色々あって迎えた週明け。
今日はシンの叙勲式が執り行われる日なのだがシンと違って叙勲されるわけでは無い俺はいつものように朝の支度をしていつものように壁をよじ登り建物の屋根から屋根へと飛び移りながら騎士学院へと登校した。
「おはようルカ」
「おはよクライス。相変らず早いね」
「いや、お前がギリギリなだけだと思うぞ」
教室に入り挨拶をするが、既にクラスメイトは全員揃っていた。
ノインにも負けた……なんか悔しい。
「それで……週末はルカとの鍛練は無いものと思って自己鍛錬を積んでいたのだが……良かっただろうか?」
「うん。俺としては慣れない気の操作で心身ともに疲れてるだろうと思って休みにするつもりだったからね。言ってなくてごめん」
「いや、こちらが教わる身なのだからこちらから伺いを立てるべきだった」
クライスは俺たちが喋っている間にこちらに近寄って来ていたミランダ、ノイン、ケントと一緒に頭を下げた。
別に謝る必要は無いんだけど……ってなんでミランダもそっちで一緒に頭下げてんの?
キミは週末普通に来て一緒に鍛練してたじゃん。
「まぁこれはもうお互い様ってことで。これからはちゃんと予定は伝えることにするよ」
「……わかった。よろしく頼む」
「うん。じゃあとりあえず今週は学院のある日は毎日、週末はお休みにします」
「平日は毎日……ということは今日もやるのか?」
クライスが不思議そうに聞いてくるが、仰る意味がわからない。
「やるつもりだったけど……なんで? なんか予定ある?」
「予定があるのはルカではないのか? 今日は弟の叙勲式だろ?
「そうだけど……俺は参列しないから関係ないんじゃない?」
「参列しないのか?」
「しなくちゃいけないの?」
うろ覚えではあるのだが、たしか俺が前世で叙勲を受けた時には配偶者の居なかった俺は両親を付き添いとしていたように思う。
その時弟妹は普通に家で過ごしていたのでシンの配偶者でも保護者でもない俺に参列義務は無いと思ってたんだけど……行かないとダメなの?
「家族が叙勲を受けるとなると参列するものなのではないのか?」
「別にじいちゃんやばあちゃんからは何も言われてないから参列しなくていいと思ってたんだけど……普通参列するものなの?」
「いや、身近に叙勲を受けるような人は居なかったから知らないのだが……一応賢者様と導師様には確認しておいた方がいいんじゃないか?」
「わかった、聞いてみるよ。だから一応放課後は俺の家まで来てもらってもいい? 参列しなくていいならそのまま鍛練するし、参列しなきゃでもちょっとくらい時間は有るだろうし……」
「了解した」
全員が頷いたので話はこれで終わりかと思ったのだが、今度はノインが不思議そうな顔をして口を開いた。
「なぁ、聞いてた感じルカは叙勲式に参列したくないのか?」
「絶対肩凝るじゃん。参列しなくていいならしたくないよ」
「まぁルカはなんとなくそういうの苦手そうだもんな。実際入学式でも秒で寝落ちしてたし」
「ね、寝てねーし!」
「いや爆睡してたじゃん!」
「そんなこと……無いよ?」
「ごめんルカ、アタシもルカが寝てるの気付いてたから……」
「……」
入学式の時に隣に座っていたノインだけではなく逆隣の席だったミランダにもそう言われてしまい俺は返す言葉を失った。
その後ノインに『眠りのルカ』という不名誉な二つ名を付けられた俺はあまりの悔しさに絶対に居眠りをしないと決意して授業に望み、座学3時間の内2時間を起きて過ごすという快挙を成し遂げた。
そして放課後、皆を連れて帰宅しじいちゃんたちに叙勲式に参列した方がいいのか聞いたところ「行きたくないなら行かなくてもいい」と有難い返事を頂けたのでお言葉に甘えて参列しないことにした。
ちなみに何故行かなくてもいいのか聞いたところ「アタシらの孫で新しい英雄であるシンの兄であるルカは確実に未婚貴族女性に囲まれるから」と答えが返ってきた。
逆に「囲まれたいなら来てもいい」と言われたのだが絶対に囲まれたくないので高らかに不参加を宣言しておいた。
シンは『死なば諸共!』みたいな目で見てきていたけど、死ぬのは1人で十分だよね。
その日の夜、案の定死んだ魚のような目をして帰宅したシンを見て参列しなくて良かったと心の底からそう思った。
◇◆
そして叙勲式が行われた日の翌日、朝食を食べ終わり、シンがシシリーさんとマリアを迎えに行き戻ってきたのでそこにシレッと混ざって4人で見送りに玄関ホールまで来てくれているじいちゃんとばあちゃんに「行ってきます」をして玄関を開けた瞬間、門の前に詰めかけた大勢の人の姿が目に飛び込んできた。
「おお! シン様が出てきたぞ!」
「キャー! シン様ー!」
「あれが新しい英雄様か!」
「ウホッ! イイ男!」
「なるほど、いい面構えをしているな」
「シン様ー! こっち向いてー!」
瞬間、無表情になったシンがそっと扉を閉めた。
「……何あれ?」
「さぁ?」
シンがこちらに困惑した目を向けてきたので肩を竦めて返しておいた。
「ルカ兄は気付いてたの?」
「いや? 王都に来たばかりの時には
家に居る時には完全に気を抜いてるし。
前世日本のように道路と部屋が近ければそれでも気付いただろうけど、この家は屋敷から前の道路まで結構距離があるから外の気配は気にしてないとわからないんだよね。
「そうなんだ……」
「なんかすまんね」
「いや、これに関してはルカ兄が悪いわけじゃないからね。でもなんでこんなことに?」
「昨日、シンが叙勲を受けることもその理由も公表されたでしょ? 今まで噂だったことに公式発表があって、でも陛下の御配慮でお披露目はされなかったから家に押し掛けて来たんじゃないかしら?」
「賢者様のお家は皆さんご存知ですからね。一目見たかったんじゃないでしょうか?」
俺とシンが揃って首を傾げているとマリアとシシリーさんがそんな解説をしてくれた。
「あ、なる」
「ルカ兄、今ちょっとそれはシャレになんないから黙ってて。それより――ばあちゃん!」
「解せぬ」
ちょっと待って。なんで俺は怒られたの? なんか変なこと言ったかな? 理解して納得しただけなんだけど。
「なんだい?」
なにか反論をしようと思ったが、俺が口を開くより先にばあちゃんが返事をしたので慌てて口を閉じる。
うん。黙っとこ。
「今日は教室まで《ゲート》で行ってもいい?」
「……はぁ、しょうがないねぇ、騒ぎが落ち着いたら歩いて行くんだよ」
「はーい」
「シン……何故ワシに聞かんのかの……?」
それはじいちゃんがばあちゃんに勝てないからじゃない? 俺も勝てないけど。
「やった! 今日は楽して学院に行けるわね」
「もうマリア、今日だけ特別だよ?」
「はいはいもう行くよ。じゃあじいちゃん、ばあちゃん、それとルカ兄。行ってきます」
「「行ってきます!」」
「はいよ。行ってらっしゃい」
「ほっほ。行っておいで」
「行ってらっしゃい……じゃなくてちょっと待って!?」
ナチュラルに見送り側として挨拶されたので普通に「行ってらっしゃい」と返してしまったが、ちょっと待っていただきたい。
「何?」
「いや『何?』じゃなくてさ……なんで普通に俺を置いていこうとしているの?」
「だって俺ルカ兄の教室知らないから《ゲート》開けないし」
確かにシンの《ゲート》は一度行ったことのある場所にしか開けないから俺の教室に繋げられないことはわかるんだけど、だからと言って置き去りは酷くない?
「それはそうだけどさ、せめてどこか人目につかない所まで送ってくれるとかないの?」
「ルカ兄は気配消して動けば見つからないでしょ? 頑張って」
「そもそもこうなってるのは誰のせいだっていうね」
「じゃあ行ってくるね!」
「あ、おい!」
シンは《ゲート》を開き俺たちのやり取りを見て困惑していたシシリーさんと爆笑していたマリアを連れてさっさと学院へと行ってしまった。
お望み通り気配を消してついて行ってやろうか?
「ほら、ルカも早くしないと遅刻するよ」
「そうじゃな。ルカ、大変じゃとは思うがあまり騒ぎを起こさんようにの」
「そもそも俺のせいじゃないのに……」
それから俺は二階へ上がり、気配を消して自室の窓から出て屋根へと登り一度も地面に降りること無く学院へと登校した。
◇◆
「ってことがあってさぁ」
「それはまた……大変だったな」
いつもより少しだけ早めに教室に到着した俺の周りに集まって来たクライスたちに朝の出来事を報告する。
一応シンの《ゲート》は秘密だと言われているのでその辺はぼかさないといけないので大変だ。
うっかりゲロっちゃいそう。
「まぁ気配を消せば堂々と門から出入りしても注目はされないんだけど、純粋に邪魔なんだよね」
「それはそうだろうな」
「学院の放課後にも集まるんだろうなぁ……鍛練どうしようか」
シンが通学する前にあれだけ集まっていたのなら放課後帰宅する前にも集まるだろう。
そうなると放課後我が家の裏庭で鍛練をしているクライスたちがかなり大変なことになってしまいそうだ。
絶対絡まれるだろ。
「別の場所でやるのか?」
「俺は王都には詳しくないからなぁ……どこかいい場所ある?」
「近くに公園あったよな? そこはどうだ?」
「ノイン、あそこは老人の憩いの場であり子供たちの遊び場なのだから鍛練には不向きだと思う。それにあの公園は家の弟妹が遊びに来ている可能性が高い。見付かったら子供たちに囲まれるぞ」
「そりゃダメだな」
ノインが提案した公園はありよりのありかと思ったが、そういう事情ならやめておいた方がいいかもしれない。
ケントの弟妹にはちょっと会ってみたいけど。
「アタシの家の庭が広ければ良かったんだけど……」
「家も1人で剣を振るくらいなら問題無いがこの人数だと……」
どうやらいい感じの場所はだれも思いつかないようだ。
それなら――
「ならさ、いっそ王都の外に出てみない?」
「どういう事だ?」
「王都の中にいい感じの場所が無いのなら外に出ればいいじゃない」
この辺りから王都の入口までは馬車で大体30~40分くらいだったはずら、だから距離にして……わかんない。
「王都の外か……かなり遠いぞ?」
「そこまで荷物を担いで走ればそれもいい鍛練になるんじゃない? 走り込みは基礎の基礎だよ」
「なるほど……」
そういう訳でアールスハイド国民による『ウォルフォード屋敷見学ツアー』がひと段落するまでは毎日王都の外まで走って行って鍛練を行うことが決定した。
俺なら最短距離(屋根の上)を駆ければ数分で王都の外まで行けるけど、果たしてクライスたちはどれくらい掛かるのだろうか?
今年最後の投稿となりますー!年明け最初の投稿は……うん、まぁなるはやで頑張ります。