「ルカ、その武器はどうしたんだい?」
俺の腰にある刀を見たばあちゃんは鬼の形相を浮かべていたが、一度飲み込んで事情を聞いてくれるつもりになったのか能面のような無表情へと変わっていた。
「これは……」
しまった。ばあちゃんには内緒にしようと思っていたのに帰った瞬間に見付かるとか想定外もいいところだ。
これから数日掛けていい言い訳を考えようと思っていたのにタイミングが最悪である。
「どうなんだい? え?」
俺がどう言い繕おうかと逡巡している間にどんどんばあちゃんの顔が鬼へと近付いていく。鬼婆だ。
「ち、違うんです!」
「ほぅ、何が違うんだい?」
「これは……! これは……」
えっと……ここはなんと答えるのが正解なのだろう?
「こ、これは誤解で……」
「アタシは何を誤解してるんだい?」
「ち、違うんです……」
ばあちゃんは完全に俺が何かをやらかしたと判断したようで段々と声が低くなっていく。
超怖い。
「アンタが『新しい武器が欲しいからお小遣いを前借りさせて欲しい』って言った時アタシはなんて返したさね?」
「えっと……『武器はいっぱい持ってるんだからダメ』だって……」
「そうさね。それで……その剣は何さね?」
ばあちゃんは俺の腰の刀に鋭い視線を向けてくる。
「これは……」
新しい……武器です……
「何をもごもご言ってるんさね。ハッキリ言わないとわからないよ」
「えっと……」
ここで何を言うべきかの判断が付かず、視線を右へ左へ彷徨わせていると、こちらを見ていたミランダとバッチリ目が合った。
「ミランダ……」
ばあちゃんには聞こえないよう、しかしミランダには聞こえるよう調整して縋るようにミランダの名前を呼ぶと、ミランダは力強く頷いて返してくれた。
ミランダ……キミだけが頼りだ。俺の命、キミに預けた!
「導師様、よろしいでしょうか?」
「何さね? アンタが説明してくれるのかい?」
「僭越ながら……」
ミランダはばあちゃんからの視線を受けつつも足を一歩前に踏み出した。
すげぇ……ばあちゃんの圧をものともしない。
これは期待に胸が高鳴る!
「ルカは導師様にお小遣いの前借りを断られた直後に賢者様に同様のお願いをしてお小遣いを前借りしていました。ルカが持っている2本とアタシが持っている1本はそのお金でビーン工房に頼んでいた物です」
「ミランダ!?!?」
まさか……裏切ったのか!?
「なるほど、マーリンにねぇ……」
ばあちゃんは更に視線を冷たくして俺へと向けてくる。
ヤバい、恐ろしすぎてチビりそう。
とりあえずどうしたらいい? 土下座?
「ルカ」
「ひ、ひゃい!」
どうやってこの場を誤魔化そうかと考えていると地の底から響くような声で名前を呼ばれたので慌てて返事をする。
多少声が裏返ってしまったけどこればかりは仕方ない。
ばあちゃんに睨まれて声を裏返させることなく返事が出来るやつが居るなら連れてこい。
そいつはきっと自信過剰か嘘吐きだ!
「後で話がある。夕食後アタシの部屋まで来るんだよ」
「は……はい……」
なるほど、そこで死刑執行なんですね。わかります。
「ミランダ」
「は、はい!」
続けてばあちゃんはミランダの名前を呼ぶ。
もしかして刀持ってるからミランダも怒られちゃうのかな? それは普通に申し訳ないから勘弁して欲しい。
「よく報告してくれたね。アンタはしっかりしたいい娘だ」
「あ、ありがとうございます……」
「アンタみたいにしっかりした娘にルカを任せたいんだけどねぇ」
「は、はぁ……」
「ばあちゃん!?」
確かにミランダはしっかりしてると思うけど、一体何を言っているの?
「はいはい、ババアは引っ込んでるからしっかりと親交を深めるんだよ。それといくら楽しくても夕食後アタシの部屋に来るのを忘れるんじゃないよ」
ばあちゃんはそう死刑宣告を残して屋敷の中へと戻って行った。
「……セーフ」
「アウトじゃないの?」
「生き延びたからセーフ! とりあえず刀術の鍛練を始めよう」
「報告したアタシが言うのも言うのもアレだけど……いいの? 本当にそれでいいの!?」
「夜には一回死ぬっぽいけど、裏を返せば夜までは死なないってことだからそれでおけ」
「意味わかんないんだけど!?」
「むしろ今死ななかったのはミランダのおかげだから。ありがとう」
「ど、どういたしまして……?」
ちゃんと心を込めてお礼を言ったのに何故かミランダは困惑している。
「よし、じゃあまずは刀の握り方から説明するね」
しかしミランダが困惑していようがいまいがそこは本人に何とかしてもらう他無いので気にせず鍛練へと移行してミランダがヘトヘトになるまで2人で体を動かした。
ミランダが帰った後、お風呂で汗を流してじいちゃんとばあちゃん、シンたちと夕食を食べている間誰も刀について触れてこなかったので食べ終わってからシレッと部屋に戻ったのだが、すぐにメイド長マリーカさんが俺の部屋にやって来てばあちゃんの部屋まで連行されてしまった。
ばあちゃんの部屋には既にじいちゃんも来ていて床に正座させられており、俺もじいちゃんの隣に正座するよう言われたので神妙な顔をして床に膝を着いた。
「来たね。じゃあ――」
それから俺とじいちゃんは一晩中正座をしたままばあちゃんに説教されることになった。
長時間に及ぶ正座の末俺とじいちゃんの膝から下の感覚がお亡くなりになってしまっが、俺は気で、じいちゃんは魔法で回復させた事で何とか事なきを得た。
ちなみにじいちゃんは「可愛い孫にオネダリされて断れなかった哀れなジジイ」を装い情状酌量の余地ありとして執行猶予を勝ち取ったががオネダリした側の俺は罪が重いとされ有罪となりこれから1年半の間お小遣い無しの刑を言い渡された。