入試成績総合3位という結果を引っさげルンルン気分で帰宅すると、皆リビングに集まっていると聞いたのでリビングへと向かい中に入る。
「あ、ルカ兄おかえり!」
リビングにはシンとオーグ、じいちゃんにばあちゃん、そしてまだ居たディスおじさんがソファに座って談笑しながら俺の帰りを待っていた。
やっぱりディスおじさんは暇人なんだと思う。
「ただいま。シン、どうだった?」
「俺もオーグも受かってたよ。ルカ兄は?」
「俺も受かってた!」
両手を腰に当てて胸を張り、渾身のドヤ顔で宣言するとリビングに集まっていた面々は「おお!」と言いながら拍手をしてくれた。
皆に賞賛されとてもいい気持ちでソファに腰を下ろした。
「ほっほ。おめでとう」
「ルカ……よくやった。よくやったよ!」
「ちょ……大袈裟じゃない?」
俺の座った席の正面に座っていたじいちゃんは嬉しそうに目を細めウンウン頷いているだけなのだが、その隣に腰掛けているばあちゃんはハンカチで目頭を抑えている。
ばあちゃん……確実に落ちたと思ってたな?
「ルカくんおめでとう」
「ありがとうディスおじさん!」
「おめでとうルカ」
「ありがとうオーグ!」
「ああ。ところでルカは何クラスに合格したんだ?」
オーグが待ちに待っていた質問をしてくれたので俺はニヤリと口角を上げ不敵な笑みを浮かべながら堂々と答えた。
「総合3位でSクラス! どやぁ!」
「素晴らしい成績じゃないか。シンや父上から『ルカはあまり賢くない』と聞いていたのだが、その順位ならそんな事はないみたいだな」
「いや、それはそれで合ってるけどね?」
全力でドヤってみるとオーグがキラキラ王子様スマイルを向けてきたのでさすがにちょっと気まずくなって視線を逸らす。
総合成績は3位なんだけど、実は筆記でギリギリ4割取れずケツから数えた方が圧倒的に早い順位なんだけどね!
「ルカ……今なんで殿下から目を逸らしたんだい?」
俺がオーグから視線を逸らしたのを目ざとくばあちゃんに見咎められた。
「いや……別に?」
「アンタ何か隠してるね? まさか……」
ばあちゃんは訝しげに目を細めていたが、なにかに思い当たったかのようにその目が段々と見開かれていき最後には最早見慣れた鬼の形相になっていた。
「まさか……まさかアンタ、カンニングしたのかい!?」
「してねーよ!」
思わず立ち上がりながらばあちゃんの言葉を否定する。
俺はどれだけ信用が無いんだ!
「……本当に? アンタの実力なら近くの席の受験生の答案用紙を覗くことくらい容易いことだろう?」
「そりゃ出来るか出来ないかの話をすれば余裕で出来るけど、本当にやってないよ!」
なんなら答案用紙にペンで書き込むカリカリという筆記音である程度何を書いているかもわかるけど、それもやってないよ! 実力だよ! 実力で4割弱だよ!
「そうかい。疑ってすまなかったねぇ」
「あ、あっさり信じてくれるんだ?」
俺が「やってない」と主張するとばあちゃんはあっさりと納得をして疑ったことを謝ってくれた。
「アンタが嘘をついたらすぐにわかるさね」
「何その能力……」
「アンタが嘘をつく時は……いや、これは秘密にしておこうかね」
「ええ……」
「ほっほ。ルカは顔に出やすいからのぅ」
ってことはばあちゃんだけではなくじいちゃんも俺が嘘をついたらすぐわかるってこと?
いや、まぁ嘘つくことなんかほとんど無いんだから別にいいっちゃいいんだけど、嘘ついたら即バレするってなんか嫌だな。
「俺もルカ兄が嘘ついたらすぐわかるよ」
「マジでか……なんでわかるか教えてもらえたりは?」
「教える訳無いじゃん」
シンは呆れたようにため息をついているけど弟ならそれはお兄ちゃんに教えるべきだと思う。
「そっか。ちなみに筆記試験は500点満点中429点で全体27位、実技試験はダントツ1位で総合3位だったよ」
「嘘だ!」
「嘘だね」
「嘘じゃのぅ」
「マジかよ」
試しに早速嘘をついてみたのだが、やはりというかなんというか一瞬でバレてしまった。
「ルカ兄、嘘つくならもっとまともな嘘つきなよ。そもそもルカ兄が筆記試験で8割以上取れる訳が無いんだから顔見なくてもわかるよ」
「なんだとコノヤロウ! だったらお前は何点だったんだよ!」
「えっと……筆記試験は500点満点中496点、実技試験は1位で首席合格だよ」
「なん……だと……!?」
シンが……首席?
いや、待て。落ち着け。まだあわてるような時間じゃない。
落ち着いてよく考えるんだ……シンはちゃんと勉強していただろうか? カンニング魔法を開発してそれを使った可能性は……無いな!
よく考えなくてもシンは昔からちゃんと勉強してたわ。
「驚いているところ悪いが私は筆記試験は492点で2位、実技試験も2位でシンには負けたが次席合格だぞ」
「マジかよ……さすが王子様……」
「はっはっは! シンくんさえ居なければ間違いなくお前が首席だっただろうが残念だったな。しかしこれでお前も世の中には上には上がいることを学んだだろう?」
「はい、精進します」
オーグとディスおじさんが話しているのを唖然としながら聞いていると、ばあちゃんから質問を投げ掛けられた。
「それでルカ、本当は何点だったんだい?」
「えっと……199点で97位でした」
「そうかい。ルカ……」
ばあちゃんは俺の返答を聞いて頷いてから言葉を切り、真剣な目で俺と視線を合わせてきた。
これは……怒られるかもしれない。
俺は覚悟を決めて背筋をピンと伸ばし、しっかりとばあちゃんの瞳を見詰める。
「よく頑張ったね。おめでとう」
そう言ってばあちゃんはふっと表情を柔らかくしてから立ち上がり、テーブルを回って俺の横まで移動してきて俺の頭を撫でてくれた。
「ばあちゃん……恥ずかしいよ、俺もう子供じゃないよ」
「お黙り。いくら図体がデカくなってもアタシからみたらアンタはまだまだ子供だよ。大人しく撫でられときな」
「うう……」
そうして俺はばあちゃんが満足するまでしばらくの間撫でられ続けることになってしまった。
周囲から突き刺さる生暖かい視線を浴びてとても居た堪れない気持ちになった。
◇◆
翌日、早速合格者受付で貰った引換券を手に装備品を受け取るためにシンを伴い街へと繰り出した。
繰り出したのだが、せっかくの兄弟でのお出かけなのにシンはガックリと肩を落とし項垂れながら歩いていた。
「はぁ……せっかく作ったのに……」
「ばあちゃんがダメって言うんだから仕方ないじゃん」
「便利なのに……」
「それは俺のセリフだけどね。まぁお前は自前で使えるんだからいいじゃん」
なぜシンが落ち込んでいるかと言うと、昨夜俺が頼んだ魔道具をシンが作ってくれたのだがそれを見たばあちゃんが激怒して没収してしまったからである。
「《異空間収納》が使える魔法使いなんてそれなりに居るんだからこれくらい良くない?」
「そりゃそうかもしれないけど、文字数がうんたらかんたら言ってなかった?」
この世界での魔道具というのは道具に効果をイメージした魔力を転写したアイテムのことを言う。
その転写する方法が『自分が理解している言語で書き込む』ことらしい。
どうやらこの『書き込む』というのが曲者のようで物によって記載出来る文字数に制限があるそうだ。
この世界の文字はアルファベットみたいな感じで文字単体ではなくいくつか並べることで初めて意味を成す。
なので如何に短縮して付与するかが大切みたいな感じのことをばあちゃんが言ってたような言ってなかったような気がする。
それに対してシンは『日本語』を理解し扱うことが出来るので『漢字』による付与を成功させたのだ。
一文字で意味を成す漢字を扱うシンは付与魔法チートだと言っても過言では無いだろう。
ちなみに俺は漢字は読めるけど書けないし、そもそも魔法の才能が無いので付与魔法も当然使えない。
なので俺が森で生活していた時に自作した熊皮を使った腰袋に《異空間収納》を付与してもらってファンタジー作品によくある『魔法袋』を作ってもらったのだが、この世界の文字で《異空間収納》を付与しようとすると文字数がえらいこっちゃになるのでこの世界の付与魔法士にこれは作れないらしい。だから禁止と言われ没収されてしまった。
なので俺は今日シンを
「文字数かぁ……確かにこの世界の文字で《異空間収納》を付与しようとするなら……めちゃくちゃ高価な素材で作らないと無理かもなぁ」
「逆に言えば超高価な素材を使えば作れるならお金持ち向けに販売すれば売れそうだよね。どんな素材ならイけると思う?」
「そうだなぁ……デカイ魔物の皮を使った皮袋なら出来そうな気がする」
「デカイ魔物って言うと虎とか獅子くらい? 狩って来ようか?」
あいつら数が少ないから中々見付からないけど見付かりさえすれば狩るのはそんな難しく無いし。
「うーん……やってみてもいいけど、ばあちゃん許してくれるかな?」
「許してくれないと思う。だからシン、お前1人で行って作ってきてよ」
「やだよ。絶対怒られるじゃん」
「俺は怒られないから」
「怒られたら『ルカ兄に脅されて……逆らえなかったんです』って答えるよ?」
「それは酷いと思う」
シンと2人でそんなことを話しながら買い食いをしてみたり色んなお店を覗いて見たりと王都散策を楽しんだ。
目的の装備品も全てシンの《異空間収納》に入れられたのでとても楽だった。
今度買い物する時もまたシンを連れてこよう。