刀をゲット出来る見込みが立ったことでウキウキした気分でお店を出ると、ニヤニヤしたオーグに距離を詰められタジタジになっているシンの姿が目に入った。
オーグの背後にはいつも通り護衛兼御学友のユリウスとトールが立っていてすぐ近くにはマリアとシシリーさんの姿も見える。
その中に一組の見知らぬ男女も混じっているのだけど……シンの新しいお友達かな?
「それにしても、アッサリ指輪を買うか。さすがだなシン」
すぐに声を掛けようかと思ったのだが、面白そうな話が聞こえてきたので出しかけていた足を止め気配を消して聞き耳を立てる。
「ル、ルカ? 急にどうしたの?」
「シッ! ちょっと面白そうな気配を感じたからミランダも急いで気配を消して!」
「気配の消し方なんて知らないんだけど!?」
俺がシンたちに気付かれないようにしていることは理解したのか、ミランダは小声で叫ぶという器用なことをしているがその小さな声に反応されて気付かれてしまってはいけないので慌ててミランダの腕を掴んでそこを起点にミランダの気を操り体外に漏れ出ている気の量を極限まで少なくする。
「……え? 何をしたの?」
俺がミランダの気に干渉して何かをしたのはわかったのだろう。しかし何をしたのかまではわからなかったらしくミランダは不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「無意識のうちに漏れている気の量を限りなくゼロに近付くように抑えたんだよ。人の存在感ってこの漏れ出している気の量に比例して大きくなるからこうやって漏れ出す気の量を減らせばその分存在感が薄くなるんだ」
つまり『存在感が大きい=漏れ出している気の量が多い』という方程式が成り立つのだ。
ところで方程式ってなんだっけ?
「そうなんだ……」
「だから《躁気術》を極めると『どこにいて何をしてても人々の注目の的になる存在』にもなれるし逆に『ステージの真ん中に立ってるのに観客からスルーされる存在』にもなれるよ」
「やっぱり《躁気術》ってとんでもない技術よね……」
まぁその分習得しようと思えば時間の掛かるめんどくさい修行をしなくちゃいけないんだけどね。
その修行期間を大幅に削減出来る俺と知り合えたのはとてもラッキーなことだと思うよ。感謝してね。
「じゃあもっと近付いて堂々と盗み聞きしようぜ!」
「盗み聞きって……あのルカとそっくりな男子と話している人って殿下よね? 第一王子殿下よね? 殿下の話を盗み聞きするの? 正気?」
「大丈夫大丈夫。どうせアホなことしか言ってないから」
戦々恐々としているミランダの腕を引いて一応シンやオーグたちの視界に入らないように気を付けながら回り込んでいく。
よしよし、誰も気付いて――ってシンがガッツリこっち見ているな……
くそ、シンの奴《索敵魔法》を使ってやがったな。気付かなかった。
「シン、どこを見ている?」
「ああ、あそこにルカ兄ともう1人誰かが居るような気がして……」
「ルカだと? どこだ?」
「多分あの辺りに居ると思うんだけど……魔力反応はあるのに姿を見付けられないってことは気配を消して近付いて来てるんじゃないかな。さすがにルカ兄と同じように気配を消せる人が居るとは思えないからルカ兄がもう1人の気配も消してるんだと思う」
「気配を……? それで姿が見えなくなるのか? さすがに不可能だろ」
「それが出来ちゃうのがルカ兄なんだよ。嘘だと思うなら《索敵魔法》使ってみろよ」
「……本当に2人居るな」
オーグはシンに言われた通りに《索敵魔法》を展開したようで、大まかにだが俺たちが立っている辺りに視線を向けてくる。
「……ねぇルカ、バレてない?」
「バレちゃったね。やっぱり魔法は卑怯だと思う」
「いや、そうじゃなくて……」
シンたちと一緒に居る他のメンバーも《索敵魔法》を使用したのか全員からの視線がこちらを向いている。
今の俺の《気配遮断》では漏れ出る気は消せても魔力までは隠せない。
次の機会までには魔力も隠せるようにしておかなければ……
気は魔力を弾くので多めに気を纏えば《索敵魔法》の魔力を弾いて隠蔽出来るのだが、そうすると気配の方が大きくなってしまうので本末転倒である。
さてどうしたものか。
そんなことを考えつつもバレているなら隠れている意味が無いので《気配遮断》を解除して姿を現すと俺たちの周囲に向けられていた視線が一斉に俺たちへと向き驚いたミランダが「ピャッ!?」と謎の鳴き声を上げて俺の背中に隠れてしまった。
「お前は隠れて何をしようと――ふむ、なるほど。そういう事か」
初め呆れたような顔をしていたオーグだが、俺の背後に隠れようとしているミランダの姿を見てその顔をニヤけ面へと変化させた。
「シン、どうやらルカにも春が来たようだぞ」
「ルカ兄に『も』って言い方は気になるけど……そうだな、ルカ兄に春が来たみたいで俺も嬉しいよ」
シンはオーグの言い方に少し引っ掛かりを覚えたようだが無理矢理無視をしてこちらを揶揄う流れに乗っかってオーグと同じことを言い出した。
「デート中だったか? すまない、邪魔をしたな」
「俺たちはあっちの方に行くからルカ兄たちはゆっくりしなよ。あ、でも将来義姉になるかもしれない人なら先に紹介して欲しいかな?」
オーグとシンの視線は俺たちの手元へと注がれている。
あ、気配消すためにミランダの手首を掴んだままだったわ。
多分シンたちからは俺たちがおててを繋いでいるように見えているのだろう。
これはしっかりと訂正しておかなければ。
「別にデートとかじゃないよ。ミランダには腕のいい鍛冶屋さんに案内してもらってたんだ」
「ふむ? その割には仲睦まじい様子だが?」
再びオーグが俺たちの手元へと視線を向けてきたので完全に硬直してしまっているミランダの腕を皆からよく見えるように引っ張りあげた。
「ほら、手を繋いでるわけじゃなくて俺がミランダの気を操作するために掴んでただけだよ」
「そうだとしても何時まで掴んでいるんだ?」
「さぁ?」
こっちからネタバレをする前にバレちゃったから離すタイミングを失ってたんだよね。
とりあえず今がそのタイミングだと思ったので掴んだ手を離しておいた。
「ふむ、シンとは違って狼狽えないんだな……面白くない」
「俺はシンと違って誤魔化すようなことはしてないからね」
「おい! 2人して矛先をこっちに向けようとすんなよ!」
「兄より優れた弟など存在しねぇ!」
「ルカ兄の入試筆記試験の成績は?」
「生意気言ってごめんなさい」
ずるいよ……そんな大昔の出来事を引き合いに出すなんてズルすぎるよ……
「それで……そろそろそちらの女性を紹介してはもらえないか?」
弟に言い負かされてしょんぼりしている俺を哀れに思ったのか、オーグが話題を変えてくれた。
「この娘はミランダ=ウォーレスだよ。騎士学院1年次席で俺の友達兼弟子なんだ」「お、お初にお目にかかります……ミランダ=ウォーレスと申します……」
俺がミランダを紹介するとミランダはおそるおそるといった様子で俺の隣に立って騎士らしく胸に拳を当てながら頭を下げ自己紹介をする。
「ああ。私はアウグスト=フォン=アールスハイドだ。今はプライベートなのでそこまで畏まる必要は無いぞ」
「ですが……」
「オーグがいいって言ってるんだから適当でいいんだよ。ほら、呼び捨てで呼んでみなよ」
「いや、無理でしょ」
ミランダが相当緊張していたので和ませるためにそう言ってみたのだが、ミランダは物凄い真顔で否定してきた。
別に本当に呼び捨てにしてもオーグなら怒らないと思うんだけどな……
「あー、ミランダさん? 俺はルカ兄の双子の弟のシンって言います。ルカ兄は基本バカなんで無理難題を押し付けられそうになったらその場では無視して後から俺かオーグに言ってくださいね。後で叩いておきますんで」
「別に無理難題言ってなくね?」
「世間一般的にオーグを呼び捨てにするのは無理難題だろ。常識考えろよ」
「なんだろう、他の人に言われるならともかくお前にだけは言われたくないんだけど?」
そう言ってオーグたちの顔を見てみると、全員苦笑を浮かべていた。
ほら見ろ、皆の顔に「シンに常識は無い」って書いてあるぞ。
「その話はそれくらいにしておけ。泥沼になるぞ」
オーグにそう言われたことで俺とシンの睨み合いは終了し、それからミランダはユリウス、トール、マリア、シシリーさんと順に自己紹介を交わし始めた。
そしてそれが終わると俺も初めて会うシンの新しいお友達を紹介してもらった。
1人は『マーク=ビーン』という少年で、今しがた俺が刀を注文したビーン工房の工房長の息子らしい。
シンたちとはクラスは違うのだがシンが立ち上げた研究会の入会審査を乗り越えて同じ研究会に所属することになったそうだ。
もう1人は『オリビア=ストーン』という少女ですぐ近くにある石窯亭という人気店の娘さんだそうだ。
マークとは幼なじみで同じクラス。そしてビーンくんと同様に入会審査に合格して同じ研究会に所属しているようだ。
ふむ、ラブの香りがする……リア充のお友達はまたリア充ということか。
妬ましい……
「ルカ、あんたすごい顔してるわよ」
恋人の居ない非リアな俺が当然の権利としてリア充であるビーンくんを心の中で呪っていると、それを察したマリアがこちらに寄ってきてそんな俺を窘めた。
「でもさマリア、彼はリア充なんでしょう? 恋人が居ない非リアな俺には彼を呪う資格があると思うんだ」
「その気持ちはとてもよくわかるけど辞めておきなさい。妬むより殿下たちと一緒に揶揄う側に回った方がまだ楽しいわよ」
「それはまぁ……」
しかし今初めて知り合ったばかりのカップルを揶揄うってハードル高くない?
まだ何を言ったら許されて何を言ったら許されないか把握してないよ?
「それよりも……ルカ、本当にミランダとはお付き合いはしてないの?」
とりあえず揶揄う為にそれなりの関係性を構築しなければならないのだが、非リアである俺とリア充であるビーンくんは相容れない存在なのでどうやって仲良くなろうかと考えているとマリアが念を押すように聞いてきた。
「お付き合いしてないよ」
「そうなのね。じゃあミランダ借りてくね!」
「なんで?」
そうしてマリアは未だ困惑したままのミランダの腕を取ってシシリーさんとストーンさんの方へと行ってしまわれた。
「ふむ……ルカ、この後予定はあるのか?」
「予定? 用事は済んだから特に予定は無いけど」
「そうか、ならばこの後我々と一緒に街を回らないか?」
「俺はいいけど、ミランダは知らないよ?」
「ふむ、では聞いてみよう」
「それは俺から聞くよ。常識的に考えてオーグから誘われたら平民のミランダは断れないでしょ」
「……その通りなのだがお前に常識を語られるとなんだか腹が立つような気がする」
「なんでだよ」
オーグとそんな会話をした後ミランダに確認してみると「特に予定は無い」との事だったので皆で街ブラを楽しんだ。
街ブラの後シシリーさんのお宅にお邪魔してシンがシシリーさんに贈ったという指輪に付与を施しているのを皆でニヤニヤしながら眺めたり、将来の義両親の装飾品に付与を施すシンをほっこりした顔で眺めたり、その話を聞いたばあちゃんが「ようやくシンが自重を覚えた」と泣き出したのを見て「俺でも頑張らないと破れない防御魔法を付与してたのに自重ってなんだろう?」とばあちゃんの正気を疑ってみたり「明日も朝9時に来る」と言って帰って行ったミランダを見送ったりととても楽しく濃い一日だった。
こんな日々が続けばいい、心からそう思った。
思った瞬間、何かしらのフラグが立ったような気がした。