そうして自室にてシンの経絡秘孔を突いて爆発させるためのトレーニングを行っていると、「じいちゃんたちが帰ってきた」とメイドさんから報告を受けたので軽く汗を拭ってから脱いでいたシャツを手に取った。
その際部屋に置かれている姿見が目に入ったのだが、そこには一分の隙もなくしっかりと鍛え込まれた見るもの全てを魅了する素晴らしい肉体を持った黒髪黒目のイケメンが映っていた。
え、何このイケメン……って俺か。
しかし普段こうして鏡越しに自分の身体を見ることなんてほとんど無いからこうやって眺めるのはなんだか新鮮だな。
「失礼致しますルカ様、旦那様たちがダイニングでお待ち――失礼しました」
そう思い姿見の前で様々な筋肉を強調するポージングを行っていると、俺を呼びに来たメイドさんにバッチリと目撃されてしまった。
目撃したメイドさんは俺の頭の先からつま先まで視線を滑らせ、そして俺と目を合わせた後一度頷いてから優しげな微笑みを浮かべてそっと扉を閉めてしまった。
いや……あの……
「ちょっと! ちょっと待って!」
慌てて持っていたシャツに袖を通して部屋の前から去って行こうとしているメイドさんを呼び止めた。
「何でしょうか?」
「違うんです! さっきのはちょっとあの……その……」
「わたくしどもはルカ様はそういうお年頃であることを理解しておりますので大丈夫です。問題ありません」
メイドさんはそう言って優しく微笑んだ。
「いや……あの……」
「こちらこそノックもせずに扉を開けてしまったことお詫び申し上げます」
「いや、それはいい……いや、良くは無いんだけどそうじゃなくて……」
「そしてとても良いものを見させて頂きました。ありがとうございます」
「……どういたしまして?」
まぁ確かにどこのどなたに見せても恥ずかしい肉体はしてないと思うんだけど、部屋で1人でポージングしていたのを見られた事実がヤバくてですね……
「では参りましょう」
「……はい」
俺は全てを諦め大人しくメイドさんについて行くことにした。
翌日から「お着替えをお手伝いします」と言って朝からやってくるメイドさんの数が増えるのを俺はまだ知らない――
◇◆
ダイニングに到着してじいちゃんたちに挨拶をしてから席に着くと、すぐに夕食が運ばれてきた。
ふむ、今日はステーキか。筋トレ直後の体には有難い。
とりあえずさすがに食事中にシンを爆発させる訳にもいかないので大いつも通り他愛のない話をしながら食事を済ませる。
「シン、夜の鍛錬に付き合ってよ」
「うん、いいよ。じゃあ着替えたら行くから先に行っててよ」
「……えっ?」
食事が終わったのでシンを爆発させる口実として夜の鍛錬に誘ってみたのだが、普段は嫌がるシンが素直に頷いたので驚いた。
「何驚いてんの?」
「いや、いつもさすげぇ嫌がるじゃん」
「そりゃ痛いのは嫌だし。でも今日はルカ兄に聞きたいことがあったからちょうどいいかなって」
「聞きたいこと? 何?」
なんだろう? 俺がシンを爆発させようとしている理由かな?
それはお前がリア充だからだよ!
「それは鍛錬の時に聞くから。じゃあまた後で!」
そう言ってシンは足早にダイニングを出て自室に戻ってしまった。
「シンがルカの鍛錬に進んで参加しようとするとは珍しいのぅ」
「アタシはそれよりシンがルカに聞きたいことがあるっていう方が気になるね。あの子は何を聞くつもりなんだか……」
「まぁシンの事じゃ、変な事にはならんじゃろう」
「甘い……甘いよマーリン! アンタがそんなのほほんと構えているからあの2人はあんなハチャメチャに育ったんじゃないか!」
「……子供は伸び伸びと育てるものじゃろ?」
「伸び伸びさせすぎさね! ルカもわかってんのかい!?」
やべ、なんか知らんけど矛先こっち向いた! 俺何も言ってないのに!
「じ、じゃあ俺は準備体操しなくちゃだから! じいちゃんとごゆっくり!」
じいちゃんがなんか「助けて!」みたいな目で俺を見ていたけど、俺にばあちゃんを止めることは不可能である。
ミイラ取りがミイラになる未来しか見えない。
そうしてダイニングを脱出して俺の鍛錬専用スペースになりつつある裏庭へと移動して準備体操をしながらシンが出てくるのを待っていると、動きやすい服に着替えたシンもやって来た。
「お待たせ」
「いらっしゃいませ。1名様ですか?」
「見ての通りです」
「かしこまりました。それではご注文は?」
「メニューってありますか?」
「はい。体術、剣術、槍術、何でもありと取り揃えておりますが、本日のおすすめは体術となっております」
剣とか槍とかじゃ爆発させられないからな!
「なるほど……注文の前に相談することは可能ですか?」
「内容によります」
「護衛のやり方を教えてください」
「なんて?」
シンと一緒に鍛錬する前に毎度行われる茶番を演じていると、いきなり意味のわからない注文をされてしまった。
「ちょっと訳あって明日からクラスメイトの護衛をすることになったんだ。だから護衛ってどんなことをすればいいのかとか周囲の警戒の仕方とかルカ兄に教えてもらおうと思って」
「なんで俺に聞くの?」
「プロでしょう?」
そうでした。俺ってば前世は大手警備会社の御曹司でした。
「なるほどね。一概に護衛って言っても色々あるよ。テレビとかでよく見るSPみたいにすぐ近くに控えて守るとか、忍者みたいに影に潜んで守るとか……護衛対象が異性なら恋人のように振舞って隣で守るとか……」
「最後の何!?」
「シン、お前俺が何も知らないと思っているの? お前が明日から女子生徒の家までお迎えに行っておてて繋いで登校するって知ってるんだぞ!」
「つ、繋がない……よ?」
「そこは繋げよ。そして繋ぐって俺に自慢してこいよ」
そうすれば何の躊躇いもなく殴れるから。
「そんなことしたらルカ兄殴るじゃん」
「俺はシンを殴る理由を求めている!」
「いや、そんなキメ顔で言われても……どう反応すりゃいいんだよ……」
「大人しく殴られればいいと思うよ?」
「暴君かよ!」
シンは体を仰け反らせながらとても嫌そうな表情を浮かべている。
うん、その顔に免じて爆発させるのだけは勘弁してやろう。よく考えたら爆発させる秘孔とか知らないし。
「で、護衛のやり方だっけ? そもそもなんでそんな話になってんの?」
「シシリーの送り迎えをする事は知ってるのにそこは知らないのかよ……えっとね――」
それからシンは『何故シンがそのシシリーちゃんとやらを護衛する事になったのか』について説明をしてくれたのだが、途中でちょいちょい「シシリーは可愛いから」や「シシリーは優しいから」などの惚気が挟まるのが大変にムカついた。
とりあえず話を要約すると『立場だけは強いめんどくさい系ストーカーに付きまとわれているシシリーちゃんをシンが護衛する事になった』ということだろう。
その一言で済むのにやたらシシリーちゃんとやらを持ち上げる発言があるせいでわかりにくいったらありゃしない。
なんなの? 好きなの?
「ふーん」
「それで入学式の後にシシリーの事を『俺の婚約者』だって言ったり『他の男と話すとは何事だ』って怒ってシシリーに掴みかかろうとしたりしてたんだ」
「そうなんだ。それでお前は見てただけなの? ちゃんと掴みかかろうとした手をへし折った?」
「捻り上げたけど折ってはないかな」
「お前治癒魔法で骨折くらいすぐ治せるんだからへし折っちゃえばいいのに」
例え相手がお貴族様だとしてもへし折った直後に治せばバレないよ。証拠は残らないんだから。
「怖いこと言うなぁ……」
「捻り上げたんだろ? だったらへし折って治しても一緒じゃん。それなら折れよ」
「どういう考え方なんだよ」
「か弱い女性に無体を働くやつは折っていい」
俺ならそいつの全身の関節を外してそのまま放置してるよ。
「……今度シシリーに掴みかかろうとしたら折ってやろうかな」
「じゃあ一番痛い骨の折り方教えるね?」
「知りた……くない! 聞いただけで痛そうだから聞きたくない!」
「そう? じゃあ俺は何を教えたらいいの?」
「護衛のやり方だよ!」
「うーん……」
護衛のやり方って言われても、この世界には魔法があってシンはその魔法が使えるんだから俺の知識と技術は必要無いと思うんだよね。
ぶっちゃけ《索敵魔法》と《魔法障壁》だけで事足りるし。
「護衛で一番大事なことって『敵の早期発見』なんだよね」
「うん」
「だからシンが護衛対象の近くで《索敵魔法》使ってたらそれだけで十分なのよね」
「あー……」
「あとは襲ってきたら返り討ち。襲ってこないなら『見付けてるぞ』って意味でそいつに殺気でも飛ばしておけば大丈夫」
「俺、殺気とか飛ばせない」
「じゃあ代わりに魔力飛ばしとけよ。見付けてるって示せればなんでもいいよ」
襲撃者って見付かってることがわかれば大抵引くから。
あとはそいつの気配を覚えておいてこっちからこっそり襲撃すればいいよ。
「なるほど……」
「前世今世通じて俺が誰かを護衛するなら全力で気配を探りながら周囲の人たちの一挙手一投足に注意を払いつつ周辺の建物から狙われることを想定して気を配るけど、お前なら《索敵魔法》を展開しながら歩くとか余裕だろ?」
「まぁ常にって訳にはいかないけど数時間くらいなら出来るかな?」
「だったら問題無いだろ。あとは護衛対象が不安にならないようにするだけ」
「俺がシシリーを守る……安心させる……」
「ねえ、やっぱり爆発させてもいい?」
「爆発ってなんだよ!?」
「リア充滅ぶべし! 爆発しろ!」
「おい、やめろ!」
「お前の人生オワタァ!」
俺は指先に気を纏わせながらシンの脇腹に突き立てた。
「痛い! マジで痛い! めり込んでる!」
「爆裂拳!!」
「シャレになんないからやめろって! しかも拳じゃなくて指じゃん!」
「うるせぇ! そんなことを言うやつは……こうだ!」
そのまま親指と人差し指を使ってシンの脇腹を思い切り抓ってやった。
「痛い! 普通に痛い!」
こうしてシンの相談と俺の鍛錬は同時に行われ、無事終了した。
しかし爆発しなかったな、今度どうやったら爆発させられるのかを研究してみよう。
ルカの 指力が 2ポイント 上昇した!
見たら評価ポイントを入れてくれた人がふえてました。ありがとうございます!もっとください!
愛飢夫は土日祝日休むタイプなので更新三連休の予定でしたが今週一度更新忘れてたので明日は更新します。
日祝休みです。