あとは寝るだけとなり部屋に戻って次に作りたい武器である『旗槍』の旗に描く図柄を考えていると、部屋の扉が叩かれ許可を出す前に外からシンが扉を開いた。
「ルカ兄起きてる?」
「それは勝手に開けてから聞くことじゃないよね。どした?」
「ちょっと相談したいことかあってさ」
そう言ってシンは普通に部屋に足を踏み入れベッドに腰掛けた。
いや……まぁ別にいいんだけど、ちょっと勝手過ぎない?
「シンはちょっとマナーを学ぶべき。明日ばあちゃんにチクッとくから」
「それはちょっとシャレにならないからやめてよ」
「だったら返事を待ってから部屋に入りなさいよ」
ってこのやり取りついこの前もやったような気がするな。
「ごめんごめん、次から気を付けるよ」
「それ毎回言ってるじゃん。やっぱりばあちゃん案件だな……で、何?」
シンってばあちゃんに怒られたら同じことはしなくなるけど俺に怒られても気にしないからなぁ……俺はお兄ちゃんなのに舐められてるのかな?
「勘弁してよ……それより朝貰った刀なんだけどさ」
シンは《異空間収納》を開いて朝荷物持ちのお礼として渡した刀を取り出した。
「せっかく貰ったから何か付与しようと思ったんだけど、思ったより付与可能文字数が多かったからどうしようかと思って」
「いや、お前にやった刀なんだからお前の好きなようにしなさいよ」
なんで俺に聞くんだよ。
「だって14文字も付与出来るんだよ? ルカ兄の刀にもなんか付与してあげようか?」
「文字数とか知らんし……お前のは好きにしたらいいし、俺は武器に付与はしないタイプだから――」
そこまで言って気が付いた。
確かに俺は武器に攻撃力上昇系の付与をするつもりは無い。無いのだが、別に攻撃力上昇系の付与でなければいいのではないか、と。
例えば鞘に《自動修復》を付与して貰えば多少の刃こぼれは鞘に納めて魔力を流せば治るだろうし、刀自体に《破壊不可》とか付与すればそもそも刃こぼれしない刀が出来るのでは?
いや、しかし俺は刀に気を纏わせて戦うスタイルなのだからへし折られるどころか刃こぼれすらしない予定だから必要無いか? 極論折れたら殴ればいいし。
でも付与を施された剣は魔剣なんて呼ばれ方をするのだから刀に付与をすれば魔刀ってことにになるんだよな……
魔刀……めちゃくちゃカッコ良くない?
「急に黙り込んでどうしたの?」
「いや……ちょっと考えたんだけど、『魔刀』ってカッコ良くない?」
「うわ、めっちゃルカ兄の好きそうな言葉出てきたよ……」
そりゃ出てくるよ。魔刀だぞ? カッコイイじゃん。
「でも問題は攻撃力上昇系の付与は俺は否定派な事と気を纏わせて戦うのが基本スタイルだからそもそも刃こぼれすらしない事なんだよね」
「攻撃力を上げる必要も壊れる心配もしなくていい武器って……チートかよ」
「究極的に言えば刀じゃなくて木剣でも鉄くらいなら斬れるから」
「そうだった、こいつチートだった……」
魔法一発で街ひとつくらい消し飛ばせそうなシンにだけは言われたくない。
「まぁだから『魔刀』って響きには惹かれるけど、付与する魔法とか思い付かないんだよね」
「えっと……保険的に攻撃力上昇系の付与をするのは?」
「いらんよ。武人たるもの敵は自分の力で敵を打破してナンボだから。そんな付与をするなら魔力を流したら光るだけとかそんな付与でいいよ」
「光るだけって……それなんか意味あるの?」
「とてもカッコイイ」
掲げた刀を光らせながら決めゼリフとかヤバくない?
他にも技名を叫びながら光らせて斬るとかすれば映えること間違い無し。
まぁ実戦でそんなふざけたことはやんないけど、刀を宣伝するためのデモンストレーションとかではとても効果がありそうだ。
「えっと……じゃあそうしようか?」
「他には思い付かないからとりあえずそうしておいてよ。また何か思い付いたら言うからその時はよろしく」
「別にそれはいいけど……それより俺の刀には何を付与しようか?」
「知らん。好きにしなさいよ」
「好きにって……」
「どうしてもって言うなら《絶対切断》とかいいんじゃね? 豆腐も斬れる斬鉄剣になるよ」
「《絶対切断》ってイメージしづらいな……」
そう? 割と創作物ではポピュラーなやつだからむしろ簡単にイメージ出来ると思ったけどな。
「だったら《斬撃範囲拡大》とかは? 目に見えてる刀より間合いが広いとか剣士相手にこれ以上のアドバンテージは無いと思うけど」
もちろん俺には効果は無いよ。初見でも躱せる自信がある。
「確かに……それならシュトロームと戦うことになっても虚をつけるかもしれないな……」
シュトローム? ああ、魔法学院の生徒を魔人化させたっていうヤベェやつね。
大丈夫、ちゃんと覚えてる。浅黒い肌の目隠しした若白髪だよね。目立つ容姿だから一目見たらわかるってオーグも言ってた。
「近接戦やるの?」
「魔法も使うだろうけど、極力近接戦で仕留めた方が周囲への被害も少ないかなって思ってさ」
「ふーん……?」
魔法学院に現れた魔人も剣で倒したって話だし、シンも近接戦闘に興味があるのかな?
ならせっかくシンも刀をゲットしたんだし気は使えなくても魔法による《身体強化》を用いて俺と本気の模擬戦を――
「い、いや! 俺だってルカ兄やミッシェルさんとずっと鍛練してきたんだからそこそこ戦えるからね!?」
「でも魔法で仕留め切れなかった魔人と戦うんだよね? ならもっともーっと強くならないと不安……だよね?」
「シュトロームは戦士じゃなくて魔法使いだから! だから俺でも十分戦えるから!」
「昔の人は言いました。『備えあれば憂いなし』と」
「ルカ兄との鍛練自体が憂いなんだよ!」
「や ら な い か ?」
「嫌だぁぁぁああああ!!」
せっかくお風呂に入った俺だったが、シンがノリノリで模擬戦をしてくれる機会なんて珍しいのでシンの後ろ襟を掴んで裏庭へと引き摺って行き心ゆくまで模擬戦を繰り返した。
素の状態のシンはクライスたちよりちょっと強いくらいだけど《身体強化》の魔法を使ったシンはミッシェルさんにギリ勝てないくらいまで強くなれるのでとてもいい模擬戦が出来た。
「シンは剣術はそこそこだけど刀術はまだまだだね! 明日からしっかり刀術を叩き込んでやるから楽しみにしてなさい!」
「もう……いやだ……」
疲れきったシンをとりあえず置いておいて汗を流し、寝る前に裏庭を覗いてみればまだ倒れたままだったので汗と土に塗れたシンの足を掴んでお風呂場まで運び、ちょうどお風呂に入ろうとしていた男性使用人たちへと引き渡した。
「恨めしや……ルカ兄……許すまじ……」
引き渡す際にシンが何やら呟いていたけれど、それはきっとシンを強くするために模擬戦をした俺に対しての礼と今後強くなる決意表明なので清々しい気持ちで聞き流してスッキリした気分でベッドに入った。
だけど魔法じゃなくて近接で仕留めるつもりならわざわざシンが鍛えて戦わなくても俺が戦えばいいんじゃないかな?
◇◆
そして翌日、週明けに学院に登校して教室に入ると俺とミランダはクライスたちに囲まれた。
「おはようルカ、その武器はなんだ?」
「やけにほっそいな! そんなんで戦えるのか?」
「……やはり剣は大きくなければ」
順番にクライス、ノイン、ケントである。
「おはよう3人とも。これは刀っていう斬ることに特化した武器だよ」
さすがに教室の中で抜刀するのはダメなので鞘に入れたまま腰から外して3人に見せる。
「刀……? 聞いた事のない武器だな」
「見た感じ剣ぽくはあるけどよ」
「……すぐに折れてしまいそうだ」
ケント、武器はデカければいいって物じゃないからね?
「刀の斬れ味は凄いわよ」
「どれくらい斬れるんだ? というかなんでミランダも持ってるんだ?」
「アタシは週末もルカの家に行ってからね。ルカが刀を注文するのにも立ち会ってたし、試し斬りも見ていたから」
「なん……だと……!?」
「むしろなんでアンタたちは来なかったの?」
「「「ぐっ……」」」
いや、ミランダ。別に休日なんだから来なかったこと自体は何も問題じゃないよ?
むしろ休日なのに家に来て鍛練してたミランダがストイック過ぎると思うんだ。
俺はそういうの好きだけど。
「まぁまぁ、たまには休んだりこれまでの鍛練の内容を思い出して自分の中に落とし込んだりする時間も大切なんだから責めるような言い方はしちゃダメだよ」
「あっ……ごめんなさい。そんなつもりは無かったんだけど」
「いや、ミランダの言う通り俺たちが甘かったのかもしれない。もっと貪欲に強さを求めるべきだったな」
何故かクライスたちは頷いているけど……ドMなの?
俺だって休む時はしっかり休むんだから気にしなくていいのにね。大事なのはメリハリだよ。
「ホームルームを始めるぞ。席に着け」
そんな話をしているうちにホームルームの時間となり、マロウ先生が教室へとやって来た。
「さて、皆も知っているかもしれないが、現在ブルースフィア帝国が戦争の準備をしているという噂がある」
戦争? そんな噂があったの? 俺知らないんだけど。
「残念ながらそれは事実だ。現在帝国は大規模な出征の準備をしている。その規模はダームやクルト、カーナンなどの国を攻めるには不相応なもの……つまり帝国の標的は我らアールスハイド王国で間違いないだろう」
マロウ先生の話を聞いているクラスメイトたちが緊張しているのが気配を通して伝わってくる。
「戦争が起こり、長引き、そして泥沼化してしまえば騎士の卵であるお前たちにも召集が掛かる可能性もある。万が一の場合に生き残れるよう実力を高めておくように」
「「はい!」」
マロウ先生の言葉が終わり、クラスメイトたちは声を揃えて返事をした。
戦争かぁ……
俺とシンは戦争が始まっても徴兵さることは無いのだろうけど、騎士学院に通うクライスたちには万が一の時には召集が掛かってもおかしくない。
ならば万の兵に囲まれても突破出来るくらいに強くなれるようしっかり目に鍛えてやろう。シンも鍛えてやらなければならないので大変だ。
そんなことを考えていると――
「なんだか寒気が……」
「奇遇ね、アタシもよ……」
「俺も急に鳥肌が……」
「……俺もだな」
クライスたちがヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。やはり戦争と聞いて不安なのだろう。
大丈夫、どんな戦場でも生き残れるようしっかり鍛えてあげるから!
そうしてなんだか青い顔をして口数がやけに少なくなった4人を見て首を傾げながら学院の授業を受けて放課後鍛錬を行った。