弟の想い人を紹介してもらった日の翌日、今日は学院がお休みなのでガッツリ系の鍛錬をしようと思いとりあえずウォーミングアップとして裏庭で腕立て、腹筋、スクワット各300回を5セット行っていると『ルカ様のお着替えお手伝いし隊』のメンバーらしいメイドさんが俺に客が来ていると呼びに来た。
この『ルカ様のお着替えお手伝いし隊』は俺が鏡の前でポージングをしていたのを目撃したメイドさんが結成したグループで、メンバーの中には我が家の女性使用人のまとめ役であるマリーカさんも所属しているそうだ。
可及的速やかに解散して欲しい。
「で、誰が来てるの?」
呼びに来たメイドさんにそう問うと、メイドさんはすました顔で「女性の方です」と答えた。
女性の方……もしかしてクリスねーちゃんがジークを見限って俺をデートに誘いに来てくれたのだろうか?
告白してフラれた当時の俺と比べて身長も伸びて全体的にいい感じに筋肉がついた今の俺ならクリスねーちゃんの隣に並んでも誰も『おねショタ』とは言わないだろうから、その可能性も無きにしも非ずなようなワンチャンあるようなないような……
「ミランダ様です」
ノーチャンだった。
「ミランダが来てるの? ひとりで?」
「はい。おひとりです」
どうしたんだろ? 何かあったのかな?
ミランダと言えば昨日ばあちゃんに何か考えとけと言われたような……
なんだっけ?
そんなことを考え首を傾げながらミランダが待っている応接室へと向かい、ノックをしてから扉を開くと制服姿のミランダが部屋の中で直立不動の姿勢で待っていた。
なんで!?
「おはようミランダ。何してんの?」
「お、おはようルカ。まさか屋敷の中に案内されるとは思わなくて……」
なるほど、緊張しちゃって座ってる場合じゃなくなったんだね。
「そうなんだ。もう何回か来てるんだからそのまま裏庭まで来ればよかったのに」
「アタシもそう思ってたんだけど、メイドさんに先に『ご案内致します』って言われちゃって」
なるほど、ミランダはうちのメイドさんに先制攻撃をされてしまいそのまま受け身になっているうちにあれよあれよという間に応接室まで来てしまったのか。
うちのメイド軍団は変な方向でとても優秀だからこれも仕方の無いことなのかもしれない。
「そうなんだ……ところで今日はどうしたの?」
「どうしたって、ルカが今日の鍛錬の時間を言ってなかったからとりあえず来てみたんだけど……」
ああ、そういえば言うの忘れてたわ。
「ごめんごめん。とりあえずこの週末は鍛錬も休みにしようと思ってたんだ」
「そうなの?」
「うん。ミランダたちは《躁気術》を学び始めたばかりだから休みの日までやるとバテちゃうんじゃないかと思ってさ」
「だったらそう言ってよ……」
「ごめんなさい」
言われてみればその通りでしか無いので素直に謝罪の言葉を口にして頭を下げた。
「べ、別にそこまで謝らなくても……」
「でも……」
「次回から気を付けてくれたらそれでいいから!」
「あ、ハイ。わかりました」
確かに言わないと伝わらないもんなぁ。俺は特に連絡もなくやって来るミッシェルさんと一緒に鍛錬してただけだからそういうの失念してたよ。
予定表でも作ろうかな?
「それで……今日の鍛錬は休みなのよね?」
「そうだねぇ」
「わかった。じゃあ帰るね」
「ちょっと待って」
そう言って立ち上がり、帰ろうとしていたミランダを呼び止める。
せっかく来てくれたのにこのまま帰らせるのはさすがにちょっと心苦しい。
「何?」
「せっかく来たんだからもうちょっとゆっくりして行きなよ」
「えっと……」
「俺と組手でもしていかない?」
「する!」
ミランダは瞳を輝かせ、前のめりになりながら元気よく返事をしてくれた。
「じゃあいつもの裏庭に行こうか」
そうして『果たして組手はゆっくりしていると言えるのか?』という疑問を抱きながらも裏庭へと移動してミランダの気が済むまでひたすら組手を行った。
数時間後、ウォルフォード屋敷の裏庭には激しい組手によりズタボロになって倒れ伏すミランダとばあちゃんに「女相手にやり過ぎだ!」と言われ折檻されてボロ雑巾のようにされた俺の姿があったとか無かったとか……
◇◆
組手が終わり、じいちゃんの治癒魔法で傷を癒してもらった俺たちはちょうど昼時ということで一緒に昼食を摂る事になった。
「あ、これ美味しい……」
「だよね。うちの料理長の腕がヤバい」
我が家の誇る料理長コレルさんの作った美味しいご飯を食べながらあーでもないこーでもないとお喋りをしていると、ふと今度ミッシェルさんに会えたら聞こうと思っていたことを思い出した。
ミッシェルさんはいつ来るかわからない人なんだし、丁度いいからミランダに聞いてみよう。
「ねぇミランダ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「別にいいけど、急に改まってどうしたの?」
「いや、今度ミッシェルさんに聞こうと思ってたんだけど、あの人いつ来るかわからないからさ。だからミランダに聞いてみようと思って」
「それってアタシに答えられるの……?」
ミランダは困ったような表情を浮かべているが、答えられないなら別の人に聞くだけなのでわからなくても問題は無い。
「まぁ知ってたらでいいんだけどさ、この辺で一番腕のいい鍛冶屋さん知ってたら教えてくれない?」
「鍛冶屋さん?」
「うん。作って欲しい武器があるんだけど、ちょっと形とか作り方とかが特殊だからなるべく腕のいい鍛冶屋さんに頼みたいんだよね」
作って欲しい武器というのは当然刀である。
この世界の剣も決して悪くはないのだが、やはりというかなんというかなんかしっくりこないのでやっぱり刀が欲しいのだ。
森で暮らしていた時にうろ覚えの知識でシンの魔法に任せて作成しようとしたことはあるのだが、そんなので上手くいくはずもなく失敗してしまったので腕のいい鍛冶屋さんに頼みたい。
「それなら近くに『ビーン工房』って鍛冶屋があるけど……王都でも有数の鍛冶屋だからそこならルカの要望にも答えられるんじゃないかしら?」
「マジ?」
ビーン工房か、初耳だな。まぁ王都にある店の名前とかひとつたりとも知らんけど。
「この後用事が無いなら案内しようか?」
「是非ともお願いします!」
筋トレ以外特にやることのなかった俺は一も二もなく頷いた。
それから俺は渋るばあちゃんを説得したが「武器ならミッシェルから貰ったのがたくさんあるだろう」と却下されたのでこっそりじいちゃんに頼んで1年分のお小遣いを前借りさせてもらい『ルカ様のお着替えお手伝いし隊』所属のメイド軍団に無理やり着替えさせられてからミランダと共にビーン工房へと向けて出発した。
◇◆
そうして我が家を出発してから歩くことおよそ15分、目的のビーン工房に辿り着いた。
早速中に入ってカウンターの中に居た店員さんに「オーダーメイドで武器を作って欲しい」と注文すると、俺の顔を見た店員さんは驚いたような顔をして「少々お待ちください!」と言い残して慌ててカウンターの奥にある扉を開いて飛び出して行ってしまった。
どうしたのだろう?
「ルカ、さっきの店員さんは知り合いなの?」
「いや、知らない。初めましての人だよ」
ミランダが店員さんが飛び出して行った扉を見ながら質問してくるが、俺にはあんなお転婆な知り合いは存在しない。
というか俺の知り合いってディスおじさんたちを除くと学院の同じクラスの人とシンの友達数人しか居ないんだよな。
ちょっと悲しくなってきた。もっと交友関係広げようかな?
そうして少しの間待っていると、再びカウンターの奥の扉が開いて先程出て行った店員さんとは別のイカつい顔をした『まさに職人!』みたいな人が入ってきた。
「なんだ? 何か言い忘れたことでもあるのか?」
「……えっ?」
「よく見りゃさっきと服装が違うな……それに殿下やウチのマークはどうしたんだ?」
「ちょっと待って……あの、俺たち初めましてですよね?」
「あ? 何言ってんだ? さっきまで新しい武器を開発するために色々話してただろ?」
「えっ?」
「えっ?」
ちょっと待っていただきたい。
この職人さんは「ついさっきまで新しい武器を開発する話し合いをしていた」などと供述しているが、俺はついさっきまで自宅でミランダと組手をしたりご飯を食べたりしていたハズだ。
なのに何故この人はさっきまで俺がここに居たように話すのだろうか? もしかして未来予知なの? そんな魔法が存在するの?
「えっと……お前、シン=ウォルフォードだよな?」
「いや、俺はルカ=ウォルフォードですけど?」
なるほど、そういう事でしたか。
つまりこの職人さんは俺とシンを勘違いしたという訳か。
しかしなんでシンが鍛冶屋さんに新しい武器を開発してもらっているのだろうか?
もしかして俺が刀を欲しがることを先読みして注文してくれたのかな?
なんという出来た弟なのだろう……!
「ルカ? シンじゃないのか?」
「シンは俺の双子の弟ですね」
「双子? それにしてもそっくりだな……」
今まで俺たちに関わりのあった人たちは全員普通に俺とシンを見分けていたので双子と言ってもそこまで似ていないのかと思っていたが、別にそんなことはなかったらしい。
弟とそっくりと言われるのはちょっと嬉しいね。
「まぁそういうことです。それで、シンは何を注文したんですか?」
「ああ、今まで見たことも聞いたこともない全く新しい武器だったな」
この世界に刀は存在していない。つまりはそういう事なのだろう。
「ふむふむ……ちなみにそれはどのような武器ですか?」
「あ? シンの奴が言うには『鉄すら斬り裂ける剣』って話だったが……」
それは使い手の技量によるところが多いから一概にそうとは言えないんじゃないのかな? 少なくとも刀の扱い方を学んでいないシンには斬れないだろうし……
俺? 俺は斬れるよ。文字通り一刀両断だよ。
「ほうほう、それでそれで?」
「そうだな……なんでもすぐに折れても構わないから可能な限り刃は薄くして交換しやすいようにしてくれって頼まれてたな」
「ゑ?」
確かに刃が分厚かったらそれはもう鈍器だから薄いのは大前提なんだけど……折れてもいいからって何!?
いくら交換しやすくしても戦闘中に折れちゃったらどうしようも無いじゃない!
もしかしたらシンは俺なら戦ってる相手を蹴り飛ばして刃の交換をすると思っているのかもしれないけど、俺はそんなダサいことしたくないよ!
そもそも俺は《躁気術》で武器の切れ味と耐久力を引き上げられるんだからそう簡単には折りません!
「ああ、あとは『どうせ魔道具化するから』って刃はコスト削減の為に鋳型で造ることになってるぞ」
「それなんて武器?」
それは絶対に刀じゃない! それと俺は『武器の魔道具化』には反対派なんだ!
武術家たるもの武器に頼るような戦い方はしてはならない。でも魔剣とか妖刀とかは手に入れたい。かっこいいから。
「なんつったっけな……ああ、『バイブレーションソード』だったか?」
「ああ……やっぱりシンの『ブルブル剣』か……」
バイブレーションソード……通称ブルブル剣は幼少の頃シンが俺に剣の試合で勝つために作り出した震える剣のことで、その事を知らずに防御しようとした剣ごと左手首をぶった斬られてブチ切れた記憶がある。
なんでも刃を超高速で振動させることでなまくらでも鉄を斬れるようになるって言っていたのだが、それでお兄ちゃんの剣ごと手首を斬り落とすのはやり過ぎだと思う。
あの時はシンも大号泣しながら治癒魔法で俺の手首を繋げていたが、俺が『出血すらある程度操れるレベルの《躁気術》の使い手』でなければ普通に死んでいてもおかしくない事故だった。
ブチ切れて割と本気でビンタしたのは当然の権利だったと今でも思う。
「まぁそんな感じだな。それで、お前さんはなんの用事でここに来たんだ?」
俺がかつて起こった『シンの顎の骨が砕けてさすがに怒ったじいちゃんに科せられた2日間食事抜きの刑』という悲しい事件を思い出していると、何かを察したらしい職人さんが話の流れを変えるようにそう質問してきた。
「おやっさん、俺も新しい武器が欲しいんです!」
それから俺は刀の魅力について目の前の職人さんに熱く語り始めた。
皆様評価ありがとうございます!ここ好きももっとしてもいいんですよ?