ホームルームも終わったのでさぁ帰ろうと鞄を持って立ち上がろうとした瞬間、後ろから大きな声で呼び止められた。
「ルカ! 何シレッと帰ろうとしてるんだよ! さっきの話詳しく聞かせてくれ!」
ノインだった。
そういえば自己紹介中に「後で話を聞かせろ」と言うくらいには気になっていたようなのでこれはまぁ仕方ないだろう
「それは俺も気になるな。聞かせてもらってもいいだろうか?」
「アタシも聞きたい」
どうやって説明しようかと考えていると、話を聞いていたのであろうクライス=ロイドくんとミランダが話に入ってきた。
「……俺もいいだろうか?」
ボソッと低い声が聞こえたのでそちらに振り返って見てみると、そこには金髪坊主頭のゴリマッチョケント=マクレガーくんが立っていた。
壁みたいだな……
「まぁ別にいいけど……ミッシェルさんに関して言うとミッシェルさんは俺の師匠みたいな存在だけど、ミッシェルさんが剣聖って呼ばれてることは知らなかったんだよね」
「そんなことあるのか?」
ノインが不思議そうに首を傾げているがそんなことあるのだ。
「そもそもじいちゃんが『賢者』でばあちゃんが『導師』って呼ばれてることも最近知ったんだからそういうこともあるんじゃない?」
「それも知らなかったなんて……」
「そんなことあるのか?」
「……逆に凄いな」
まぁ二つ名持ってても自分から名乗ることなんてほとんどないからね。あれは他人から呼ばれるものだから。
俺だって学生時代練習試合含め負け無しだったから『無敗の剣帝』とか『剣鬼』とか呼ばれてたけど自分からは一切名乗った事ないし。
俺が唯一勝てなかったのは従兄弟だけなんだけど、ヤツは年上だったから。
あと1年か2年鍛錬を続けていれば俺の方が強くなっていたハズなのだからあの時点で後継者を決める試合をさせた俺の親父が悪いのだ。
いや、勝てなかった俺が弱かっただけなんだけどね。
わかってます。負けてやさぐれて熊をわからせて死んだ俺が全部悪いんです。
「いや……お前がそう言うならそう……なのか?」
「そうだよ。逆に聞くけどノインが『剣鬼』とか『剣帝』とかの二つ名で呼ばれるようになったとして自分から自己紹介で『俺は剣鬼ノイン=カーティス』って名乗ると思う?」
「絶対名乗らない」
「でしょう?」
だから俺がミッシェルさんの二つ名を知らなくても何もおかしくはないのだ。
「なぁウォルフォード、聞きたいんだが……」
「ルカでいいよ。で、何?」
「わかった、ありがとう。俺のこともクライスと呼んでくれ」
「了解クライス。それでは質問をどうぞ」
「ああ。ルカは剣聖様とはどんな修行をしていたんだ?」
「んーと……基礎トレはやり方だけ教えて貰ってあとはひたすら模擬戦してたかな」
まぁミッシェルさん式トレーニングは前世持ちのシンがギブアップするくらいにはキツかったけどね。
「模擬戦って……剣聖様とか!?」
「そうだよ。小さい頃は全然勝てなくてさ……一撃必殺を狙ってミッシェルさんのケツばっかり狙って攻撃してたよ」
「いや、どんなだよ……」
クライスの質問に割と丁寧に答えたつもりなのだが俺の返答を聞いたクライスたちはなんだかドン引きしたような顔をしていた。
俺……そんな引かれるようなこと言ったかな?
戦士たるもの相手の弱点がわかればそこを執拗に狙うものでしょう?
「ねぇ……今『小さい頃は勝てなかった』って言ってたけど、その言い方だと今は勝てるみたいに聞こえるんだけど」
皆がドン引きしてる中、一番最初に立ち直ったミランダがなにかに気付いたような顔で質問してきたのだが、答えを自分で言っちゃってることには気付いていないらしい。
「勝てるよ? でも最近のミッシェルさんまた強くなってるから追い付かれないように頑張らないと」
「勝てるって……嘘でしょう!?」
ミランダの叫びで教室内の空気が凍りついた。
「剣聖様に勝てるだなんて……」
「なんて不遜な……」
「賢者様の孫だからって調子乗ってるんじゃないのか?」
ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてきた。
目の前のクライスたち入試順位上位者たちは黙っているので教室内に残っていた入試順位5位以下の人たちだろう。
しかし「調子に乗っている」か、事実しか言ってないんだけどなぁ……
そんなに調子に乗ってて欲しいならお望み通り調子に乗ってやろうか?
その結果酷い目に遭うのは多分キミたちだけどそれでいいの?
まぁ、乗らないけどね。前世家柄と実力を笠に着てイキり散らしてた黒歴史再びとか絶対嫌だし。
「でもアイツって実技試験トーナメントで優勝してたし……」
「バカ、お前相手はあの『ウォルフォード』だぞ!? 相手が忖度したに決まってるだろ!」
「ああ……なるほど、そういうことか……」
いや、一体何が「なるほど」なの?
実技試験トーナメントって名前じゃなくて受験番号で呼ばれてたんだから俺がじいちゃんの孫だってわかる訳が無いじゃない。
現にノインが入学式前に俺の市民証を見て「ウォルフォード」って叫んだ時実際に実技試験トーナメントで戦ったクライスとミランダ超びっくりした顔してたよ。
仮に学院側が忖度していたとするなら実技試験トーナメントで優勝した俺をそのまま首席にするだろうし……
忖度された上で3位とかちょっと恥ずかしいから考えたくない。
「お前たち……それは俺をバカにしているのか?」
「アタシも聞き捨てならないね。実技試験で忖度なんてしてないし、ルカが賢者様のお孫さんだって知ったのもついさっきの話だからね!」
俺に直接言うことも出来ず、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で囁くことしか出来ない奴なんて相手にする価値も無いと思いスルーするつもりだったのだが、実際に実技試験トーナメントで俺と戦った2人は我慢が出来なかったようで声を荒らげて立ち上がった。
「いや……」
「別にロイドくんやウォーレスさんのことを言った訳じゃ……」
ヒソヒソしていた生徒たちはアワアワとしながら反論しているが、全力でクライスとミランダのことを言っていたと思うよ。
「そうなのか? お前たちは『相手が忖度した』と言っていたじゃあないか。ルカと決勝で戦ったのは俺だ。つまりお前は俺が忖度したと言っていた訳だが?」
「その前の準決勝で戦ったのはアタシよ。アタシの実力じゃルカの足元にも及ばなかった……正直何をされて負けたのかもわからないくらいよ」
「俺も同じような感想だな。俺程度の実力では剣聖様の実力は測れないが同じくルカの本気の実力も測れない。そもそも見てもいなしいしな……だからこそ心情的には納得出来ないがどちらも俺には実力が測れないからこそルカが剣聖様に勝てる『可能性』があることは理解している」
可能性って言うか……俺とミッシェルさんが100回戦ったとしたら少なくとも95回以上は俺が勝つよ。
あ、こういう考えが調子乗ってるって言われる原因なのかな?
「いや……でも……」
「なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言ってみろ!」
「うぐっ……」
まだ何かを言おうとしていた生徒たちだったが、クライスの一喝で黙り込んでしまった。
まぁ彼らの戦闘力は0.08ミッシェルから0.1ミッシェルくらいなのでクライスに勝つには不意打ちを成功させるか徒党を組むくらいしか方策が無いから仕方ないのかもしれない。
それにここは完全実力主義の騎士学院だからなんやかんや言っても強い奴が正義なんだよね。
悔しかったら強くなって正面から殴り合って勝てばいいと思うよ。
もしくは勝てなくとも「絶対に負けない」という意志を示して立ち向かい続けるなら俺は認める。頑張る奴は嫌いじゃないから。
まぁしかし今のこの状況はよろしくない。このままじゃ俺が帰れない。
なのでここは仲裁でもしておこうかな。
「はいはい、そこまでそこまでー」
「む……」
「ルカ?」
今にも白い手袋を買ってきてヒソヒソくんたちに投げつけそうな顔をしているクライスとミランダを宥めてヒソヒソくんたちに向き直る。
「キミらは俺の実力がわかんないから不満なんだよね?」
俺がそう聞くと、ヒソヒソくんたちはなんとも言えないような微妙な表情を浮かべる。
わかるよ。キミたちが言いたいのは「調子乗んな」ってことなんでしょ?
けどそれも俺との実力差を目の当たりにすれば俺が調子に乗ってる訳ではない事がわかると思うんだ。
「明日の午後に実技の授業があるからその時戦ってみようか。1対1でも5対1でも何でもいいよ。全力で掛かってきて」
俺は自分の実力を過信しているつもりは無い。だけどヒソヒソくんたち5人を同時に相手をしても絶対に負けない自信はある。
なんせちゃんと気を纏ってさえいればヒソヒソくんどころかクライスたちよりもはるかに強いクリスねーちゃんの全力の一撃を受けてもノーダメージでやり過ごせるのだから。
俺にダメージを与えたいなら《防御貫通》とか《衝撃百倍》とかそんな感じの効果のある魔道具持ってこい。
「5対1って……いくらなんでも卑怯じゃ……」
「俺が認めてるんだから卑怯じゃないよ。出来るもんなら5人で俺を袋叩きにして高笑いしてみれば?」
「お前……後悔すんなよ!」
「しないよ。出来ればさせて欲しいくらいだけどね」
「ぐぎぎ……」
よし、これだけ言っておけば明日の午後の実技までは大人しくしてるだろ。
「じゃあそういう事で。俺は帰るから、キミらも早く帰りなね?」
「「「えっ……?」」」
「ちょっ……ルカ!」
ポカンとしているヒソヒソくんたちを気にせず帰ろうと立ち上がると今度はクライスに呼び止められてしまった。
「……帰るのか?」
「うん。せっかくだからクライスたちとはもっと話してたい気持ちはあるんだけど、ミッシェルさん待たせてるからね」
「剣聖様を!? 何故もっと早く言わない!」
「なんかごめんなさい」
俺としてはさっさと帰りたかったんだけどね。
でもまぁ普通に応対していたのは俺なのでとりあえず形だけでも謝っておこう。
「ルカ、早く帰るんだ!」
「そうよ! 剣聖様をお待たせするなんてあってはならない事よ!」
「別にクラスメイトと親交を深めてたって言えば怒らないと思うけど……ってそうだ、そんなにミッシェルさんのことを尊敬してるなら『俺の友達』だって紹介しようか?」
「「「是非!」」」
「お、おう。じゃあ行こう――って皆の親も待ってるんじゃないの?」
「……そうだった。すぐに両親に伝えてくる!」
「アタシも! だからごめんなさい、ちょっとだけ待ってて!」
「俺も! 俺が剣聖様に会えるなんて言ったら親父たちどんな顔するか楽しみだ!」
クライスとミランダ、ノインはそう言って教室から出て走って行ってしまった。
「マクレガーくんはいいの?」
「ケントでいい。家はついこの間妹が産まれたばかりで両親共に妹にかかり切りだから来てないんだ」
「そっかー……」
それはなんとも言えねぇな!
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