「よし、これで一旦今日の訓練は終了だ。王都に戻るぞ。皆、お疲れさん」
オーグたちの魔法の威力を見て混乱してウザかったジークがハッとしたように復活し、先程までの醜態は無かったかのように偉そうに訓練の終了を宣言した。
対してそれを聞いていた学院生たちは……
「うう……」
「ああ……」
騎士学院側はクライスとノインがクリスねーちゃんの口撃を受けて瀕死状態であり、ミランダと魔法学院生側はそれを気の毒そうに見ている。
俺? 俺は虎の魔物倒した時にトドメ刺された気分になってたから思ったよりショックは受けてないよ。
ただまぁ今夜は涙で枕を濡らすことにはなるだろうけど。
「いい加減にしなさい貴方たち。せっかくせっかく学生だけで大型の魔物を討伐したというのにそれ以外の事で落ち込んでばかりいてどうするのですか? 先程の戦闘で修正すべき点や反省点など、洗い出さなければならない事がたくさんあるでしょう? 今回の戦いを次に活かせないようでは訓練の意味などありませんよ」
「そーだそーだ!」
クライスたちを落ち込ませた張本人であるクリスねーちゃんが言うことでは無いような気もするが、失恋したとて俺はクリスねーちゃんの味方なので一緒になってクライスたちに檄を飛ばす。
「……そうですね。確かに反省すべき点、修正すべき点は多くあります」
落ち込んで膝を着いていたクライスだったが、俺の言葉が染みたのか頭を振って立ち上がり先程の熊の魔物との戦いの反省をし始めた。
「先程の戦闘、先制の魔法は非常に有効だった」
「そうね。アレで相当熊の魔物もダメージを受けていたわ」
「魔物は《身体強化》の魔法を使うと聞いていたが、ダメージのせいかそういう兆候は無かったしな」
「……むしろ問題は俺たちの方って訳か」
ノインも立ち上がりクライスとミランダの話に入ってきた。
「俺がもっと熊の魔物の注意を引き付けられてれば良かったな」
「攻撃力が高いからとミランダに頼り過ぎたのもあるだろう。もっと俺も攻撃に参加すべきだった」
「いえ、ノインもクライスもしっかりと役割をこなしていたわ。問題は……焦って刀をダメにしてしまったアタシにあるわ」
「総合すると、やはり勝ちを急ぎ過ぎたのがいけなかったのだろうな」
クライスたちは3人で先程の戦いの反省点を話し合う。
「そうですね。貴方たちは騎士学院成績上位者であり、さらにルカの戦闘指南を受けているので戦闘に問題はありません。しかし、勝負を決める最後の瞬間というのは誰にとっても難しいものです」
「はい。正しく実感致しました。危うく殺されるところでした……」
まぁクライスがあのまま熊の魔物の攻撃を受けていたとしても死にはしなかったんだけどね。
さすがに一撃で殺されるような相手とは正面から戦わせたりしない。
「アタシはクライスが死んだと思ったわ……」
「俺も……」
「そして一瞬目を背けたでしょう? 気持ちはわかりますがどんな状況でも魔物から目を離してはいけませんよ」
「「はい……」」
うーん、やはり《躁気術》の習得を優先させ過ぎたのだろうか?
クライスたちはまだ15の子供なのだからもっと心技体のうち心を優先して育ててやるべきだったかもしれない。
「それにしても……クライスを助けたウォルフォードくんの魔法は凄かったわ」
「ああ。魔法とはあんなに正確に撃てるものなのか?」
「いや、あんなピンポイントで撃ち抜けるやつなんてそうは居ねえな。ほかの魔法使いならもっと大きな場所を狙う。俺や今回派遣されて来てるやつらなら近いことが出来るが、あそこまでとなると……」
クライスが疑問を口にすると、それには何故かジークが答えを返した。
なんかあんま自信無さそうだな……
俺 はあのくらいの距離でくまの手のひらくらいの的なら弓でも投石でも撃ち抜ける自信があるからつまり俺はジークよりも上ってことか!
「ええ。私も見たことありませんね」
「俺は弓でも投石でも当てられるよ!」
「今は魔法の話だからルカはちょっと黙ってろ。シン、お前はどのくらいの距離までならピンポイントで魔法を撃てる?」
クリスねーちゃんに黙ってろと言われるなら従うけどジークに言われると腹立つな……
「そうだなぁ……前に試した時は1キロくらいまでは出来たかな?」
「いちきろ!?」
「うん。《視覚強化》使ってね。それ以外になるとピンポイントは難しいかな?」
それって俺と模擬戦やった時にやったやつだよね?
さすがに1キロくらい離れた位置からピンポイントでダッシュしてる俺の膝目掛けて魔法撃ってくるとは思ってなかったからあの時は結構焦った。
「ということはあの距離なら造作もないか……」
「俺は弓なら大体500メートル、投石なら200メートルくらいならピンポイント射撃出来るよ!」
「だからルカは黙って……ってそれは普通にやべぇな」
ふふん、もっと褒めてもいいんだよ?
そうして胸を張ってドヤ顔を決めていると、今度はオーグたち魔法学院側から声が掛かった。
「私たちに問題は無かったか?」
「お世辞抜きで殿下たちの魔法は素晴らしかったです。正直、威力が強すぎて一瞬足が止まりました」
「確かに凄かった……訓練の意味あったのかしら?」
ミランダが首を傾げているが、それは確かに俺もそう思う。
だってあの威力の魔法を連発出来るなら熊の魔物くらい近付かれる前に討伐出来ただろうから。
「私も一瞬指示出しが遅れましたね。改めて伺いますが、アレはなんですか? 今の魔法学院はあんなにレベルが高いのですか?」
「正直、現役の魔法師団の実力上位者と変わらない……いや、上回っている印象すらある。シン、お前何をした?」
「何って……この3人は同じ研究会所属だからね。じいちゃんに教えてもらった方法で練習してるだけだよ?」
シンは「何がおかしいの?」とでも言いたげな顔をしながらジークの質問に答えている。
俺知ってる。シンがこの顔してる時は絶対何かやらかしてるんだ。
「その研究会って何人所属してるんだ?」
「1年Sクラス全員とAクラスの2人だから12人だね」
「となるとウチを入れて3組か……あと2班の騎士学院生が凹んでいる姿が目に浮かぶな……」
「ええ、後でフォローしておく必要があるでしょうね……」
入試順位5位~8位の班にはケントが入ってるからケントが落ち込んでないか心配だな。
ほかの3人はいつも俺たちの方を見ながらヒソヒソしてるやつらだからどうでもいい。
しかし今回の合同訓練で自分の実力不足を自覚して率先して鍛えるようならまだ見込みはあるのかな?
そうなったら俺の『ウォルフォード流』に入門させてあげてもいいよ。
そうして森から脱出して王都へと戻り始めたのだが、ある程度進んだ所で再びジークがシンに絡み始めた。
ジークって静かに歩けないの? 黙ったら死んじゃう病なの?
「なぁシン」
「何?」
「お前が入ってる研究会ってなんだ? 攻撃魔法研究会か?」
「いや、皆が自分で立ち上げた方がいいって言うから自分で立ち上げた研究会だよ」
ああ、究極魔法研究会ね。初めて聞いた時にはその名前のセンスに脱帽したよ。
魔法使えない俺が思わず入会したくなったもん。
「自分でか……で? 何をやってる研究会なんだ?」
「何って言われても……皆で魔法を極めましょう。みたいなフワッとした目標の研究会だよ」
「本当にフワッとしてんな!?」
案外『極める』ってそんな感じから始まるものだからね。
最初はフワッとした目標から始まって徐々に好きなこと、向いてることに特化していくものなんだよ。
「で、今はじいちゃんから教えてもらった練習と、俺が魔法を使う時のイメージを皆に教えてるんだよ」
「シンの魔法のイメージ! それか!」
「なにが?」
「いや、お前らがマーリン様に教わった方法で練習してるって言っても学生……それも1年生の実力じゃないと思ってな。シンの魔法のイメージを教えて貰ってるってことはシンの魔法を教えて貰ってるのと同じだろ?」
「んー、どうなのかな?」
ふーん、やっぱオーグたちの魔法って凄いんだ……
シンやじいちゃん、ばあちゃん以外の魔法ってほとんど見た事ないから基準がわかんないんだよね。
シンが規格外ってのは知ってるよ。皆言ってるから。
「なぁ、ちょっと相談なんだが……」
「何?」
「その……研究会でやってる練習っての……俺にも教えて貰えるか?」
「うん、別にいい――」
「シン、その返事は少し待て」
ニヤニヤしながらプライドを捨ててシンに教えを請おうとするジークを眺めていると、シンが返事をする前にオーグが話に割って入った。
「なんで?」
「ジークフリード、お前は軍の人間だろう」
「ええ、まぁ……」
「マーリン殿の教えは昔はそれが主流だったらしいから問題無いが、シンのイメージに関しては学院の研究会以外で教えを請うたら……最悪軍事利用と取られるぞ」
「そ、それは……」
「マーリン殿は昨今の魔法使いのレベルの低下を嘆いておられたし、メリダ殿も皆がシンの魔法を使えるようになることに否は無いみたいだがな、周りの……特に周辺国が何か言ってくる可能性が高い」
「外交問題ですか!?」
シンが魔法を教えると外交問題になるのか……さすが規格外。
「今ですらかなりギリギリだ。何とか抑えられているのはシンが『学院で出来た友人のため』に『自主的』に教えており、マーリン殿とメリダ殿がその意志を汲んで容認したからだ」
「確かに……」
「それを軍の人間が教わってみろ。それならは我が国もとアチコチから声が上がるぞ」
「……」
ジークが返す言葉を失った。
まぁ確かにアールスハイド王国だけ魔法の力が増大するとか他国からすればたまったもんじゃないよね。
「今はこんな状況だからそれもいいのかもしれんが……マーリン殿とメリダ殿がそれを良しとすると思うか? 孫を軍事利用することに」
「それは……」
「正直、シンの魔法は危険だ。私はこのことを公表するつもりは無いし、他の者には教えないよう言ってある。これは拡散させるべきではない。もし拡散したら……」
「したら……?」
「魔人ではなく人間の手で世界が滅びるぞ」
「そんな大問題!?」
拡散して大炎上ってことか。それは大問題だな!
「そしてルカ、『自分には関係ない』みたいな顔をしているがお前も同じだぞ?」
「えっ? 俺?」
「そうだ。ヘイデン指導教官が何も言わなかったから今まで黙っていたが、騎士学院生たちの実力も異常だ。明らかに学生の枠を超えている」
「そうなの? まだ大型の魔物のソロ討伐は出来ないよ?」
「そもそも大型は単独で討伐する魔物では無いのだが……まぁいい。ヘイデン指導教官、現時点でのロイドたちの実力は騎士団内でどれくらいだろうか?」
「そうですね……騎士団の中にも中型を一撃で倒せる者はそう多くはありません。少なくとも上位25パーセントには入るかと」
え? マジで? そんなに?
「わかったか? 入学して半年も経っていないのにこの有様だ。これでお前が卒業までロイドたちを鍛え続けたら……考えただけで恐ろしい」
「なんかごめん」
「それで……お前は何人に剣を教えているのだ? Sクラス全員か?」
「ここに居る3人と別の班に1人の4人だけだよ」
「4人だけ? そうなのか?」
オーグは怪訝そうな瞳でこちらを見てくる。
シンはクラス全員プラスアルファに教えているのに俺が4人にしか教えていないのが不思議なのだろう。
「うん、4人だけ。教えを請われたら教える気はあるけど、今のところ他の5人はこっちをチラチラ見ながらヒソヒソしてるだけだから」
「そうか……わかった。では他のクラスメイトは仕方ないが極力その4人以外には教えないようにして欲しい。シンの魔法と同じくルカの剣技も強すぎる」
「剣技?」
これ、「俺が教えてるのは《剣術》じゃなくて《躁気術》です!」って言って《躁気術》を拡散させたら怒られるかな?
「……剣技だけでなく戦闘技術全般と訂正する」
「マジか……だったら将来道場建てて『ウォルフォード流』を広めようと思ってたんだけど、それは?」
「絶対ダメだ」
「なんと!?」
「ルカ、お前の流派は強すぎる。だから私は『一子相伝』にして『門外不出』の奥義を引き継いでいく形にするのがいいと思うのだが、お前はどう思う?」
「一子相伝! 門外不出!」
なにそれかっこいい!
「どうだ? 悪くないだろ?」
「悪くない。むしろいい!」
「では、そのように」
「わかった! ってあれ? なんだか丸め込まれたような……」
「気のせいだ」
悲報、俺の将来設計が1から練り直しになった件。
原作(Web版)にはシンは500m狙えるってありましたけどルカを狙撃するために倍にしてみました。
なんなら追いかけてくるルカから逃げるために既に飛行魔法を使える可能性もあるんじゃないかなこれ。