賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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学院案内

 翌朝、日課の朝の鍛錬を終え軽く汗を流し学院に通う準備を整えダイニングへと移動すると普段は俺と同じタイミングでやって来るハズのシンが既に朝食を終えて学院に通う準備を終えていた。

 

「おはよ。早いな」

「ルカ兄おはよう。シシリーたちを迎えに行かないといけないからね」

 

 ……たち?

 

「そうなんだ。てか『たち』ってどういうこと?」

 

 昨夜の話ではシシリーちゃ……さんの護衛をするって話じゃなかったっけ?

 

「ああ、護衛する対象はシシリーだけなんだけど、シシリーの友達で家が隣のマリアって子も一緒に通学するんだよ」

「ほーん……つまり両手に花ってことかい?」

 

 左右に女子生徒を侍らせおてて繋いで登校だと?

 

「いや、別にそういうのじゃなくてさ……そもそも別に俺とシシリーはそんな関係じゃないし……」

「じゃあどんな関係?」

「それは……」

 

 そこでシンは言い淀む。

 今の自分たちの関係を言えないだなんて……まさか――ふしだらな関係!?

 

「おいシン、正直に答えろ」

「な、なに?」

「お前……もう手を出しちゃったの?」

「出してねーよ!!」

 

 俺の問い掛けに対しシンは顔を真っ赤に染め全力で否定を返してきた。

 

 ふむ、これは嘘をついていない顔!

 

「そっか……良かった」

「何を想像してるんだよ……」

「シンが酒池肉林のハーレム野郎になってたらどうやって殺せばいいのかなって」

「ならないから! てか殺さないで!?」

「お兄ちゃんとしては可愛い弟が人の道を踏み外したのなら……ね?」

「それは……まぁ……」

 

 そんなことしてたら俺が殺る前にばあちゃんに殺されると思うけど。

 不誠実な男は嫌いです! だからジークも滅びろ!

 たまにクリスねーちゃんと目が合って嫌そうに目を逸らした後満更でもない顔しやがって!

 

「そ、それよりルカ兄は今から朝ごはん?」

「見たらわかるだろ」

 

 むしろそれ以外何しにダイニングまで来るんだよ。

 

「そっか。じゃあ俺は迎えに行くからルカ兄はゆっくり朝ごはんを食べててよ」

「あ、おい」

 

 そう言ってシンは俺の返答も待たずに《ゲート》を開いて魔力で出来た扉の中へと飛び込んで行ってしまった。

 

 まだ時間に余裕はあるのにやけに慌ててたな。

 

「……まぁいいか」

 

 それから俺はコレル料理長が作りメイドさんが配膳してくれた朝食をのんびりと味わいながら頂き、カバンを持って学院へと登校した。

 

 シンは俺が朝食を食べている間に戻ってきて女子生徒2人と一緒に既に登校したらしい。

 もしかしてアイツ、俺にシシリーさんを見せないつもりか?

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 特に誰かを護衛していたり、俺自身が狙われたりしている訳ではない俺は特に何の問題も無く学院に到着した。

 少し家を出るのが遅かったのか、教室内には殆どの生徒が既に登校していた。

 

「おはようルカ」

「おはようクライス。ミランダもおはよ」

「ええ。おはよう」

 

 俺と同じ最前列に席がある首席のクライスと次席のミランダに挨拶をして窓側の自分の席に着く。

 

「……ルカ、おはよう」

「おはよーケント」

 

 すると中列入口側2席目のケントが立ち上がり、俺の席の傍までやって来て挨拶をしてくれた。

 するとクライスとミランダも席を立ち、俺の周りに集まった。

 

「そういえば昨日家に帰って両親に『賢者様と導師様の孫と仲良くなって剣聖様の指導を受けられることになった』と伝えたら腰を抜かして驚いていたよ」

「ウチなんか両親に泣いて羨ましがられたわ」

「俺は……弟妹たちの世話が忙しくてあまり両親とは話せなかったな」

 

 ケント……

 

「ケントの家は兄妹が多いのか?」

「俺が一番上で弟が3人、それと最近妹が産まれたから5人兄妹だな」

「多いな……というか最近?」

「ああ。もうすぐ3歳になるのだがこれまでずっと甘やかしてきたからかイヤイヤ期が凄くて……」

「お、おお……大変なんだな……」

 

 俺は昨日聞いていたので知っていたのだが、クライスはケントに小さい妹がいることは知らなかったようだ。

 というか弟3人は俺も知らなかった……しかし子供が4人いて長男のケントと10歳以上年の離れた妹か。ケントの両親は今でも仲良しなんだな。とてもいい事だ。

 

「確かルカにも弟がいるのよね?」

 

 ケントの家族構成を聞いてなんとも微笑ましい気持ちになっていると、ミランダがそんなことを聞いてきた。

 

「ウチは魔法学院に通ってる双子の弟がいるよ。そういうミランダは?」

「アタシは一人っ子だから兄弟姉妹がいるのは羨ましいなぁ」

「ふーん。そういえば――」

「だー! 間に合った!」

 

 話をしているメンバーの中にノインが居ないことに気付いて教室内を見渡していると、勢い良く教室の扉が開いてノインが滑り込むようにして入ってきた。

 

「おはようノイン。やけにギリギリだったな」

「おはようクライス。いやぁ、初めての授業が楽しみすぎて昨日寝付けなくて……寝坊しちまった。あ、ルカ、ミランダ、ケントもおはよう」

 

 楽しみ過ぎて寝付けないって……こいつだけ小学生なのかな?

 

「皆、揃っているようだな。それではホームルームを始めるから全員速やかに席に着け」

 

 そんなやり取りをしているとマロウ先生が教室に入ってきた。本当にギリギリだったな……

 というかこのタイミングってノインは廊下でマロウ先生を追い抜いたんじゃ……?

 

「全員席に着いたな。では改めておはよう」

「「「おはようございます」」」

「それでは本日の予定を伝える。昨日言った通り午前中は学院を見て回る。昼食後は最初の実技授業だ。この後案内するが、第一訓練場に集まるように。授業では学院が用意した模擬剣を使うことになるので実技用の皮鎧を着用して集合だ。連絡は以上、何か質問のある者は?」

 

 俺の場合、皮鎧を装備しようがしまいがクラスメイトが全力で模擬剣を振るってきてもノーダメージなので必要無いのだが、着用したくないと言うのはわがままでしかないと思うので黙っておく。

 

「……質問はなさそうだな。それでは早速案内を始めよう」

 

 それから俺たちSクラスはマロウ先生の引率で学院内を見て回った。

 ここ騎士養成士官学院には2つの校舎があり、ひとつは俺たちの教室のある校舎。

 一学年四クラスあって俺たち1年生は3階、2年生は2階、3年生は1階に教室がある。

 もうひとつの校舎には職員室や生徒会室、その他実験室や各研究会の研究室などがある。

 生徒会あるのか……風紀委員という名のリア充撲滅委員にでもなろうかな?

 健全な男女交際すら取り締まってやろう。

 

 研究会とは言うなれば部活やサークルのようなものらしく、主に攻めに重点を置いた『攻勢剣術研究会』や反対に守りに主眼を置いた『守勢剣術研究会』、指揮や軍政、後方支援などを学ぶ『軍学研究会』などがあるらしい。あと『秘密の薔薇園研究会』なる研究会があるらしいとノインが言っていた。

 

 薔薇園……騎士学院にそんなオシャレな場所があるのかな? どこにあるのだろう? 一回くらい見てみたい。

 

「研究会か……なぁルカ、お前はどこか入りたい研究会はあるのか?」

 

 ノインから聞いた『秘密の薔薇園研究会』について考えているとクライスからそんなことを尋ねられた。

 

「俺? 俺は研究会には入らないよ」

「そうなのか?」

「うん。俺は自分のライバルになり得る戦士を育てたいんだけど、既存の研究会に入ったらその研究会のやり方に従わないといけないでしょ? だから研究会には入らずに見込みのありそうな人を集めて研究会以外の場所で鍛えようと思ってるんだよね」

 

 研究会の会長と戦って「俺が勝てば俺に従え!」って出来るならそれでもいいんだけど、それやったら絶対恨まれるからね。

 闇討ちされる程度なら何も問題無いんだけど、それで素質のありそうな人が敵に回るのは勿体ないし。

 

「なるほど……」

「ちなみにクライスはその候補に入ってるんだけど、どうする? もちろん入りたい研究会があるならそっち優先でも構わないよ」

「いいのか? 構わないのなら俺は研究会に入るよりルカから学びたい」

「もちろんおーけー。ならクライスは今日から俺が考えた『ウォルフォード流』の門下生ね」

「『ウォルフォード流』か……わかった。これからよろしく頼む」

「こちらこそ」

「ちなみに月謝はいくらくらいだろうか……?」

 

 ふむ、月謝か……考えたこともなかったな。

 

「別にいらないよ。強くなって俺を愉しませてくれる戦士になってくれたらそれが最高の報酬だし」

「いや、しかし……」

「払いたいの? なら修行の一環として魔物狩ったりもするから討伐報酬や素材売却報酬からちょびっとだけ払ってくれたらいいよ」

「それなら――」

「ねぇ、それってアタシも参加させてもらえないかしら?」

 

 クライスと月謝について話していると、俺たちの話を聞いていたらしいミランダも参加したいと声を掛けてきた。

 

「ミランダがいいならもちろんいいよ。ノインとケントはどうする?」

「それに参加したら剣聖様からの指導も受けられるんだろ? もちろん参加する!」

「俺も参加したいのは山々なんだが……たまに家の事情で早く帰らないといけない日もあるんだ。それでもいいだろうか?」

 

 ケントの所は兄妹も多いし一番下の妹はまだ小さいみたいだからそれは仕方ないね。

 

「いいよ。ただ修行時間の関係でどうしても皆とは差ができちゃうかもしれないけど……」

「それは仕方ないだろう。弟や妹が寝た後に自己鍛錬でなんとか補う」

「それなら家でも出来るトレーニングを教えるよ。大変かもだけど頑張って」

「ありがとう。よろしく頼む」

 

 あとはこちらをチラチラ見てきているヒソヒソくんたちだけど……アイツらはいいか。入りたくなったら自分から声を掛けて来るだろう。

 

「それじゃそういう事で。修行場所は学院でやってたら絡まれそうだから俺の家の庭でやろうかなって思ってるんだけど、それでもいいかな?」

「それは構わないのだが、ルカの家という事は……」

「もしかして賢者様や導師様にも会えたり……?」

「会えるんじゃない? あの2人基本的に家に居るし」

 

 あとちょいちょいこの国の王子様も来てるから王子様にも会えるよ。ワンチャン王様も。

 

「こんな幸運があっていいのかな……」

「……ああ。ルカと同い年に産まれたことを神様に感謝しなければ」

「大袈裟」

 

 そんなことを話しながら学院を見て回り、午後の授業が行われる第一訓練場の場所を確認して最後に食堂へと案内された。

 

 移動中こっそりクライスに『秘密の薔薇園研究会』がどんな所か聞いてみたら「二度と口に出すな」と怒られてしまった。

 

 なんだろう、やっぱり騎士を志す男が薔薇を愛でるのは異端だってことなのかな?

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