ヒソヒソくんたちはクライスたちが出ていった直後にコソコソと教室を出て行ってしまったのでケントと2人でなんとも言えない微妙な時間を過ごす。
「あー……ケントは将来騎士になりたいの?」
「……当然だろう? そうでなければ騎士養成士官学院には進学しない」
「ですよねぇ……」
沈黙に耐えかねて質問をしてみたのだが、ごもっとも過ぎる答えが返ってきた。
そりゃ騎士養成士官学院なんだから将来騎士になりたいに決まってますよね。
「ウォルフォードは違うのか?」
「ルカでいいよ。俺はずっと森で暮らしてたから騎士について詳しくないからなぁ」
大まかには何をする人なのかは知ってるけど、あくまで前世での騎士についてしか知らないから。
それにディスおじさんが俺とシンのことを「軍事利用しない」って明言してるから俺が騎士になるのはダメな気するし。
俺が軍関係に就職したら軍事利用以外の何物でもないと思うんだ。
「……そうだったな。ルカは森でどんな暮らしをしていたんだ?」
「ほとんどの時間は狩りと鍛錬に費やしてたよ。ばあちゃんは勉強させようとしてくるからばあちゃんに見付かる前に森に狩りに出掛けてた」
「ルカは勉強が嫌いなのか?」
「嫌いだよ。もしかしてケントは勉強好きなの?」
「好きだぞ。今まで知らなかったことを知れるのはとても楽しい」
「……えっ?」
冗談のつもりで聞いてみたのだが、思っていたのとは違う答えが返ってきたので言葉に詰まる。
ケントってゴリマッチョじゃん? 世の中にはゴリマッチョ=脳筋の方程式が存在するんだよ?
勉強好きなゴリマッチョって……ハイブリッドじゃん。
「俺の父は中等学院の教師だからな。小さい頃から勉強を教わってたんだ」
「そうなんだ……じゃあその筋肉は?」
「……昔父さんが酔っ払いに絡まれて怪我をした事があってな。賢いだけでは危ないと思って鍛えたんだ」
「な、なるほど……」
「勉強しながら筋トレするのはとてもいいぞ。筋肉は喜ぶし覚えやすい」
「へ、へぇ……」
なんだろう、前世今世合わせても関わったことの無いタイプだ。インテリマッチョだ。
「筋肉と言えばルカは細身に見えるのに凄まじいパワーを発揮していたな」
「それ気になる? 気になるなら教えるよ?」
「教えてくれるのなら是非とも知りたい」
「じゃあ今から……って言いたいところだけどそろそろクライスたちが戻ってくるからまた教えるよ」
クライスたちの気が結構なスピードでこちらに向かって来ているからね。
「む? わかるのか?」
「わかるよ。今階段を駆け上がってるところ。そろそろ普通に足音が聞こえると思うけど……」
そんなことを言っているうちにクライスたちが走る足音が聞こえてくる。
「……本当だな。よくわかったな」
「これも俺の体でケント以上のパワーを発揮出来るのと同じ原理の技だよ」
見た目以上の身体能力を発揮するのも人の気配を感知するのも全部気を使ってのことだからね。
「そうか。教えてもらうのが楽しみだ」
「出来ればケントだけじゃなくクライスたちにも興味を持ってもらいたいところ……って戻ってきたね」
2人揃って教室の扉に目を向けると同時にクライスが勢いよく扉を開いた。
「はぁはぁはぁ……待たせた……」
「はぁふぅはぁふぅ……お待たせ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
クライスたちは全力で走ってきたようで、息も絶え絶えになっている。
頑張りすぎだろ……
「お疲れ。そんな必死にならなくてもいいんじゃない?」
「な、何を言っている! 剣聖様をお待たせする訳にはいかないだろう!」
「そうだそうだ!」
「そうよそうよ!」
いや……もう既に結構待たせてる気がするし多少遅くなっても誤差じゃないかな?
「これ以上剣聖様をお待たせするのは俺も反対だ。戻って来たのなら早く移動しよう」
「まぁいいけど……その前にちょっと見せたい事があるから数秒待って?」
「む?」
ケントも早く移動しようと急かしてくるが、せっかくなので《躁気術》で出来ることの一端をお見せしてやろう。
「クライス。ちょっと手を出して」
「はぁはぁ……ふぅ、こうか?」
クライスの差し出した右手を掴み、そこから俺の気を流し込んでクライスの体内を流れる気に干渉する。
「む……これは……?」
かつてミッシェルさんやクリスねーちゃんにしたようにクライスの気を活性化させてやる。
すると活性化した気によって減った体力が回復したのを感じたらしいクライスが不思議そうに声を上げた。
「体力が……回復したのか?」
「正確にはちょっと違うけど、まぁ概ねそんな感じ」
「そうなのか……というかなんだか体が軽いような気がする……」
「今のクライスは身体能力爆上がりしてる状態だからね。どう? 面白い? この技術覚えたい?」
「あ、ああ……覚えられるのなら是非とも覚えてみたい」
「言質取ったった」
唖然としながらもクライスが頷いたので続けてミランダとノイン、ついでにケントの気も活性化させて体力を回復させ身体能力を上昇させる。
「こ、これは……」
「なんだこれ!?」
「力が……」
「この技術覚えたい人ー?」
「「「はい!」」」
ミランダたち3人の気が活性化されその恩恵を実感したところで勧誘をしてみると、3人は揃って返事をする。
よし、これで言質取ったった! 今日からキミたちは俺の友達兼弟子です!
「なぁルカ、これはどういう原理なんだ?」
「それについてはまた後ほど。とりあえず体力も回復したならミッシェルさんの所に行こうぜ」
「あ、ああ。そうだったな……」
何? もしかして皆俺の《躁気術》が気になりすぎてミッシェルさんのこと忘れてた?
まぁ騎士として……というより戦士として自らを更なる強さに引き上げてくれる技術が目の前に転がっていたら他の事が見えなくなるのは仕方ないよね。超わかる。
「んじゃ行こうぜ」
そうして俺、クライス、ミランダ、ノイン、ケントの5人で連れ立って教室を後にしてミッシェルさんの待つ貴賓室へと向かった。
◇◆
「遅かったじゃないか」
「ごめんねミッシェルさん。お待たせ」
「別に構わないが……何かあったのか?」
「友達が出来たよ!」
俺が手招きをすると、入口付近で固まっていたクライスたちがぎこちない動きでこちらに歩み寄ってきた。
「ほぅ? 早速友達が出来たのか」
「うん。紹介するね。まずは入試首席のクライスだよ」
「ははは初めまして! ルカくんと同じクラスのクライス=ロイドです!」
クライスのことをミッシェルさんに紹介すると、クライスは体を硬直させカミカミになりながら自己紹介をしていた。
「緊張し過ぎじゃね?」
「いや……だって仕方ないだろう!? 剣聖様だぞ!?」
「そういうもんなの?」
「そういうものだ!」
俺からしたら親戚のおじさんみたいな感じなんだけど……まぁ感じ方は人それぞれだからクライスがそう言うならそうなんだろう。
「うむ、キミは新入生代表挨拶をしていた子だね。確かに私は巷で『剣聖』などと呼ばれているが今日はルカの保護者として来ているのだからそんなに緊張しなくて構わないよ」
「いえ……しかし……」
「ふむ、今はただの引退したおっさんなのだが……」
「そんなことは――」
「もういいじゃん、そのうち慣れるって。それより紹介続けていい?」
「ああ、構わないよ」
「慣れるって……正直慣れる気がしないんだが……」
クライスはオロオロしているがミッシェルさんは頷いているのでクライスのことは放置でいいだろう。
人間って慣れる生き物だからどうにかなるよ。
それから俺は成績順にミランダ、ノイン、ケントを紹介する。
全員ガチガチのカミカミだった。
「ミッシェルさんってすげえ人だったんだね」
「はっはっは! マーリン殿やメリダ殿に比べると大したことはないさ!」
ミッシェルさんは笑っているが、よく考えてみればクライスたちは俺と同じく『魔法使いの素養』が無い人間なのだからその『魔法使いの素養』が無いのに『剣聖』と呼ばれるまでになったミッシェルさんに過剰に憬れてきても何もおかしくないのか。
「まぁ……うん。そのうち慣れるでしょ」
「そうか? いくらルカの友人とはいえ私と会う機会はほとんど無いと思うのだが?」
「え? ミッシェルさん俺の友達に稽古つけてくれないの?」
「む? お前が鍛えるのではないのか?」
「そう思ってたんだけど、ミッシェルさんが手伝ってくれたら助かるなぁって……ダメかな?」
体内の気の流れを操作して涙腺を刺激させ、瞳をウルウルさせながら上目遣いで見上げてみる。
じいちゃんとばあちゃんはこれでイチコロなんだけど、ミッシェルさんに効果あるかな?
ちなみにシンにこれをやったら恐怖に顔を引き攣らせながら《ゲート》を開いて飛び込んでたよ。
「ぐっ……そんな顔をしても――」
「だめ?」
「……わかった、わかったからその顔はやめてくれ! その子たちが望むなら付き合ってもいいから!」
よし、効果あり!
「だってさ。どうす――」
「「「是非!!」」」
クライスたちを振り返ってどうするか確認しようとしたら食い気味に答えが返ってきた。
「おーけー。じゃあそういうことで……日時とかはまた後日伝えるから今日は解散ってことでいい?」
「「「……えっ?」」」
「じゃあね、また明日。ミッシェルさん、帰ろうよ」
「ルカお前……いや、こういうのも経験か。皆、すまないね」
クライスたちに挨拶をしながら立ち上がり、ミッシェルさんに「帰ろうよ」と声を掛けるとなんだか呆れられてしまったようだ。
……あれ? 俺なんか変なこと言った?
昨日はなんか朝から忙しく仕事してたら気付けば昼を過ぎてまして……
決してもっとたくさんの反応が欲しくて拗ねてたわけではございません。
でももっと反応くれてもいいですよ?感想には全レスしますし。