賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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絶対に笑ってはいけない合同訓練

「あ、あの……今から回復魔法を掛けますのでそのまま動かないでくださいね」

 

 俺とシン以外の全員が呆然とする中、最初に声を上げ、行動を始めたのはシシリーさんだった。

 

 控えていた後方から飛び出し先程猪の魔物に跳ね飛ばされ擦り傷を負ったクライスたちの元へと駆け寄った。

 

「……すまない」

「今は同じパーティなんですからこれくらい当然です!」

 

 シシリーさんはそう言って回復魔法を使いながら穏やかに微笑んだ。

 

「アンタ……」

 

 その微笑みを向けられたクライスとノインは顔を真っ赤に染めている。

 

 これは……堕ちたな。ラヴの気配だ。

 

「アンタは……まるで聖女様みたいだな」

 

 クライスはいつもよりキリッとした顔でそんなことを宣い始めた。

 

「俺……女の子にこんなに優しくしてもらった事無い……」

 

 続いてノインが若干影を作りながらシシリーさんにだけ聞こえる程度の声量で呟いた。

 

 ノイン、残念ながら俺には聞こえてるし、シンも何かしらの方法で聞いてるっぽい。

 そしてお前が女の子に優しくしてもらえないのは単純にモテないからだと思う。

 

「俺たちの周りにいる女子といったら……」

「何よ? 何が言いたいのよ!」

 

 ミランダは激怒した。

 

 いや、まぁ……うん。これはミランダはキレてもいいと思う。俺はミランダに一票入れるよ。

 

「俺……いや、私は決めた。これから俺たちは魔法学院生を守る盾となる。だから私はアンタを護るために戦おう!」

「アンタには傷一つ負わせないぜ!」

「えっと……」

「確か名前はシシリーだったな? シシリー、私にキミを護らせてくれ」

「何言ってんだよクライス! シシリーを護るのは俺だ!」

 

 シシリーさんが眉を寄せて困惑している前でクライスとノインが睨み合っている。

 そしてそれを見て……俺の隣でシンがプルプル震えている。

 

 何これ、めちゃくちゃ面白い!

 

「えっと……じゃあアタシは誰を護れば?」

 

 ミランダはマリアでも護っていればいいと思うよ。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 それからも騎士学院組、魔法学院組と交互に魔物を討伐しながら更に森の奥を目指して行軍を続けた。

 

 騎士学院組が戦う時は特に問題は起きないのだが、魔法学院とが魔物と戦う際には少々問題が発生していた。

 

「前方に魔物の反応アリ。総員戦闘態勢!」

 

 このメンバーの中で一番索敵範囲の広いシンが魔物を発見して号令を掛けると騎士学院組は魔法学院組の盾になるため行動を開始する。

 

「よし……シシリー、私の後ろに!」

「何言ってんだよ! シシリーは俺が護るんだって!」

「あの……大丈夫ですから……」

「「シシリーには指一本触れさせん!」」

 

 こうやってクライスとノインが争うようにシシリーさんを護ろうとしているのだ。

 

「……殿下、マリア。アタシから離れないでくださいね」

「ああ……」

「ええ……」

 

 ミランダはそんな2人を見て諦めたようで、ミランダ1人でオーグとマリアを護れるよう上手く立ち回っている。

 

「うぎぎ……」

 

 そしてそんな皆を見てシンが悔しそうに歯軋りをしている。

 

 うん。見てる俺からすると今にも腹を抱えて笑い転げたいくらい面白い見世物なんだけど、今後のことを考えるならクライスとノインはもうちょっとオーグを護る意志を見せるべきだと思う。

 

 そしてそれは戦闘時だけに限らず、薮を突っ切る時も。

 

「シシリー、気を付けろよ」

 

 倒木を超える時も。

 

「ほらシシリー、手を」

 

 少し歩くと。

 

「シシリー、疲れてないか?」

「シシリー、俺まだ水余ってるからこれやるよ」

「あの、本当に大丈夫ですから……」

 

 ことある事にシシリーに構い倒していた。

 

「シン」

「あ゛?」

「ほら、イライラしないの」

「別にイライラなんか……」

 

 俺の少し後方ではシンがマリアに慰められている。

 

「してるじゃない。そんなにイライラするなら『シシリーは俺の女だから手を出すな』って言っちゃえばいいじゃない」

「ば……何言ってんだ!?」

 

 うん。俺も言っちゃっていいと思う。その方がクライスたちがショックを受けて面白そうだから是非とも言って頂きたい。

 

「関係ないならイライラする必要無いじゃない」

「それは……」

「まぁ、シシリーも若干引いてるし問題は無いと思うけど。女慣れしてない男がちょっと優しくされたから自分に気があるとでも思っちゃったのよ」

 

 そんなにズバッと切り捨てるのはやめて差し上げろ。思春期男子あるあるだ。

 

「おーいお前ら、また魔物が来たから準備しろ!」

 

 前後で起きている喜劇に気を取られていたからか、どうやら魔物の気配を見逃していたらしい。

 

 しかし面白い……ああ、我慢せずにひたすら何も考えずに笑い転げたい!

 

 しかしそんなことをすればクライスたちからは剣で、シンからは魔法で攻撃されることが目に見えているので必死に表情を隠して改めて周囲の気配を探ってみる。

 

 ……確かに15時の方向から魔物の気配が近付いてくる。しかも今度は結構な団体さんのようで、かなりの数が一斉にこちらに向かって走ってきていた。

 そして魔物の気配の前方には――

 

「ジークにーちゃん、ちょっと数が多くない?」

 

 シンも気付いたようで今のところここに居るだけの役たたずでしかないジークに確認を取っている。

 

「ああ、これはちょっとマズイか?」

「そんなに数がいるのですか?」

 

 俺が教えた通り《練気》は毎日しているようだけど、まだ《気配探知》が出来る域まで達していないのだろう、そこに居るだけで価値のあるクリスねーちゃんがジークにどれだけ数がいるのか聞いている。

 

 ジークじゃなくて俺に聞いてよ!

 

「シシリー、我々の後ろに居ろよ!」

「あの、私も戦わないと訓練が……」

「いいから、女は黙って私に護られていろ!」

「いや、あの……だから訓練……」

 

 前方では相変わらずクライスとノインがシシリーさんを護ろうとしているがクライスのそのセリフはよろしく無い。

 お前はお姫様を護る騎士かっての……ああ、騎士候補生でしたね。だったらしょうがないか。

 

「ちょっと待って、魔物の前に別の反応がある」

「ん? ああ、本当だな。これはひょっとして……魔物に追われているのか?」

 

 どうやらオーグも《索敵魔法》を展開したらしい。

 魔物から逃げている学生と指導教官の反応を捉えたようだ。

 

 そのまましばらく待っていると、木々の間から別の班の人たちが飛び出してきた。

 

「ああ! ジーク先輩! クリスお姉様! 逃げてください!」

「クリス様、ジークさん! 大変です、魔物が大量に発生してこちらに向かってきています!」

 

 あっちの班の指導教官2人がこちらの指導教官であるクリスねーちゃんとジークにそう報告している。

 クリスねーちゃんはともかくジークになんて報告しなくてもいいのにね。

 

「どれくらいの規模だ!?」

「少なくとも百はいます!」

「百……!?」

「そんなに!?」

 

 まぁまぁな数の群れになってるらしい。

 

「ジークにーちゃん」

「ん? なんだシン」

「それ、俺がやっていい?」

 

 シンはフラストレーションが溜まっているのか、魔物の群れの討伐に名乗りをあげた。

 

「……そうだな。頼めるか?」

「そ、そんなジークフリート様! シンくんひとりで百の魔物なんて!」

 

 あっさりとそれを了承したジークの反応を見てシシリーさんが食ってかかる。

 

 大丈夫だよ、シンなら百どころか千だろうが万だろうが特に問題は無いと思うから。

 いや、さすがに万はキツイかな?

 

「シンに任せておけば大丈夫だよシシリーちゃん」

「正直私やジークより圧倒的に強いですからね……そもそもこの訓練に参加する意味があるのでしょうか?」

 

 ぶっちゃけ無いと思う。あるとすれば今みたいなイレギュラーな状況に対応するためくらいしか無いよ。

 

 まぁそれはシンだけじゃなくて俺もなんだけど。

 

「ほら! そこに座り込んでる奴もシンの邪魔になるから後ろに下がれ!」

 

 クリスねーちゃんとジークが先程飛び出してきた班のメンバーたちを後方へと避難させ始めたタイミングで森の奥から魔物の群れが見えてきた。

 現れたのは猪に狼、熊も混じっていた。

 

 ……熊!

 ここで会ったが百年目! お前らなんて駆逐してやる!

 

「爆発系、行ってみるか……」

 

 俺が前世からの因縁の相手である熊を狩ろうと刀の柄に手を伸ばそうとした瞬間、シンが不穏な言葉を呟いた。

 

 今爆発系って言った? こんな森の中で爆発系行っちゃうの?

 

 驚いてシンの方を見ていると、徐々に肌がピリピリし始めた。

 シンが大量の魔力を集めているのだろう。

 

「って集めすぎだよこのバカ!」

「吹き飛べ!」

 

 いくらシシリーさんを取られそうになったからと言ってさすがにここで俺でも死にかねないほどの威力の魔法を使うのはダメだろうと思い止めようとしたのだが、どうやら一歩遅かったようだ。

 

 シンから放たれた魔法は魔物の群れの中心に着弾し、凄まじい大爆発を引き起こした。

 

「あ、やべ……」

 

 爆発というのは爆心地を中心に同心円状に広がるものなので当然こちらにも爆発の余波が向かってくる。

 

「お前やっぱりバカだろ」

 

 仕方がないので向かってくる爆風をぶった斬ってやろうかとも思ったが、シンが慌てて障壁を張り始めたので何もせずに見ておくことにした。

 この後ちょっとやることありそうだからね。

 

「シンくん!」

 

 爆風が過ぎ去った後、後ろに下がっていたシシリーさんが飛び出してきてシンの体をぺたぺた触り始めた。

 

「見てたろ? 何も怪我なんかしてないって」

「本当ですか? こんな凄い魔法を使ったのに、ちゃんと自分で爆風を防げたんですか?」

「そっちに爆風行ってないだろ?」

「私たちはだいぶ後ろに居たじゃないですか! シンくんは目の前でこんな……こんな……」

 

 シシリーさんは改めてシンの後ろ……爆発魔法でえらいこっちゃになっている森を見て叫んだ。

 

「こんな辺り一面を吹き飛ばしちゃうような魔法を使ったのに!」

 

 まぁどう見てもやり過ぎだよね。見渡す限り木々が薙ぎ倒されてるもん。

 えげつない森林破壊だよ。

 

「本当にどこも怪我してませんか?」

「あー、うん。大丈夫。心配かけてごめんな」

「本当です! シンくんは色々無茶し過ぎです! 心配するこっちの身にもなってくださいよ……」

「……ホントごめん」

 

 シシリーさんはぷんぷん怒っていたが、シンが謝りながら頭を撫でたことで落ち着いたらしい。仲良さげに寄り添いながらこちらに戻ってきた。

 

 妬ましい……イチャイチャすんな!

 

「なんですか……なんですかこれはぁぁああ!?」

 

 戻ってきたシンたちをみて正気を取り戻したのか、今度は先程飛び出して来た班の指導教官である女性魔法使いが声を上げた。

 

「これが……現代の英雄の実力……」

「え? ナニコレ? さっきと風景が違うんですけど?」

「……なんでこんな奴が訓練に参加してるんだ?」

 

 俺とクリスねーちゃんと魔法学院組、あとジーク以外の、特に先程現れた班のメンバーが口々にそんなことを呟いている。

 

「これは……前見た時より凄くなってねーか?」

「あの時も相当抑えていたんでしょうね」

「相変わらず無茶苦茶というかなんというか……」

「まぁ、シンだしな」

 

 こっち側も似たようなものでした。

 

「そ、それよりさ、なんでこんなことになってんの?」

 

 周りが皆シンの話をしているので居心地が悪くなってきたのか、シンが話を無理やり変えてきた。

 

「おう、そうだ。エミリー、どうなってるんだよ?」

 

 それを聞いたジークがなんか偉そうに飛び出して来た班の指導教官である女性魔法使いに問いかけた。

 

「え? あ、ああ! 私たちはもっと浅い所で訓練をしてたんですよ。で、もうちょっと奥まで行けそうだったから少し進んだんです。そしたら……急に《索敵魔法》の探知外から大量の魔物が押し寄せて来て……」

「目視出来る距離まであっという間に近付いて来たんです」

 

 ふむふむ、ということはやっぱり俺の出番もありそうだな。

 

「ジークにーちゃん。これ、奥に何かいるよ」

「ああ、間違いないだろう。しかも熊みたいな大型も混じってやがった。これは……嫌な予感しかしなっ……!」

 

 ジークが言葉を切った……ということはジークの索敵範囲に入ってきたのだろう。

 当然、ジークとほぼ同じ範囲の気配を探れる俺の《気配察知》にもでかい気配を持つものが入って来ている。

 

「う、嘘……嘘でしょ!?」

「何よコレ!?」

 

 俺たちとは別の班の魔法使いたちも声を上げる。

 

「な、なんだ? 何が起こった?」

「アタシたちにもわかるように説明してよ!」

 

 魔力も気配も探れないクライスたちもそれを見て不安そうに声を上げた。

 

「ジーク、ひょっとして……」

「ああ、最悪の事態だ」

「ッ!? ならば早く撤退を! 私が時間を稼ぎます!」

「もう遅い!」

 

 ジークの叫びと『ソレ』が現れるのは同時だった。

 

 そこに居たのは――

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