賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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弟が叙勲されるらしいです

「シン=ウォルフォード殿! 貴殿は魔人の出現という国難に際し、自らの身の危険を省みずこれを討伐するに至りました。つきましてはアールスハイド王国よりその行為に対し感謝の意を表し『勲一等』の勲章を授与することになりました。シン=ウォルフォード殿には叙勲式に出席して頂きたく存じます!」

 

 ふーん、シン叙勲されるんだ……

 俺も前世で勲章貰ったことあるけど、式典がとても堅苦しかったことを覚えている。

 めちゃくちゃ肩凝って大変だけど頑張ってね!

 

 てか見ないふりをしてるんだけど、シンが叙勲されるという話を聞いたじいちゃんとばあちゃんの雰囲気がめっちゃ怖い。

 これは叙勲式の時のシンより今のディスおじさんの方が大変なことになるかもしれない……

 

 どうやって逃げようかな?

 

「ディセウム……お主は言ったな? 『ルカとシンを政治利用するつもりは無い』と。なのにこの扱いは何じゃ?」

 

 何かが始まる前に逃げようと思っていたのだが、どうやら遅かったようだ。

 

「アタシも聞いたねぇ……どういうことだい?」

 

 あの……どう考えてもこの話は俺には関係なさそうなのでお部屋に戻ってもよろしいでしょうか?

 

「ルカ兄、矛先がこっち向くかもだから動いちゃダメだよ?」

「わかってるよ! てか今必死に気配消してるんだから話し掛けんな!」

 

 そもそも声出してんじゃねぇよ! ばあちゃんに気付かれちゃうかもしれないだろ!

 

「そう言われると思ったからこそ私が来たのです」

 

 今までに見た事が無い程剣呑な雰囲気を放つじいちゃんとばあちゃんに対してディスおじさんはキリッとした表情で言葉を返す。

 

 その立派な心意気に免じて産まれたての子鹿のように震えている足は見なかったことにしておくよ。

 

「今回、数十年ぶりに魔人が出現致しました。過去に一度魔人が現れた時はこのアールスハイド王国は滅亡の危機に瀕しました。その脅威をこの国の人間は決して忘れません。その脅威がまた現れた……この事は既に多くの民の耳に入っております。そして、それがすぐさま討伐されたことも伝わっております。この国にとって、魔人の出現と討伐は隠しておく事が出来ない事柄なのです」

「それはわかっておるがの。勲章の授与とはどういうことじゃ?」

 

 やべぇ、じいちゃんの目が怖い。

 あんな険のこもった目をしたじいちゃんは初めて見たよ……

 

 あんな風にじいちゃんに睨まれたら俺なら泣いちゃうね!

 

「それはマーリン殿メリダ殿、おふたりへ魔人討伐の際に授与した勲章を、同じ功績なのに授与しない訳にはいかないのです」

「む……」

「確かに、それはそうだろうけどねぇ……」

 

 確かに同じ功績をあげているのに片方には勲章、もう片方には何も無しじゃ不公平感がすごいことになりそうだ。

 しかもシンはじいちゃんたちが2人がかりで倒した魔人を1人で、しかも周囲に被害を出さずに討伐しているのだからシンの方が功績は大きいとも言えちゃうし。

 

「勿論、それを利用しようとする輩はいるでしょうがそれは私が全力をもって阻止します。なんなら叙勲式で宣言してもいい。ですから、何卒お許し願えませんか? 私の為ではなく、国民の為に。お願いします!」

 

 ディスおじさんはそう言って深々と頭を下げた。

 

「へ、陛下!?」

「父上……」

 

 使者の人もオーグも驚いてる。

 そりゃそうだろう、自分が至上と仰ぐ国王が英雄とはいえ一介の老人に頭を下げた……驚かないはずがない。

 

 かくいう俺も驚いた。

 偉い人というのは必要な場面において頭を下げる必要があるのはわかる。

 だけどこれだけの人が見ている前で下げるとは思わなかった。

 俺たち家族やオーグの前で下げるのならわかるのだけど、使者の人やオーグの護衛、シンの友人の女子もいる前で頭を下げるなんて……

 

 ディスおじさん、本気だな。

 

「マーリン殿、メリダ殿。私からもお願い致します。どうかお許しください」

 

 ディスおじさんが頭を下げたのを見たオーグも初めは驚いていたが、事情を察したようでディスおじさんの横に並んで頭を下げた。

 

「殿下まで……お、お願い致します!」

 

 王族2人が並んで頭を下げている姿を見て死にそうな顔をしていた使者の人もハッとしたようにして深々と頭を下げた。

 

 俺も一緒に頭を下げたら面白いかな? いや、絶対にばあちゃんに怒られるからやらないけども。

 

 国王、第一王子、使者の人の3人に頭を下げられているじいちゃんとばあちゃんは難しい顔をしていたが、やがて諦めたように大きなため息を吐いた。

 

「はぁ……わかった。ディセウム、その言葉を信じよう。もし、その言葉を違えたなら我々はこの国を出る。二度と関わりも持たん。それでよいな?」

「分かりました。それで構いません」

「それと、一国の王が簡単に頭を下げるでない」

「今回の事はそうしなければならないと判断したのです」

 

 頭で判断出来てもそれをすぐさま実行出来るディスおじさんはかっこいいと俺は思うよ。

 

「それにしても……まったく次から次へとまぁ……こんなにトラブルを起こすもんだよ」

「ちょ!? 俺のせいじゃなくね!?」

「そうだな。シンと一緒にいると退屈しないな」

「あの……すみません……トラブルの一端は私ですね……」

「シシリーは気にしなくてもいいんだよ。そういったトラブルを集めてくるこの子のせいなんだ」

「そうだそうだ!」

「俺のせいじゃない! てかルカ兄はなんでそっち側なんだよ! トラブル起こす側じゃんか!」

 

 俺はこんなトラブル起こしたことないよ? シンは一体何を言っているのだろうか?

 

「まぁ、確かにルカくんもシンくんもトラブルを起こしたり巻き込まれたりすることは多いな。今回の件なんてその最たるものだ。シンくん、良ければ詳しい顛末を聞かせてもらってもいいかい?」

「うん。いいよ」

「待って? ちょっと待って? 俺はシンが起こしたトラブルに巻き込まれてるだけで俺がトラブルを起こしたことは無いんじゃないかな!?」

 

 そう叫んだ俺をじいちゃんとばあちゃん、そしてシンとディスおじさんは憐れむような目でこちらを見てきた。

 

 なんだよ……言いたいことがあるならハッキリ言えよ……

 

「ルカ、アンタ勉強が嫌で数日家出したことがあっただろう?」

「あ、あれは野営訓練でして……決して勉強が嫌でばあちゃんが帰るまで隠れてたってことは無くてですね……」

 

 まさかばあちゃんが泊まるとは思わなかったから俺も帰るに帰れなかったんだ。

 だからもう割り切って1人でキャンプを楽しんでました!

 

「森で迷子になったこともあったよね? あの時はまだ《索敵魔法》教わってなかったから俺も必死で探したんだよ?」

「そ、それはどこまで離れたら皆の気配がわからなくなるかの実験をしてただけで……」

 

 調子に乗って走ってたらいつの間にかシンたちの気配がわからなくなってて……焦って帰ろうと思ったんだけど方向がわからなくなったんだ。

 最終的にじいちゃんに見つけてもらえて助かった。

 

「滝壺に飛び込んだ時には心臓が止まるかと思うたわ」

「精神を鍛えるために滝行をしようかと……」

 

 あれ? 案外俺ってトラブル起こしてたりするのかな?

 

「そういえば私は騎士学院の実技試験中にルカくんが戦争をしようとしていたと聞いたのだが……」

「いや……それは売られた喧嘩を買おうとしただけで……」

「ほう? ルカ、後でその話はしっかり聞かせてもらうさね」

「ひぇっ……」

 

 ばあちゃんが般若のような表情を浮かべていました。

 

「コホン……ルカの話は私も気になりますが、今は今回の魔人出現の話に戻しましょう」

 

 俺がばあちゃんに睨まれ身を縮こませていると、オーグが咳払いをして話を戻してくれた。

 

 ありがとうオーグ、この恩はしばらくの間忘れない。

 

「そうだな。じゃあ今回の顛末なんだけど――」

 

 シンによると、今回魔人化したのはカート=フォン=リッツバークという魔法学院の1年生で、シシリーさんにストーカー行為をしていた要警戒対象人物だったらしい。

 

 シンが俺に「護衛のやり方を教えてくれ」と言ってきたのはこのストーカーからシシリーさんを守るためだったと言うわけだ。

 

 そしてこのストーカー野郎はなんやかんや色々あって自宅謹慎になったそうなのだが、抜け出して襲撃を掛けてきたらしい。

 襲撃は《索敵魔法》を展開していたシンが事前に察知して防いだのだが、そこで逆上したストーカー野郎が魔人化してしまいやむなく討伐をしたそうだ。

 

「戦ってみたら思ったよりも全然弱くて……それに普通あんなに簡単に魔人化するとは思えないから、もしかしたらカートは人為的に魔人化させられたんじゃないのかなって」

「人為的に魔人化させた!?」

 

 話を聞いたディスおじさんは驚いているが、なんだかちょっとおかしい気がする。

 なんのいうか……「初めて聞いて驚いた」ではなく「まさかここでそれを聞くとは」的な驚きな感じ。

 

 もしかしてディスおじさんは別ルートで何かしらの情報を得ているのかな?

 

「それは確かなのかい?」

「いや、あくまでも推測だよ。確証は何も無い」

「フーム……これは……」

 

 ディスおじさんは難しい顔をして何かを考えている。

 そりゃ為政者としては頭の痛い問題でしかないもんね。

 

「シンくん、アウグスト、ユリウス、トール、シシリー、マリア、そしてルカくん。キミたちに命ずる、この事は決して口外してはならない。わかったね?」

 

 こんな話を他でしても誰も信じてはくれないだろうけど、言うなと言われたならきちんとお口にチャックができる俺は素直に頷いた。

 シンたちも頷いてはいたのだが、どうやら他のクラスメイトや担任の先生には話してしまっていたそうで、そちらはディスおじさんが使者を派遣して対応すると言っていた。

 

「では私は城に戻る」

「ディスおじさん、またね」

「バイバイ」

 

 そうしてディスおじさんは帰っていった。帰っていった。

 

 さて……早速シンに後ろの女の子2人の紹介をしてもらって魔人がどれくらい強かったかのお話を伺わなければ――

 

「ルカ、ちょっと話がある」

「ワシも聞いておこうかの」

「あっ……」

 

 しかし俺はディスおじさんの置き土産によりじいちゃんとばあちゃんに部屋へと引き摺り込まれてしまった。

 

 話が終わった頃にはオーグたちは既に帰ってしまっていたのでシンの想い人を紹介して貰えずじまいだった。

 

 紹介してもらえなかったのはとても残念だったが、シンが戦った魔人の強さは聞き出せた。

 

 魔法を使えない俺でも楽勝なくらい弱かったんだって。 

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