「以上で入学式を終了する。新入生、起立!」
周囲の気配が一斉に動き始めたことを感知したので慌てて俺も周囲に合わせて立ち上がる。
……あれ? 入学式は?
俺が困惑している間に無情にも退場は始まってしまい、Sクラスを先頭につい先程入場する時に通った花道を歩いて講堂を後にする。
その途中ミッシェルさんの姿が視界に入ったのだが、ミッシェルさんは苦笑を浮かべながら拍手をしていたのでもしかしたら俺は式典中ずっと寝ていたのかもしれない。
以前のミッシェルさんはわからないけど今のミッシェルさんは未完成ながら《躁気術》を扱えるので寝ている俺の気配を掴んでも何もおかしくないし。
「お前、ずっと寝てただろ?」
そんな事を考えながら前を歩く女子生徒の後ろを歩いていると、背後からノインが小声で話し掛けてきた。
「バレてるかな?」
「どうだろ? 俺は寝息が聞こえてたから気付いたけど、目は開いてたし姿勢も崩れてなかったから傍目から見たらバレてなくてもおかしくはないんじゃないか?」
言われてみれば前世の俺は学生時代綺麗な姿勢で目を開けたまま居眠りをするのが得意だったような気がする。
今の今まで忘れていたし、一度死んで体が別人になっているのに前世の特技が活かされるとは思ってもみなかった。
「まぁバレてないならそれでいいや」
「だな。しかし羨ましい特技だよな、俺にも教えてくれよ」
「教えろと言われても……寝ようと思って寝てた訳じゃないからなぁ」
これでも一応ちゃんと参加するつもりで座っていたのだ。寝たのではない、寝ちゃっただけなのだ。
「そっかー。それ覚えれたら俺も授業中寝放題だと思ったんだけどなぁ」
「授業はちゃんと受けろよ。寝るなよ」
「お前にだけは言われたくない」
「確かに」
入学式の最中に寝落ちしてた俺にだけは言われたくないよな!
そんな話をしているうちに教室に到着し、引率をしてくれている先生が扉を開く。
「なんだこれ……すげぇ……」
「こんなの見た事ねぇよ……」
「椅子とか革張りだし……」
「逆に疲れそう……」
開かれた扉から中を覗いたクラスメイトたちが口々に感想を述べる。
ふむ、革張りの椅子に光沢と重量感のある机か……
前世で俺が会社で使っていたワークデスクと比べると大したものではないのだからそこまで騒ぐ必要あるのかな?
「黒板に座席表が貼ってある。速やかに確認して示された席に着け」
先生の指示を受けて俺を含めたクラスメイト全員で黒板に貼りだされた座席表を確認してそれぞれ席に移動する。
俺は……前列窓側か。
Sクラスは10名の少数精鋭クラスなので座席は前列3席、中列4席、後列3席の3-4-3フォーメーションとなっていてどの席からでも前の黒板がよく見えるように配置されている。
後列窓側が良かった……
「よし、全員席に着いたな。まずは入学おめでとう。私はこのクラスの担任となったガニウス=フォン=マロウだ。今日は全員の自己紹介をしてもらい、その後明日以降の予定を伝えて終了となる」
そので言葉を切ってマロウ先生は教室内を見渡した。
「では私から自己紹介をしよう。先程名乗った通り私の名前はガニウス=フォン=マロウ、一応男爵位を持つ貴族だが学院内においてこの爵位は関係が無いので無視してもらって構わない。5年前までは主に王都周辺の魔物討伐を任務とする第3騎士団にて部隊長を務めていたのだが、実家の爵位継承に伴い現場を引退、以後ここ騎士養成士官学院にて後進の育成に注力している。得意武器は大剣、尊敬している人物は前騎士団総長であり剣聖とも呼ばれているミッシェル=コーリング様と王国の危機を救った英雄マーリン=ウォルフォード様だな」
マロウ先生は尊敬する人物にじいちゃんの名前を挙げると同時、チラリと俺に視線を向けた。
てかさっきノインが言ってた『剣聖様』ってミッシェルさんのことだったんだ……
「このクラスに賢者様のお孫さんが在籍しているが、その事で贔屓するつもりは無い。一年間よろしく頼む。それでは次はお前たちに自己紹介をしてもらおう。まずは入試首席、クライス=ロイド」
「はい!」
クラスメイトたちの視線が俺に集まりかけたがマロウ先生が自己紹介をする生徒を指名して指名された入試首席くんことクライス=ロイドくんが返事をして立ち上がったことで俺に向きかけていた視線はクライス=ロイドくんへと向けられた。
「はじめまして、クライス=ロイドです。これから一年間、皆さんと切磋琢磨して更なる高みに手が届くよう頑張りたいと思っています。得意な武器は剣で、尊敬している人物は剣聖ミッシェル=コーリング様です。よろしくお願いします」
なんというか本当に絵本から飛び出してきたかのような『ザ・騎士』って感じだな。
戦闘力も推定0.22ミッシェルはありそうだし俺の友達兼弟子になってくれないかな?
「次、ミランダ=ウォーレス」
「はい。ミランダ=ウォーレスです。両親は魔物ハンターで、アタシも小さい頃から戦えるようにと鍛えられたのでさらに強くなるべく騎士養成士官学院に進学しました。尊敬する人物は剣聖ミッシェル=コーリング様と女性ながら近衛騎士に抜擢されたクリスティーナ=ヘイデン様です。クリスティーナ様のような騎士になれるよう頑張ります。よろしくお願いします」
ミランダは短い黒髪をふわっとした感じのポニーテールにしている大きな目が特徴の美少女だ。
顔だけを見れば決して荒事に向いているような感じはしないのだが、その体はしっかりと鍛えられておりしなやかなとてもいい筋肉に覆われている。
現時点で0.18ミッシェル程度の実力があるのでこれからしっかり鍛えていけばクリスねーちゃんに匹敵する騎士になれると思うよ。
「次、ルカ=ウォルフォード」
「あ、はい!」
自己紹介を聞きながらそんなことを考えているうちに俺の番がやって来た。
さて、何を言おうかな?
「皆さんはじめまして、ルカ=ウォルフォードです。俺は最近までずっと森の中で暮らしていたので色々と世間知らずなところがあるかもしれません。なので色々教えてもらえると助かります。えっと……武器は何でも一通り扱えますけど、一番得意なのは長剣かな? 尊敬しているのはじいちゃんとばあちゃん、そして師匠のミッシェルさんです。よろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げると、クラス中から物凄い嫉妬の感情を向けられていることに気が付いた。
「賢者様と導師様の孫で剣聖様の弟子なんて……」
「なんて羨ましい……」
最近何となく思ってたんだけど、この国の人ってじいちゃんとばあちゃんのこと尊敬しすぎじゃないかな。最早崇拝の域に達していそうでちょっと怖いよ。
「皆、気持ちはわかるが自己紹介を進めるぞ。聞きたいことは後で本人に聞くように……では次、ノイン=カーティス」
「はい。ノイン=カーティスです。父が騎士で、そんな父に憧れて騎士になるためにこの学院に来ました。得意な武器は片手剣で、剣聖ミッシェル様を尊敬しています。ルカ、剣聖様のことは知らないって言っておきながら師匠って意味わかんないから後で説明してくれよ!」
ノインはそう言って鋭い目でこちら。睨みつけながら自己紹介を終えて腰を下ろした。
いや……確かに俺はミッシェルさんの弟子だけど、ミッシェルさんが剣聖だってことは知らなかったんだからそんな睨まなくても良くない?
「ふむ、その話は私も気になるが……次、ケント=マクレガー」
「はい。ケント=マクレガーです。得意武器は大剣、将来は尊敬する剣聖様のような剣士になりたいと思っています。よろしくお願いします」
短いな……寡黙なタイプなのかな?
ケント=マクレガーくんは推定戦闘力0.13程の金髪を坊主頭に刈り上げたゴリマッチョ。
女性のミランダや細身のノインと比べると腕周りが倍くらいありそうだ。
「では次――」
それからも成績順に自己紹介は続いたが、推定される戦闘力は0.1ミッシェルにも満たないし、なんだか凄く忌々しげにこちらを睨んでくるので名前を覚える気が無くなってしまった。
「以上だな……ここ騎士養成士官学院では各学期末毎にクラスの入れ替え選考が行われる。諸君らは最上位のSクラスということで追われる身であることを自覚し、クラス落ちをしないようしっかりと研鑽を積むように」
「「「はい!」」」
クラス選考か……
騎士学院や魔法学院では入学時Sクラスだったのに卒業する時にはCクラスまで落ちていたり、逆にCクラスに入学しても必死に努力を続けてSクラスまで上り詰めたりという話は珍しくないと聞いているのでクラス落ちをしないよう頑張らなければ……
じいちゃんやばあちゃん、ミッシェルさんの顔に泥は塗れない。あ、ディスおじさんもか。
「では明日以降の予定を伝える。明日は午前中の時間を使って校内を案内する。昼食を挟んで午後は実技授業。明後日は午前中は通常授業で午後からは研究会紹介が行われる。それ以降は通常授業となる。何か質問は?」
そう聞かれるが、クラスメイトたちは誰一人手を上げることは無かった。
「よし、では本日は以上だ。解散!」
こうして騎士養成士官学院の初日は特に大きな問題も起こらず無事終了した。
さて……ミッシェルさんが待ってくれてるだろうから今日はさっさと帰ろうかな。