賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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弟子たちの実戦デビュー

「は? 最初は騎士学院生だけで魔物を討伐するって?」

「ああ、騎士学院生……というよりルカの希望でな。どうも魔物を倒す実力はあるのに自信が無いからその自信を付けさせたいらしい」

 

 オーグがクリスねーちゃんとジークにこれまでの経緯を説明している。

 それを聞いたクリスねーちゃんとジークは困ったような顔をしていた。

 

「……本来騎士学院の成績上位者となれば変に自信を持った者ばかりなはずですが……既にルカの手でプライドをへし折られた後なのでしょうね」

「なるほどな。じゃあ騎士学院生が自信を取り戻したら連携の訓練を始めるのか?」

「いや、その次は連携ではなく魔法学院生の魔法のみで魔物討伐を試みる。連携はそれが終わってからだな」

「魔法学院生の魔法のみって……そんな事が可能なのですか?」

「私も半信半疑なのだがシンは余裕だと言っている。ならば試してみる価値はあるだろう」

「なるほど……魔法学院生が冷静に魔法を放つために自信を取り戻した騎士学院生が盾になると言うことですね」

「その通りだ。ちなみにこれはルカとシンが2人で考えていたぞ」

「シンはわかりますが、ルカもですか?」

「殿下、本当に2人で考えてました? ルカはシンの言うことに同調していただけでは?」

 

 黙れチャラ男。《睾丸破壊(テスティクルズ・ブレイク)》を仕掛けますよ?

 

「いや、そうではない。少なくとも騎士学院生の動きはルカの発案によるものだ」

「あのルカ(バカ)が……」

 

 おいジーク、お前今ルカって書いてバカって読んだな?

 お前の睾丸の命は今日までだ! 精々それまで別れを惜しむがいい!

 

「そうだ。そしてシンはルカの提案を聞いた上で魔法学院生の動きを決めた」

「嘘だろ……」

「ジーク、いい加減にしなさい。そもそもルカは貴方が思っているほどバカではありません」

 

 いいぞクリスねーちゃん! もっと言ってやって!

 

「いや、バカだろ」

 

 ジーク! お前が喋れば喋るほどお前の睾丸の寿命は縮んでいくんだから覚悟しとけよ!

 

「確かにルカは勉強は出来ませんが戦いに関しては天才です。考えても見てください。ルカは今まで誰も知らなかった『気』という概念に気付きそれを自在に操る術を身に付けています。それは私たちでは想像も付かないような鍛錬と試行錯誤を繰り返した結果でしょう」

「それは……まぁ……」

「それだけの事を成し遂げたルカは決してバカではありません」

 

 クリスねーちゃん……しゅき……

 

 でも俺が扱う《躁気術》は前世の俺のご先祖さまが発見してそこから世代を重ね、長い年月を掛けて練り上げたものだから厳密に言うと俺が見つけたものじゃないんです。言わないけど。

 

「話は以上です。それでは行きましょう」

 

 クリスねーちゃんの号令で俺たちは訓練予定地である森の奥へと向かって進軍を開始した。

 出発するまでにここまで時間を食うとは……先が思いやられるな。全部ジークのせいだ。

 

 そうして森に足を踏み入れ、更に奥へと入って行く。

 森の奥に行くほど人の手が入りにくいので、強力な魔物が残りやすいのだ。なので今日の俺たちの標的は中型から大型の魔物ということになる。出てきたら災害級も狩るよ!

 

 シンたち魔法学院組が《索敵魔法》を使っているのを何となく肌で感じながらしばらく森の中を進んでいると、皆の口数が段々と少なくなってきた。

 

「どうしたんだ? 急に黙り込んで」

「そうだよ。まだ魔物の気配は遠いんだから肩の力抜かないと疲れちゃうよ?」

 

 やべ、クリスねーちゃんに黙ってろって言われたのにシンに釣られて喋っちゃった。

 

「それはそうだろう。初めて魔物と戦うのだ、緊張しない方がおかしい」

「シンやルカだって初めて魔物と戦った時には緊張したでしょ?」

「どうだっけ?」

「俺はシンが特攻仕掛けたからそれどころじゃなかった」

「ちょ……ルカ兄それは……」

 

 あの時はまさか魔法使いなシンが戦士の俺より前に飛び出して行くもんだから肝が冷えたよ。

 

「ああ、俺……マーリン様に聞いた事あるわ、その話」

「私もです」

「え? どんな話なんですか?」

 

 マリアが話に食いつくが、クリスねーちゃんとジークは渋い顔をしている。

 

「……聞かない方がいいと思うぞ?」

「確実に自信を喪失しますからね……」

「そこまで言われるとむしろ気になります!」

「あの……アタシたちも聞きたいです。クリスティーナ様、お聞かせ願えませんか?」

 

 初めての魔物狩りで緊張しているミランダも緊張を解すためか話に入ってきた。

 

 クリスねーちゃんとジークは一度視線を見合わせ頷きあってからジークが口を開いた。

 

 やめろよ……そのアイコンタクトは俺に効く……

 

「お前たちはルカとシンがここより深い森で生活してたことは知ってるか?」

「はい。行った事あります」

「アタシたちも話だけなら……」

「そんな森の中で生活するにはある程度狩りが出来なきゃいけないらしいんだが、コイツらが十分に狩りが出来るようになったから魔物の討伐も教えようとしたんだとさ。それで、シンは《索敵魔法》で、ルカはなんかよくわからん不思議な力ですぐに魔物を見付けたらしい」

 

 不思議な力って何だよ。気を使った《気配探知》だよ。

 

「それで……2人はどうしたんですか?」

「魔物を見つけたシンは何の迷いも見せずに魔物に向けて全力ダッシュ、慌ててルカが追いかけたんだとさ」

「ち、躊躇無しですか……」

 

 騎士学院生と魔法学院生たちの視線がシンに集まる。

 

「いや、あの時は『早く倒しに行かないと』って……それしか考えてなかったんだよ」

「その気持ちはわかるけどさ、本来前衛で戦うべき俺を後衛のお前が置き去りにして走り出したのは意味わかんない。何故そんなことをしたのか理由を10文字以内で答えよ」

「じ、10文字!? えっと……」

「あと7文字」

「そこもカウントすんのかよ。あの時は魔物にしか意識が向いてなくて……無我夢中だったからルカ兄の存在自体頭から飛んでたんだよ」

「文字数オーバーです」

「それはもういいだろ!」

 

 まぁ魔物倒して帰ったあと正座させてコンコンと説教したからもういいんだけどさ。

 

「でも……まぁ、あの時は俺の前に出て……前に立ってくれてありがとう。あの時は俺も必死だったけど、ルカ兄の背中を見たら落ち着けたんだ」

「お、おうよ……」

 

 お前が素直にお礼を言うとか雪が降り出すからやめなさいよ。

 

「シンくんのあの話の前にはそんな事があったんですね」

「あの時の話って? アタシたちは知らないんだけど」

「では続きを話してやろう。魔物の元に向かった2人が見たのは……なんの魔物だった?」

「熊」

「3メートルくらいある赤毛の熊の魔物だったよ」

「それって!」

「まさか……レッドグリズリー!?」

 

 グリズリーとベアって何が違うの?

 

「マーリン様から聞いたから間違いない。まさかの事態にマーリン様も戸惑ったらしい。初めての魔物討伐にしては相手が悪すぎるとな……ところがコイツらは……」

 

 そう言ってジークは俺とシンの顔を交互に見た。

 その顔がなんだかとても腹立たしかったので睨み返していると、クリスねーちゃんが小さくため息をついてからあとを引き継いで話し始めた。

「シンが飛び出した後、ルカもすぐに後を追ってあっという間にシンを追い越して熊の魔物とシンの間に立ち塞がったそうです」

「えっ?」

 

 いや、ほらまぁ俺って足速いから。

 

「そしてルカは熊の魔物が振り上げた右腕を飛び上がりながら斬り飛ばし、さらに落下の勢いを使って左腕も肩口から切断したそうです。シンはその隙に熊の魔物へと斬り掛かりそのまま首を刎ねたと聞いています」

「レッドグリズリーなんて軍でも複数人で何とか対処するレベルの魔物なのにな……」

「首を刎ねたって……」

「ルカから弟も剣を使うとは聞いていたが、ここまでとは……」

 

 だから現状クライスたちよりシンの方が強いんだって。

 

「しかも……」

「まだ何かあるんですか?」

「ルカとシンは当時10歳だったそうだ」

「じゅっ……!?」

 

 シンから話を聞いていたっぽい魔法学院組はあまり驚いていないけど、初耳だった騎士学院組は絶句している。

 

 今まで初めての魔物狩りの話とか聞かれなかったから教えてなかったんだよな。

 

 ちなみに初めての災害級討伐はその2ヶ月後でした。

 あの時は俺もまだ弱かったからシンの魔法による援護がなければ死んでたかもしれない。だってアイツらでかいんだもん。

 

「そういう訳だからさ、魔物討伐に関してはコイツら緊張した事無いんじゃねぇか?」

「まぁ……確かに……」

 

 そんな話をしている時、そう遠くない距離から何かがこちらに向かって走ってくる気配を察知した。

 

 これは……中型かな?

 

「騎士学院生諸君、戦闘準備!」

 

 シンやジークも魔物の接近を察知したようだが、ここは俺が指揮を取らせてもらおう。

 本来ならクリスねーちゃんが取るべきなのだろうが、ここはこいつらの師匠である俺の出番だ。

 

「敵、14時方向より接近。距離30……20……間もなくそこの薮から飛び出してくる。構えろ!」

「「「お、応ッ!」」」

 

 クライスたちが剣を抜いて構えた瞬間、『それ』は薮から飛び出してきた。

 

「ブモォォォオオオオ!!」

 

 現れたのは2メートルくらいの猪の魔物だった。今日の晩御飯は生姜焼きがいいです。

 

「ルカ兄、変なこと考えてない?」

「そりゃお前だろ。ヨダレ垂れてんぞ」

「魔物化してなければ美味そうなのに……」

「わかる」

 

 俺たちはこんな気の抜ける話をしていたが、すぐ近くのクライスたちは反対に恐怖に身体を震わせながらも気合いを入れていた。

 

「ビ、ビビるな! 俺たちはあのルカから指導を受けているんだ! いつも通りやれば必ず勝てる!」

「そ、そうね……ルカに比べたらあんな猪へなちょこよ!」

「やってやる……やってやるぞ!」

 

 3人はそれぞれ声を出して鼓舞し合っているが、肝心の肩の力は抜けていない。

 今必要なのは気合いを入れることじゃなくて少し気を抜く事なんだけど……3人はそれに気付けるかな?

 

「「「うぉぉおおお!!」」」

 

 そして突進してくる猪に向かってクライスたちも突撃して行く。

 

 すり抜けざまに一撃加えようとしているが、残念ながら全身に余計な力が入ってしまっている分クライスたちの方が一歩遅かった。

 

「ブモォォォオオオオ!!」

「「「うわぁぁあああ!!」」」

 

 3人とも避けきれずに猪に跳ね飛ばされてしまった。

 軽四に跳ねられたみたいになってるけどクライスたちならまぁ大丈夫だろ。

 

 3人を跳ね飛ばした猪は振り返り、再度自分に剣を向けたクライスたちを視界に捉えた。

 

「ルカ!」

「大丈夫だって。誰がアイツらを鍛えたと思ってんの?」

 

 俺とシンの後ろに控えていたオーグが焦ったように声を出しているけど慌てる必要は無い。

 

 何故なら――

 

「……思っていたより痛くないな」

「そうね……一瞬死んだと思ったけど、あれくらいならルカのチョップの方がはるかに重い」

「これなら……倒せるんじゃね?」

 

 3人は立ち上がり、自分たちの体を見つめる。

 全員軽い擦り傷はできているが骨や筋に異常は無さそうだ。

 

「これなら……ミランダ! ノイン! まずは俺が正面から斬り掛かる! 俺が攻撃したらミランダは右、ノインは左から攻撃してくれ!」

「わかった!」

「任せろ!」

「よし、行くぞ! はぁぁあああ!」

 

 ようやく余計な力が抜けたクライスたちは再び剣を構えて猪へと向かって飛び掛った。

 

「おお……らぁぁああ!!」

 

 そしてクライスら猪の魔物の眼前に飛び掛り、全力で斬り付けた。

 

 会 心 の 一 撃 !

 

 クライスが振り下ろした剣は猪の魔物の脳天へと直撃し、そのまま真っ二つに斬り裂いた。

 

「ブモォォォオオオオ!!??」

 

 クライスの一撃を受けた猪の魔物は断末魔の叫びを上げそのままその場に倒れ込んだ。

 

「……えっ?」

 

 倒れた魔物を見てクライスは呆けたような声を出した。

 

「「えっ?」」

 

 クライスの攻撃に合わせて左右に展開しようとしていたミランダとノインもその場に足を止めて倒れた魔物を注視する。

 

「「「え……ええぇぇぇえええ!?!?」」」

 

 そして背後から魔法学院組から驚愕の声が上がる。

 

「マジかよ……」

「中型でも弱い部類とはいえ猪の魔物を学生が一撃で仕留めますか……」

 

 指導教官役の2人も驚いている。

 

 ふむ、皆のこの反応を見た感じ……もしかして俺、やり過ぎちゃったのかな? 

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