賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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敬語を使ってみました

 クライスたちと別れてミッシェルさんと一緒に帰宅すると、俺たちの帰りを待ち構えていたメイドさんにじいちゃんたちはお出掛けしていると報告を受けた。

 

「お出掛け?」

「はい。つい先程シン様の御学友のクロード子爵屋敷へと向かわれました」

「子爵って……え? シンってお貴族様の友達が出来たの? 野生児なのに?」

 

 野山を駆けずり回りながら育った俺たちとお貴族様って正反対じゃん。なんで友達になれるのさ?

 

「シン様は王都に順応しておられますので」

「シン様『は』って何さ、俺は?」

「……ルカ様はこれからかと」

「なんだろう、俺はバカにされてるの?」

 

 もしかして朝の鍛錬で木登りをしたり屋敷の壁クライミングを受けたしてるから俺はまだ野生児判定なのかしら?

 でも木登りも屋敷の壁クライミングもいい感じの全身運動だから辞めるにしても他にいいトレーニングが思い付かないんだよなぁ。

 

「いえ、ルカ様はしっかりと自分をお持ちでいらっしゃいますので」

「うーん……」

 

 それは褒められてるの? 貶されてるの?

 

「ルカ様、ディセウム国王陛下とアウグスト殿下が応接室でお待ちです」

「思いっきり話逸らされたような……」

 

 ってディスおじさんとオーグが応接室にいるの? じいちゃんたちは出掛けてるのになんで?

 

「陛下と殿下がお待ちです」

「あー、うん。わかった。顔出すよ」

 

 そうして若いメイドさんにからかわれつつ何故か家主不在なのに我が家に滞在している王様と王子様の相手をするために応接室へと移動した。

 

「ただいまー」

「おお、おかえりルカくん」

「遅かったな」

 

 部屋の中にはディスおじさんとオーグがソファに座っており、そしてその後ろに見知らぬマッチョと低身長メガネくんが立っていた。

 

 オーグと同じ制服を着ているところを見るにマッチョと低身長メガネくんも魔法学院の生徒なのだろう。

 一緒に家に来ているということはオーグの『御学友』ってやつなのかな?

 

「ミッシェル、ルカくんは学院で問題を起こさなかったかい?」

「はい陛下。問題を起こすどころか友人を紹介されました」

「なんと……早速友達が出来たのかい? 配下ではなく?」

 

 ディスおじさんは『心底驚いた』という表情を浮かべながらこちらに視線を向けて来る。

 

 配下って……さすがに酷くね?

 

「なにさ、俺に友達が出来たことがそんなに驚くようなことなの?」

「いや……聞いている騎士養成士官学院の校風やルカくんの性格を考えるに友達と仲良くする姿より力を示して従わせている姿の方が想像しやすくてな」

「ディスおじさんって俺のことなんだと思っているの?」

「騎士たちの隊長より群れのリーダーの方がしっくりくるね」

 

 獣? ディスおじさんは俺のこと森の獣とでも思っているの?

 

 そうして唇を尖らせていると、ディスおじさんの隣でオーグが腹を抱えている姿が目に入った。

 

「オーグ、何笑ってんのさ」

「くく……いや、父上の言った『群れのリーダー』というのがしっくりきすぎてな……」

「なんだとコノヤロウ、だったらお前も配下にしてやろうか?」

「いやはや一国の王子を配下に加えようとは……お前の器はどれだけ大きいのだ?」

「むぅ……」

 

 そういえばオーグって王子様なんだよな。あんまそういう雰囲気出さないから忘れてたよ。

 

 そんな俺たちのやり取りを見て後ろの2人が驚いたように固まってるけど……気にしなくてもいいのかな? ちょっと聞いてみよう。

 

「ねぇオーグ、後ろの2人すげぇびっくりしてるけど大丈夫? オーグの友達?」

「む? ああ、ルカは知らなくて当然か。この2人は私の護衛兼学友のユリウスとトールだ」

「ユリウス=フォン=リッテンハイムで御座る」

「トール=フォン=フレーゲルと申します。以後お見知りおきを」

 

 ふむふむ、マッチョの方がリッテンハイムくんで低身長メガネくんの方がフレーゲルくんね。

 いや、名前の真ん中に『フォン』が入ってるってことはお貴族様ってことだよな? ならくん付けより様付けの方がいいのかな?

 

「ルカ=ウォルフォードです。シンの双子の兄でオーグとは従兄弟みたいな感じです。よろしくお願いします」

 

 そう挨拶をしてぺこりと軽く頭を下げると目の前の4人は揃って目を見開いた。

 

「ルカくん……そんなきちんとした自己紹介が出来るだなんて……成長したんだね」

「ホントディスおじさんは俺のこと何だと思ってるんだろうね?」

「ルカが……敬語を使った……だと!?」

「オーグはどこに驚いてんのよ」

 

 俺だってシバかれながらばあちゃんに色々教え込まれてるんだから敬語くらい使えるよ!

 

「いや、だってお前……私には初めて会った時から敬語を使っていなかっただろ?」

「まぁオーグは従兄弟認定してたし。それに後ろの2人はお貴族様でしょ? だったら俺は平民なんだから敬語使わないとダメでしょう?」

「私は王族だが?」

「ディスおじさんとオーグは例外です」

 

 いや、敬語使えって言われたら使うけど、実際俺が敬語で喋ったらすごい今更感あると思うよ? やってみようか?

 

「……陛下、知らなかったとはいえこれまで無礼な言動を取ってきた事、深く謝罪致します。誠に申し訳ございません」

「……物凄く全身がゾワゾワするな。ルカくん、頼むから今まで通りの接し方で頼むよ」

「よろしいのですか?」

「ああ。今更ルカくんに敬語を使われるとなんというか非常に居心地が悪く感じるな。今まで通りで頼む」

「おっけーわかった。じゃあ……アウグスト殿下はどうされますか?」

「私も今まで通りで頼む。そんな態度のルカを見ていると何かを企んでいそうで気持ちが悪い」

 

 気持ち悪いって……

 

「アウグスト、それは無い。ルカくんは何かを企む前に殴るタイプだ」

「ですよね。私もそう思います」

「お2人共歯を食いしばってくださいまし。今からぶん殴って差し上げますわ!」

「ルカ、それは敬語ではなくないか!?」

「ごめんあそばせ!」

 

 オーグとディスおじさんが腰を浮かせて逃げようとしている姿を見ながらにっこりと微笑みを浮かべ指をポキポキ鳴らしていると、突然部屋の中の魔力が動きある一点に集まり始めた。

 

「ん?」

「む? どうしたのだ?」

 

 笑顔と指ポキを止めて真顔でそちらを注視していると、俺の様子が変わったことに気付いたオーグが疑問の声を上げた。

 

「ちょっと黙ってて」

 

 俺はオーグたちの前に移動して魔力が集まっている地点を睨み付けて拳を握る。

 

 剣があればいいのだが、入学式の今日は帯剣していなかったので無いものは仕方ない。

 まぁ虎とか獅子の魔物くらいまでなら素手でも余裕で殴り殺せるのであそこから現れる存在がそれらよりも弱いことを願っておこう。

 最悪俺が抑えている間にミッシェルさんに斬ってもらえばいいだけだし。

 

「……来る!」

 

 集まり、蠢いていた魔力の動きが止まり、扉を形作る。

 そして扉は開かれ中から現れたのは――

 

「あれ、ディスおじさんまだ居たの? それにルカ兄も帰ってたんだね、おかえり」

 

 シンだった。

 

 いや、まぁ途中から『あれ? これシンの《ゲート》じゃね?』とは思っていたけど、やっぱりシンだった。

 

 とはいえこの部屋の中には王族やお貴族様も居る。そんな中に突然《ゲート》が開かれたのだから王国の臣民として俺は《ゲート》を開いた張本人を殴ってもいいだろう。いや、むしろ殴るべき!

 

 王様の居る場所に突然現れてはいけません!

 

「敵襲!!」

 

 殴るとはいえ俺が本気で気を使って強化した状態でぶん殴るとシンの防御が間に合わなかったらシンが死んじゃうので気の活性化状態を解除して素の肉体能力のみで飛び掛り、シンの顔面目掛けて拳を振り下ろす。

 

「うわっ!? いきなり何!?!?」

 

 シンは慌てて腕をクロスさせて防御しようとするが意味は無い。俺のパンチは骨すら砕く。

 俺たちはこれまでの訓練でお互いの骨を折り合って来た仲なのだから今更気にする必要も無い。なのでなんの気兼ねもなく《どうせ折れても治せるんだからいいよねパンチ》を繰り出した。

 

 しかし――

 

「……ん?」

 

 俺はシンの腕の骨を粉砕してやるつもりで拳を振るった――しかしシンのガードに触れた瞬間、全ての力が吸収され俺の拳の威力は殺されてしまっていた。

 

 なにこれ!? 気持ち悪っ!

 

「……びっくりした! いきなり何すんだよ!?」

「いや、いきなり王族やお貴族様の居る部屋に現れたお前が悪いよね? もし本当に襲撃者だったら危ないんだし、ぶん殴られても文句は言えないよね?」

 

 警備的に絶対ダメなやつだから。教育的指導パンチだよ。

 

「うぐっ、それは確かに……でもルカ兄なら殴る前に俺だってわかってたよね?」

「そりゃもちろん。でも殴るよ」

「なんで!?」

「お前が二度と同じ過ちを犯さないよう体に教えてやろうかと思って」

「口で言えばいいじゃん!」

「何回ばあちゃんに怒られても自重しないシンに言われても説得力無いです。この前だって《異空間収納》を付与した魔道具を作って怒られたばっかりじゃん」

「それルカ兄が頼んできたやつ!!」

 

 それはまぁ……うん!

 

「と、ところでシンは何をしていたの? そしてあの人たちは誰?」

 

 話を変えるついでに俺たちが言い争っている間にシンの《ゲート》を通って現れ、ディスおじさんの前で膝を着いている人たちについて尋ねてみる。

 現れた時は警戒していたけど特に敵意は無かったし、ディスおじさんを見た瞬間に驚いて硬直、立ち直って即跪いたので敵では無いと判断して放置していた。

 敵だったとしても戦闘力は皆無だし、ディスおじさんの横にはミッシェルさんも控えてたから任せておけば問題無いとは思ってたよ。

 

「話変えるの下手くそかよ……あの人たちは俺のクラスメイトの両親でクロード子爵家のセシルさんとアイリーンさんだよ。今は《ゲート》の説明中」

「お貴族様……てか《ゲート》ってばあちゃんが絶対他人に見せるなって言ってたけど、見せて大丈夫なの? 怒られない?」

「ばあちゃんの前でじいちゃんが発案したから大丈夫。まぁ詳しくはまた後で説明するよ。セシルさん、アイリーンさん!」

「では陛下、私どもはこれにて」

「ああ。2人共驚いただろう。帰ってゆっくり休むといい」

「はい。では御前失礼致します」

 

 シンの《ゲート》から現れた2人は恭しくディスおじさんに挨拶をしてから立ち上がり、呆然とした顔で俺の前を通り過ぎて再び《ゲート》を通って帰っていった。

 

「じゃあ俺も一旦向こうに戻ってから馬車で帰るから」

「了解。とりあえず何がなにやらさっぱりだから帰ったら説明よろしくね」

「わかったよ」

 

 去っていった2人に続いてシンも《ゲート》を通って姿を消した。

 

「……何だったんだろ?」

「ふむ、ルカは聞いてないのか?」

「何を?」

「シンは今……女の家に居る」

「なんだと……!?」

「これから毎日一緒に登下校をするそうだぞ」

「毎日……おてて繋いで……登下校……」

「いや、手は繋がんと思うが……」

「リア充は爆発すべき!」

 

 シンを爆発させるには……アレだ!

 

「オーグ、俺はシンを爆発させるための新たな技を開発するためにちょっと修行してくるから」

「……そうか。では父上、我々も帰りましょうか」

「うむ……ルカくん、ほどほどにな?」

 

 そうして俺はディスおじさんたちを見送り、部屋に戻って右手の人差し指だけを使った逆立ち片手指立て伏せを開始した。折れるかと思った。 

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