賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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鬼の居ぬ間に……居ました

 それからおよそ一週間、毎日学院の空き時間に気の活性化を行い気が動く感覚に慣れさせ、学院が終わると王都の外までマラソンして気が枯渇するまで鍛練をさせてヘロヘロになった状態で整理運動がてら軽いジョギングくらいの速度で走って帰らせることを繰り返しようやく刀の試作品を受け取る約束をしていた週末が訪れた。

 

 鍛練内容が変わったことでクライスたちは先週よりはるかに疲れていたので「週末はお休み。体を癒せ」としっかり言っておいたのだが、何故か朝の9時を少し回った頃ミランダが我が家にやって来た。

 

「おはようルカ」

「おはようミランダ。今日はどうしたの?」

 

 俺は間違いなく確実に「週末は休み」とお伝えしたはずなのだが、一体どうしたのだろう?

 もしかして休みなんて不要なタイプなのかな?

 

「今日は新しい武器を受け取りに行くんでしょ? アタシも見てみたいから一緒に行きたいなと思って」

 

 つまりミランダは刀に興味津々ということなのだろう。

 もしも少しでも『使ってみたい』と思ってくれたら俺がみっちり手とり足とり《刀術》を教えて広告塔になってもらおうかな?

 

 刀使いのつよつよ美少女剣士……いいじゃない!

 

「そういう事なら大歓迎だよ!」

 

 それから俺はじいちゃんとばあちゃんに「ミランダと出掛けてくる」と告げて2人でビーン工房へと向かうことにした。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

「お! ようやく来たかなルカ! 試作品は出来てるぜ!」

 

 店内に入るとそこには俺が刀を注文した職人さん、この工房の工房長のハロルドさんが俺が来るのを待ち構えていた。

 

「おはようございます。早速見せて貰っても?」

「もちろんだ!」

 

 そう言ってハロルドさんはしっかりと拵えられた鞘に納められた三振(さんふり)の刀を取り出しカウンターの上に並べた。

 

 さんしんじゃないよ。さんふりだよ。

 

「とりあえずお前さんの言う通りに打ってみた。確認してくれ」

「拝見します」

 

 まずは向かって一番右に置かれている刀から順番に手に取り、鞘から引き抜いて一振一振しっかりと確かめる。

 

「ほぅ……」

 

 まだまだ造りが甘く、荒い部分はあるにせよこれはもう刀と呼んで差し支えないだろう。

 

「どうだ?」

「凄いよおやっさん!」

「ははは! まだまだ改善の余地は山ほどあると思うけどよ、どうだ? 使い物になりそうか?」

「十分!」

 

 笑顔で問い掛けてくるハロルドさんに対し俺も笑顔を浮かべて頷いて返した。

 

「なら良かったぜ。後は出来ればその刀を振るってるところが見たいんだが……時間は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。何か斬って見せましょうか?」

「だったら廃棄品で引き取った鉄の鎧があるんだけどよ……その刀で斬れるか?」

「もちろん」

 

 さすがにこの刀で鉄の塊を斬れと言われたらそれなりに気を纏わせなければ斬れないだろうが鎧ならそんなに気を使わず斬れると思う。

 

「よし、じゃあ準備するから庭まで来てくれるか?」

「はい。あ、廃棄する鎧ってもう一着あったりします?」

「そりゃあるが……」

「だったらそれも出して貰えません? 一般的な剣と刀の違い……本物の斬撃というものをお見せしますよ」

「お、おお……すげぇ自信だな……」

「いい刀が手に入ったもので」

 

 それから俺たちは庭へと移動して二着の鎧を用意してもらった。

 

「これでいいか?」

「大丈夫です。ではまずは剣の方から」

「おう」

 

 多くの職人さんが興味深げに見つめる中、俺は一応持ってきていたミッシェルさんから貰った普段使いの剣を構えた。

 

「ふぅ……行きます!」

 

 呼吸を整え、強く踏み込み剣を振るう。

 

「おお……」

 

 俺が剣を振り切った瞬間、周囲で見学していた職人さんたちから感嘆の声が聞こえてきた。

 

「凄いな……こんな綺麗な太刀筋見た事ねぇ。騎士団でもここまで綺麗に鎧を斬れる奴はほとんど居ないんじゃないか?」

 

 ハロルドさんは俺が斬った鎧の断面を見てそんな感想を漏らしている。

 

「こっちはもっと凄いですよ?」

「マジかよ……」

「はい。ミランダちょっと持ってて」

「え、ええ……」

 

 ミッシェルさんから貰った剣を鞘に戻し、ミランダへと手渡す。

 

 さて、久しぶりだけど上手く出来るかな?

 

 ハロルドさんが打った三振の刀のうち、一番出来の良さそうな刀を選んで腰に差す。

 そして一度刀を抜いて感触を確かめるために数度軽く振ってみる。

 

 うん、いい感じ。これなら大丈夫だろ。

 

「では……」

 

 握っていた刀を鞘に戻し、先程剣で鎧を斬った時とは全く違う構えを取った。

 

 足を前後に軽く開いて膝を曲げ、腰を落として前傾姿勢。

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

 目を閉じ、精神を集中させるため細く長く息を吐きながら左手で鞘を握って鯉口を切り、右手を柄に軽く添える。

 

 しばらくそのまま静止していたが、職人の誰かがゴクリと喉を鳴らした瞬間、自然と開眼して体が動き始めた。

 

 ルカは おおきくいきをすいこみ ちからづよく あしを ふみこみ するどく かたなを ふるった!

 

「「……!!」」

 

 鎧と共に周囲の音すら斬り裂いたような静寂。

 

 俺は振り切った姿勢で一瞬止まり、素早く手首を返して納刀した。

 

「……ふぅ」

 

 息を吐き、脱力してから改めて鎧の方へと目を向ける。

 そこには先程と何も変わらず立っている鎧の姿があった。

 

「……綺麗」

 

 ミランダの呟きが俺の鼓膜を小さく揺らす。

 

「……斬れてねーのか?」

 

 続いてハロルドさんが呟くが、それは大きな間違いである。

 

「見ててください」

 

 俺は足元に転がっていた適当な小石を拾って鎧に向かって放り投げた。

 俺の手から放たれた小石は柔らかな放物線を描き鎧へと直撃した。

 

 ――カンッ。

 

 小石が当たり、鎧から小さな音が鳴る。

 

 その瞬間、鎧は上下に分かたれその場に崩れ落ちた。

 

「なッ……!?」

 

 職人さんたちから息を飲んだ気配が伝わってくる。

 

「な、なにが……」

 

 ハロルドさんが『ギギギ……』と音がしそうな程ぎこちない動きで地面に落ちた鎧と俺を見比べる。

 職人さんたちも何が起こったのかわからなかったようで俺へと注目している。

 

 説明が必要かな?

 

「斬撃が鋭すぎて鎧くんが斬られたことに気付かなかった的な感じです」

「いや、意味がわからない」

「説明難しい……! 剣で斬ったらああなるけど刀で斬ったらこうなります!」

「わかんねーよ!」

「普通の剣は『叩き切る』武器だけど刀は『斬り裂く』武器なんだよ!」

「お……おお……?」

「剣だと斬撃に対して斬れ味が追いついてないから衝撃が分散して『斬り飛ばす』になってるの! 対して刀は斬れ味がちゃんと追いついてるから無駄なく斬ることだけに力を使えるの!」

「わかるような……わからないような……」

「わかれよ!」

 

 俺の語彙力じゃこれが限界だよ!

 

「ルカ……」

「ミランダはわかった?」

 

 俺がどう説明すればいいのかわからず頭を抱えていると、背後からミランダが近付いてきて声を掛けてきた。

 

「まぁ……なんとなく?」

「なんとなくか……説明下手でごめんね。それで?」

 

 鍛冶屋さんであるおやっさんには伝わらなくとも騎士志望であるミランダには伝わったかと思ったのだがそうではなかったらしい。

 少し残念に思ったがそれは本題では無かったようなので本題を聞いてみよう。

 

「えっと……凄く、綺麗だった。あんな美しい剣捌きは初めて見たわ」

「お、おう……ありがとう」

 

 まさかの賞賛ど真ん中ストレート。

 

 ここ10年ほどどんな技を披露しても呆れられるばかりだった俺にとってはとても嬉しい言葉だった。

 

 まぁ《尊厳破壊(ディグニティ・ブレイク)》や《睾丸破壊(テスティクルズ・ブレイク)》みたいな見栄えより実用的な技ばかり考えて使っていたから仕方がないね。

 

「アタシも……あんな綺麗な剣を振るいたい」

 

 おや? これは刀の時代が来たんじゃない?

 俺が刀で災害級の魔物を狩りまくって注目を集めてからのメチャ強美少女剣士ミランダが刀を携えての衝撃デビュー……これはバズる!

 

「ミランダなら出来るよ」

「……本当に?」

「もちろん。と言うか俺から教わるんだからあの程度簡単に出来るようになってもらわないと困るって言うね」

「簡単にって……《鎧断ち》は騎士団でも腕のいい奴らにしか出来ない奥義なんだが……」

 

 もう! 今ミランダを刀術の道に引き込もうとしてるんだからハロルドさんは黙ってて!

 

「騎士団でも腕のいい人……」

「今のミランダでも半分くらいは斬れると思うよ? ちなみに俺の予想ではあと数日もすれば斬れるようになると思ってる」

「あと数日で?」

 

 ミランダの成長速度を考えたら来週中に気の活性化による肉体強化を使えるようになると思うんだよね。

 それを使えば何の魔法付与もされていないただの鉄の鎧くらいなら簡単に真っ二つに出来よ。今でも俺が活性化してあげれば斬れるだろうし。

 

「今まで通り普通の剣を使えばね。刀で鎧を斬ろうと思ったら……1ヶ月あればイケるかな?」

 

 ミランダの剣は基本に忠実で変な癖が無いから今ならまだ『剣術』から『刀術』に切り替えるのもそこまで大変な作業にはならないと思う。

 

「1ヶ月……」

「どうする? やってみる?」

「やる!」

 

 1名様ごあんな~い! では早速鍛練だ!

 

「わかった。じゃあミランダにはこの刀をあげるよ」

 

 俺は先程鎧を斬った刀を手に取り、ミランダへと差し出した。

 

「……いいの?」

「いいよ。刀術を覚えるのに刀が無かったらどうにもならないし」

「それもそうね……わかった、ありがとう。刀の代金は必ず払うから」

「じゃあ刀術を覚えたら一緒に魔物狩ろうよ。その報奨金から支払ってくれたらいいからさ」

「わかった」

 

 今のミランダは中型の魔物はまだ単独で討伐するのは難しいと思うから……よし、半年で災害級を狩れるくらいまで鍛えてやろう。

 

「じゃあそういう事で。おやっさん、近いうちにまた玉鋼持って来ますんで刀お願いしてもいいですか?」

「おう! 改善点は見えたからな、今度はもっとお前さんが気に入るような刀を打ってやるよ」

「楽しみにしてます。それまでに何体か災害級狩って宣伝しときますね」

「お、おう……無理はすんなよ?」

「災害級くらいなら素手でも狩れますんで大丈夫です」

「災害級を素手ってお前……」

「じゃあまた来ますね!」

 

 そうして二振の刀を腰に差し、ルンルン気分でミランダと一緒に自宅に戻……る前に約束通りスイーツをご馳走してから改めて自宅に戻った。美味しかった。

 

「さて、それじゃあ刀の使い方を教えるね」

「お願いします!」

「ちょいとお待ち」

 

 そうして早速ミランダに刀術を仕込もうとした瞬間、俺の人生に終焉を告げる声が聞こえてきた。

 

 この声の低さは間違いない。ばあちゃんが激怒する前兆だ。俺は詳しいんだ。

 

 あまりの恐怖に固まる体を無理やり動かして声のした方へと視線を向けると……そこには能面のような顔をしたばあちゃんが立っていた。

 

 悲報、俺の命が終わる件。




新年あけましておめでとうございました。

書いてる愛飢夫はおじさんですが皆様お年玉をください。
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