それから俺はようやくシンのお友達を紹介してもらえることになった。
「えっと……こっちの紺色の髪の子がシシリーで、赤髪の子がマリアだよ」
……それだけ?
「2人とも、このムスッとした顔をしてるのが俺の双子の兄だよ。名前はルカ」
ムスッとして顔って……これはお前の紹介が適当すぎて怪訝な顔をしているだけなんだぞ?
「マリア=フォン=メッシーナよ。ルカ、よろしくね」
「シシリー=フォン=クロードです。よろしくお願いします」
俺があまりのシンの適当さに唖然としていると、2人が先に自己紹介を始めてしまった。
2人とも名前に『フォン』が入ってるって事はお貴族様か……
シンは適当な感じで接しているけど、これはやっぱり丁寧に接した方がいいのだろうか?
「自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。お初にお目にかかります、俺……いや、私はルカ=ウォルフォードと申します。お会いできて光栄です」
座っていたソファから立ち上がり、ばあちゃんから教わった『ちゃんとした礼』を披露する。
すると対面に座っているシン、メッシーナさん、クロードさんの3人から「えっ……?」という声が漏れたのが聞こえてきた。
「くっ……ルカ、そこまで改まる必要は無いぞ」
「そうなの?」
俺の隣に座っているオーグは笑いを噛み殺すようにしながらそう言うが、この2人はお貴族様なんだからちゃんとしないといけないんじゃないの?
確かにオーグのお付きの2人は呼び捨てタメ口で構わないって言われたけど、それは俺がオーグに対してこんなんだからオーグの配下的に仕方の無い判断だと思ってたんだけど。
「殿下の言う通りよ。私のことはマリアって呼んで。敬語もいらないから」
「わかったよ。じゃあ俺のことも……ってマリアは既に呼び捨てにしてたよね」
「ええ。よろしくね」
「えっと……私の事も呼び捨てで大丈夫ですので……」
マリアと『呼び捨てタメ口』に関して同意をしていると、マリアの隣のシシリーもそんなことを言い出した。
しかし……俺的にクロードさんの名前を呼び捨てにするのはダメだと思うんだ。
「いや……クロードさんは……難しいかな?」
「な、何故ですか!?」
「だって……」
シンがめっちゃ嫌そうな顔で睨んできてるんだもの。
「シン……お前ルカがクロードのことを名前呼びするのが嫌なのならハッキリとそう言えばいいではないか」
「え……!? い、いや……別に嫌ってわけじゃ……」
「ほぅ、そうなのか? ならば……ルカ」
「ん?」
オーグがニヤニヤと悪い笑みを浮かべてこちらを見てくる。
なんだか嫌な予感しかしない。
「シンは嫌ではないそうだ。私が許すからクロードのことを名前を呼び捨てにして呼んでみろ」
「えぇ……」
やっぱりそういう話ですよね。
さてどうしたもんかとシンの方を盗み見ると、シンは恨めしそうな瞳で俺のことを睨んでいた。
やめろよ……まだ呼んでもいないのにそんな目でお兄ちゃんのことを見ないでよ!
「ほらルカ、どうした? 呼んでみろ」
さて……マジでどうしよう?
「ルカ兄……」
この場をどう対処しようかと無い頭で必死に考えていると、シンが聞こえるか聞こえないかくらいの声量で俺の名前を呼んできた。
考えるふりをしながら目だけをシンに向けると、瞳をほんの少しだけ潤ませて懇願するように俺を見ているシンの顔が目に入った。
これは……ダメだろ。反則です。その瞳は俺に効く。
あーもう、わかった。わかりましたよ!
「ルカ、どうしたんだ? 早くしろ」
「オーグうっさい」
相も変わらずニヤニヤしながら煽ってくるオーグをひと睨みしてから小さくためいきをつき、シンたちへと向き直る。
「えっと……妥協してと言うか、間をとってと言うか……『シシリーさん』って呼ばせてもらっても構わないかな?」
呼び捨てはシンが嫌がるし、家名呼びはよそよそしいし、ちゃん付けは馴れ馴れしいと思い最終的に辿り着いた『さん付け呼び』を提案すると、シシリーさんはその大きな瞳をパチクリとさせた後「大丈夫です」と言って頷いた。
隣ではオーグが小声で「つまらんな」と言いながら舌打ちをしていたが、俺は知り合ってあまり間も無い友達より家族を優先するタイプなので聞こえないふりをしておいた。
「ルカ兄、ありがとう」
シンが聴覚の鋭い俺以外には聞こえないようにお礼を言ってきたので弟に感謝されて嬉しいお兄ちゃんは心の中で満面の笑みを返しておいた。
しかし心の中の笑顔だけではシンには伝わらない。
どうやってこの気持ちをシンにお伝えしようかと考えていると、今度はシシリーさんが口を開いた。
「では……私も『ルカさん』とお呼びしますね」
こ れ だ!
瞬間、俺の頭に天啓が舞い降りた。
「うん。それでもいいんだけど……シシリーさんには俺のことを『お義兄ちゃん』と呼ぶ権利を差し上げようと思うんだ」
「お、おに……?」
「ちょ、ルカ兄!? 何言ってんの!?!?」
シシリーさんはシンの想い人である。ということは将来のお嫁さん……つまり俺の義妹になるわけだ。
ならば今から俺のことを『義兄』と呼ぶことでシシリーさんは将来に備えられてニッコリ。
シンは俺が『義兄』と呼ばせることで俺がシンとシシリーさんの仲を認めたと認識するのでニッコリ。
ついでに俺は可愛らしい義妹が出来てニッコリという三方よしのこれ以上は無い素晴らしいアイデアだろう。
「くっくっく……」
隣でオーグが腹を抱えて笑っているような気がするが、今は将来の家族と大切なお話をしているので俺には何も見えないし聞こえない。
「おに……おに……お……に……」
俺の斜め前に座っているシシリーさんはずっと口をパクパクさせながら「おに……」と呟き続けている。
なんだか俺が鬼みたいだからやめて欲しい。
「ルカ兄……言っていいことと悪いことがあるだろ……」
そしてシシリーさんの隣、俺の正面に座っているシンは頭を抱えている。
「……あれ? これダメだった?」
三方よしと思ったんだけど……これは誰もニッコリしてないな!
「常識的に考えてこれはダメだろ……シシリー、今のはルカ兄の悪ふざけだから気にしなくていいよ」
「おに……え? あ、はい。わかりました」
バグったみたいに「おに……」をエンドレスリピートしていたシシリーさんだったが、シンに声をかけられたことで正常な動作を取り戻したようだ。
「シシリーごめんね。ルカ兄はバカなんだ」
「いえ……ルカさんはシンくんのお兄さんなのできっと優しい方なんだと思います。だから今のは悪ふざけなんかじゃなくて場の雰囲気を和ませるために言ったんじゃ……」
「ルカ兄はそんなこと出来ないよ。アイツは空気読めないから」
なんだとコノヤロウ!
「そんな……シンくん、お兄さんのことをそんな悪く言っちゃダメですよ!」
「シシリー……うん、わかった。ごめんね、俺が悪かったよ」
「そんな! シンくんが悪いことなんてありません!」
「シシリー……」
「シンくん……」
気が付けばいつの間にかシンとシシリーさんが見つめ合っていた。
俺は一体何を見せられているのだろうか?
「ルカ……アンタのせいなんだからこの空気なんとかしなさいよ」
マリアが不満そうな顔をしてそう言ってきたけど……これは俺のせいなの?
「くっくっく……お前たちと居ると本当に退屈しないで済みそうだ」
それからしばらくの間オーグにからかわれたり、マリアにツッコミを入れられたり、シンとシシリーさんが仲良くしている姿を眺めて楽しい時間を過ごしてその場は解散となった。
「ルカ、ちょっといいかい?」
「何? どしたのばあちゃん」
皆が帰った後、いつものように家族4人で夕飯を食べてそろそろお風呂に入って寝ようかといったタイミングで俺はばあちゃんに呼び止められた。
「ここじゃちょっとアレだから場所を変えるよ」
ばあちゃんはそう言って立ち上がり、夕飯を食べていたダイニングを後にする。
「……なんだろ?」
場所を変えてお話するということはお説教されるのが鉄板なのだが、今日は別に怒られるようなことはしてないと思うんだけど……
シンの「お前何したの?」という視線に見送られながら俺はばあちゃんの後を追った。
◇◆
「そこに座りな」
ばあちゃんに促され、ばあちゃんの私室のテーブルセットのソファに腰を下ろす。
さて……俺は一体何をやらかしたのだろうか。
「ルカ」
「はい!」
向かいに座ったばあちゃんに真剣な眼差しを向けられ名前を呼ばれたので背筋をピンと伸ばして返事をする。
ソファじゃなくて床に正座した方が良かったのかもしれない。
「……今日は説教じゃないから楽にして構わないよ」
「そうなの?」
どうやらお説教ではなかったらしい。
「今日はちょっとアンタにいくつか聞いておきたいことがあってね」
「そうなんだ。何?」
ばあちゃんが俺に聞きたいことがあるなんて珍しい。
俺は若干前のめりになってばあちゃんからの質問に備える。
「今日、シンとシシリーを見てどう思った?」
「どうって……微笑ましいなぁと思って見てたよ。あとちょっと羨ましかった」
聞かれたことに素直に答えた瞬間、ばあちゃんの顔が強張った。
「羨ましい? アンタもしかして……シシリーに惚れたのかい?」
「え!? いや、それは無いけど……なんでそんな必死なの? ちょっと怖いんだけど」
「怖いとは何さね!」
「ごめんなさい!」
ばあちゃんの瞳がカッと見開かれたので反射的に頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
反射的に謝ったけどばあちゃん、普通に怖いからね?
「コホン……本当に惚れてないんだね?」
ばあちゃんは一度咳払いをして仕切り直しをして質問を重ねてくる。
「惚れてないよ。確かにシシリーさんは可愛くて守ってあげたくなるような女の子だとは思うけど……そういうのタイプじゃないし」
あくまで第一印象なんだけど、シシリーさんって俺からすれば守る対象であって恋愛対象では無いんだよね。
「そうかい……それなら良かった、安心したよ」
「そんなに?」
「ああ。もしもアンタもシシリーに惚れちまってアンタとシンで取り合ったらと思うと……」
「しねーよ」
ばあちゃんはなんだか遠い目をしてるけど、多分俺とシンって何かを取り合って喧嘩したこととか無かったと思うんだ。
「言われてみればアンタの初恋はクリスなんだからシシリーとはタイプが違うのかね」
「ちょっと!!」
なんで知ってんのさ!? もしかしてジークか? ジークがチクったのか!?
あのヤロウ、今度会ったら再起不能になるまで
「何を慌ててるんだい」
「何をって……なんで知ってんのさ!?」
「なんでも何もアンタはクリスの前でだけ態度がおかしくなるんだから見てたらわかるさね」
ばあちゃんは何を言ってるんだといった表情を浮かべてこちらを見ている。
「嘘……だろ……」
悲報、俺の初恋がばあちゃんにバレてた件。
「クリスが来る前日にはあんなにソワソワしておいてバレないとでも思っていたのかい? 皆知ってたさね」
「皆って……まさか……」
「シンもじいさんも……ディセウムも気付いてたんじゃないかねぇ」
「ぎゃぁぁぁぁああああ!!」
もうヤダ。穴があったら入りたい……掘ろうかな。
「五月蝿いねぇ……まぁアンタのことは置いておいて、シンとシシリーがくっ付くことには賛成なのかい?」
「シンとシシリーさんについては賛成。俺のことは永遠に置いておいて」
身内に初恋がバレてるとか死にたくなるから忘れてください。
「そうかい。ならミランダは?」
「ミランダ?」
なんでここでミランダが出てくるの?
「ミランダはクリスと似たタイプだろう? だったらクリスに惚れたルカならミランダのことも意識するんじゃないのかい?」
「クリスねーちゃんの件はお願いだから忘れてよ……」
ばあちゃんは先程までの真剣な顔ではなくニヤニヤしながら俺の方を見ている。
なんで祖母と孫で恋バナしなくちゃならないんだ……
「はいはい、そのうち忘れるよ」
「それ絶対忘れないやつ……」
ふむ、しかしミランダか。確かにミランダは可愛いとは思うし心身ともに鍛えている。
今のところ俺の課すトレーニングにも食らいついてきているし、言われてみれば俺の好みに合致しているような気がしてきた。
「で、どうなんだい?」
「言われてみれば……確かに魅力的なのかも」
「そうだろう? で、好きなのかい?」
「好き……うーん……」
最近クリスねーちゃんとジークが時々いい感じの雰囲気を醸し出しているから諦めなきゃとは思ってるけど……
だからと言って好みの女性を見付けたらすぐそっちに行っちゃうのは節操が無いんじゃないのかな……?
「よくわかんない」
「……そうかい。まぁアンタは森を出てまだ間も無いんだ、まだまだこれからさね。若者は若者らしくしっかり悩みな」
まぁ中の人も合わせたら精神年齢はアラフォーなんだけど……って中の人の年齢はノーカンにしようってシンと決めたんだった。
「わかった、そうしてみるよ。それで――話はもうおしまい?」
「ああ。時間を取らせて悪かったね」
「全然。いつでもお喋りしようよ」
こうしてばあちゃんの部屋を辞した俺はそのままお風呂に入った後ベッドに潜り込んだ。
さて、ミランダのことを考えてみよう――
そう思った次の瞬間、俺の意識は夢の中へと旅立った。
とりあえず面接2社目で採用貰ったけどちょっと微妙……他にも良さげなとこあるからそっちも面接受けてみてから考えよう。
星10個頂きました!ありがとうございます!頑張って続き書きます!
皆様も見習って星とか感想とかここ好きとかもっとくれてもいいんですよ?遠慮しないで!