賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

42 / 68
ルカの休みの過ごし方

 翌日、俺は早速刀を携え以前住んでいた家の近くの森の中へとやって来ていた。

 

「で、なんで俺も連れてこられたの?」

 

 隣には嫌そうな顔をしているシンが立っている。

 そんなシンは何故連れてこられたのかわからないと言っているが、俺がシンを連れてくる理由なんてわかりきっているのに何を言っているのだろうか?

 

「足と荷物持ちに決まってるじゃん」

 

 お前の《ゲート》と《異空間収納》目当てだよ。

 

「ですよね! でもルカ兄も災害級くらいなら担いで走れるんだから俺必要無いじゃん! ルカ兄なら王都からここまでそんなにかからず走れるだろ!」

「だって9時にはミランダ来るし……それまでに帰るには《ゲート》の方が楽かなって。後換金に手間取りそうならそのまま入れっぱなしにしといてもらえばいいし」

「雑用係……」

「そうだよ」

 

 魔物狩るのにシンの手助けなんて必要無いんだからそうなるでしょうよ。

 でも狩りたいなら狩ってもいいのよ? 俺が狩った分は俺のもの、お前が狩ったものは折半だけど。

 

「て言うかそれならミランダさんと2人で来れば良かったんじゃないの?」

「ミランダはまだ完全に《躁気術》をマスターしてないし、何より昨日初めて刀を握ったばかりだから魔物狩りは早いかなぁ……っとそうだ、刀と言えば」

 

 俺は腰に佩いている二振の刀の刀のうち出来のいい方を選んで鞘ごと抜いてシンに差し出した。

 

「これ今日付き合ってくれるお礼ね。これあげるから荷物持ち頑張ってよ」

「これって……」

 

 シンは先程まで浮かべていた嫌そうな顔から一転して瞳をキラキラ輝かせながら刀を見ている。

 

 やはりシンも元は日本の男の子。刀をカッコイイと思う気持ちはあったらしい。

 

「見ての通り刀だよ。欲しいでしょ?」

「欲しい!」

「ほれ」

「ありがとう!」

 

 シンは嬉しそうに刀を受け取り、早速ベルトに挿して刀を装備した。

 

 ふむ、なかなか似合ってるな……でもだからこそちょっと惜しい。

 

「どう?」

「似合ってるよ。だけどそのお洋服に刀はちょっと合わないなぁ……」

 

 決して変な訳では無いのだが、なんとなくしっくり来ない。

 服屋さんに頼んだら剣道着みたいな感じの服とか作ってくれないかな? 詰襟も捨て難い。

 

「そっかー……刀に合う服なんて持ってたかな?」

「学ランじゃなくてブレザーなのが残念だけど、学院の制服なら合いそう。服屋さんに剣道着っぽいの注文してみようかなぁ」

「それいいね。だったら浴衣とかも欲しいかも」

「その浴衣をシシリーさんに着せてどうするつもり?」

「んなッ!?」

「きゃー、シンくんのえっちー」

「くたばれクソ兄貴!」

「おいバカやめろ!」

 

 シシリーさんの浴衣姿を想像したのかシンが顔を真っ赤にしたのが面白かったのでさらに煽るためシシリーさんの声と口調を真似てみたのだが、どうやらシンはお気に召さなかったようで攻撃魔法を連発してきた。

 

「うるさい! 当たれ!」

「ホーミング魔法やめろ……あ、やっぱいいや。続けて」

「なんで!?」

 

 なんでって……これめっちゃいい鍛練になりそうだからだよ!

 

「シンの魔法避けたり斬ったりしながら魔物狩るの楽しそう」

「それやられると俺の自信が無くなるんだけど!?」

「お前が始めた物語だろ。やれよ」

「魔法撃ち始めたのは俺だけど、物語って何?」

 

 え? お前前世であのアニメ見てないの? ドン引きなんだけど。

 

「知らないならいいです。そのまま魔法を撃ち続けてください」

「なんで俺が引かれてるんだよ……」

 

 ボヤくシンを放置して俺は森の木々を利用した立体機動装置無しの肉体能力オンリーで立体機動を行いながら複数の魔物を討伐した。

 そして討伐した魔物の死骸をシンの《異空間収納》に入れてもらい、シンの《ゲート》で王都まで戻ってこの前ミランダに教えてもらった魔物ハンター協会へと立ち寄った。

 

「すみませーん! 魔物狩って来たんですけど、換金お願いします!」

「それではこちらの読み取り機に市民証を翳してください」

「はーい」

 

 受付のお姉さんに言われた通りポケットから市民証を取り出して読み取り機に翳した。

 

「はい、確認しました……ってウォルフォード!?」

 

 読み取り機に表示された俺の情報を見た受付のお姉さんが驚愕の声を上げた。

 

「おい、今ウォルフォードって……」

「もしかして新しい英雄様か!?」

「いや待て、2人いるぞ?」

「確か賢者様と導師様のお孫さんは2人って聞いたような……」

「なぁなぁ、新しい英雄様ってシン=ウォルフォードだよな? どっちがシン様なんだ?」

 

 それを聞いた周囲のハンターたちの視線が俺たちへと集まる。

 ヒソヒソ話しているつもりだろうがこっちには全部聞こえてるからな? 失礼なこと言ったら承知しないよ?

 

「はい。ルカ=ウォルフォードです。手続きお願いします」

「し、失礼しました! では出発前に確認した記録の提示をお願いします」

「出発前……確認……記録……?」

 

 何それ? 魔物狩って死骸を持ってきたらお金が貰えるんじゃなかったの?

 

 そうして首を傾げていると、受付のお姉さんも困ったような顔をして質問してくる。

 

「あの……当協会の利用は初めてですか?」

「初めてです。もしかして魔物狩りに行く前にも来なくちゃダメだったんですか?」

「そうですね。市民証には討伐した魔物をしばらく記録として残す機能がありますので、それを利用して討伐前と討伐後の差を確認して討伐報酬を支払うシステムになっていますので……」

 

 受付のお姉さんの説明を聞き終えた瞬間、俺は膝から崩れ落ちそうになった。

 

「じ、じゃあ……」

「誠に申し訳ございませんが今回は……」

「嘘……だろ……?」

 

 どうやら今日の俺はタダ働きをしてしまったようだ。

 

「すみません、討伐報酬の件は仕方ないので諦めますけど、討伐した魔物の素材の買取は出来ますか?」

 

 まさかのタダ働きに呆然としていると、気の毒そうにこちらを見ていたシンが一歩前に出てきて俺の代わりに受付のお姉さんと話し始めた。

 

「それでしたら可能です。どの魔物の素材でしょうか?」

「えっと……猪が3頭に熊が2頭、後虎が1頭ですね」

「と、虎!?」

 

 受付のお姉さんが叫ぶと同時、協会内が騒めいた。

 

「おい、虎だってよ」

「虎の魔物って災害級だろ? 災害級って言えば軍が決死の覚悟で挑むバケモンだぞ」

「新しい英雄様からすれば災害級でもその程度ってことなのか……?」

 

 虎の魔物と聞いた周囲が再び騒めいた。

 

「あの……」

「し、失礼致しました! こちらの虎の魔物はシン様が討伐された魔物でお間違いありませんか?」

「いえ、今回俺は荷物持ちとして連れてこられただけなんで、倒したのはルカ兄ですね」

「ルカ様……? シン様ではなく?」

「はい。俺じゃないです。ルカ兄が殺りました」

 

 言い方ァ! その言い方だと罪を犯した俺を告発したみたいになるから!

 

「そう……なのですか?」

「はい。一気に近付いて虎の魔物の攻撃を躱して一撃で仕留めてましたよ」

「一撃……?」

 

 三度協会内が騒めいた。

 

 中には「英雄様でも無いのに災害級を一撃とか盛りすぎだろ」や「英雄様『じゃない方』もそんな化け物並に強いのか?」などの声も聞こえてきた。

 

 今俺のことを「英雄様じゃない方」と言ったモヒカン、顔と声は覚えたからな!

 

「そ、それは剣ででしょうか?」

「そうです」

 

 本来ならここで俺が前に出てビーン工房で作成してもらった刀の宣伝をするべきなのだろうけど、今日はちょっと時間が押しているので無しにしよう。あと30分でミランダ来ちゃう。

 

 しかしこうして宣伝する時間が無い時のために一目でわかるような物を作っておいた方がいいかもしれない。

 例えば刀の鞘に『ビーン工房』って書いたステッカーを貼るのはどうだろうか? いや、それじゃ小さくて目立たないな。

 それなら何かのスポーツのユニフォームのように魔物狩りをする時専用の服を仕立てて胸や背中に『ビーン工房』って刺繍を入れてもらうとか?

 いや、それなら小さめの軍旗のようなものを作って背中に括り付けておくのもいいかもしれない。

 でもそれじゃあ邪魔だからいっそ槍に旗をくっつけた旗槍にしてそれで戦った方が目立つしカッコイイのではなかろうか?

 

 あれ? 刀の宣伝だっけ? ビーン工房の宣伝だっけ?

 少なくとも旗槍背負ってたら刀の宣伝にはならないような……

 いや、でも旗槍って絶対カッコイイからとりあえず作ってもらうのもアリかもしれない。ありよりのありだ。

 

「ルカ兄、珍しく難しい顔をしてるけどどうしたの?」

「シンっていつも一言余計だよね。ちょっと考え事してた」

「ルカ兄が考えてもろくな事にはならないんだから考えるのやめたら?」

「喧嘩売ってんの?」

 

 ここなら大きな魔法使えないだろうからお前の負け確定だけどいいの?

 

「いや、そういうのじゃなくて……急がなくてもいいのかなって」

「えっ?」

「もうすぐ9時になっちゃうよ?」

 

 ほら、とシンの指差す方を見てみれば時計の針は8時55分を指していた。

 

「あれ? いつの間に?」

「ルカ兄が考え込んでる間にだよ。ルカ兄ってどうせ考えても仕方ないのにたまにどうでもいいことを長時間考え込む癖があるよね」

「なんだとコノヤロウ!」

「ちなみにルカ兄が考え込んでる間に魔物の死骸は提出しておいたから確認が終わったらルカ兄の口座に振り込まれるらしいよ」

「どうもありがとう」

 

 調子に乗った発言ばかりするシンを新技考案のための実験台及びミランダの剣を受ける係に任命しようと思ったのだが、そこまで手続きを進めてくれているのであれば許してやろう。

 

 その後家に帰った俺は午前中はミランダとの鍛練に、午後からは遊びに来たオーグたちと一緒に街に繰り出して充実した休日を堪能した。

 

 ちなみに数日後に魔物ハンター協会から振り込まれた金額はとりあえず数年は働かなくても余裕めお小遣いには困らない程度の金額だったと記しておく。

 このお金を使ってカッコイイ旗槍を作るんだ!




なんか朝見たら昨日14時以降くらいから閲覧数跳ね上がってたんだけど、何かありました?

あと評価してくれた方が2人ふえていました。1人は10ポイントです。ありがとうございました。

皆様見習いましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。