シンの質問を聞いたディスおじさんは一瞬「そういえば言ってなかったっけな?」みたいな表情を浮かべた後、椅子から立ち上がった。
「おお、言ってなかったな。私の本名は『ディセウム=フォン=アールスハイド』。アールスハイド王国の国王だ」
「な、な、なんだってー!?」
「ルカ兄それさっきやったよ……せっかく驚いたのに台無しになっちゃった……まぁそれは置いといて、ディスおじさんが国王ならクリスねーちゃんとジークにーちゃんは何なのさ?」
なんだよ、乗ってくれてもいいじゃん。
しかしディスおじさんって王様だったのか……さっきクリスねーちゃんと話してる時に偉いお貴族様なのかもしれないとは思ってたけどまさか王様だったとは……
「私は近衛騎士団所属の騎士で陛下の護衛としてここにいるの」
「俺は宮廷魔法師団の魔法使いさ。俺も陛下の護衛だよ」
まぁディスおじさんが王様ならその護衛のクリスねーちゃんは近衛だよね。
そしてジークは宮廷魔法師団……似合わねぇ!
「えー!? クリスねーちゃんはわかるけど、ジークにーちゃんは嘘だぁ!」
「待てコラ、嘘ってなんだ! それよりもクリスは兎も角ってなんだよ!?」
「ジークは魔法師団っていうよりチャラ男で示談だよね」
「示談ってなんだよ……」
「慰謝料的な?」
なんかジークって女性を取っかえ引っ変えしてるっぽいし……刺されればいいのに。
「ルカ兄……まぁいいや、じゃあミッシェルさんは?」
「私はもう騎士団は何年か前に引退したな。引退するまでは騎士団総長をしていたな」
ミッシェルさんって騎士団の人だったんだ……てっきり冒険者的な人だと思ってたよ。
「何この国の重鎮大集合な状況……」
「でもさぁ、なんで王様なディスおじさんがうちに遊びに来てるのさ。暇なの?」
「ふむ、私が王とわかっても態度は変えないのだな?」
ディスおじさんが挑戦的な目線を向けてくる。
「だって……昔から知ってるおじさんだもの。それこそ親戚のおじさんだと思ってたし……だから俺はともかくルカ兄に今更態度を変えろって言っても出来ないよ」
「態度変えろ、陛下って呼べ、敬えって言われたら心の中で鼻くそほじりながらそうするけど、その方がいい……ってシン!?」
こいつもしかして今「俺はともかくルカ兄には出来ない」って言った?
「はっはっは! 良い良い。ウチの本物の甥っ子姪っ子、それに実の息子や娘にまで私には敬語だからな。こんな砕けた会話が出来るのはお前たちだけなんだ。くれぐれも変わらないでくれよ?」
「ぐぬぬ……」
シンに言葉と拳でツッコミを入れようとしたのだが、その前にディスおじさんが大きな声で笑い始めてしまったので振り上げかけた拳を降ろした。
「それはわかったけどさ、ここに来る理由は?」
「おっと、そうだったな。シンくん、それとルカくん。キミたちのお祖父さん――マーリン殿が昔魔物化した人間……つまり魔人を討伐した話は知っているかい?」
「うん、じいちゃんから聞いた事あるよ」
「確かその時に幾つかの村や街が無くなって国がひとつ滅びかけたんだっけ?」
国の総力を上げて魔人に立ち向かったけどじいちゃん以外誰も勝てなかったって言ってたな。
その話を聞いた時はただひたすら強力な魔法を放ち続ける魔人に魔法の使えない戦士である俺がどうやったら勝てるのかばっかり考えてたなぁ……
今なら魔法を斬ったり弾いたり出来るようになったからワンチャン勝てなくもないと思う。
「うむ。ではその滅びかけた国の名前は知っているか?」
「そういや聞いた事無いかも」
「話の流れ的にもしかして……?」
この話を王様であるディスおじさんが話すってことは――
「そう。お察しの通り我が国だ」
「「やっぱり……」」
「私がまだ高等魔法学院の生徒だった頃だ。我が国魔人が現れて村をひとつ破壊してな。私の父上……当時の国王だな。父上や国の上層部は蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。何度も討伐隊を送っては返り討ちに合うというのを繰り返していてな、ついに街まで破壊されてしまいとうとう魔法学院の若い魔法使いにまで討伐の要請が下って、私も討伐隊に名を連ねた」
学院の若い魔法使いってことは学生……つまり学徒動員ってやつか。
学徒動員までするってことは相当追い詰められていたんだろうけど、そもそも戦力の逐次投入とか愚策中の愚策なんだから追い詰められたのは国の失策だよね。
まぁ魔人が1体だけだったから甘く見てしまったのかもしれないけど、一度返り討ちにされたならそこで戦力を一括投入して数で圧殺するのが最適解だったと思う。
まぁ後からならなんとでも言える系の素人意見だから決して口には出さないけど。
「それって反対されなかったの?」
「そうだよ、ディスおじさんは王族でしょ? 王族が最前線に出ちゃダメでしょうよ」
今現在の王様がディスおじさんってことは継承順位は上の方だったんでしょ?
継承順位が低かったり放棄してる王族が最前線に立つならわかるけど、継承順位上位の王子様が最前線に出るのは不味いでしょ。
「もちろん大反対されたさ。当時既に立太子の儀も終わって王太子になっていたからな。だが実力主義の魔法学院で成績優秀者だった私のプライドが許さなかった。私の友人たちが死地に赴こうとしているのに私だけ安全な場所にいられるか、とな」
「おお……ディスおじさんかっけぇ……」
「いや……マジでか」
もしもそれで戦死したりしたら「王太子を最前線に立たせた罪」とかで魔法学院はお取り潰し、学院の上層部は「ディスおじさんを止められなかった罪」で揃って縛り首になるんじゃ……
王太子なんて責任しか無い立場の人が前線に赴くだなんて……
責任ある立場にある人は時には自分の意思と意見を押し殺してでも何が最善かを考える必要があると思うんだ。
まぁ……人としてはその選択が出来るディスおじさんを尊敬するけどね。でも為政者としてはダメだと思う。
「だが……やはり恐いものは恐くてな。出立の日が近付くにつれ友人たちも眠れない日々を過ごした。そしてとうとう出立してな、実際に魔人と相対したのだ。あの時の絶望感は今も覚えているよ」
「……それで、どうなったの?」
シンは話に夢中なのか前のめりになって聞いているが、その隣に座っている俺は若干微妙な気持ちになっている。
やっぱりディスおじさんはその立場から『守られる側』の人間なのだ。
なのに『守る側』の人間が『守られる側』のディスおじさんを脅威の前に立たせている。
それは守る側の人間の怠慢に他ならない。
本来なら守る側の人間は例えディスおじさんに嫌われても、後から罰を受けてでも守られる側であるディスおじさんを戦場から引き離さなければならないのだから。
「私たち魔法学院の生徒だけでなく、熟練の戦士や魔法使いまでその魔人に圧倒されてな。最早ここまでかと思った時に現れたのが――」
「じいちゃん!」
「それとメリダ師だな」
え? ばあちゃんも?
じいちゃんからはばあちゃんも一緒だったとは聞いてないよ?
「アタシは付与魔法使いさね。サポートくらいしかしてないよ」
「それでも凄いよ!」
「そ、そうかい?」
ばあちゃんが照れてる……明日は槍でも降るのかな?
「そうして颯爽と現れた2人は苦戦しつつも、とうとう魔人を討伐してな。猛烈な勢いで敵と相対するマーリン殿と妖艶とも言える容姿で巧みに魔道具を操るメリダ師のその姿に震えが来るほどの憧れを持ったものだ」
「猛烈……」
「妖艶……」
俺とシンが揃って2人へと視線を向けると、じいちゃんとばあちゃんは気まずそうに視線を逸らした。
「何も言うてくれるな……若気の至りじゃ……」
「なんだい? アタシはまだまだ捨てたもんじゃないだろう?」
ばあちゃん……なんでちょっとドヤ顔してるんだよ……
「ばあちゃん……」
「それはねぇよ……」
「お黙りッ!」
「あいたぁ!?」
ドン引きしつつも素直な感想を述べた俺はばあちゃんの会心の一撃を食らってその場に崩れ落ちた。
「ま……まぁともかく、そうして魔人を討伐したのだ。尚且つその場に私が居たものだから国難を救い、王太子まで救った者として国から英雄として取り上げられてな。それ以来マーリン殿とは立場を超えた友人となって貰ったのだ。それは即位した後も続いていて今でもちょくちょく政治の愚痴を聞いて貰いに来ているのだ」
ふーん。しかし国難を救った英雄……つまり救国の英雄か。とてもかっこいい響だな。俺もなりたい。
「そっかぁ……って愚痴かよ!?」
「そりゃそうだろ。国の政治は私の仕事であり責任だ。マーリン殿とはいえその責任を押し付ける訳にはいかんだろ」
いくらじいちゃんが英雄だからって立場は平民だからそりゃまぁ仕方ないよね。
「そういう訳で大恩ある人物の孫なんだ。2人を政治利用したり軍事利用したりするつもりは無いから安心して来てくれて構わない」
「わかったー」
「そういえばいつまでに行けばいいの?」
「ああ、年が明けて少ししたら試験があるからそれまでに王都に引っ越して貰えたらありがたい」
話もひと段落ついたようなので俺は気になっていた事を聞くことにした。
「ねぇ、じいちゃんとばあちゃんが魔人と戦った話詳しく聞きたいんだけど」
「ルカさんは詳しくは聞いていないのですか?」
「うん。じいちゃんが魔人を倒して英雄って呼ばれてることは知ってたけど詳しい話は聞いた事ないよ」
商人のトムおじさんに聞かれたので素直に答える。
するとトムおじさんは一度頷いて持っていた荷物の中から一冊の本を取り出してその表紙をこちらに向けてきた。
「おふたりのご活躍はこちらの『英雄物語』に余すことなく書かれていますよ」
「トムおじさん、俺その本欲しい! 出世払いで!」
普段の俺は本なんて一切読まないが英雄譚なら別である。是非読んでみたい。
多分途中からシンに音読させるけど!
「あんたは何を言い出すんだい!」
しかしそうして俺がツケで本を買おうとしたからか、ばあちゃんに《衝撃百倍(ルカ限定)》の付与をしたハリセンで後頭部を引っ叩かれた。
「ばあちゃん、痛いよ」
「お黙り! あんな小っ恥ずかしい本なんて身内に読ませたくないんだよ!」
「そんなぁ……」
「ルカ……あんたアタシと爺さんの夫婦生活が書かれた本なんて読みたいのかい?」
「絶対やだ!」
「なら、諦めな」
ばあちゃんに説得されたことで俺は本当にを購入することを諦めた。
しかし今なんか聞き流してはいけない言葉が聞こえたような……?
「じいちゃんとばあちゃんって夫婦だったの!?」
それだ!!
「……ほっほ」
「若気の至りさね……」
マジかよ……