賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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前世の恨み

 虎の魔物を討伐した後、まだ時間があるからと飛び出して来た班と別れ俺たちは再び隊列を組み森の奥へと進軍を再開した。

 

 現れる魔物を騎士学院生だけで倒したり、魔法学院生だけで倒したり、魔法学院生に魔法の威力を落として貰って騎士学院生がトドメを刺す連携をしてみたりと中々いい感じに合同訓練は進んで行った。

 

 そうして進んでいくうち、最初はクライスとノインに護られるよう後ろの方に控えていたシシリーさんもだんだんクライスたちから離れてシンの近くに居るようになってきた。

 時折何やら言葉を交わして微笑みあっているのを見ると弟が幸せそうで嬉しいような先を越されて妬ましいような微妙な気持ちになっている。

 

「そっか、シシリーは強くなりたいんだね?」

「はい! 自分のことくらいは自分で守れるようになります!」

「そうかぁ、なら虎の魔物くらいは討伐出来るように徹底的に鍛えようか!」

「え!? いや、そこまでは……」

「ふふ……」

 

 今もそんな会話が聞こえてきている。

 

「あ! も、もう! シンくん、からかいましたね!?」

「あはは、ごめんごめん。なんか悲壮な決意を感じたからさ。もうちょっと肩の力を抜いていこうよ。心配しなくてもシシリーは前よりシシリーは強くなってるよ」

 

 シンはそう言ってシシリーの頭をポンポン撫でる。

 

 ちくしょう……イチャイチャしやがって……

 

「ねぇマリアちゃん、やっぱりコイツら付き合ってんの?」

「いえ、それが……まだなんです」

「嘘だろ……」

「信じられませんね……」

 

 クリスねーちゃんとジークがマリアに確認を取っているが、「付き合ってない」と返されて困惑している。

 

 ってマジかよ、これで付き合ってないのかよ。

 てっきりとっくにお付き合いしているものだと思ってた。

 

「……賢者様と導師様の孫で、シシリーまで……」

「妬ましい……妬まし過ぎる!」

「アンタたち格好悪いよ?」

 

 ミランダがクライスたちに辛辣なことを言っているが、気持ちとしては俺も似たようなものなのでやめて差し上げて頂きたい。なんだか俺も言われてるような気分になるから。

 

 そんなこんな色々ありつつも訓練は続き、シンはオーグたち魔法学院組にも《索敵魔法》を使わせながら進み、魔法に集中して注意散漫になってしまっているオーグたちのフォローをし始めた。

 

「オーグ足元気を付けろ。大きい石があるぞ」

「ん? ああ、わかった」

「マリア、離れて行ってるぞ?」

「えっ? わ! いつの間に!?」

「シシリー、そこに窪みが……」

「キャッ!」

「おっと!」

 

 窪みに足を取られ、転倒しかけたシシリーさんをシンが抱き締めるようにして受け止める。

 

「索敵に集中し過ぎ。もっと周りも見れるようにしないとね」

「うう、すみません……」

 

 お前らさ、もうちょっとこう……何とかならないの?

 いちいちイチャイチャしないといけない病気なの?

 

「おのれ……おのれシン=ウォルフォード……」

「羨ましい羨ましい羨ましい……」

「アンタたち……ダサすぎるんだけど」

 

 なんだかミランダはクライスたちに対して怒りを通り越して呆れ始めているようだ。

 俺だけはミランダに呆れられないよう気を付けよう。ポーカーフェイスだ。

 

 そうしてしばらく歩いていると、俺の《気配探知》の範囲内に魔物の反応が引っ掛かった。

 シンの方を見てみると当然シンも気付いていたが、魔法学院生に発見させたいのか俺に黙っているよう視線で訴えかけてきたので黙っておく。

 

「あ、これって……」

「ああ、私の索敵にも掛かった」

「私もです。でもこれは……さっきの虎より小さいですけど、今までの魔物より大きいです」

「お、皆気付いたか。で、何の魔物だと思う? 殿下はわかりますか?」

 

 俺たちと同じく先に魔物に気付いていたジークが楽しそうな表情を浮かべてオーグたちに問い掛けた。

 

「そうだな……これは熊か?」

「お! 正解ですよ殿下。いやぁ、あの小さかった殿下がこんなに立派になって……」

「……うるさい。いつまでもお前に遊んで貰っていた子供のままの訳がないだろ」

 

 おお、隙あらばいつも俺やシンをからかおうとしてくるオーグがからかわれている。珍しい光景だ。

 面白いものを見せてくれたお礼にお前の睾丸をブレイクするのは今回だけは見逃してやろう。

 

「ジークにーちゃん」

「ん? どうしたシン」

「オーグの小さい頃の話聞かせてよ」

「おう、いいぞ」

「なッ!? おい、やめろ!」

 

 シンはオーグにやり返す方法を見つけたのが嬉しいようでジークに話を聞き出そうとしている。

 いいぞ。もっとやれ。

 

「アナタたちは熊の魔物がいるのに何故そんな話をしているのですか!?」

「ん? ああ、だって熊だろ? ルカは『熊撲滅委員会』とやらの会長らしいからほっといてもルカが殺るだろ」

「駆逐してやる!」

 

 熊といえばアレだから。前世の俺の仇だから。

 昔シンに「それって仇は熊じゃなくない? 今でも採取に行くたびに採ってくる毒キノコが原因なんじゃないの?」などとと言われたけど、毒なんて気を使って浄化すれば簡単に解毒できる俺が何もせず普通に中毒死したと考えると顔から火を吹いて転がり回らなければならなくなるので俺は絶対に認めない。

 俺が死んだのは熊のせいだ。だから駆逐してやる。

 

「せっかくの訓練なのだから騎士学院生と魔法学院生で討伐させます。ルカとシンはフォローに回りなさい」

「はぁい……」

 

 くそぅ、熊なんて瞬殺してやりたいのにクリスねーちゃんにそう言われたらフォローに回るしかないじゃないか……

 

 まぁ、そうと決まればやることは一つ。クライスたちにアドバイスでもしてやろう。

 

「騎士学院生諸君、傾聴!」

 

 さすがに熊の魔物の相手は厳しいと思っているのか、表情を固くしているクライスたちへと呼び掛ける。

 

「お前たちはこれから熊の魔物と戦います。お前たちと熊の魔物がタイマン張ったら確実にお前らが負けるくらいには熊の魔物は強いです」

 

 俺の言葉を聞いてクライスたちはさらに顔を強張らせる。

 

「だけどそれはタイマンを張るから負けるのです。タイマンで勝てないなら囲ってボコればいいのです。ここにはお前らと肩を並べて戦う仲間がいます。魔法で援護してくれる仲間もいます。それでも負けそうになった場合、頼りになる指導教官であるクリスねーちゃんが助けてくれます。ジークは頼りにならないので忘れてください」

「おい!」

 

 ジークが何やら喚いているが、今はクライスたちの緊張を解すことが先決なので放置する。

 それに頼りにならないのは事実だろ? 黙っといて。

 

「それに、ここにはシンもいます。シンなら腕がちぎれようが足がもげようが生きてさえいれば治してくれます。だから今はいい機会だと思って腕一本くらいちぎれるくらい本気で戦ってみましょう」

「「「……」」」

 

 あれ? 皆ここ笑うところだよ?

 心配しなくてもちぎれる前に助けるよ?

 

「と、とにかく! 10歳の頃の俺とシンが勝てた相手なんだから15歳のお前らが6人いれば余裕です! 張り切って戦いましょう! 総員、構え!!」

 

 俺が熊のいる方向を指差して号令を掛けるとクライスたちはしぶしぶといった様子でそちらを向き、剣を構えた。

 

「えっと……ルカ兄が変に脅してたけど、皆で力を合わせて戦えば十分に勝てる相手だから気負わずにね。それと、熊の魔物は今こっちに向かって来てないからこっちから近付かないとダメだよ」

 

 ……別に脅してなんかないやい。俺はクライスたちが緊張してたから解してやろうと思って……

 

「指揮は上手かったですけど、士気をあげるための演説は驚く程に下手でしたね」

「まぁルカは軍に入って指揮官になる訳でもないんだから別にいいんじゃねーか?」

「それもそうですね」

 

 なんか珍しくクリスねーちゃんとジークの意見が合っている。俺の事で。

 

 なんだかクリスねーちゃんとジークの距離を俺のせいで縮めてしまったような気もするが、今はそれより熊の魔物……やっぱ瞬殺してこようかな。

 

「いましたね」

 

 そうして俺が飛び出そうとした瞬間、クリスねーちゃんが熊の魔物を発見したので大人しく待機の姿勢に戻る。

 

「それでは、今から熊の魔物の討伐を行います。先ずは今までの連携通り魔法学院生が魔法を放ち、騎士学院生がトドメを刺す流れです。しかし大型の魔物は中型とは比べ物にならない強さを持っていますので、剣だけでは厳しいと思った場合は一度退いて下さい。その時は魔法で援護します」

「「「はい!」」」

「では……準備はいいですか? まずは魔法から。撃て!」

 

 こうして俺の因縁の相手である熊の魔物と騎士学院、魔法学院合同パーティとの戦いの火蓋が切られた。

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