賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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本日3話目


弟ができました

 何度かの睡眠と覚醒を繰り返し、ようやく『自分が赤ん坊である』という自覚が芽生えてきた。

 

 とりあえず自分ともう一人の赤ん坊が生後何ヶ月くらいかを調べるために嫌がる赤ん坊を巻き込んで検証作業を開始した。

 

 まずは唇を掴んで口の中を覗き込んでみる。

 

 ふむ、前歯は生え揃ってきているが奥歯はまだ生えていない……

 この感じからして生後10ヶ月~13ヶ月といったところか。

 

 口内の確認を終えて手を離すと、赤ん坊はすさまじく不本意そうな顔でこちらを見てきたが華麗に無視をして次の検証作業に移る。

 

 大体の月齢がわかったので次は体の成長具合の確認だ。

 

 まずは寝返り。

 これについては特に苦もなく転がることが出来た。

 

「んーま!」

 

 転がることが楽しくてコロコロとベッドの上で寝返りを繰り返していると隣で寝かされていた赤ん坊に衝突してしまったようで、すごく迷惑そうな顔をして俺を押し返そうとしてきた。可愛い。

 

おーえん(ごめん)

「うーあ!」

 

 両手を合わせ、かるく頭をぺこりと下げて謝ると、赤ん坊は不服そうな顔をしながらも頷いた。

 

 これ……絶対意思の疎通出来てるよな?

 

 その後も思い付く限りの実験を行って大方生後12ヶ月前後であると結論付けた頃、俺たちを助けてくれた老人が部屋に入ってきた。

 

「☆◎○▽◇□※▽△」

あー(ご飯)!」

「うー!」

 

 やはり、何を言っているかはわからない。しかし手に持っている皿を見れば老人が何をしにこの部屋を訪れたのかは一目瞭然だ。

 

 俺と赤ん坊は見つめ合い、お互い目線と顎の動きで「お先にどうぞ」と順番を譲り合う。

 

はえゆー(はよ食え)

「あんま!」

 

 こうして壮絶な譲り合いを経て、もう一人の赤ん坊に順番を譲ることに成功した。

 

「んまんま」

「ほっほっほ!」

 

 蕩けたような顔で赤ん坊にスープを飲ませる老人と、それを美味しそうに飲んでいる赤ん坊を見てほっこりしながら笑っていると、急にお尻のあたりがもっこりしてきた。

 

 御老人、何年か後には拙者が責任を持って貴殿の下の世話をさせて頂く故パンツを履き替えさせてもらってもよろしいだろうか……?

 一応出しながらブツは気で覆っておいた故臭いは無いものと思われますので、何卒どうかよろしくお願い申し上げます。

 

 排泄のコントロールも出来ないとか聞いてないよ……

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 そうして俺たちが老人に拾われてから1年半ほどの月日が経過した。

 

 俺は『ルカ』、もう一人の赤ん坊は『シン』と名付けられ老人の下ですくすくと成長した。

 容姿がとても似通っており、月齢も同じくらいということで双子として育てられている。

 それでどちらが兄かという話になったのだが、よりアグレッシブに動いていた俺の方が兄ということになった。

 

 これからはお兄ちゃんとして弟を守ってやらなければ!

 

 ちなみに俺たちを助けてくれた老人は『マーリン=ウォルフォード』というらしい。

 マーリン翁は俺たちを『孫』として育てるつもりらしく、それに伴い俺たちの家名も『ウォルフォード』になっている。

 つまり俺は『ルカ=ウォルフォード』で弟は『シン=ウォルフォード』。そして我らのマーリンおじいちゃんだね。 

 

 さらに俺とシンは互いに『転生者』であることも確認している。

 拾われた時点で1歳くらいだと仮定して、2歳を過ぎた頃に俺はシンに前世の記憶があることをそれとなく打ち明けた。

 するとシンも「そんな気はしてた。実は俺も」とあっさりカミングアウトしてきたのだ。

 

 俺もそうなのだが、シンも詳しい年齢は思い出せないらしく大体20代半ばくらいで死んだような気がすると言っていた。

 普通の高校、大学を卒業して普通のブラック企業で働いていたそうだ。

 

 普通のブラック企業ってなんだろう?

 

 シンの話を聞いた後、今度は俺が覚えている範囲で俺の前世もシンに聞かせた。

 

 俺が産まれた家は1000年以上続く武門の名家であり、世界最古の警備会社を経営していた。

 そんな家に産まれた俺は幼い頃からありとあらゆる武術を叩き込まれたが、なんやかんやあって従兄弟との跡目争いに敗れ家を追放された。

 その後むしゃくしゃしていた俺は殴っても簡単には死なない熊と戦い勝利した後気が付けば死んでいた。

 

 全てを語り終えた後、シンは「うわぁ……」とドン引きしたような顔をしていた。

 ちなみに俺の一族が経営していた警備会社は名前だけは知っていたそうだ。

 真顔で「超大手……」と呟いていたけど働きたかったのかな?

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 さらに時は流れ、俺たちが3歳を過ぎてしばらくした頃に大きな事件が起こった。

 

 なんと――シンが魔法を使ったのだ。

 

 これはどうしたものかと俺やマーリンおじいちゃんは上へ下への大騒ぎとなったのだが、当の本人は「マーリンおじいちゃんとメリダおばあちゃんが魔法を使っているのを見て真似したら出来た」などとシレッとふざけた供述をしていた。

 

 ちなみにメリダおばあちゃんとはたまに家にやってくる『メリダ=ボーウェン』というどこからどう見ても魔女にしか見えない女性で、少し歳を重ねてはいるが若い頃には大層な美人であっただろうことが容易に想像出来る容姿をしている。

 

 最初は『メリダさん』や『メリダおばちゃん』と呼んでいたのだが、なんだかとても不服そうだったので試しに『おばあちゃん』と呼んでみたらとても喜んでいたのでそれ以降俺たちはメリダおばあちゃんと呼んでいる。

 

 普通女性の方はさん付けやおばちゃん呼びよりおばあちゃん呼びの方が嫌だと思うのだが……まぁ本人がそれを望むならそう呼ぶべきだろう。

 

 他にもやけに身なりのいいおじさんやめちゃくちゃすごそうな装備を身に付けた騎士っぽい人もよく家に来るのだが、それは今は置いておこう。

 

 閑話休題(話が逸れた)

 

 シンが急に魔法を使ったことで何故かマーリンおじいちゃんがはしゃぎ出して家中駆け回っていたが、俺にとってそれは特にどうでもいい。

 大事なのは『俺と同じ転生者であるシンが魔法を使ったこと』である。

 同じ転生者であるシンが使えたということは俺にも使えるということだろう。いや、使えるはずだ。使えてほしい。どうか使わせてくださいお願いします。

 

 魔法が使えれば……この新たな力を得れば俺は更なる強さの高みに手が届くかもしれないのだから。

 

 そう思いいても立ってもいられなくなった俺は老人らしからぬ素晴らしいフォームで走っているマーリンおじいちゃんを捕まえ懇願した。

 

「じいちゃん、僕にも魔法教えて!」

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