じいちゃんにおねだりして魔法を習い始めておよそ1週間、俺は自室の隅っこで三角座りをして膝の間に顔を埋めていた。
「兄ちゃん……」
「シン、頼むからほっといて……」
俺の前にはシンが立っており、悲痛な表情を浮かべながらこちらを見ている。
何故こんな状況になっているかと言うと、答えは簡単で俺に魔法の才能が無かったからである。
この世界の魔法は前世でアニメやゲームでよく見た『体内の魔力を操って』方式ではなく『空気中に存在する魔力に干渉して操る』方式のようで、空気中に存在する魔力に干渉するために必要不可欠な『基礎魔力』が俺には足りていないらしい。
この『基礎魔力』というのは生まれながらに決まっているものらしく、努力でどうにかなるものではないので正しく俺には『才能が無い』ということになる。
しかし実は俺は『魔法の才能が無い』ことについてはそこまで大きなショックは受けていない。無いものは無い、それだけの話である。
俺がショックを受けたのは、俺には魔法の才能が無いことを宣告した時のじいちゃんの顔が辛そうだったことに対してである。
俺に才能が無かったことでじいちゃんが悲しい思いをした――このことで俺は俺に落胆しているのだ。
「もうすぐばあちゃんも来るんだから元気出してよ」
「だって……俺のせいでじいちゃんが泣きそうになってたんだもん。どんな顔して出て行けばいいのさ」
「それは……でも兄ちゃんが悪いわけじゃないんだし……」
「確かにそうかもだけど、俺に魔法の才能が無いことを知ったばあちゃんにもガッカリされたら耐えられないよ」
もしそんなことになったら俺は悲しみのあまり家出をしてしまうかもしれない。
家を飛び出して森に潜み、母なる狼に拾われて獣たちの王になるのだ。もののけたちの王でも可。
「ばあちゃんがそんなことでガッカリするわけないじゃん」
「でもぉ……」
「でもじゃないよ! 大体兄ちゃんって前世では多分俺より年上だったんだろ? ならそをんな子供みたいにメソメソすんなよ!」
「子供だよ! 俺もシンも紛うことなき3歳の子供だよ!」
だから俺がメソメソしててもなんの問題も無いんだよ!
「いや、でも中の人合わせたらアラサーな訳だし……」
「中の人はノーカンで! そうしないと後々大変なことになるだろ!」
「大変な事って、例えば?」
「仮に15歳で好きな人が出来たとします」
「うん」
「現在アラサーな俺たちが15歳になると中の人はアラフォーです。15歳の少女にガチ恋するアラフォーです」
「……中の人ノーカンで」
「それが賢明だよ」
俺とシンは目線を合わせ、頷き合った。
「で、どうすんの?」
「魔法が使えないこと自体は割とどうでもいいんだけど、こんな時どんな顔してたらいいのかわかんない」
「魔法が使えないことはどうでもいいんだ……」
「別にどうでもよくない? 魔法が使えないなら物理で殴ればいいだけだし」
「兄ちゃんが言うと説得力があるね」
「武術家だからね」
今の俺は3歳なので当然体も小さく気の量も少ない。
しかし意識が覚醒したその日から気の質を向上させる訓練を毎日欠かさず行っているので気の質はそれなりに高い。
このまま順調に育てば10歳になる頃には前世の自分より気の量と質では強くなれる計算をしている。
肉体的に前世を超えるのは修練次第だけど20歳くらいかな? もっと早いかも。
「まぁ……兄ちゃんが割り切れてるならいつも通り笑ってたらいいんじゃない? 兄ちゃんが笑顔で抱き着けばじいちゃんも喜ぶよ」
「そうかな……」
「そうだよ。じいちゃんもばあちゃんも俺たちのこと大切に思ってくれてるのはわかるでしょ? だから絶対笑顔で抱き着けば喜んでくれるよ」
「そっか……やってみようかな」
「それがいいよ!」
「わかった! じゃあシンも一緒に抱き着こうぜ!」
「なんでだよ!?」
「お前だけ仲間外れとか寂しいじゃん? いいから行くぞ!」
「ちょ!?」
俺はシンの腕を掴み、部屋から飛び出した。
そしてリビングで1人お茶を飲んでいたじいちゃんに飛び付き「大好きだよ」と伝えると、じいちゃんは嬉しそうに相好を崩し俺を強く抱き締めてくれた。
嬉しくなった俺はシンを呼び、3人でぎゅうぎゅうと抱き締め合っていると、玄関が開いてばあちゃんが部屋に入ってきた。
「マーリン、来たよ……ってどうしたんだい?」
「ばあちゃん!」
「おやおやルカ、どうしたんだい?」
ばあちゃんが来たのでじいちゃんから離れてばあちゃんに抱き着くと、ばあちゃんは俺を抱き上げ優しい微笑みを向けてくれた。
「ばあちゃん、俺ね……魔法の才能無いみたい」
「おやまぁ」
ガッカリされたらどうしようと思いつつ、ばあちゃんならそんなことはしないと信じて魔法の才能が無いことを告げるとばあちゃんは少し目を細めながら俺の頭を撫でてくれた。
「それは残念だったねぇ……だけどこの世は魔法が全てじゃあない。ルカにはルカの得意なことがあるハズだから、ばあちゃんと一緒にルカの得意なものを探そうか」
「うん!」
良かった。ばあちゃんはガッカリしたりしなかった。
俺はその事が嬉しくて、ばあちゃんの首に手を回してギュッと強く抱き着いた。
「おやおや、今日のルカは甘えん坊さんだねぇ」
ばあちゃんはそう言って俺の背中を撫でながらソファに腰を下ろした。
俺は俺とシンを拾ってくれて、助けてくれて、愛してくれるじいちゃんとばあちゃんが大好きだ。
今回はじいちゃんを悲しませてしまったが、今後は二度とそんな顔をさせないように頑張ろう。
ばあちゃんの胸に抱かれながら俺はそんな決意を固めていた。
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