賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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不労所得というものがあるそうです

 翌日、叙勲式の準備のためにメイド軍団に着せ替え人形にさせられているシンを横目に約束通り朝9時にやって来たミランダと鍛練を行った。

 

 ミランダは《躁気術》の鍛練をはじめてまだ数日なのだが、昨日と比べて明らかに気の操作が出来るようになっていた。

 

「なんだか昨日より気を操れてるね」

「昨日気配を消すためにアタシの気を操作してくれたでしょ? あの時になんとなくコツを掴んだような気がするの」

「マジで? それならここからは早いかもね」

「そうなの?」

「うん。《躁気術》を習得するのに一番時間が掛かるのは気を操るコツを掴むところだからね。コツさえ掴めばあとはひたすら反復練習あるのみだね」

 

 練習を重ねて気を自在に動かせるようになれば《躁気術》習得の第一段階は終了となる。

 第二段階では体内の気をひたすら練り続けて気の質と量を向上させる《練気》を行いある程度の質と量になれば第三段階として体内の気を体外に出して操る練習を行うことになる。

 体内の気を《内気》、体外の気を《外気》と呼びその両方を自由自在に操れるようになれば晴れて《躁気術》を習得したと言えるだろう。

 習得まで至ればあとは第二段階で行った《練気》で気の質と量を向上させ続けるのがおすすめ。

 

 以上のことをいい感じに纏めて伝えると、ミランダは嬉しそうにはにかんだ。

 

「アタシは……強くなれる」

「うん。俺が見込んだ通りミランダには才能があるよ。ミランダは強くなれる」

 

 嬉しそうにしているミランダを見ているとなんだか可愛らしく思えてつい頭を撫でるとミランダは「ひゃあ!?」と悲鳴を上げて自分の頭を両手で抑えながら後方へ数メートル飛び下がった。

 

 やっちった……

 

「ル、ルカ! いきなり何するのよ!」

「ごめんごめん、つい癖で……」

 

 俺はお兄ちゃんなので小さい頃からよくシンの頭を撫でていた。その癖が出てしまったようだ。

 

「セクハラよ! 訴訟も辞さないわ! 裁判官は導師様!」

「マジでごめんなさい! それだけは勘弁してください!」

 

 そんなことになったら比喩ではなくばあちゃんに殺されちゃうよ!

 せめて弁護士としてじいちゃんを……ダメだ、じいちゃんはばあちゃんに勝てない……!

 

「ゆ、許してほしい?」

「なんでもしますから許してください」

 

 土下座をする勢いで頭を下げるとミランダも矛を収める気になってくれたようで、許すための条件を口にした。

 

「き、昨日マリアたちから美味しいスイーツの店を教えてもらったから、そこで奢ってくれるなら許してあげる」

「マジで? それくらいお易い御用です!」

 

 昨日じいちゃんから前借りしたお小遣いは刀の制作費として半分程使ってしまったけどまだ半分は残っているのでスイーツを奢るくらいは出来るだろう。

 問題はこれを使い切ってしまうと今年度の俺のお小遣いが無くなってしまうことなのだがそれは時間を見付けて魔物狩りをして来れば何とかなるだろ。

 

「じ、じゃあ……」

「今から行く? あ、でもそろそろお昼だし俺としてはお昼ご飯食べてからの方がいいかなぁ……空きっ腹にスイーツはちと厳しい」

「あ……そ、そうね……」

「じゃあそういう事で。ミランダも家で食べるよね?」

「いいの?」

「もちろんさぁ」

 

 そうしてミランダと並んでダイニングへと移動するとそこにはシンたちが先に来ていて何やら昼食を食べながらあーでもないこーでもないと話し合っていた。

 

「あ、ふたりともお疲れ様。鍛練は終わったの?」

 

 俺たちがダイニングに入って来たことに気付いたシンがこちらに顔を向け、軽く手を上げて挨拶をしてくる。

 

「終わったよ。シンも着せ替え人形お疲れ様」

「本当に疲れたよ……」

 

 俺の返答を聞いたシンはげんなりとした表情を浮かべ、それを見たオーグたちは苦笑いを浮かべている。

 

「叙勲されるって大変だねぇ」

「他人事だと思って……」

「だって他人事だし」

 

 俺は今世では叙勲されるようなことする気は無いし。

 

 そんなことを話しているうちに俺とミランダの分の昼食も運ばれて来たので席についてちゃんといただきますをしてから食べ始める。

 

「シン、ルカとウォーレスにも聞かなくて構わないのか?」

「そうだった。ルカ兄、ミランダさん。ちょっといい?」

「今ちょっと忙しい」

「何かしら?」

 

 今はトレーニング直後のゴールデンタイムなうなので運ばれて来た大量のお肉を一生懸命切り分けているところだったので話は後にしてほしかったのだが、ミランダが聞く姿勢になってしまったので仕方なく切り分けるのを中断してとりあえず肉を一切れフォークで刺して口に放り込んでモグモグする。

 

「……なんで『話聞きます』って澄んだ瞳をしながら食べてるの?」

「ゴールデンタイムだから」

「ゴールデンタイムって何!?」

「トレーニング後30分~1時間くらいの事だよ。この間に肉を食えば効率よく筋肉を育てられる時間ってこと」

「そんなのあるんだ……」

「なるほど、ルカ殿はわかっておられる」

 

 シンは呆れたような顔をしているが、オーグの隣に座っているユリウスはうんうんと頷きながら聞いている。

 

 本当はアミノ酸とかも一緒に摂った方がいいんだけど、アミノ酸がどの食材に多く含まれているかまで覚えていないのでとりあえず肉食っとけばいいだろうの精神だ。

 

「トレーニーの常識だぞ」

「いや、知らないから」

「シン殿にも知らないことがあるので御座るな……」

「なんでルカ兄とユリウスがわかりあってんの?」

 

 そりゃユリウスはいい筋肉の持ち主だからそれだけで尊敬できる。リスペクトマッチョだ。

 

「話が逸れてるぞ」

「そうだった……」

 

 俺とユリウスが筋肉について熱く語り始める気配を察したのかオーグが訂正を入れてくる。

 

 ユリウス、残念そうな顔をしないで欲しい。

 俺とキミはきっといい友達になれるはずなのだから――

 

「えっと……研究会の皆に防御魔法を付与したアクセサリーを渡そうと思ってるんだけど、せっかくだからルカ兄とミランダさんにも渡そうかと思って……だから何がいい?」

「防御魔法って昨日シシリーさんちで付与してたやつ?」

「そうだよ」

 

 ふむ、あの『俺が割と強めにパンチしないと砕けないくらいの硬さの障壁』が発生するアクセサリーか。

 

「なんで?」

「なんでって……カートやシュトロームの件があって不安だからかな。ルカ兄は双子なだけあって俺と似てるし、ミランダさんはそんなルカ兄とよく一緒に行動してるっぽいからもしかしたら狙われるんじゃないかって思ってさ」

「なーるほど」

 

 武人として魔道具に頼るのはどうかと思う一面もあるのだが、相手が魔人ということならば保険として魔道具のひとつやふたつ持っておいた方がいいのかもしれない。

 使う必要が無ければ魔力を通さなければいいだけなのでとりあえず受け取るだけ受け取っておこうか。

 

「で、どう?」

「そうだなぁ……あんまアクセサリー付けるの好きじゃないから付けてる感じの無いようなやつがいいかな」

「それってどんなだよ」

「ジャラジャラしてないピアスとか?」

「ルカ兄ピアスの穴開いてたっけ?」

「開いてない。開けるの怖い」

「じゃあダメじゃん!」

 

 なんというか鍛練や実戦で怪我をするのは仕方ないと思えるけど耳たぶに穴開けるのってなんか怖いんだよね……

 

「だったらネックレスでいいんじゃないか? 細いチェーンのものにすれば付けている感じもほとんどしないだろ」

「ありよりのあり。ちなみにユリウスは何にしたの?」

「拙者は指輪だと剣を握る時に滑るのでブレスレットにしたで御座る」

「なるほどねぇ……でもブレスレットって腕ぶった斬られたら一緒に飛んで行くよね? 緊急時に使おうとしたら腕と一緒に落としちゃってて使えないとか困るんだけど」

「……ふむ、それもそうで御座るな」

「いや、普通腕は落とさないから」

 

 シンが冷静な顔をしてツッコミを入れてくるが俺の腕を斬り飛ばした事のある奴が何言ってるんだっていうね。

 お前前科一犯だから。

 

「ミランダさんはどうするの?」

「アタシは……ってそもそもアタシも貰っていいの?」

「もちろんいいよ。ルカ兄と一緒に行動するなら防御魔道具はあって損は無いと思うし」

「ありがとう。でもアクセサリーかぁ……」

 

 ミランダとの付き合いはそこまで長いものでは無いのだが、未だかつてミランダが何かしらのアクセサリーを身に付けている姿を見たことが無い。

 多分俺と一緒でアクセサリー自体にあまり興味が無いんだと思われる。

 

「ミランダのアクセサリーはルカに選んでもらえばいいんじゃない?」

「な……マリア! ちょっとこっち来なさい!」

「わわ!」

 

 ミランダは慌てたように立ち上がり、気の力で腕力を上昇させてマリアの座っていた椅子ごと持ち上げて部屋の隅へと行ってしまった。

 

 ふむ、どんどん気の操り方が上手くなってきているな。

 

「……で、ルカ兄どうする?」

「うーん……じゃあ俺のはオーグが言ってた細いネックレスということで」

「ミランダさんのは?」

「それはミランダに決めさせてあげなさいよ」

 

 マリアは何故か俺に選ばせたいらしいのだが、なんで俺がミランダのアクセサリーを見繕わなきゃいけないんだろうね?

 そんなの自分で身に付けたいやつを自由に選べばいいと思うよ。

 

「……まぁわかったよ。この後ビーン工房にアクセサリーを買いに行くんだけどルカ兄たちも一緒に行く?」

「あー、俺はこの後ミランダと――」

「行く! 一緒に行くから!!」

 

 ミランダにスイーツをご馳走する約束があるので同行は断ろうと思ったのだが俺が断ろうとするのに被せるようにミランダが声を上げて俺の返答をかき消した。

 

「ミランダ?」

「いいから! その話は後で!」

「あ、はい」

 

 こうして俺たちは二日連続でビーン工房へと行くことになった。

 そこでアクセサリーを選んでいると、昨日刀の件について相談させてもらった職人さんがやって来てシンが考案した武器が国軍の正式装備に採用されてガッポガッポ見込みなのでアクセサリー代は店からのお気持ちということで無料となった。助かる。

 

「それでシン、国からの支払いの中から5パーセントをお前さんに支払うからよ」

「はぁ……」

「何呆けたような顔してんだよ。不労所得だぞ?」

 

 なにそれ羨ましい。

 シンが英雄として持て囃されることに関しては「大変だね、お疲れ様」としあ思わなかったのにその不労所得は羨ましいぞ。

 

「おやっさん! 刀は売れませんか!?」

「刀? あれはかなり扱いが難しそうだから中々売れないと思うぞ?」

「そこをなんとか! 刀の扱いは俺が教えますから!」

「いや……まぁ売るのはいいけどよ……売れる保証はねーぞ?」

「将来道場を開いて刀術を教えて『刀はビーン工房で!』って宣伝します!」

「お、おう……」

 

 よし、これで俺も不労所得ゲットだぜ!

 

 それから再びアクセサリー選びへと戻り、俺は細いチェーンに小さな青い宝石で作られた飾りの付いたネックレス。貰うことにした。

 なんの宝石なのかは知らない。 

 

 




目標は今年中にあと1回更新!
皆様からの反応で愛飢夫は頑張ります。頑張る燃料をください。不労所得欲しいです。
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