賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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覚悟とりんご

「で、何の話だっけ?」

 

 高らかに「ギブアップ」を宣言したことで開放された俺が極められていた右肩をぐるぐる回しながらオーグに問い掛けると、オーグは呆れたようにため息をついた。

 

「お前が私を殴る事で納得出来るのであれば甘んじて殴られようと思っていたのだが……」

「それはそれ、これはこれ。で、何の話?」

「ルカ……お前マルっと全て無かったことにするつもりか?」

「いいから!」

 

 ブチギレて相手をぶん殴ろうとして弟子に……しかも気の量や質、身体能力で確実に俺に劣るミランダに「ギブアップ」を宣言させられるのはかつて黒歴史発表会を経験した俺の精神を以てしてもさすがに恥ずか死ぬレベルなのでそこには触れないで頂きたい。

 

 何も無かった事になーれ……無理か。俺魔法使えないし。

 

「はぁ……もういい。話を戻すが、私はお前たちに帝国へは向かって欲しくない。以上だ」

「理由は?」

「『帝国というひとつの国』と『その他全ての国々』を天秤に掛け私が判断した。謗りは受けよう」

「過程は?」

「お前……中々面倒なやつなんだな」

 

 オーグは嫌そうな顔をした後再びため息をついてその結論に至るまでの過程を話し始めた。

 

「まず前提として、現在増え続けている魔人を単独で討伐可能な人員はシン、マーリン殿、そしてルカ。この3名だけだと考えている」

「ばあちゃんは?」

「メリダ殿は補助魔法や付与魔法に特化した魔法使いだ。魔人の攻撃を防ぐことは可能だろうが、単独で討伐するには火力が足りないと判断している」

「ふーん」

 

 ばあちゃんならハリセン持たせとけば魔人くらい張り倒しそうな気がするけど、ばあちゃんはもうおばあちゃんなんだから戦わなくていいならその方がいいと思う。

 あとはミッシェルさんも普通に魔人を倒せるとは思うけど、ミッシェルさんも俺と同じ戦士タイプなので少数の魔人には対抗出来ても多数の魔人が相手だと分が悪いか。

 

「その前提に立ちお前やシンが魔人共に攻撃を仕掛けた場合……どうなると思う?」

「皆殺し」

「バカ、もっとしっかり考えろ。お前は単騎で数え切れないほどの魔物の群れに突入し、それを突破して100を超える数の魔人を全滅させられるのか?」

「それは……時間があれば?」

 

 俺は気の配分さえ間違わなければ三日三晩戦い続ける事が出来る。

 さすがにそれだけあれば全滅させることは可能だと思うんだけど……

 

「時間があれば可能と答える時点でおかしいのだが……そもそもその時間が無いと考えろ」

「なんで? 俺は三日三晩戦い続けられるよ?」

「お前、本当に人間か?」

「れっきとした人間だよ!」

 

 俺たちの話を聞いていた周囲の研究会メンバーたちもドン引きしているが、出来るものは出来るんだから仕方ないだろ。

 人間頑張れば大抵の事は出来るようになるものなんだよ。

 

「私が知っている人間は一晩ですら戦い続ける事は困難なのだが」

「それはまぁ文字通り気の持ちようというか鍛え方が違うというか……まぁミランダたちにも近々出来るようになる事なんだからそこまでおかしいことじゃないだろ?」

「どうしよう……すごいことなんだろうけど、いざ自分が出来るようになると言われるとすっごい微妙な気分になるんだけど……」

「ミランダ、人間辞めちゃうの?」

「辞めないから! マリアも変なこと言わないで!」

「ミランダ……もしミランダが人間を辞めても私たちは友達だから……ね?」

「シシリーまで!?」

 

 なんだか後ろがうるさくなってきているけど、今は引き続きシリアスパートなのでとりあえず聞こえなかったフリをしておく。

 

「まぁお前やシンが規格外なのは今更だったな。その話は置いておこう」

「おい! シレッと俺を巻き込むな!」

 

 シンが鋭いツッコミを入れてくるが、これも聞こえなかったフリでやり過ごす。

 多分だけど、オーグの話を聞いて俺がまた激高したりしないよう空気を和らげようとしてくれているのだろう。

 

 傍から見れば完全に空気読めない子になっているけど。

 

「話を戻すぞ。仮にお前が魔物の群れを突破して魔人を倒せたとして……その場から逃げる魔人がいた場合どうなる?」

「どうなるって……」

「お前は四方八方逃げる魔人を魔法使いではなく戦士のお前は全て対処出来るのか?」

「それは……」

 

 正直言ってそれは不可能だ。

 

「……すまん、今の言い方は意地が悪かった。そうなってしまった場合、たとえ世界最高峰の魔法使いであるシンにも対処は不可能だろう」

 

 それでも遠距離の攻撃手段に乏しい俺よりは討伐出来るだろうけど……一体でも取り逃しちゃダメって条件なら俺にもシンにも達成は無理だろう。

 

 というか――

 

「シンならそもそも近付かずに遠距離から超広範囲高威力な攻撃魔法ぶちかませば殲滅出来るんじゃないの?」

「うーん……周囲の地形が変わって人が住めなくなってもいいなら殆どの魔物と魔人は倒せるだろうけど、全滅させるのは無理だと思う」

「そうなの?」

「うん。少なくともシュトロームとその周辺の魔人はシュトロームの《魔法障壁》に護られて生き残ると思う」

 

 シュトローム? ああ、真犯人ね。

 

「この前は撃退出来たんだろ? 倒せないの?」

「あの時は俺もシュトロームも本気じゃなかったからね。お互い本気で戦えばどうなるか……」

「マジかよ」

 

 シンが「勝てる」って断言しないってことはそのシュトロームって魔人はシンと互角かそれ以上の可能性があるってこと?

 

「じゃあ逆に俺が先に気配を消してそのシュトロームって魔人を暗殺してからシンが魔法をぶっぱするのは?」

「シュトロームさえ居なければ成功する可能性は高いと思うけど……でも魔人が《索敵魔法》使ってたらバレちゃうだろ? そうなったらどうすんの?」

「そんなの玉砕覚悟でシュトロームの首だけ狙うけど……」

 

 死にたくはないけど俺がシュトロームと相打ちになってそれでシンが魔人や魔物を全滅させて万を超える人々の命を救えるならそれはとてもお買い得な話だよね。

 それに俺は既に1回死んでるんだから今の人生は言わばアディショナルタイムみたいなもの。死んだら死んだで仕方ないよ。

 

「絶対嫌なんだけど」

「なんで? りんご1個分のお値段で国中のりんごを買い占められるみたいなお買い得な話だろ?」

「その例えは意味わかんないけど……俺からしたらその1個のりんごは黄金のりんごで国中のりんご全てより価値があるみたいな感じかな?」

「意味わかんない」

「ルカ兄にだけは言われたくない! てかなんでりんごに例えたんだよ!?」

「それはまぁ何となく」

 

 なんでって……死ぬ前に何が食べたいかって考えた時に一番に思い付いたのがまだ森で暮らしてた時にばあちゃんが焼いてくれたアップルパイだったからだよ。恥ずかしいから言わないけど。

 

「お前たちが言いたいことは何となくわかるが、私はルカの案には反対だ」

「なんで?」

「確実性に欠けるからだ。ルカ、お前はシンが本気で張った障壁を破壊して直接シンに攻撃することが出来るのか?」

「まだ無理」

 

 もうちょっとでイケそうな気はするんだけど、あの《物理衝撃完全吸収》が厄介なんだよね。

 壊す壊さない以前に殴った感触がとても気持ち悪い。

 

「だろう? ならばシンと互角の魔法使いである可能性が高いシュトロームの障壁を破壊するのは難しいんじゃないのか?」

「だから障壁を張られる前に暗殺を……」

「お前の隠密能力は超一流だが《索敵魔法》には引っ掛かる。魔人どもが《索敵魔法》を使っていない確証が無い限りその案に賛成することは出来ない」

「むぅ……」

「その案を採用して失敗してしまった場合、我々はルカという魔人に対抗出来る数少ない戦力を失うことになるからな。あとお前が頬を膨らませても可愛くないから今すぐ辞めろ」

「張り倒すぞ」

 

 オーグが言いたいこともわからなくはない。要するにハイリスクハイリターン過ぎるからやめろってことだよね。

 

「話を戻すぞ。そうして襲撃に失敗した場合、逃げた魔人たちはどうすると思う? 各々が逃げた先で街や村を襲撃するんじゃないか? そしてそこで新たな魔人が生み出されたら?」

「それは……」

「お前やシンなら集まっている魔人の大半を屠れるかもしれない。しかし少数でも取り逃してしまえばまた数を増やされるかもしれない……そしてそんないたちごっこを続けている間に少数の魔人が他国に逃れたら? そこで数を増やされたら? お前が旧帝国国内で戦っている間に対抗手段を持たない国は滅ぼされてしまうだろう。全ての国民を根絶やしにされてな」

「ぐぬ……」

「そうさせぬよう、魔人は一体たりとも逃してはならない。逃さないようにするためには囲って閉じ込めてしまうのが最も単純であり最善だ。そして魔人たちを囲い、簡単には破れない程度の囲いを作るには最低でも百万に近い数の軍勢が必要だ。それだけの数の兵を揃えるのは……いかに『四大大国』のひとつに数えられるアールスハイドでも不可能だ」

 

 オーグの瞳には確固たる意思が宿っている。

 きっと考えに考え抜いて下した苦渋の決断なのだろう。

 

「兵を集めるためには連合を組む事が必須。そして連合を組むためにその国が滅ぼされるわけにはいかん。だからこそ魔人どもが周辺諸国に目を向けず旧帝国領内で暴れ回っている間は……静観する」

「その時間を使ってってことか」

「そうだ。一言に『連合を組む』と言っても相応に時間はかかる。それと並行して私たちが魔人を討伐出来る力を得る必要もある」

「魔人を討伐出来る力って……オーグたちが?」

「当然だ。『帝国を見殺しにする』という決断を下し、学生である研究会のメンバーを前線に立たせようとしている私には最前線に立つ義務がある」

「王族なのに?」

「王族だからだ」

 

 その言葉を発したオーグから感じられたのは正に『王者の風格』と言えるものであった。

 

「このような決断を下したのだ、恨まれるのはわかっている。謗りも甘んじて受け入れよう。しかし、それでも私は周囲に何と言われようとも連合を組み、魔人どもを一網打尽にするつもりだ。ルカ、そんな私にどうか力を貸してほしい」

 

 オーグは頭は下げない。ただ、真摯な瞳でまっすぐ俺の目を見つめてくる。

 

 参ったな……これはちょっと死んでいる場合じゃなくなった。

 考えを聞き、覚悟を知り、そしてそんな瞳を向けられたら――

 

『オーグになら俺の刀を預けても構わない』

 そう思えてしまった。




この段階でシンを引き摺って帝国にカチコミ掛けさせようかとも思ったんですけど一応『原作準拠(Web版)』のタグを掲げている以上このまま行かせない方向に進めようと思い頑張りました。これが私の限界です。

あと書いてるアプリの『AI校正』とかいうのを使ってみました。
これで誤字は無くなるはず……はず!
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