに裂かれた炎の玉は俺を避けるように左右に割れて俺の数メートル後ろで地面に着弾、それなりに大きな音を響かせながら地面を抉った。
「……ふぅ」
「どんどん行くぞ!」
我ながら完璧な真っ向斬りだと自画自賛していると、ニヤリと口角を上げたシンから次々と魔法が放たれ始めた。
「マジかよ!?」
慌てて全身を巡る気を活性化させて肉体能力と反射速度を上昇させて剣の柄を握り直す。
そして次々と俺に向かって飛んでくる魔法をあれをこうしてソイヤする。
「まだまだぁ!」
シンは両手を前に出して数十個の青白い炎の玉を生成して一斉にに放ってきた。
お前……わざとだろ!
「ぬ……ぬぉぉぉおおお!?」
剣の柄を強く握って腰を落とす。
両の足でしっかり大地を踏みしめながら嵐のように降り注ぐ炎の玉を捌いていく。
しかし――数が多すぎる。これ、ちょっと無理くね?
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
腹の底――丹田から声を出し、気を引き出して肉体能力と反射速度を更なる高みに引き上げる。
そうして気分的にはピリオドの向こう側に到達した俺は未だかつて出したことの無い限界を超えた剣速を発揮してシンの放った全ての蒼白い炎の玉を斬り裂いた。
腕が……プルプルしてる! さすがにもう限界です!
てかあのバカが炎の魔法ばっか使うから今ここめっちゃ暑い!
「やるなルカ兄……今こそ積年の恨みを晴らす時! これならどうだ!」
シンは心底愉しそうな表情で俺を見ながら両手を掲げる。
するとシンの両手の先に直径3mはありそうな巨大な炎の塊が生成され――そして放たれた。
今までの炎の玉なら直撃しても「熱い!」となる程度の熱量だったけど、アレは直撃したらさすがに火傷してしまうくらい熱量が込められている。
これは……ダメなやつ!
ぶった斬ろうにも腕がプルプルしていて上手く力が入らない。
というかそもそもデカすぎて斬れる気がしない。
いや、頑張ったら斬れるような気も……って今はそれどころじゃない!
「んなぁぁぁあああ!!」
丹田から更に気を引き出してその全てを体に纏っている気に上乗せする。
そして纏った気を操り右足へと集中させ――向かってくる炎の塊を上空へと蹴り上げた。
「「「「ええぇぇぇえええええ!?!?」」」」
「ぐぬぬ……!」
ばあちゃんたちは揃って驚愕の声をあげているのだが、俺と相対しているシンだけは悔しそうに歯噛みしていた。
お前……
「マーリン! アンタ!」
そんな中、誰よりも先に正気に戻ったばあちゃんが大声を上げた。
さすがに気になってシンとともにばあちゃんの方へと視線を向けると、ばあちゃんは凄まじい形相を浮かべてじいちゃんに掴み掛った。
鬼ば……うん。なんでもない。
「アンタ……なんであの2人に『常識』と『自重』を教えなかったのさぁ!」
「確かに……」
「これは酷いですな……」
じいちゃんはばあちゃんに揺さぶられ、ディスおじさんとミッシェルさんはそんなばあちゃんに見咎められないようコソコソ2人です話している。
クリスねーちゃんとジークは……死んだ魚のような目をして遠くを見つめてるな。
「ルカ兄……」
そんな大人たちの様子を見ていると、いつの間にかそれの傍まで寄ってきていたシンに声を掛けられた。
「どした?」
「次はどの魔法にする? 水? それとも風?」
「お前バカなの?」
なんでまだお披露目続けようとしてんの?
そもそも続けるってなったとしても腕がプルプルしてるしてるし、かなりの量の気を消費したからお兄ちゃんはヘロヘロです! 5分休憩をください!
「ルカ兄……バカって言う方がバカなんだよ?」
「うるせぇバーカ!」
「小学生かよ……あっ、ルカ兄の学力は小学生並だったね、ごめんねプークスクス」
「よーし歯を食いしばれ、その顔面二度と見れないようにしてやんよ!」
「ごめんって!」
「アンタたち! 何を騒いでいるんだい!」
「「げっ! ばあちゃん!?」」
シンのシュッとした鼻目掛けて強めの頭突きをカマしてやろうと体を仰け反らせた瞬間、鬼の形相で両手にハリセンを装備したばあちゃんがこちらに迫ってきている姿が目に飛び込んできた。
じいちゃんは……だめだ、揺さぶられすぎて倒れてる。お労しや……
「正座」
「えっ?」
「えっ?」
「2人ともそこに正座しな」
ばあちゃんの終わった眼力が恐ろしすぎたので、俺とシンは黙ってその場に腰を下ろした。
「はぁ……まったく、アンタたちはどうしてこんな風になっちまったのかねぇ」
大人しく正座をした俺たちの前でばあちゃんは仁王立ちしながらそんなことを呟いて大きく息を吐き出した。
「いいかい? 普通の魔法使いは青白い炎なんて出せないし、普通の剣士は魔法を斬ったり出来ないんだよ」
「それは……」
「出来ちゃったと言うか……」
「お黙りッ!」
弁明をしようとした口を即座に閉じた。
やべぇ……ばあちゃん怒ってる。いや、これは怒ってるなんて可愛いもんじゃない。これは激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。
俺たちは死ぬ。
「まぁまぁメリダ師……」
「あ゛あ゛!?」
「……」
ディスおじさんが意を決したようにばあちゃんを窘めようと声を上げたのだが、グリンと音がしそうな勢いで振り返ったばあちゃんの顔が怖かったのか言葉が続かず黙り込んでしまった。
ディスおじさん、もっと頑張れよ。そして俺たちを……いや、俺だけでも助けろください。シンは強い子なので大丈夫です。
「メリダよ、少し落ち着いて――」
「誰のせいだい! 誰の!」
「ほ……」
今度は復活したじいちゃんがばあちゃんを止めようとするが、そもそもの元凶は俺たちを育てたのはじいちゃんなのでばあちゃんに一喝されて縮こまってしまった。
やべぇ、誰もばあちゃんに逆らえない……
ちなみにその後なんやかんやあってシンの『取っておき』である《フレンドリーファイア回避魔法》のお披露目も恙無く行われた。
シンの《青白い炎魔法》や俺の《魔法斬り》で驚き疲れていたばあちゃんはそれを見た瞬間意識を飛ばしてしまった。
これは……やり過ぎたかもしれんね。
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